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第9話 遭遇――魔物異変体

「おめでとうございます!あなたはYouTokの第866番目のA級配信者に昇格しました。」

「YouTokでの投げ銭取り分の割合が60%に引き上げられました。」(B級配信者の取り分割合は40%)

「YouTokの年間最も人気のある配信者の候補資格を獲得しました。」

「3日以内にYouTokからA級昇格報酬をお届けします。お楽しみに!」


輝く報酬通知が次々と拓海の配信コメントに流れ、「テッテレー!」という効果音と共にBGMが高鳴る。黄金の宝箱が視聴者画面の上空から降り、システムからの派手なお祝い通知が視聴者たちの興奮を一層煽る。


「こんなに簡単に1万人を超えたか…」

「まだ増えてる。2万人を超えたぞ!」

拓海は満足そうに微笑む


A級昇格の特典について事前に聞いていた彼は、まさにこの瞬間を待ち望んでいたのだ。だが、5分間の投票が終了し、「否」と選ばれた票数が21,230票に達すると、次の瞬間には彼の同接数は急落し、わずか1,628人になってしまった。


その時、通路の先から3メートルの龍槍を構えたミシェルが姿を現す。


「どうして待ってたの?」

首をかしげて好奇心を込めた声で尋ねる彼女に、拓海はにやりと笑い、「腐敗憎悪の体液まみれになるより、A級昇格の方が魅力的だからな」と薄っぺらな言葉を返す。


ミシェルは瞬時に、拓海の本心が別の所にあることを察する。「また利用されたわけか…」と眉をひそめつつも、彼が隠しているものがあるのを確信し、疑念を拭えないでいた。

ミシェルの心中で、拓海への不信感が再び芽生える。 「この男、単なる卑怯者かと思っていたけれど…計算高い奴だわ」


と、次の瞬間、彼女の言葉を遮るかのように、巣穴の中央で眠っていたはずの腐敗憎悪が目覚め、緑色の巨大な斧を手にしながら血走った目で二人を睨みつけてくる。吐き気を催すような酸液を滴らせながら、恐るべき速度で突進を開始する。


腐敗憎悪は巨大な体躯に反して俊敏で、人間の短距離走をはるかに凌ぐスピードで距離を一気に詰めてきた。

「強い…!」

ミシェルはスカートが翻る中、数メートル前進し、手にした龍槍で黒い光を放ちながら、顎を貫く一撃を狙う。


一方で、拓海は早々に後退し、ミシェルに向かって不敵に声をかけた。

「龍槍のミシェルよ、勝つ機会をお前に譲ってやる。けど、もしやられるようなら俺に頼ってもいいぜ。もしかしたら助けてやるかもな。」


ミシェルの配信コメント

ニコル:「なんて無様なやつ…!信じられん」

タカ:「ミシェルにはお前なんて必要ないっての。勝てるわけないくせに」

カズ:「ほんと、最低!」

うみ:「こいつ以上に小物な配信者見たことないわ!」

視聴者からの嘲笑や非難の声が、拓海の燃料となり、炎上パワーはますます増していく。


ホテルの一室にて


彩羽はミシェルと拓海の配信を同時に見ている。過去に「拓海」というクズ男に煽られた経験から、冷静な視点で状況を見守っていたが、腐敗憎悪の凶暴な動きに目を奪われ、険しい表情を浮かべる。


「この腐敗憎悪…普通のボスとは何かが違う…」


彩羽はすぐさまスマホで魔物図鑑アプリを起動し、腐敗憎悪について調べ始めた。

副社長の一人娘である彼女の魔物図鑑には、一般の冒険者にはない詳細な情報が記されている。


しばらくして、彩羽の顔に驚愕の色が浮かんだ。


「この腐敗憎悪…まさか『緑幽憎悪』だなんて…ダンジョンで極めて稀な魔物異変体で、三種の憎悪異変体の中でも最強のもの!」

「でも、こんなB+級、いや、A級にも匹敵するボスが、C級ダンジョンに出現するなんて…」

「9段の龍槍使いであるミシェルでも、この強力な異変体魔物に対しては、命を落とすかもしれない…。」

「ということは、あのクズも、ミシェルより弱い以上、絶対に死ぬに決まってるじゃない!」


思わず口元を手で覆う彩羽の心には、復讐の達成感に似た感情がよぎったが、なぜか同時に不安が胸に刺さる。

「私…どうかしてる…あのクズを心配してるの?」

「そんなはずない!あんなやつ、死んでくれた方がいい!」



憎悪の巣窟の入り口にて


エンジン音とともに、火のように赤く、野性的なバイクが近くに停まった。バイクから降りたのは、体にぴったりとしたレザーをまとい、絶妙な体型を際立たせる女性だった。

彼女はヘルメットを外し、艶やかな黒髪が肩に流れ、美しい顔があらわになった。その顔で最も目を引くのは、深く碧い瞳だった。冷たく魅惑的で、見る者に寒気を感じさせるような瞳だ。


彼女はスマホを取り出し、耳元に男性の声が聞こえてきた。

「銀狐、もう中に入る必要はない。君の目標は、A級に匹敵する緑幽憎悪に遭遇した。彼は確実に死ぬ。任務は中止だ。」


コードネーム「銀狐」という美しい女性は一瞬沈黙し、「任務は中止でいいけど、報酬は返さないわ。」と答えた。


電話の向こうの声は続けた。「わかっている。『隠殺組織』のルールに従い、報酬は返さなくていい。」


電話を切ると、銀狐は興味深げに呟いた。

「思わぬ収穫ね。こんな目立たないダンジョンで、まさか緑幽憎悪が生まれるなんて…面白いものが見られそうだわ。」


そう言うと、銀狐はまるで幽霊屋敷のようにダンジョンの中へと姿を消した。


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