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僕と使徒の物語〜変人主婦の裕也サイド  作者: 白石とな
僕がユメカと出会うまで(63~130話)
7/53

6話 ユメカのルアー作り配信

月曜日12時。村瀬裕也C

僕は少し遅れてユメカの生配信をスマホで見る。

「今日は釣りのルアーを作っていきましょう!」

な、ルアーだと?彼女は釣りに行けない事に不満を溜めていたのではなかったか?

 "なんでルアー"

僕はコメントを打ち込んだ。

「何となくです!でも釣りはした事無いんで、間違った手順あればコメントで指摘してくださいねー」

ちょ、え、これ、当てつけ配信ではないか?

だがめちゃくちゃ彫るのが早い。ものすごい。ええ。超人?

「主婦改めにわかのユメカですよ!やった事ないこともどんどんチャレンジします!釣りの事は全く知りませんが、これはシーバス釣りを想定してます。ちゃんとルアーの作り方だけは検索しましたよ?」

し、しししシーバス…ほ、本気で怒っている。声の機嫌が超悪いのだ。

 "にわかのユメカ"

 "開き直りが酷い"

 "にわかには見えない"

 "今日声なんか機嫌悪い?"

"言葉に棘がある"

"そこはかとなく釣りに悪意"

 "釣り嫌いがルアー作り配信"


「今後使う機会が一切無いので実際に釣れるかは分かりませんが、この前エソを捌きながらこのルアー作りを決めました。釣りはやる前からやる気ゼロです。」


 "エソww"

"眉間の皺www"

 "エソうまいやん"

 "今後も釣りしない宣言w"

"やる前からやる気ゼロww"

"なんでそんな釣り嫌いなのw"

"怒り顔かわええ"

"あれか、旦那が釣りで浮気とか"

"旦那エソしか釣れなくてルアーとか健気"

"釣り中毒旦那に放置されてるとか"

 "当てつけ配信www"


「ねー!意外に美味しかったです!ケンケンさんの神動画参考に捌きました。最高ですよ。天才か。」


え、エソ…恐らく捌くのが面倒だったのだ。だが料理配信をやっている以上弱音など吐けない。これは多分、釣りだけして一食にも満たない中途半端な成果で、料理や後片付けだけをさせられる理不尽さを分かる人にだけ分かってもらいたいのだ。


せめて頑なに強がらずに僕らのお裾分けを持って帰ってくれればまだマシだったかも知れないのに、課長の異様なプライドの高さも拗らせる原因となっている。いや、違うな、課長は僕の釣った魚をユメカに渡して僕の株を上げるのが嫌なんだ。

絶対に僕に会わせたくないと言ったぐらいだからな。


だがまずい。これは彼女の不満が限界に近い。課長はフォローのタイミングをミスったのだ。そこはかとなく手遅れ感は漂っているが、も、もしかしたらまだリカバリーできる可能性が…いや、これは釣りよりも、課長から新しい趣味を提案すべきだ。


 "引き攣り笑顔貴重!"

"拗ねるユメカ可愛い"

 "怒ってても出来栄えは確か"

"やる気なくてもプロ級"

"ユメカの制作にかける意地を見た"

 "プロ級のにわか"

「はい!できました!遊びで作ったのでこれを参考にして作るのはやめてくださいねー。ここに色んな形のやつ20個あるので、抽選で20名様にプレゼント!どれが届くかはお楽しみに!飾って楽しんで下さい!使うのは自己責任で!詳しくは詳細欄にてー。ご応募お待ちしてまーす。」


