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中津浦優斗から見た輝奈子

何もない日常。今日も同じ日が続くと思っていた11月20日。アニキが女に変わったらしい。俺は信じられなかった。確かにアニキは行動が女っぽいところはあったし、女になったらどうなるかというような仮定の話もしていた。しかしまさか本当に起こってしまうとは思わなかった。嘘だと思った俺はアニキにこうTXTを送った。「明後日は大学行くつもりだからその時に証明してくれ」と。嘘だろうし。来てもすぐわかるだろうと思った。だってアニキを一番知っているのは自分であるという自信があったから。


自分自身に対する自信はないが、アニキだとすぐわかると思った。しかし、完全に予想を裏切られた。完全に見知らぬ女の子が挨拶をしてきた。髪は長く、その髪を三つ編みにしている。二重(ふたえ)(まぶた)に、吸い込まれるような黒い瞳、小さな鼻と口。美しいというよりはかわいらしい童顔。


「おはよう」

声もめちゃくちゃ可愛い。どことなくアニキの裏声に似ている気もするし、そうでないかもしれない。青の無地シャツと紺のT-シャツ、デニム地のスカートをはいているのもめちゃくちゃ似合っている。でもこの子は誰だろう。気になってしまった俺は聞くことにした。


「おはよう。えっと誰?」


「夜桜輝奈子」

聞いたことのある苗字だった。でも名前も変わっていると受け入れられなくて呆然としていると彼女が(ささや)くように言った。「元は夜桜魔沙斗だよ」と。衝撃すぎて、俺は思わず「まじで?アニキ、女になったの?」と大声でいってしまった。彼女の「声が大きいよ」というときの表情が本当は輝奈子として生きたかったという感情も少し読み取れる表情で現実なのだと受け入れざるを得なかった。


それからアニキの女の子みたいな行動が増えていった。まるで心から女性という性別を楽しんでいるかのように。俺はめちゃくちゃ複雑な気持ちになった。アニキは俺の大事な友人である。それと同時に輝奈子さんはめちゃくちゃタイプである。それだけなら付き合えばいいという話だがそうもいかない理由がある。距離感がわからないのだ。


初対面の輝奈子さんとよく知っているアニキが同一人物なのだ。しかも場合によっては彼女になってくれるかもしれない。一体どんな距離感で話せというのだろう。


「声が大きいよ。どうしよう。先生に言った方がいいよね?」


「そう思う。一緒に行くか?」

なんか雰囲気に流されて一緒に行くことになってしまった。


「う、うん。お願い。あちゅ。お昼休みに行こうかな。教授もいるだろうし」

さっきから持っているココアがめっちゃ熱そうに見える。彼女が「あちゅ」って言ったのは、Vtuberの物まねをしたのかもしれない。アニキならそうするだろうと思った。そう思ってみると彼女の着ている青の無地シャツと紺のT-シャツ、デニム地のスカートはアニキがよく着ていた格好にそっくりだった。ズボンがスカートに変わっているが。


「そうだな。熱いのか?持つ?」

なんかやっぱ俺だわ。「持とうか?」ではなく「持つ?」になるところが。話の主人公が消えるところが。


「あ、あ、あ」

彼女は緊張しているのかな?アニキならこうならない気がする。だって、アイツは「いいよ。ただの悪戯(いたずら)だよ」とニコニコ笑顔でいじってくる気がするから。


「どうした?」

少し心配になってしまった。思ったよりも熱いのかもしれない。


「だ、大丈夫。今日は寒いね」

彼女はなんでこの話題を選んだんだろう。初対面の人みたいになっているけど。いや、間違ってはいない。俺と輝奈子さんは初対面だ。初対面の男女だ。でも、俺とアニキは初対面ではない。その二人は同一人物。なんだこれ?今までの人生もこれからの人生もこんなこと起こらないだろう。


