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僕と使徒の物語〜変人主婦の裕也サイド  作者: 白石とな
僕がユメカと出会うまで(63~130話)
8/53

7話 アペリオ開店記念パーティーと奇跡の出会い

大川文具知財部 村瀬裕也

現在すっかり会社が僕の役割になってしまっている。営業は人付き合いに分類されるからCの役割だったが、書類仕事となるとあいつより僕の方が適任だ。

だが…。

会社に来ると人間関係でかなり精神が削られる。Cを数度乗っ取った程度で僕の役割になってしまうとは。

何もかもこの女が何度も何度もアプローチしてくるからだ。


「村瀬さん。」


僕の肩を叩こうとした彼女を避けて立ち上がり振り返る。

同僚の佐竹さんだ。


僕は本体だ。長男が後で生まれた弟を守るのは当然なのだ。だがあいつが同僚だからと不用意に笑いかけたりなんかするからこの女は勘違いしたのだ。

何が職場では円滑な人間関係をだ。何が邪険にすると軋轢を生むだ。こいつがストーカー化すればその方が人間関係が破綻する。告られて断る方が軋轢を生むのだ。

僕は女性問題を起こした事が無いが、僕に関わった女性が恋愛トラブルを起こすのだ。片っ端から断ればいいというものではないぞ。


いや、あいつを責めるのはやめよう。できる人間ができない人間の分までしなくてはいけない。これが世の中の摂理。そうやって社会は成り立っているのだ。


「社食でしたよね?良かったらお昼一緒に行きませんか?」

「今日はパンなんですよ。」

僕はあえて無表情に硬い声で言う。

「じゃあ明日なら…。」

ここへ来てからというもの、僕はこの女に執着されっぱなしだ。

結構はっきり言ってきたつもりだが、そろそろ限界か。


「やめときましょう。余計な誤解を生みますよ。仕事に支障をきたします。」

知財部に移ってきたばかりで人間関係トラブルは避けたいが、この女はだめだ。虎視眈々と僕の隙を狙っている。大阪の職場に居る時ストーカーには散々な目に遭って転職せざるを得なかった。もうあんな思いはごめんだ。


「私そんな事気にはしません。」

「僕の言ってる意味、分かりませんか?あなたへの配慮ではなくて、僕が誤解をされたくないんです。あなたとプライベートを共にする気は一切ありません。」

僕は強い言葉で拒否した。

はぁ。僕が毎度この女を断る係にされては困るのだが。


「村瀬君、ちょっと良いかね。」

僕は久我課長に別室に呼ばれた。

「君にしては珍しいね。」

課長に咎められてしまった。人間関係のトラブルは良くない。だが

「申し訳ありません課長。遠回しに言って分からない相手にはきちんと言っておかないと、前の職場で酷い目に遭ったんです。」

「いや、咎めた訳ではないよ。彼女は社内でかなり顔が広い。もし問題があれば相談しなさい。」

友達居なさそうだと勝手に思っていたがどうやら表立って拒絶するのは得策ではなかった様だ。

「分かりました。ご配慮ありがとうございます。」

「話はその事ではなくてだね…。妻が釣りバーベキューに興味を持っている様なんだ。だがバーベキューもできる釣り場には詳しくなくてね。」

と課長は言うが、僕はそうは思えない。多分釣りを諦めきれなかった課長がユメカを誘ったのではないかと思うのだ…。

「そうですか。ではお二人で行くのによさそうな場所を一度下見してきます。今すぐに場所を決めるのは少し難しいので。」

「頼むよ。それとだね、妻が今度店をやる事になってね。そのパーティーがあるんだ。」

課長の奥さんユメカは、あんなに若く見えて美人で、僕より5歳も上だ。

ちなみに課長はブログの事は奥さんには内緒にしてくれている。


ユメカは11月1日にアペリオというドール服専門店を出すと告知していた。

課長は、僕を奥さんに紹介したいのだという。

課長は徹底して僕を奥さんに紹介したくないと言っていたのに、どういう心境の変化なのだろうか。


「何となくね。君を紹介しておいた方が良い様な気がしたんだ。」

「何となく…ですか。それはまた、課長らしくないといいますか何といいますか。」

課長は完璧主義なのに、僕の様にリスクある人間を自分の奥さんに紹介するなんて。

だが予感とは馬鹿にはできないもので、同じ条件下での二択で僕は特にこの勘がよく当たる。運が良いのだ。

「ここ最近予感が働く事が多くてね。全てを勘任せにしている訳ではないのだがね。」

「そうですね。僕も勘に従うとうまくいくことが昔からありました。不思議なものですよね。」

僕の勘では、パーティーには絶対参加した方が良いと感じている。

僕達はユメカのファンだから勘が働かなくとも参加しただろうけどね。



アペリオ開店記念パーティー 久我邸 


パーティーは人間関係に分類される。本来ならばCの役割の筈だった。

だが朝起きたら、僕だったのだ。何故かCとの交代ができない。

最近交代や役割分担が不安定なのだ。

「まいったな。困った。だがドタキャンは無しだ。仕方がない。楽しみにしていたCには申し訳ないが僕が行くしかない。」

僕は本体だからなのか、他人格・・・を模倣して振る舞い、あの日はお前だったと思い込ませる事ができる。他の多重人格はどうなのか知らないが、実際にあった出来事の記憶を共有しなかったり、作り物の記憶に差し替えて思い込ませるという事ができるのだ。


課長に案内されリビングに行くと、どうやら僕が最後だった様だった。

「妻の唯芽だ。」

僕は彼女を見て目を奪われた。

まさか…佐々家…菜花?

