第16話 鉄血城
埼玉県郊外、東京から約80キロメートルほど離れた場所に、巨大な要塞のような新興都市がそびえ立っている。その名も「鉄血城」。
ここは関東地区の冒険者ギルドの本拠地で、東京ギルド本部を除けば、日本最大の冒険者の集まる場所だ。
鉄血城では、ダンジョン冒険者に関わるあらゆる業務が展開されている。
冒険者専用の取引所、ダンジョンのオークション、市場、薬屋、武器屋、魔物の素材取引所、さらには冒険者が自由に出店できるフリーマーケットも設けられている。
拓海は今回が初めての鉄血城訪問。
城に足を踏み入れた瞬間から、すべてが新鮮で興味深い。翌日には年に一度の「試練」イベントが開かれるため、拓海は前日に到着したのだ。
今、彼は冒険者フリーマーケットを歩いている。ここは何キロにも渡る長い通りで、両側には冒険者たちが出店した個別の屋台が並んでいる。屋台の出店料は10白魔石。これさえ支払えば、自分のダンジョンで得た戦利品を売るためのブースを借りることができる。
「Bランク魔物、巨獣虎の完璧な牙。魔具作成に最適な素材、80白魔石でどうぞ!」
「ダンジョンで最も愛らしい魔物、“人語ウサギ”の子供。攻撃性は一切なし、ペットとして最適。感情的な癒し効果抜群。200白魔石でお譲りします、ペット用の豪華ケージもプレゼント!」
「独自の秘薬、「特効疲労回復薬」。Aランク魔物、永生蚕の糸を使った逸品。たった一瓶で500タワー魔力回復。冒険者の戦闘回復には欠かせないアイテム。10本以上購入でお得、価格は1本8000白魔石!」
「Aランクダンジョン巣穴ボス、独眼巨魔の眼球。交渉次第で安く譲ります。」
両側の屋台では様々な品物が売られており、拓海は目を見張るほど多くの珍しいアイテムを目にすることができた。
だが、今の拓海には財布の中身が一銭もない。彼の持ち物はすべて「魔力の種」に吸収されてしまったため、今はただの見物客に過ぎない。
途中で、拓海は何人かの冒険者に囲まれた屋台を見かけ、興味を持って近づいてみた。
屋台の主人は、青いショートヘアに鋭い眼差しを持つ美少女で、鼻筋が通り、唇が紅い。その背中には、巨大なツタの杖を担いでいる。
少女は、筋肉質な坊主頭の冒険者と激しく言い争っている最中だった。
「言っただろ、この『刀の魔晶』は、四系元素の魔晶としか交換を受け付けない。魔石なんかいらない」
ハゲ頭の冒険者は怒りを露にし、「ここで屋台を開いているのに、魔石で売らないなんてあり得ない!紫魔石10個出すから!」と強く言った。
少女は眉をひそめ、少し冷ややかな口調で言った。
「おじさん、転職魔晶のドロップ率はかなり低いんだよ。紫魔石10個じゃ元素魔晶を買えないことも知ってるでしょ?冒険者ギルドの公式取引所でも、最も安い水元素魔晶でも30個の紫魔石が必要なんだから」
ハゲ頭の男は、少女が市場価格を把握していることを理解し、面目を失ったようだった。彼は舌打ちをし、観衆が増える中でその場を去った。目の前の少女に対して、未だに不満を抱えているようだった。
拓海は人混みをかき分けながら、屋台の中央に置かれた輝きを放つ「刀の魔晶」に目を奪われた。その魔晶は、まるで内部で何かが輝いているかのように、淡い光を放っていた。
冒険者の転職は、戦力を大幅に向上させる重要なステップであり、転職魔晶の入手は、その突破口となる。
しかし、100万人以上の冒険者の中で、転職を果たせるのはほんの一握りに過ぎない。それだけ転職魔晶は貴重で、ほとんどの冒険者が手に入れることができない。
ハゲ男が立ち去った後も、何人かの冒険者が再び魔晶を買い取ろうと試みたが、いずれも失敗に終わった。少女は「四系元素魔晶のいずれか」と決めており、他の魔晶では取引には応じなかった。
拓海はこの様子を見守りながら、ふと考えた。
彼女のように、特定のアイテムを指定して取引するスタイルは、取引成立が難しい上に、転職魔晶は非常に貴重なアイテムだから、リスクも伴う。これが続けば、彼女はトラブルに巻き込まれるかもしれない…。
その後、拓海は再びぶらぶらと歩き続け、普段図鑑でしか見たことのない珍しいダンジョンの材料や宝物を実際に目にして、驚きとともに目を開かれていった。
日が暮れ、冒険者たちが次々と店をたたむ中、拓海も宿に向かって歩き始めた。財布が寂しく、宿もかなり辺鄙な場所にあるため、鉄血城の北端の貧民街にある宿に向かうには相当な時間がかかる。
夕日が西の空に沈む頃、拓海は街角を曲がり、人影のない細道に入った。その時、耳にしたことのある声が響いた。
「もし道を塞ぎ続けるなら、公会の取り締まり隊を呼ぶわ」
「ふん、呼べるもんなら呼んでみろよ。取り締まり隊を呼べたら、逆立ちしてクソでも食って見せるさ、ははっ!」
「やめて...近づかないで...」
「風刃術!」
「ファイヤーボール!」
「地刺っ!!」
「ガンガンガンガン...」
「たかが10段の元素使いが、よくも反抗するな、笑わせるな!」
「俺のこのAランクの巣穴ボス魔物、鉄鎧熊の皮で作られた防具は、魔法防御力が異常に高い。お前のその程度の攻撃では、俺の防御は破れん...ふふ」
「これ以上無駄な抵抗はしないほうがいいぞ」
「いやっ!!」
「おお、こうみて結構腰細いね!刀の魔晶と…ついでに君の身体もいただこう!」
拓海は一連の会話を聞き逃さなかった。
あれは、あの青いショートヘアの少女と、あのハゲ男だ。
「助けたほうがいいかな…いや、前回そのパターンで100万の炎上値も失ったし...まあその代わりに収穫も多かったが…うーん、どうしよう……」
「はあ…やっぱ優しすぎるよ、俺」
内心で葛藤した拓海は、素早く足を速め、迷いながらもその声が聞こえる方向へと向かっていった。