「そうだな。えっと」

俺からすると、初対面ではあるけど中身はよく知っている人だからこうなっている。どうすればいいのだろう。

そんなことを考えながら、学生証をリーダーにかざし、授業を受ける。輝奈子さんの横で。ノートには、リスクマネジメントや不安全行動についてと書かれている。全然授業が耳に入らなかったけど「従業員の不安全行動によってけがなどのリスクがあるためマニュアルをしっかり読み込んで行動するべき」とノートに書いてある。確かに、効率重視の中でもマニュアルは大事である。俺もバイトで効率を求められることがあるからわかる。いつの間にかいたんだろう。


授業が終わり、昼休み。距離感をどうすればいいか結論が出ず、逃げるようにそそくさと帰ろうとする。あれ?なんで(そで)(つか)んでいるのだろう。彼女の袖の(つか)み方は完全にキュっという音をさせている気がした。彼女からすると一人で行くのは怖いのかもしれない。アニキのピンチかもしれない。一緒に行ってあげようかな。


「誰先生に言うべきかな?やっぱりチューターの伊佐先生かな?」

輝奈子さんが不安そうな面持ちで聞いてきた。彼女が上目遣いで見てくるのが可愛すぎて「反則だ、バカ野郎」と言いたくなった。取りあえずアニキに返すように「だろうな」と返す。誰が相手でも大体こんな感じのはずだ。


沈黙が支配する。どうしたらいいんだろう。何かこう食いつきそうな話題がほしい。えっとアニキはVtuberが好きだからその話をしよう。そう思っていた時、輝奈子さんは思い立ったようにVtuberの話をしてきた。アニキはみっちー推しで俺もそうだった。



「そういえば、あの切り抜き見た?みっちーのマグマ切りぬき」


「だいぶ古いやつだけど、面白いよな」

良かった。ちょっと弾みだした。これ(はた)から見たら新米カップルに見えるかも。違うけど。イチャイチャしてないし。でも、女の子と同じ話題で盛り上がれるのってこんなに楽しいんだという高揚感が胸を支配する。


「ほうなんよ。面白いんよ。あと加湿器の切り抜きもめっちゃ好きなんよ」

イメチェン的な感じで方言を使っているアニキも可愛い。ずるいよな、自分だけ女の子になって。いや、これ、俺の役得ともいえるかもしれない。考えるのが面倒になってアニキとして接することに決めた俺は「そうか。しゃべり方変えた?」と聞くことにした。


彼女は「ちょっとイメチェン?やっと処理できた?」といたずらっぽく笑っている。

やっと処理追いついた。話し方に方言が増えているし、女の子らしさが爆発している。結局彼女はどう扱えばいいかわからないから「いや、まだ半信半疑」と返す。


当たり前だよね。受け入れるのに時間かかるよね。こんなこと起きるはずがないと思う。人生わけがわからない。


「そっか。ゆっくりでいいよ。ゆっくりでいいから慣れてほしいな」

彼女の距離感に慣れられる気がしない。


そんなこと言っている間に伊佐先生の研究室に着いた。


輝奈子さんはコンコンコンと3回ノックして「失礼します」とドアを開ける。一瞬時が止まる。

「どちら様ですか?」

それはそうだよな。俺もわけわからないからわかる。


夜桜魔沙斗(やおうまさと)です。名前変わりまして。夜桜輝奈子(やおうきなこ)です」

本当に?いや確かにさっき聞いたからわかっていたはずなのに。なんか処理しきれていない。


夜桜(やおう)君?本当に?学生証ありますか?」

伊佐先生は戸惑った様子ながらも冷静に学生証を確かめる。


「はい」

そういって彼女は、教授に学生証を示す。そこにはもちろんまだ夜桜魔沙斗(やおうまさと)の名前が書かれている。少し見えて嘘じゃない事だけはわかった。


「事情はわかりました。学生支援課に本人確認書類を持って行って下さい」

伊佐先生は冷静だなぁと感じた。


「明日本人確認用の新しい戸籍ができるので、戸籍(こせき)抄本(しょうほん)を持って保険の手続きをしてからになると思います。なので、1週間ほどお時間をいただくかもしれません。ご了承いただけますか?」


「もちろんです。内定先への連絡はしておりますか?」


「それも書類ができてからになります。性的マイノリティーに配慮するために作られたのが改名法だと思いますが、肉体が突然何も前兆なく変わるのは前例のないことの為、手続きも大変なのです」


