第6話 双子道の選択
薄暗いダンジョンの中、ミシェルと拓海は並んで分かれ道の前に立っていた。冷たい空気が肌を刺し、遠くからは魔物のうめき声がかすかに聞こえる。
「ここが双子道だ。このダンジョンの特徴の一つさ。どうやらここで一旦お別れだね」
拓海は涼しげな目でミシェルを見つめ、説明した。「道の終点は腐敗憎悪の巣だよ。」
ダンジョンが世界中に出現してから五年。北海道出身の冒険者である拓海は、この「憎悪の洞窟」と名付けられた成長型ダンジョンをこれまで十数回探索してきた。しかし、腐敗憎悪の巣まで深入りしたことは一度もない。
「どっちを選ぶ?」
拓海の問いに、ミシェルは美しい眉をわずかにひそめた。彼の微笑みの奥に何か企みを感じ取ったのだ。
「あなたが先に選んで」
自分の戦闘力には絶対の自信がある。9段の龍槍使いが、たかがC級ダンジョンを攻略するのだ、リスクはないはず。しかし、目の前の男の不敵な笑みに、ミシェルは警戒心を募らせた。
「俺?じゃあ左にする。まあ、どっちも同じだし、どうでもいいけどね」拓海は肩をすくめ、軽い口調で答えた。
「それなら私が左を選ぶわ」
拓海が選んだ後、ミシェルは左の暗い通路を指し、微笑んだ。
「勇敢な冒険者さん、異議はないでしょう?」
「いいよ、後悔しないといいけど」拓海は薄く笑い、
「それと、君は俺のタイプじゃないから、その作り笑いはやめてくれ。見ていて気分が悪いんだ」と言い放った。
ミシェルの配信では、彼の言葉に激怒した視聴者たちのコメントが次々と流れていた。
•ジェニー:「はぁ???目が腐ってるんじゃないの?ミシェルは優しさの塊で世界一の美人だぞ!」
•モウノ:「あの野郎、俺たちの見る目を疑うなんて許せない!ミシェルは俺の嫁だ!」
•大輔:「今回の罰ゲームは甘すぎる。負けたら腐敗憎悪の体液を一気飲みさせるべきだろうそこは!」
•えっちゃん:「拓海ってやつの配信から来たけど、もうあのクズは見限った。やっぱり美少女の方が癒されるー」
──安田から炎上ポイント+10を獲得
──谷口から炎上ポイント+12を獲得
──荒川から炎上ポイント+9を獲得
──工藤から炎上ポイント+21を獲得
...
「さすがは5万人の同接数を持つ人気配信者!が…もっと煽って炎上値を稼がないとな」炎上値の増加を確認し、拓海は内心ほくそ笑んだ。
その時、ミシェルの配信に金色のバッジを持つ視聴者からコメントが投稿された。登録冒険者特有のこのバッジは、その輝きでランクを示している。
•河田星雅:「ミシェルお姉ちゃん、あの男の罠にはまっちゃったね。私も『憎悪の洞窟』を探索したことがあるけど、双子道の魔物の数と強さは左右で違うんだ。左の道は右よりもはるかに危険だよ」
そのコメントを目にして、満面の笑みを浮かべていたミシェルの表情が一瞬で固まった。
一方、拓海はすでに暗闇に包まれた右の通路へと足を踏み入れていた。振り返ることなく右手を軽く振り、「龍槍のミシェル、道は君が選んだんだから、ちゃんと譲ったんだぜ!巣で会おう!」と声をかけた。
ミシェルの配信コメント欄は激しい怒りで溢れていた。
•としや:「卑怯だぞ!ミシェルを罠にはめるなんて許せない!」
•モウノ:「ミシェル、負けるな!あの男が腐敗憎悪にやられるのを楽しみにしてる!」
•林内樹一【100,000円】:「ミシェル、君の活躍を期待しているよ。あの男は狡猾だから気をつけて」
一方、拓海の配信コメント欄は彼を冷やかす声で賑わっていた。
•浅野:「本当にずる賢いな。あんな美少女に対してよくもそんな態度がとれるね?」
•ドクターペッパー:「お前の配信を半年も見てたら、俺もだいぶ免疫がついたよ。美少女を出し抜くなんて、まさにお前らしいな、クズめ!」
•よしひろ:「お前は5段の刀狂いで、相手は9段の龍槍使いだ。その小細工は通用しないさ。実力差で負けるに決まってる」
•さすけぷー:「俺、もしかしたら配信を見すぎて感覚麻痺になったかも…あいつそのクズっぷり、ちょっと面白く感じてきた…こわいわ…」
拓海は軽くため息をついた。「やれやれ、俺の配信に常連で来る連中は、この三年間でメンタルが鍛えられすぎてるな。彼らから炎上値を稼ぐのもだんだんむずくなってきた…!」