26話 レベリングとネズミーデート
異世界 村瀬裕也C
ユメカとパワーレベリングをする。
無魔法は実は地球で既に覚えていた。神社には神聖魔力が満ちていてその魔力を動かそうとした時に習得したのだ。だが転移魔法を覚えたのはありがたかった。
その後魚を延々と捌き、無魔法での解体も習得。
アルバス様と少し話し、状態異常耐性大を付けてもらい、完全鑑定を読み込んだ。
耐性があっても僕の頭が理解を拒み、演技を解いて遮断を手動で発動しようとするとアルバス様に封じられた。
"お主は遮断を使わずにしばらく心を鍛えた方が良い。あやつが起きて来るまでにこの程度の内容、受け止められる様になるのじゃ。"
"いや、この程度って。僕のせいで人が死んでるんですよ。"
"お主だけが過酷な人生を送っておると思うな。この世界ではどこにでも転がっておる話じゃ。親が子供を売るなんて日常茶飯事じゃし人が死ぬのもよくある事。この世界にも薬はあるし、邪教ははびこっておる。異世界に来れば苦労はないと思うたら大間違いじゃ。じゃがユメには言うなよ?それを神は望まん"
"わかりました。"
恐ろしい事を聞いてしまった。
Bが自死を選びここに生まれ変わるならば、自衛の手段を身につけなければいけない。
アルバス様は一度遮断の封印を解いてくれたが、自分で封印して少しずつ痛みに慣れる様に指示された。感情遮断を覚えたのは7歳の時。
負の感情を受け止められる許容範囲が、僕は年齢相応には育たなかった。それは遮断を貫通してダメージを受け精神が壊れる度、B達に無かった事にされてきたかららしい。
僕は早急に強くならなくてはいけないのだと、アルバス様は言った。
千葉 村瀬裕也C
今日はユメカとのデートだから、完全鑑定の魔石を見るのはやめた。
もしそれで僕がダメージ受けたらせっかくのデートをBに譲る事になる。
あの役割がBになった以上デートぐらいはさせてもらう。
ユメカ用にアルバス様がマイルドにしてくれた方の鑑定を見る。
それでもかなりのダメージ。だが何とか僕は持ち堪え、治癒を使う。あいつの治癒の反応が異様に早いのは、これに耐えてきたからだ。
キツイな……。苦しい。けれどそれも受け止めないと。
僕が職場でたまに話してた子が死んだんだ。
通夜には僕が行った。Bがショックで眠っていたからだ。
僕には何も共有されていなかった。
あの子、吉村教子さんは、一度でいいからとBに迫ったそうだ。Bは彼女を家に上げ、関係を持つならきちんと知って欲しいと僕らの過去を話した。こんな僕でも側にいてくれるかと。
だが手を離した途端スキルが切れ彼女は泣いて飛び出して行った。
僕らの生い立ちを知って自分がやろうとした事が僕らにとってどんな意味があったのかを彼女は知ったのだ。Bは拒絶されたと勘違いして追わなかったらしいけど、土壇場でBを拒絶した訳ではないだろう。
翌日会社で吉村さんが電車事故に遭って死んだと聞いた。
Bが追わなかったから、フォローしなかったから彼女は死んだのだ。
彼女を引き留めて慰めるべきだった。
鑑定には死んだとしか書いてない。
この時にAはBに自分がおしごと担当だと思い込まされた。
二度と間違いを犯さない様に触れると相手が穢れて壊れると洗脳されたのだ。その時Bが人に触れるのが怖くなった。
僕には穢れなど無い。
僕のスキルは一般女性にすら効いたのかどうか分からない程度の効果しかないのだ。使徒であるユメカに精神ダメージを与える訳が無い。それに僕らには治癒がある。彼女がおかしくなるなら何度でも治癒してあげればいい。道を踏み外すなら正しい道へ何度でも引っ張り戻せば良いのだ。
彼女とネズミーランドに来ると既に行列ができている。
事前にチケットを買っていないからチケット売り場と入場とで二回並ばないといけない。僕は二人で話しながら並ぶのも構わないが、彼女はあまり乗り気ではなさそうだ。
「昨日先にこっちきてエレクトリカルな方を見れば良かったかなー。」