「わかりました。私から学科の先生方には伝えておきます」


「よろしくお願いします」

何とか手続きは終わった。彼女は緊張していたのだろうか。終わって研究室時から出ようとして輝奈子さんの足がもつれた。格好としては俺にもたれかかってきた。


「おい、大丈夫?」

いきなり抱き着かれて動揺していたけど、輝奈子が心配になった。チラチラする胸にドキドキする。


「ごめん。緊張が解けたからかな。うまく立てない。昼ご飯買いに行かないと」

輝奈子さん大丈夫かな?貧血かな?なんかわからないけど輝奈子さんの昼ご飯買ってきてあげた方がいいかもしれない。そう思って「買ってこようか?」と声を掛ける。


輝奈子さんは不安そうに「1人にしないで。怖いから」といった。確かに動けない状態の女の子を置いていくわけにはいかない。


「わかった。肩貸すよ」


「ありがとう」

何とか俺の肩を使って彼女は立っている。その姿がなんだか可愛い。彼女はコンビニでジャスミン茶と梅のおにぎりを1つ買った。俺は外で待っていた。


「ごめんね。昼ご飯逃してない?」


「俺はうちに飯あるから」

いつも俺そそくさと帰っているし、よくこういっているから彼女は知っていると思うけど。


「でも、授業あるし。次も対面で受けるでしょ?」

輝奈子さんが対面で受けようと1回言ってきた。俺は「いや、遠隔で受けようかと思っている。青山先生の授業は遠隔で受けられるから」と返す。


「ねぇ。私も一緒に遠隔で受けていい?」

輝奈子さんが一緒に受けたいと言ってきた。流石(さすが)に理由がわからない。でも、さっきアニキだと知っているから一緒に受けてもいいなと思ってはいる。胸が加速する。


「どうして?」

誰でも疑問に思うよね。でも、彼女がアニキだとするなら俺の部屋に遊びに来たいだけであると思う。


「視線をすごく感じるの。主に胸に。なんか足も見られている気がする」

確かに彼女の胸は大きいかもしれない。でも、違うことを俺は知っている。この話終わってから伝えよう。


「そうか。アニキなら知っていると思うが部屋汚いんだけど」

「いいよ。なんかあなたらしいし」

アニキだった。そして、ディスられた。ディスり方がアニキらしかった。


「あ、もしかして視線の原因ブラ(ひも)()けてるとかじゃないよね?」

輝奈子さんも気づいていたのかよ。なら直せよ。


「そのまさかだと思う。アニキ、ブラ(ひも)()けてる。肩から胸にかけて」

アニキの戸惑った反応はまるで「うそでしょ?そんなに()けないはず。後ろ見てないから知らないけど。あ、(ひも)厚かった?切れないためにワイヤー強めにされていたのかな」というニュアンスを含んでいた。


「上着ているからまだましだよね?どうしよう。恥ずかしい」

輝奈子さんの顔が赤く染まる。どうしよう。めっちゃ可愛い。アニキと分かったから昔と同じように接しよう。意識してしまうと調子が狂うから。


「アニキ、女になったとたんに可愛くなったな」


「そう?それはいいから、私を隠して。恥ずかしいから」

輝奈子さんの恥ずかしがっている顔もめちゃくちゃかわいい。意識しないって決めたはずなのに。


アニキに対するいじりのつもりで「はいよ。おんぶするか?」と言った。彼女は恥ずかしそうな顔のまま「それはいいかな。私を好きになってくれてもいいんだよ」と言った。

悪戯(いたずら)返しされた。彼女の小さなガォーが可愛かった。


本当に彼女が言ったことを額面通りに受け取ると告白だがアニキだからそうじゃないんじゃないかなと思い、冗談めかして「いいなら是非よろしくとか言いたくなるんだが。今までの人生いいことなかったが、今最高」と返す。


