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第8話  腐敗憎悪の巣窟

拓海の周囲には、バラバラになったシャドーキャットの死骸が散乱していた。

先ほどまで彼を取り囲んでいた百匹近いシャドーキャットは、すべて斬り倒されていた。広い通路には、もう魔物の低いうなり声ひとつ聞こえない。


配信では、コメント機能が再びオンになった。

ぽぴ:「嘘だろ!?こいつ、いつの間にこんなに強くなったんだ??この血みどろの残骸…グロすぎる…」

ドクターペッパー:「あの技、他の配信でも見たことあるけど、確か9段刀狂の特殊技だよな!? でもこいつ、まだ5段の認定じゃなかったか?」

よしひろ:「性格は最低だけど、さっきの一撃は認めざるを得ない。マジで熱くなったわ」

kou:「俺、2年前からこのクズの配信を見てるけど、その頃は確かに3段だったんだ。たった2年でここまで強くなるとは、早すぎるだろ…」

アオト:「3万円スパチャするぜ。こいつの性格はどうかと思うけど、今日見せた実力は認める。俺の母も、ダンジョンの外でシャドーキャットにやられたんだ…。あの母の首に残った致命的な爪痕が今でも忘れられない。今日は少しスッキリしたよ。2年間潜伏してたけど、一気に大金投げるぜ」

June:「初見なんだけど、なんでみんなこの人の性格が悪いって言ってるの?」


今の拓海には、コメントを確認する余裕はなかった。彼は笑みを浮かべながら戦利品を回収していたのだ。百匹近いシャドーキャットを倒し、大量の魔石や素材がドロップしていた。

白魔石33個、青魔石12個。魔石ですらすべての魔物が落とすわけではないのに、今日はシャドーキャットの爪も8本手に入った。

この爪は高強度の合金に匹敵する強さを持ち、冒険者ギルドに売却することができる。通常はダーク系装備の補助素材として使われる。


回収が終わると、拓海はある違和感に気付いた。今日は炎上値増加の通知が全く来ていなかったのだ。


今日優しすぎたか?…いや、こんなんじゃ俺らしくないな。


「なぜさっきあんなに凶暴な攻撃をしたかわかるか?」

コメント欄には「なぜ?」という書き込みが次々と流れた。


ダンジョン配信者とのインタラクションは視聴者の大きな楽しみの一つであり、たとえ「クズ」配信者であっても、視聴者は応じてくれるものだ。


「それは……シャドーキャットたちが暗闇で発していたうっとうしいうなり声を聞いた瞬間、まるでお前らみたいに感じたからさ!」

「ハハ…ハハハ…ハハハハハ…」


瞬く間に配信ルームの雰囲気は一変し、罵倒のコメントが溢れ出した。

菊地から炎上パワーを獲得+55

野崎から炎上パワーを獲得+26

西田から炎上パワーを獲得+36

渡部から炎上パワーを獲得+38


この程度の炎上値じゃ足りない、やっぱり視聴者がまだ少ないんだな。急いで巣に向かわないと。

あのミシェルという配信者の実力は侮れない。彼女ももう通路内の魔物を掃討し終えているはずだ。

彼女の配信に連動すれば、炎上値が自然と湧き上がるだろう。5万人の同接からの罵声…楽しみだな!


通路を抜けると、拓海は巨大な沼地に到達した。そこはおよそ2000平方メートルに及ぶ巨大な空間だった。

拓海から200メートルほど先に、身長5メートルの巨大な魔物が一匹いた。全身に無数の巨大な膿瘍があり、筋肉で覆われた体躯には、緑色の巨大な斧を握っていた。その魔物は正体不明の大木にもたれかかり、目を閉じて規則的な雷鳴のようないびきをかいていた。


腐敗憎悪って、いつから武器を持つようになったんだ…?


目の前のこの魔物は、魔物図鑑に載っている腐敗憎悪とは少し異なっていた。体はより巨大で、膿瘍の数も多く、しかも武器を持っている。


冒険者ギルドでは、全冒険者に魔物図鑑が一巻配布されており、腐敗憎悪のようにC級ダンジョンのボスとなる魔物は、当然図鑑に収録されているはずだ。


先ほどの通路でシャドーキャットの数が増えていたこと、ダンジョンが成長型の特性を持っていることから、拓海はある計画を思いついた。

拓海はライブカメラに向かって言った。

「見えるか?腐敗憎悪だ。このダンジョンの巣穴のボスの一匹だ。俺がこいつを倒すところを見たいなら『はい』を選べ。ミシェルが来るのを待って、彼女に先に手を出させたいなら『いいえ』を選べ。」


拓海の配信では、投票が始まった。「はい/いいえ」(投票は5分間有効で、否決票が10000以上の場合に有効となる)


「今日は気分がいいから、この選択肢はお前らに任せる。」


そう言って、拓海は岩壁にもたれかかり、投票数の変動をじっと見つめた。1万票というのは、少なくとも1万人の同接数を意味し、これはB級配信者がA級に昇格するための基準だ。昇格すれば、多くの支援と利益が得られる。

だが、拓海の「特別」な配信スタイルでは、1万人の同接を集めるのは非常に難しい。しかし、今回の配信で対決をうまく活用すれば、この昇格の壁を一気に乗り越えることができるかもしれない。


投票数は最初、数百票程度だった。しかし2分後、拓海の配信ルームの視聴者数が急激に増加し始めた――1566…2287…3199…


一方、ミシェルのいる通路では、彼女がようやく厄介な魔物を掃討し終えていた。そして、彼女は自分の配信コメントを一瞥した。

ともや:「クズの配信に行って投票しろ!あいつに先手を取らせるな!ミシェルにもっと時間を稼がせろ!!」

メッツガー:「あのクズ拓海、ミシェルより先に巣穴に到着してるとは……奴に手出しさせるな、投票してこい」

まさはる:「くそっ! あいつ、ここの地形に詳しいからこんなに早くたどり着けたんだろう。先に手を出されるのを止めなきゃ」

真知子:「行け、投票だ……」


コメントを見て、事情を飲み込めないミシェルは少し戸惑った。わずか2分で、彼女の配信から2万人近くの視聴者が消えていた。


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