15時から入れるチケットがある。
割り込みは絶対に嫌だと言うし僕は暇つぶしでユメカに読心を教える事にする。
今日課長の言う通りしたとして、どんな顔をして会社に行けというのかと考えたら、有給使いきって異世界生活でもまあいいかなあという気になってきた。
そのぐらい昨日見せてもらった生い立ちはショックで僕の価値観を壊すものだった。これを改竄したのはBではないという。
だとしたらそんな事ができるのは一人だけで、自分の記憶を保ったまま、記憶だけでなくステータスの生い立ち部分を変更できるAはステータスが別にあるのだ。
僕はせっかくのユメカとの時間を嫌な事を考えて過ごすのはやめた。どうしてもやっぱり諦めきれなくて、スキルの封印を解いて彼女と手を繋いでいる。やはり僕のスキルは弱いみたいで彼女の手のひらの所で堰き止められている。
ユメカと手が繋げるからいいかなんて考えていると、彼女が僕に向かって看破を使って来た。
(あ、これは一緒に並ぶん嬉しいわとか混んでて良かったなとか思ってる顔だ。もうちょっと並んで居たいのかも知れない。やっぱり裕也さんはドMだ。)
ちなみに全然違う事を考えていた。しかも僕はドMではない。恐らく彼女の読心適正は低い。
"僕の心は読んだらあかんで。友達やからな。聞いてくれたら言える事は言う。でも勝手に読んだら僕も読むで。ユメカは嫌やろ?自分がされたら嫌な事は?"
"しないよ。絶対のルールだもん。"
ユメカ。僕は君に欲しい言葉を与え的確に治癒する為にずっと心を読まないといけないんだ。騙してごめんね。改めてアルバス様に認められたよ。それは神に認められた僕の役割なんだ。
"あれ?ユメカ結界張ってる?"
"え、うん。"
なるほど。そりゃ効かないはずだ。
結局二人で帰ってきて彼女をもてなす為にルームサービスを注文する。
君の誕生日を一緒に過ごせないのは残念だけど、セッティングが終わってこれからの日課だと指示された鑑定の魔石を開く為に取り出した。
僕が壊れたら今夜またアルバス様に治してもらう為だ。
正しい鑑定には、Aから共有された記憶を見て、親がAを使って何の研究をしていたかをBが予測したと書いてある。
被験者達はだんだん衰弱していった。手を繋いでただぼんやりしていたかと思うと、突然悲鳴をあげて震えだしたり、訳の分からない事を叫んで暴れたりするのだ。
会う度に痩せ、肌の色が変わり、歯が抜け、見た目が変化していった。
その様相は、麻薬患者そのもの。
後半僕らを仕事に送り届ける役割をしていた人達は、僕ら子供には普通の人に見えていたけど、今思い返せば高級腕時計を付け高いスーツに身を包んでいた。
親はAが触れるのと同じ脳の状態になる様なそんな薬を開発して、反社会勢力に販売していた。
大学時代、僕らは自由になった事に羽目をはずした。Aが共有してくれなかったおしごとの内容を勝手に誤解し、良い思いをしていたんだと不満を溜めていた。何も考えずに遊び半分で女を次々とひっかけ手を繋いで依存させ。検証と称してどこまで触れられるかを試して兆しが出たら捨て続けた。
実行したのはBだがあれは僕が立てた計画だ。
女は手を繋いだだけでBに依存した。活発だった子も、外出が好きだった子も、多くの子が四六時中ただ手を繋いで座っているだけになった。料理さえ作らず総菜やデリバリーを用意するのみで、仕事以外の時間は何もしなくなった。
Bの囁く声が心地いいからと、自分から話す事も少なくなった。
意欲がどんどん失われただ手を繋ぐ事ばかりを求めるのだ。
手を繋ぐ以上の事をした子はその先に進むことしか考えられなくなり、仕事も手につかなくなっていった。僕に暴言を吐いたり、家で暴れて物を壊したり、情緒不安定になっていったんだ。
僕はストーカーだなんだと被害者面をしていたが、無関係の一般人の人生をめちゃくちゃにしていたのは僕だった。僕は親と同じ事をしていたのだ。