目の前には、Cが大好きなAV女優にそっくりな人が居たのだ。

僕はすぐに頭を切り替え、いつもの笑顔で自己紹介をする。

「村瀬裕也と申します。初めまして。課長にはいつもお世話になっています。今日は奥様とお会いするのが楽しみだったんですよ。」


「妻の久我唯芽と申します。初めまして。こちらこそ主人がお世話になっています。いつも釣りに付いて行ってご迷惑おかけしていませんか?」

彼女は僕と目が合いそうになるとふいと逸らした。

な、なんだ。最初から避けられている?


「とんでもない。課長の様な素晴らしい方と仕事を超えた付き合いができるのは本当に嬉しい事です。」

「あ、あはは。そそ、そうですか。あはは。」

彼女は苦笑いしながら去っていった。課長曰く、彼女は男性恐怖症であり、コミュ障であるらしい。だとしても意外である。徹底的に普通に紛れる事に拘っている課長と同じカテゴリに入る人間だと聞いていたのだが、僕や課長と同じ部類の人間には到底思えない。

もしかして、変人が天元突破していて普通を装う事が不可能なのではないか?というか、ユメカ程何でもできる人気者ならば、そもそも普通を装う必要はないのでは。


「奥ゆかしい方ですね。」

僕は一応課長にフォローを入れた。

「はは。君なら大丈夫かと思ったのだが。」

僕なら大丈夫の意味が全く分からない。男性が苦手と言うならば、僕の様な高身長ハイスペック男性はむしろ苦手なのではなかろうか。


全ての参加者を紹介してもらい、交流して情報を頭にまとめた。

この中で要注意人物は、川田美春。

美容師でありエステティシャンであるらしい。

かなりの美人でスタイル抜群の女性だ。商売道具であり自らが宣伝道具だから、自分磨きをしっかりしているのだろう。僕の苦手なタイプだ。


彼女は赤子を抱いて座っていて、一度挨拶をして少し話しただけで、僕に接触してこようとしなかった。節度を持っている様に見えた。

だが、僕の勘では、彼女は何となく僕と奥様に執着している気がするのだ。

不可解な事に、表情にも距離感にも一切出していないのだが、彼女はなんというか、奇妙な気持ち悪さがあり、僕の距離感から接触嫌悪がある事を見抜いている様にさえ思える。

僕の勘が、彼女を避けろという。絶対に近づいてはいけないと。


それから少しだけユメカとルアー作り配信について話し、釣りに対する嫌悪感を探ろうとしたのだが、釣りに対してではなく僕に対する嫌悪感が酷かった…。どうも僕を見ると自分に自信がなくなる様である。


Cが言っていた、僕に対する嫉妬があるのは間違いなさそうだ。

だと言うのに課長が僕に言った。

「先日の釣りバーベキューの話だが。」

「ええ。今度下見に行く予定なのですが、川なんですよ。もし釣れなくても材料を購入する事ができます。ただ、奥様を一人で放置するには少々危険ですね。男性一人の釣り客もいるので。課長が常に側に居た方が良いでしょう。」

「では君がついてきてはくれないか。」

「え、ですが、さっき話した感じでは僕は奥様に嫌われているというか。」


僕の勘では行った方が良い様な気はするのだが、それは悪い二択の場合もある…。

例えば、ユメカが課長と喧嘩するか、僕が課長に嫌われるか、などだ。

悪い二択だった場合、僕に責任が発生すると困る。

「僕の勘では、君に来てもらった方が良い様な気がするのだがね…。」

課長も歯切れが悪い。前回Cが強く否定した事が引っかかっている様だ。

僕も全ての事情を聞いてCの予測にぐうの音も出なかった。

何故あの日しっかり聴き取りをしなかったのか。


「分かりました。では、今日奥様と少し話しておいた方が良い様な気はします。今まで釣りに連れて行かなかった理由と…僕としては、課長も完璧ではないという所を見せておいた方が良いと思います。」

「それは、唯芽に完璧を演じさせないためかね。」

「そうですね。何やら僕に委縮していらしたので。奥様には義務を忘れて楽しんでいただきたいです。僕が苦手であるなら、課長を頼りやすいでしょうし。」

「助言ありがとう。では行って来るよ。」

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