僕はイヤホンを外して課長を見た。

課長は額に手を置いていた。


「課長、少々お話が。」

「場所をうつそう。」

課長は少し落ち込んだ顔である。話を聞くと、シーバス釣りの前にはもう拗らせていたのだ。ユメカは作業部屋に一晩籠り、翌朝、

『もう良いよ。昨日はわがままごめんね。男同士の付き合いも大事でしょ?明日は沢山釣ってきてね。』

なんて言ったのだという。もうユメカは課長と釣りに行く気が無いというハッキリとした意思表示。


 Bの奴が時系列順にもっと詳しく聞いていれば一刻も早くリカバリーできたのに。モーニングなんか行っている場合では無かった。聞いてすぐにでも中断して手ぶらで飛んで帰って謝るべきだったのだ。釣りよりも部下よりも、ユメカが大切だと態度で示すべきだったのだ。飯を食って帰って中途半端に捌きにくいエソなんかを捌かせて面倒な洗濯をさせたりクーラーボックスを洗わせるべきでなかった。


「課長、言いにくいのですが、釣りはもうやめておいた方が無難です。他の趣味を提案すべきです。」

「ど、どうしてそう思うのかね。」

「奥様は今まで課長に不満の態度は取って来なかったんですよね?それを意を決して課長に本音を伝え、課長は取り合わなかった。一晩必死に頭を切り替えて従順な妻になろうとしているのに、その決意に水を差すのは奥様のプライドを傷つけます。」

「だがそれでは妻はまた殻にこもってしまうのではないかね。」

「そうでしょうが、今は致し方ないかと思います。課長も、釣りはきっぱりやめるべきです。」

「そ、そんなにも深刻な事なのかね。」

「不特定多数に発信するというのは、誰かに同情や共感をして欲しいか、それを見た課長に嫌な思いをさせて後悔させたいかだと思うんです。前者だった場合、今不用意に近づいてくる男が居れば危険です。奥様の様子の変化を注視しておくべきかと。」

「だが僕は恋愛による態度の変化が分からないんだ。」

「今まで一切自分の意見を言わなかった奥様が意見を言った時に、課長の本心を伝えるか、せめてすぐに予定をキャンセルすべきでした。次があればそうすべきだと思います。」


 Bは課長に嫌われたくないから耳障りの良い事を言ったのかも知れない、課長が持って帰りたいと言えばその意思を尊重してエソを持って帰らせたのかも知れないが、課長が一番望んでいたのは助言だ。そこをはき違えてはいけない。課長はタイミングを逃した。ここは厳しくしても僕とは距離を置くべきだ。


おそらくユメカは、僕に嫉妬している。

今まで完璧主婦を装ってきたのだ。部下との交流を止める事は悪だと思う筈だ。むしろ課長に落ち度が無いからこそ、責める事ができずにユメカは苦しんでいるのだ。


「だが僕は釣りをやめたくないんだ。」

「課長、どうしても奥様を釣りに誘うのあれば、課長と奥様のお二人で行くべきです。そして後片付けから魚の処理まで全て二人だけでして、その大変さを共有し、奥様に感謝の言葉をかけるのが良いと思います。ここに部下との交流という要素を加えてしまうと、二人で始める筈だった楽しい趣味で、完璧な妻を演じなくてはいけなくなります。」

「そう…か…。」

「課長の様子に気付いた時点で、僕からきちんと詳しく聞くべきでした。これは僕のミスです。申し訳ありませんでした。」

僕は頭を下げたまま言葉を待つ。

「いや、村瀬君、すまない。君のせいではないよ。助言をありがとう。」

僕は部屋を出ると、コーヒーを持った佐竹ミカが居た。

「立ち聞きですか。」

「いいえ。お二人にコーヒーでもと。」

「右腕に戻れるチャンス。良かったですね。」

「私は今も昔も課長の右腕です。」

この女。僕に執着するのかマウントを取りたいのかどっちだ。

なろう版とエブリスタ版では解釈が違いますが、その理由は後で今作中で分かってきますので少々お待ちを。唯芽は完璧主婦に拘る超絶強がり設定であり、所謂勘違い系ではなく、ここでの裕也の解釈は概ね正しい事を分かっていただけると有難いです。

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