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47話 復讐の行方

村瀬裕也B

 「この度は、視聴者の皆さんにご心配とご迷惑をお掛けした事を謝罪します。僕の不注意でお騒がせして申し訳ありませんでした。」


 僕は90度に腰を折った。

アペリオが僕を冷遇し、既婚者であるユメカが僕を弄んだ。その為に僕が薬を大量服用したのだと報道されたのだ。僕は自分の接触嫌悪をファンに伝え、僕の片思いは単なる設定であり、エンタメであると伝えた。


 湖都の謎のパティシエの父親が小説家で、彼女が幼いころ誘拐された事があるという記事を抑えるのには、村瀬化学の御曹司が著名人を接待していたという記事と、錬金術で捏造した写真を使った。僕のフラッシュバックの記憶を錬金術で写真にしたものを、美春さんがアペリオに預け、高橋店長がそれを持って交渉してきてくれたのだ。


 薄着でお酌をさせられる僕の幼少期の写真。

顔はほんの少し変えた。大阪の大学に逃げてきた所までの事を僕自ら書いた。

記事には僕の謝罪配信に使うワードをいくつも使う事で谷やんとの関連性を匂わせ一気に売上部数を伸ばし、後で週刊誌側が否定する事になっている。谷やんと村瀬裕也は見た目年齢が全く違う。

だが、僕が村瀬という苗字で履歴書に出身大学を書いている事でいくら否定しても僕をそういう目で見る人は出てくる。僕は常に人と一定の距離を持ち、決して誰とも触れずに来たのだ。


 美春さんには僕が大川文具を辞めても構わないと言われている。綾子さんの会社、綾色で新部門のサポートをしろというのだ。課長の暗示や干渉からも守られる。ゆくゆくは責任者をやる事になる。


綾子さんは一年の契約である事は理解してくれている。婚約を破棄してもずっと綾色で働いても良いと言ってくれたのだ。彼女は地球では唯芽さんより僕の方が価値が高い事を理解しているのだ。

僕は、仮の婚約者である美春さんに養われる事になる。


それにより僕に負い目を与えて手放したくない。ただでさえ経歴が良く魔法や錬金術を使える。その上ネームバリューがあり、諜報能力と人心掌握術に長け、幼いころから会社経営について学んできた。僕の地球での価値は、恐らく唯芽さんを超える。名刺は村瀬裕也ではなく、谷口直哉になる。


村瀬裕也C

 僕は自分がしでかした復讐の続きをBに投げた。Bは必死に治癒をしながら謝罪配信をやり遂げた。翌日に週刊誌に載るも、村瀬化学は事実無根だと真っ向から否定した。課長から村瀬化学を追い詰める証拠が押さえられるからと場所と日時の情報が送られてきたが、Bは強制力を危惧して青森には行かなかった。


結局大した打撃は与えられず、僕らの復讐は無意味に終わったのだ。唯芽さんには打撃は与えられたと言うつもりである。彼女は自分の為だけに僕が犠牲になるなど許せないからだ。


 Bは強制力を地球とエルガセナウで分けて考えていた。唯花は親子心理戦ゲームと言ったが実際は二神によるゲームだ。アルバスや唯花が条件を満たすまで情報公開できないのはこのゲームのルールに縛られているからだというのだ。二神は僕らを操り、課長か僕のどちらが唯芽さんを勝ち取るかのゲームをしている。


 美春はあの狂言自殺をエルガセナウの強制力だと言ったが、これは美春と婚約させる為の地球の神の強制力で、課長が送ってきた情報こそがエルガセナウだとBは言う。エルガセナウ創造神であれば家の人間を皆殺しにして、僕を犯罪者に仕立て上げるくらいはしそうだと言うのだ。それによって僕が唯芽さんに拒絶される事などあの神は考え付かないのだ。


結局二神は倫理観の基準は違っても人間を自分たちの玩具にしか思ってはいない。



このゲームの参加者は僕と唯芽さんと、課長と和樹。

だが参加者以外の人材をエルガセナウは大量に取り込んだ。アペリオと湖都、川田会計事務所、そして川田綾子さんにより株式会社綾色配信部門が設立された。

全員がエルガセナウ創造神の信者だ。

その上、地球の神の愛し子である美春さんまでもが唯芽さんの陣営に取り込まれた。

エルガセナウはどれだけ欲張りなのだ。


 エルガセナウの神は地球の神の愛し子になった課長までもをスキル干渉で操る事ができる。課長が強制力から解放されるには、最愛の妻である唯芽さんと離婚してエルガセナウ使徒の夫という称号を返上する他無いのだ。課長はさぞや腑が煮え繰り返っている事だろう。


 和樹は強制力発生が唯芽さんに繫がる称号に関連がある事に気付き(実際はエルガセナウの強制力のみが使徒関連で、地球の強制力は恐らく地球の体を持つ事が条件だ)株式会社綾色配信部門がスポンサーとなり、万が一唯芽さんが課長に捨てられた時の準備が整った。初さんと和樹は僕とは見解が違い、一連の強制力は唯芽さんのトラウマ解放と、課長からの自立を促すものだと予測しているのだ。そんな綺麗な夢を見ている人間に、神々の娯楽など伝えられる訳がない。



僕は透明のまま唯芽さんの病室を訪れたが、僕を連れてきたと言った和樹を彼女は叱りつけた。


「唯芽……。僕は親の愛情はもう要らないんだ。透明になって手を繋いでるから。」

そう言って微笑むと、彼女は言い放った。

「変なのは無しね!」

な!!それをここで言うなど!

