輝奈子がいない日の中津浦優斗3
今日はレコーディングで輝奈子がいない。朝までここにいたのに。出かける前にキスをせがまれ、熱いキスを交わした。未だに彼女の熱が唇に残っている。
今日彼女は幼馴染の男の家に泊まるらしい。1人でホテルに行くのが怖いという理由で。怖いのはわかる。なら、オレを呼べよ。どうして、そんなに不安にさせるような事をするんだ。
帰って来て、泊まりに来るときは覚悟しろ。朝まで寝かせないぐらいやりまくってやろう。不安すぎて、TXTの無駄打ちがとまらない。
「大丈夫?」
「不安じゃないか?」
「俺が居るからな。忘れるなよ」
まだ、昼前だというのに不安すぎる。気晴らしにどこかに出かけるかと、散歩に出かける。空は忌々しいほど晴れ渡っていた。彼女は今ごろ東京の空でレコーディングしているころだろうか。
歩ける範囲で見えるものは全て輝奈子を思い返させた。気晴らしになんてならなかった。
もういっそ家に帰って、輝奈子のプリクラで数発無駄打ちするかと心に問いかける。答えはない。帰って映画でもみよう。こんな時はラブストーリーじゃなくて、アクションだよなぁ。
そう思ってえらんだのが、『All I want for christmas is you〜わかっていたはずの痛み〜』だった。何でコレなんだよ。ラブストーリーなんて見ないし、ましてや、失恋なんて観たくない。なのに、なぜ失恋の悲しみみたいなのを観ようとしてるのだろう。
共感したいのだろうか。あらすじ見ただけだからまだわからないしな。ただ1つわかっていることは、やっぱり輝奈子が好きということ。
あの髪、あの艶、あの唇、そして、やわらかい胸とぷにぷにの花園。全部可愛い。俺はそこまで強くないはずなのに、無駄打ちしたくてたまらなくなってきた。
寝ぼけ眼の輝奈子も可愛いし、肌もパジも、着ている服も、ジャスミン茶の香りもとんこつラーメンの後の匂いも可愛い。思い出せば思い出すほど寂しくなって、コーヒーを飲もうとする。そういえば輝奈子、コーヒー飲んだら寝てなぁ。
バカヤロー。思い出してしまう行動してどうする。寂しくなるだけだろうが。暇だな。家族にでも電話するか。出たのは、ばあちゃんだった。
「優斗か。珍しいねぇ。何かあったのかのう?)
ばあちゃんの声はいつも優しかった。問い詰めるようなこともない。その声の温もりが輝奈子の温もりと重なって少し涙が滲む。
「元気だと伝えてなかった気がするから。また、2月の初旬にそっち戻る。布団、2つぐらいあるだろ?」
「そうじゃのう。あったと思うぞ。輝奈子さんも連れてくるのかのう。優斗が幸せならなんでもええ。またの」
「まだ、伝えたいことが……。タオル……」
切れた電話を握りしめ、実家に輝奈子を連れて行こうと考える。さすがにしないだろ?タオルびしょびしょになるまで何十回もなんて。
そんなこんなしてたら昼を過ぎ、すぐ近くのラーメン屋に向かう。なんとなくしょっぱいものが食べたかった。
ラーメンはいつもより塩辛かった。おかしいだろ?同じ味のはずなのに。頬を伝う天露がスープの泉に流れ込んでいるようだった。
そういえば輝奈子もこのラーメン好きだったよな。まだ、死んでないし、アイツは死なないし、帰ってくるって知ってるのに、まだ離れて数時間しか経ってないのに、それでもやはりさみしくて。
傍から見ると変な人かもしれない。まるで恋焦がれたラーメンを食べているのかというほど大量の涙をながしながらラーメンを食べているのだから。
「ごちそうさまでした」
会計を終えて、店を出ようとした。普段より声が喉に詰まっている気がした。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
輝奈子の声が聞こえた気がした。それ起きるのって死んだ時だろ?まだ、生きてるだろ?
誤魔化しようがなかった。知らない間に輝奈子は俺の生活になっていた。お茶もコーヒーも沸かせるし、洗濯もできるのに、何故か生活が回っていない気がした。
辛くなってふと携帯を見る。まだ、何の返信もなかった。忙しいのだろう。
ふて寝でもするか。そういえば布団で寝るの久しぶりだな。いつもは輝奈子が布団で寝てたしなぁ。あ、ヤバい。また輝奈子を思い出してしまう。
「襲われてないか?」「心配だぞ?」「手、空いた時連絡くれよ」
また、TXTを無駄打ちする。しばらくいいや。そうだ、東畑に1人になった時何してるか聞こう。なんだったらゲームも一緒にして。
でも、本当に一緒にしたいのは……。
輝奈子だよなぁ。
飛行機1時間の距離なのに。今日見た忌々しい程の青空に浮かぶ飛行機を思い出して、輝奈子乗ってすぐに帰って来ないかな?と柄には……あるか。むしろらしいよな。ほぼ実質初恋だ。
「暇か?うちでゲームしない?」と東畑に送る。
「そうだな。あの時のホラーゲームでもするか?」
「やめとく。今、あれしたら泣く気がする」
「そうか。なら、行ってから決めるわ」
「おう」
東畑とするゲームは楽しかった。それなのになぜだろうか。満たされない。今までなら足りたはずだった。失った熱は二度と戻らないのだろうか。
輝奈子からの連絡は空が暗くなってからだった。昼休憩もなく撮り続けていたのだろうか。帰ってきたらガサガサの声を笑ってやろう。
「変な時間にごめんね。今収録終わったよ」
「そうか。お疲れ。飯作りながらになるけどいい?」
「いいよ。優斗の声聞きたかった。優斗が心配しているのと同じくらい私も心配だったんだよ」
「そうか。疑ってすまんかった。でも、これからは俺も連れて行って欲しい。心配だから」
「ごめんね。今度からは一緒に来ようね。どんなところでも。お風呂もトイレも」
「風呂はそうだな。銭湯は女湯に入るわけにはいかないし、トイレは違うだろ」
「そうだよね。優斗だったら何を見られても怖くないけどね」
「そうか」
ガサガサ声笑ってやろうと思ったのにいつもの綺麗な声だった。アイツの喉はおかしい。そして、アイツはズルい。
作った麻婆豆腐には大量のナスが入っていた。いつものルーティンで入れたけど、普段よりおいしくなかった。というより、前に輝奈子が一緒に作ってくれた麻婆豆腐&ナスがうますぎた。輝奈子がナスを頑張って食べてくれて、俺は照れたし、別のものまで口にぶち込みたくなったけど、あの時の麻婆豆腐に勝てるものなんてない気がする。どこの中華もチェーン店も輝奈子と作る麻婆豆腐には勝てないだろう。
輝奈子といけばチェーン店だって高級店と同じぐらいおいしく感じるから。元気な声聞けるのってこんなに嬉しいんだなぁ。そら、ばあちゃんもオヤジも声をかけてくれるよな。離れればどうしても心配になるものだから。
寝れない。
深夜3時丑三つ時。輝奈子からこの一文が送られてきた。
「人魂って蒼き焔かな?」と。
俺は返す。
「死ぬな。俺が困る。俺の闇を癒したお前が消えるのはちがうだろ?」と。