「私と出会ったことはよかったことじゃないの?」


「アニキと出会ったことと輝奈子(きなこ)さんに出会えたのは最高のことだから、いい事なんて安いものじゃない」

俺の言葉に輝奈子さんの顔がしゅわーっボンって一瞬で赤くなった。彼女の顔が真っ赤に染まっていくのがわかる。空までも赤く染められそうだ。


「よ、よかった。ありがとう。私も優斗(ゆうと)と出会えてよかった」

アニキがまた恥ずかしいこと言っている。でも、見た目のいい彼女が言うと恥ずかしい言葉でもよさそうな言葉に聞こえるから頭がぐるぐるしている。


そんなことを話しながら俺の家に向かう。冬に向かう寒空(さむぞら)が俺たちを(こご)えさせようとしている。アニキみたいなイルカのような超音波笑いが聞こえる。これアニキか?結局確信持てない。でもアニキっぽい。


「さっきからイルカみたいな声出してるけどどうした?」

輝奈子さんは「え、そんな声出ていたの?」みたいな顔をしている。


「え、そんな声出てた?昔の癖かな?」

輝奈子の発言に俺は怪訝(けげん)な顔をしている。アニキだとしか思えなくなってきた。そう思って「やっぱり、アニキだったのか?でも明らかに女の子しすぎだしな」と口にする。


「元からでしょ?」

確かに昔からアニキはイルカ笑いしていた。アニキってぶりっ子する癖がある。


「それにしてもだいぶぶりっ子してない?」

本人に聞くのも変だけどなんかだいぶぶりっ子している。でも、ビジュいいからそれなりに様になって少し「おい」と思う。


「そんなつもりはないよ。ただ、好きな人がいるの。知らないうちに恋してた」

そいつは俺の知らない奴だろうな。だって、本人の前では言えないだろうし。でも、それならなぜ俺の家に来ようとしているのだろう?気になって俺は聞く。


「そいつの知らない男の部屋に上がり込んで大丈夫なのか?」

もし、ほかの人なら恋した俺の心を(もてあそ)ぶのはやめてもらいたい。


優斗(ゆうと)は出会ってすぐの女の子に乱暴するようには思えないから」

彼女の言葉はどういう意味だろう。男友達として男にアピールする手伝いが欲しいのかもしれない。お互い黙ったまま時が過ぎる。


気付くともう俺の家の近くの公園まで来ていた。アニキがよく読んでいた小説に「見慣れた景色も背の高さ変わると違って見えるわ」というような展開がある。でも輝奈子さんの場合全然違わない同じ景色だと思う。だって身長変わっていないから。少し俺より背が小さい。でも、何も変わっていないはずの俺にとっても、通りなれたこの道が少し違って見えるのは冬の()んだ空気と太陽のせいだろうか。


それとも、二度目の恋?


沈黙に耐えられなくなって「ずっと黙っているけどどうした?悪いものでも食った?」と聞く。相変わらず変わらない。俺は初対面の女の子輝奈子(きなこ)としてのアニキではなく、俺の友人だった魔沙斗(まさと)としてのアニキとして接することにしよう。俺にとって、この接し方の方が距離は近くていいけど、少し胸が痛い。恋したはずないんだけどなぁ。


「悪いものは食べてないよ。ただ考え事してただけ」

アニキは悩んだ時俺に相談してくることが多い。なのになぜ今は「考え事」というのだろう。小説のネタだったらいいな。


「悩みなら聞くぞ。アニキは抱え込みやすいからな」

多くの男子ならこれは所謂(いわゆる)ワンチャンを期待していうことだと思うが、俺は違う。下心ではなく、額面(がくめん)(どお)り悩みを聞こうとしている。だって、悩んでいるやつを放ってはおけない。俺のこういうところが誤解されて彼女ができなかったのかもしれない。


