第5話 憎悪の洞窟——ミシェルとの対決
「最近、北海道のダンジョンに外来の冒険者が増えてきたな…しかもまた美少女か」
拓海はぼんやりとそう呟いた。「また」と口にした瞬間、彼の頭には、彩羽のプリッとしたヒップが浮かんだ。あの丸みと滑らかな感触は、確かに印象的だった。
「もしかしたら、今日もいい日になるかもな!」
彼がふと周囲を見渡すと、二台のライブ配信ドローンが10メートル以内に接近していた。その瞬間、拓海とミシェルの前に対決契約の提示が表示された。
「有効範囲内に他の配信者が見つかりました。双方の配信をリンクし、対決モードを開始しますか?
はい/いいえ」
前回の経験から、拓海は迷わず「はい」を選択した。
ミシェルは少しの躊躇を見せたが、拓海の胸に輝くシルバーバッジを確認し、ゴールドレベルの冒険者として自信を持って「はい」を選んだ。
この形式は最近のダンジョン配信界で人気を博している。配信者同士がリンクし、勝敗条件や罰を設定することで、視聴者を引き込む刺激的なコンテンツとなる。
中には命を賭けるような対決もあるが、それはほとんどが関西地域最大の配信プラットフォームであるHOOTと契約している配信者の話だ。
YouTokでは安全な範囲内で楽しむのが主流だ。
「こんにちは。あなたもこのダンジョンに挑むなら、勝敗条件を決めましょう。」
ミシェルの胸の金色のバッジに目をやりつつ、拓海は彼女の肩に担がれた黒いランスに目を留め、いたずらっぽく笑みを浮かべた。
「この奥に『腐敗憎悪』がいる。最初に倒した方が勝ちってことで、いい?」
ミシェルは少し驚いた表情を見せた。
「あなた、このダンジョンに来たことがあるの?」
「何度かね。ここのことなら少しは知ってる。」
「では、勝敗条件はそれで決まりね。ただし、罰は私が決める。それがルールだからね」
拓海は軽く肩をすくめ、「いいよ」と答えた。
「それなら…負けた方が腐敗憎悪の体液で全身を塗りたくる…っていうのはどう?」
腐敗憎悪は、倒れると体が完全に液化し、強烈な悪臭を放つ。その体液が肌に触れると、何度洗っても匂いが取れないことで有名だ。
「君、自分が負けることは考えてないのか?」
拓海は不敵に笑いながらマントを軽く揺らした。
「負けるのはあなた。しかも、罰に関してあなたには拒否権はない。勝敗条件を決めたのはあなたなんだからね」
「じゃ、望み通りに!」
ライブ配信が開始されると、双方の同接数が急上昇し始めた。
ミシェルの配信:25,522…26,885…30,112…
拓海の配信:123…288…450…588…
特に「腐敗憎悪の体液を全身に塗りたくる」という罰が決定した瞬間、視聴者たちの熱気はさらに高まった。
ミシェルの同接数:51,131…
拓海の同接数:1,722…
ホテルの部屋で、彩羽はYouTokのおすすめ通知を見ていた。ふと表示された対決マークに目を留めると、瞬時に表情が険しくなった。
「あのクズだ…!」
彩羽は歯を食いしばり、画面を睨みつけた。ログアウトしていた彼女は、急いでYouTokアカウントに指紋認証でログインし、拓海の配信ルームに入った。
「ようやく運を使い果たしたわね。このクズが、龍槍ミシェルと対決するなんて!」
彩羽はYouTok副社長の娘であり、冒険者として半年、ダンジョン配信を始めて三ヶ月だが、YouTokの配信界に関しては非常に精通していた。
龍槍ミシェルは、9段の龍槍を操るトップ冒険者で、YouTokの配信ランキングでも常に上位に入っている。三年のキャリアで一度も対決に負けたことがない、完璧な記録を誇る。
「腐敗憎悪の体液で全身を塗りたくるなんて…最悪。でも、スクワットよりまだマシかな」
罰ゲームを見た瞬間、彩羽は思わず喉を詰まらせそうになった。
「でも、あのクズが腐敗憎悪の体液で塗りたくられるところ、見ものだわ。」