「あ、当たり前だろ?僕を何だと思ってるんだ。破廉恥な!」

何故か僕がお子様ピュアボーイだと馬鹿にされ理不尽に恥をかかされる。自分だけが恥ずかしい思いをしたあの日の腹いせらしい。あれは君にとっては人生の汚点なのだ。


僕は彼女の手を取る。愛戯適正の低い僕は君の中にスキルを届ける事はできず、スキルは君の表面を覆う。魔力を展開すると、君が魔力を弾く結界を張った。


僕は頑なな彼女にちょっと意地悪したくなる。

"変なつもりじゃ無かったんだけどね。僕が加減してる事くらい君なら分かるだろ?"

すると彼女は顔を赤くして俯いた。

"わ、分かってるけどやめとこうよ。"


"魔力があるとここにいる全員を守れるんだけど、君にだけ効かないんじゃ意味ないね。"

可哀想だから魔力展開はやめた。すると君は結界を解く。彼女はもう、スキルに惑わされて僕を好きになりたくはないのだ。もしくは、スキルの使い方が違う僕とBを区別しているか。


[見て見ぬフリ発動中]

ふふ。後者だね。

店長が状態異常耐性をかけると見て見ぬフリが解除された。あれはデバフ扱いなのか。


病室のドアがノックされた。

初さんと僕は子供を虐待する親が憎い。和樹は父親に対して強い不信感を持っている。彩葉ちゃんは両親にレールを敷かれ言いなりになって生きてきた。そして多分全員が唯芽さんに依存している。


これは唯芽さんを、自分と別個の人間だと切り離して考える為の試練。つまり地球の神の強制力。鑑幸二郎は僕を虐待した親とは無関係だし、唯芽さんと僕とはもう終わった関係だ。

今日美春は居ない。僕の殺意を止める人間は居ない。だから絶対に気をしっかり持たないといけない。


 しかし鑑幸二郎の顔を見ると腑が煮え繰り返り、病室ごと吹き飛ばしたい衝動に駆られた。

僕はどうやってこの病室を吹き飛ばそうか思考加速で考える。だが僕には広範囲攻撃魔法は無い。


そこまで考えて我に返り、必死に気を紛らわそうと最近楽しかった映像を頭に流した。魔法でサブレに絵を描いた時の事だ。それがヒントになり広範囲攻撃魔法が思い浮かぶ。無魔法を吹雪の様に降らせるか、それとも擬似的に竜巻を起こすか。


 僕が新しい無魔法の使い方を考えていると、唯芽さんが僕の手を握る手に力を込めた。彼女は震えていた。君の思考にフラッシュバックが起こる。僕は慌てて魔力を込め愛戯スキルを彼女を覆う様に展開すると、その魔力を彼女は大きく吸い込む。その時、僕は彼女の魔力が微かに動くのが見えた。

彼女は何らかの魔法又はスキルを、一切思考せずに使ったのだ。


そして唯芽さんは強い目で鑑幸二郎を睨みつけ、考えてきたであろう長台詞を一気に言い放った。僕は看破する。


[なりすまし 発動中 主婦担当唯芽]


なりすまし?!え?主婦担当唯芽?!まさか彼女は僕らと同じ……

そうか。これは多重人格を僕らに教える為の強制力だ。だが何の為に?


僕はなりすましスキルを看破。

模倣、演技いずれかと何かのスキルの紐付け。

[なりすまし 久我唯芽専用 模倣とルール設定の紐付けスキル 発動する時心まで成り切るとルールを設定 代償 唯芽全員がなりすまし発動者を本体唯芽だと思い込んでしまう]


はあ?!?!

これって実質代償無しだよね?!

こ、この子、自分の信仰を上げる為にそこまでするの?!待って、人権無視でしょ!え、マジで?!僕らを上回るドクズでびっくりするんだけど!!!


鑑幸二郎が出て行った途端、彼女にフラバが起こった。唯芽さんは泣きながら耐える。

(これは私の試練だから、他の子に代わるわけにいかない!私が全部耐えないと!!)


僕は一瞬でも彼女を誤解した事を恥じた。状態異常耐性を上回るショックに恐怖デバフが付いてしまっている。その状態で彼女は他の人格に交代するのを拒み、自分一人で受け止めようとしている。


"深呼吸して、ゆっくり吸って、吐いて。大丈夫。落ち着いて。僕らがそばにいる。"

声をかけて何とか落ち着かせながら考える。

ルール設定、彼女が自分の決めたルールに拘るのはその為か。


[ルール設定 本体唯芽専用]

は?!待って、本体専用なら他の子が使える訳ないでしょ?!もしかして共有とか貸与できる方法がある訳?!それ僕らもめっちゃ知りたいんだけど!!

[権限一部仮委譲中 冴え唯芽 主婦担当唯芽 ]

ちょ!リスク!!同じ使い方されたら本体乗っ取られるリスクあるよ?!え!この子大丈夫なの?!見て見ぬフリで判断力低下中なの?!どう言う事なの?!


僕はこのままで良いのか判断に迷ったが、考えるのは本来僕の役目では無い。

彼女らが全員で本体を演じているのは今の僕らと同じだから、もしかしたら合意の上かも知れない。

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