「あ、うん。そうだなぁ。もし、内定取り消されちゃったら面倒見てくれたりする?お料理はできるし片付けも掃除も頑張るよ」

輝奈子にとって死活問題であろう。それとも仮定の話だろうか。わからなかった俺は、「いや、取り消されることはないんじゃないか?」と現実的な返しをしておく。


彼女は残念そうな顔をしながら「そうかもね。でも、可能性はゼロじゃないから。ちょっと不安」といった。


「まあ、アニキが困っているときは全力で助けてやる。今までも助けてもらってきたしな」

俺は今までのことに対しての本音で答える。昔から建前は苦手だ。輝奈子、早くいかないと授業が始まってしまうんだけど。でも、授業なんて頭に入らないかもしれない。だって俺も輝奈子さんを大好きだから。彼女がこっそり手を差し出してきた。俺は少し振り返って気づいた。でも決心を迷って、輝奈子の伸ばした手に触れることなく、彼女の前を歩く。


「待ってよ。いつも歩くの早いよ」

こけそうになりながら走る輝奈子を見て守りたいと思った。俺の家に着く頃には少し息が上がっていた。赤く染まった輝奈子の顔を見て俺は言った。「大丈夫か?取りあえず入るか。授業始まるしな」


「そうだね」

「恋したみたいな顔だね」とでも茶化したい気持ちはあった。でも輝奈子さんに失礼かもしれないと思ってやめておいた。知らない間に授業が終わった。内容が全然頭に入ってこなかった。


アニキが「カラオケでもいく?」と言って、俺が「それもいいけど、ゆっくりしたい。映画とか見る?」と返す。いつもの俺らの流れだ。


「いいね。お腹空いたからおにぎり食べるね」

輝奈子さんがおにぎりを両手で持って、小さな口でハムハムしている。めちゃくちゃ可愛い。少し上目遣いで俺の顔を見ながら食べている。可愛すぎて「あざとかわいい食べ方するなよ。アニキ」と茶化す。


「かわいいでしょ?」

輝奈子さんの「ふふん」と言いたげな、どや顔に「かわいいのは認める。ドギマギするからやめろよ。アニキを襲ってしまいそうになるから」と返す。むやみやたらにそんなことをしたら襲われるぞ。


でも、友達だと思っているからこうなる。俺をよく知っている魔沙斗(まさと)ならきっと理解できるだろう。輝奈子さんとアニキは同一人物だからきっとバレている。


「そうか。飯食ったけど。そっち飯あった?ないんだったら一緒に買いに行こうよ」

普段のアニキと同じ会話の仕方をしている。きっと、俺の性格を分かったうえで言っているのだろう。


俺は、まだを異性の子輝奈子というよりもアニキと慕う魔沙斗(まさと)が急に変わってしまうというトラブルに巻き込まれたと思っているから。それがバレているのだろう。


俺は「飯あるけど映画見るときポップコーンあるといいなと思うから買いに行こうか」という。それに輝奈子さんは嬉しそうに微笑んで「うん。もちろん一緒に行くよ。飲み物も買っておきたいし」と言う。


彼女の好きな人が俺だったらいいのにと少し期待してしまう。どうしたら、振り向いてくれるだろう。まだ、手を(つな)ぐには早そうだなっと思った。俺は、アニキが男だった時アニキと手の大きさを比べた時を思い出していた。あの時もアニキの手は小さかったなぁと思い出して、輝奈子さんの手の小ささを可愛らしくて守らなければと感じていた。小さいと言われていた俺の手よりも小さくてかわいらしかった。頭に悪い考えが浮かぶ。アニキにホラーを見せたい。そこで俺は聞く。「ホラーでも見る?」と。


心底怖がっているとわかるような声で「怖いんだけど。今日はやめとこうよ」という。俺はアニキがホラー苦手なのを知っている。だって、聞いたし。男だったころにだけど。俺はしぶしぶ我慢する。いつか一緒に見られる日を願って。


「わかった」

そうして、サスペンス映画を見る。銃撃戦をしたり、日本の有名メーカーの車があったりして。アニキは車が大好きだった。最近も親と車の練習をしていると聞いた。その矢先にこのトラブルがあったのだ。性転換というトラブルが。


輝奈子さんが帰ってから少し残っている香りが輝奈子さんのいたことを思い出させる。俺はどう思っているのだろう。輝奈子さんは俺をどう見ているのだろう。アニキに戻ってきてほしいという気持ちと、輝奈子さんの彼氏になれたならいいのにという心がせめぎ合ってよく眠れなかった。


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