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30話 二神の思惑

村瀬裕也C

 日課の鑑定の読み込みを終えた後、僕は必死で僕が使う為の谷やんBの演技パターンを作っていた。最近は酷く演技スキルの性能が落ちていて心まで成りきる事ができないのだ。


けれど、思い当たる事があった。


 僕らはもともと三人の人格だった。

完全鑑定には僕とBの事しか書かれていないけれど、どこにもAが統合されたとは書いていない。Aはおしごと、つまりあれの担当だ。

Bは勉強担当で、C、つまり僕は演技、人心掌握担当。

僕らは三人で能力を共有できる。そう思っていた。

アルバス様はAの事は絶対教えてはくれない。

そもそも、僕らは何故Aを勉強担当だと思い込み、BにAが統合されたと思い込んでいたのか。全ての映像記憶を改竄するなど不可能だ。Bは暗示か何かだと言ったが……。


"唯花、暗示や思考誘導、洗脳というスキルは存在する?"


"存在します。思考誘導は暗示の派生スキルで、細かい設定をしたり、逆に指示無しでも違和感なく目的に誘導でき、強引な暗示より発覚しづらいです。洗脳は繰り返し暗示や思考誘導をかけられる事でかかるごく軽い精神汚染であり、隠蔽されていても状態を看破すれば表示される事があります。治癒一発で解けるものではありません。まめに治癒をかける癖を付け、洗脳にかかった時の手順と同じ様に何度も何度も正しい事象を確認し理解していくことが必要です。もしくは、かけた張本人が解こうとする事。"


"そうか。そういう事か。ありがとう。唯花。"

"分かった事は書き加えて下さって結構です。その情報は、条件を満たすまで、直接与える事を禁じられているのです。次の機会の完全鑑定に反映されます。"

"そうは言われても、もう異世界に来る機会なんかないけどね。"


 僕は情報を整理する。僕らはAに洗脳されていたのだ。

そしてステータスが別であるAは、僕らにスキルを使う事ができるという事。

やつは思考誘導でBに穢れがあると思い込ませた。

演技中心まで成りきる事ができるのは、Aの思考誘導だ。

AやBが僕に一切のおしごとの記憶を隠すのは、実際に自分が穢れていると思い込んでいて、スキル適性が低く普通に生きられる可能性のある僕をその経験の記憶で穢したくないからだ。


 確かにあの完全鑑定を見て僕は一度壊れたし、受け止めるごとに考え方も歪んでいってると思う。だけど穢れが人を狂わすのならば、記憶を共有されたBがあれほど誠実でまっすぐな気持ちを持つのは矛盾している。


 僕は元々嘘で塗り固められた汚い人間なのだ。だけどそれはAの言う穢れなどではない。育ってきた環境により形成された性格であり、穢れなどという超常のものではない。僕たちは同一人物であり同じ体を共有している。僕にも、Bにも、そしておそらくAにも穢れは無いのだ。


Aの穢れという思い込みで植え付けられた洗脳。それが僕たちが乗り越えるべき呪縛だ。BはAと同じスキルを持ち一人の女性を死に追いやった。そのせいで呪縛がきつい。あいつの代わりに乗り越えるのは僕だ。


 Bには地球の神の加護がある。けれど僕には無い。それは僕が地球の神を信仰していないからだ。僕らを救ってくれたのは地球の神ではなくエルガセナウの神。

唯芽さんは課長が出張に行くとき嫌な予感がしたと言っていた。それが地球の神の加護だとも。そして課長も同じ嫌な予感がしたらしいのだとは教えてくれた。

つまり、地球の神は、課長と唯芽さんが離れる事を望んではいないのだ。


 千葉のあの夜、Bは守られていると言ったけどそれは違う。

度重なるストレスによりAが寝込んでいて思考誘導が効いていなかった。

Aは母親との訓練、そして父親と会って話す役割も担っていた。

鑑幸二郎のあの本、唯芽さんの完全鑑定、課長に指示された事、それは辛かった事だろう。


 僕は女を抱けばピアノが弾けなくなり、Bは今まで溜め込んだ知識が失われると洗脳されていた。けど僕はそんなの嘘だと思っている。大阪時代、僕は莉樹や君枝との恋愛ごっこで演奏に幅が出たからだ。


Aは記憶を共有してBにはそれによる恐怖が染みついた。その意図を持って触れる事で震えと冷や汗が出て死にたくなる。現に考えただけでその症状が出た。親友に徹すると決めたら嘘のようにその症状が出なくなった。


 僕に地球の神の加護が無いのは好都合だ。

絶対に加護はいらない。

エルガセナウの神と地球の神の思惑が違うのだ。


エルガセナウの神はまだ地球人の僕らに対して表立って派手な行動はできない。恐らく地球の神が別の事をしている時、例えば修行に行った課長の身を守ったりしている時にしか強引な手段で僕と唯芽さんを結び付けようとはできないのだ。


唯芽さんはエルガセナウの使徒。生まれ変われば恐らくエルガセナウに転生するから。だけど力を持った存在だから執着されている。エルガセナウの使徒が地球の神に奪われようとしているのだ。

彼女を絶対に地球の使徒にしてはいけない。

僕らは一緒にエルガセナウに転生する。それがBの望み。今世で結ばれなくとも、僕らは来世で君と結ばれたい。


「できた。」

やっと谷やんBと村瀬裕也Bの演技パターンが完成した。

あそこまできついと目的が達成されない。

だけど、呪縛は少しは再現しないと怪しまれる。

少しの震えとあの表情。

僕は魔法がBより得意だから愛戯スキルに魔力操作を紐付ける。

そして手のひらに魔力を纏い、スキルを使った時の違和感、これを魔力に溶け込ませた。軽く手を握ったり開いたりする。

「よし。何となくいけそう。」

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