土曜日
墜ちる空。
暮れなずむ紅の斜陽に我が身を重ね、訪れる闇夜に光を灯す。
刻一刻と変化する世情。
諸行無常の世の中で、人が願うは厭離穢土欣求浄土。
嘗て、かの家康公が旗印に用いた言葉。厭離穢土だけに江戸の国を治めるとは洒落が効いている。今の江戸は穢土になっていないだろうか。人が笑って暮らせているだろうか。
少なくとも、ここに1つ全てを手に入れ乍ら親の愛を傀儡にするための道具としか見なせなくなった魂がある。それが私である。
最近流行りの異世界物も、世知辛い世の中に飽き、異なる世界に救いを求めている。まるで、家康が掲げていた旗印が現代日本に刺さっているようだ。
家康が幕府を開いた江戸を中心に厭離穢土欣求浄土が現代日本に蔓延しているみたいだ。何を楽しみに人は生きるのだろうか。何を信じ、どこに向かうのだろうか。結局最後に向かうところは死と言う名の無に帰っていくのだろう。現世で何を残そうと数世紀経てばその当時の温度感では語ってもらえなくなってしまうのだ。
風化した塵芥にできることなど何もない。散った後に咲く花はきっと散る前とは違う華だろう。栄華を極めたところで空しいだけだ。だから、空に祈る。ただ、青くあれと。
「ふにゅ~。おぁよ」
まだ眠たいな。でも、優斗の部屋で目覚められてうれしいな。腰痛いし、肩痛いし、首も痛いけど。それでも優斗のそばにいられるのは幸せだ。帰りたくない。どうすればいいのだろう。一人暮らしは楽しそうだけど、ストーカーとか痴漢とかが怖くてできそうにない。でも、親と暮らし続けるのも苦痛だ。どうしよう。
「おはよう。体調大丈夫か?バイトもあるだろ?」
「うん。大丈夫ぅ〜。朝ご飯どうしようかな。お昼ぐらいには帰らないとバイトあるんだよなー。どうしようかな。ウチ来る?」
「何でだよ。俺もバイトあるんだが」
「そうだよね。でも、帰って寝てばかりとか言われたくないし、優斗といたい。でも、バイト用の服がいるんだよね。アイロン掛けてないし」
「それぐらいいいと思うぞ。どっか出かける?」
「うん。どっか美味しいモーニング行きたいな」
「そうか。2カ月前ぐらいに行ったモーニング覚えてる?あそこ行く?」
「いいね。久しぶりだね」
「そうだな。あれから色々変わったしな。体調も良さそうだな。良かった」
「ありがとう。優斗のおかげだよ」
にしても、家に帰るのが面倒くさい。さっき帰らないって決めたけど。正確には親に会いたくない。また、「彼氏連れてきたの?」とか「迷惑かけてないでしょうね?」とか詰めてくるのだろう。しかも、優斗の方にはいい顔をしながら。で、また「妹たちと比べてあなたは」とか「歌うまくないのに?」とか余計な事を言いまわるのだろう。「死ね」とは言わない。でも親とかかわりたくない。何のためにこんな苦行に耐えなければならないのか。
人の苦難に生老病死があるが、生きるのと老いるのは確かに苦難で病もそうだろう。死に関しては人によって救いなのではないだろうか。本当に人による。でも少なくとも私は「死にたい」と軽々しく言える人が羨ましい。重々しく真剣に「死にたい」と言わなきゃやっていられない人ではなく、ただただ失敗したとか黒歴史作ったとか日常会話の一環ぐらいの「死にたい」と言える人が。
その人なりに抱えているものはあるのかもしれない。でも、死ねない私よりは楽なのかなって思う。きっとそんなことはないとわかっているけど。私は死ねない理由がありすぎて、今親と会いたくないし、これからも関係が改善することはないという現状でさえ、死にたいとは言えない。正確には自殺の方法を何度も考えた。でも、高いところは怖いし、紐で括るのは苦しいし、切るのは痛いし、発見された時には綺麗な私で居たい。そう考えると、老衰が一番楽な死に方だと思う。病気の方が時間もあるし、大体どのくらい生きられるかわかるし、限界まで生きているから文句も言われない。
結局自然に死ぬのが一番楽だと思う。あと、私はコストを支払ってまで死にたいとは思えない。だって、紐は家にあるやつ使えば楽かもしれないけど、その後に使われる紐の気持ちを考えると「物として生まれただけの俺にそんな業を背負わせるなよ」と思うし、きっと死んだあとその紐は使われずに捨てられることになる。妹たちも何があったのか不審に思うだろうし、トラウマになるかもしれない。あと、自分で買うなら高い。高いアイスを買えるくらいのお金がかかる。準備もめんどい。だからめんどくさい。
高いところから飛び降りることも考えた。でも高いところって怖いし、人巻き込んだら申し訳ないし、死ぬために根回しをして、「このスペース開けておいてください」なんて言おうものなら間違いなくそこに安全策を取られて死ねないだろう。あと、その場所の気持ちを考えると「人のために建てられたのに人のエゴで俺の役割否定するなよ」となる気がする。あと、遠いのだ。自転車で30分かけていくのはめんどくさいし、ほかのところも総じて遠い。何かのついでに死ぬという選択肢もないことはないけど、たぶんそのついでのせいで死ねない。
今日は、そのままバイトに行こう。もう無理だ。疲れてしまった。だからそのまま行こう。アイロンあったかな?なかったら制服はジャンパーの方にしよう。もうボロボロなのだ。
そう思いながら優斗に「ごめん。帰りたくない。バイトの時一緒に出て、夜には家に帰るから一緒にいさせて、生きていることを嫌になりたくないから。もう死に方を考えるのは疲れたの。かといって親と生きるのも疲れちゃった。助けて」と抱き着く。
優斗は「何があった?大丈夫か?話聞くぞ」と物凄く心配そうな顔をしていた。私は「とりあえず、抱き締めて。あと、撫でて、褒めて。もう親と生きていたくない。でも、生活力なくて不安なの。優斗にもずっとお世話になりっぱなしだし。助けて」と溢れ出す感情の奔流に流される。
感情の奔流の支流が目尻から溢れ出す。朝っぱらから何をしているのだろう。どうしてこんなに壊れて来たのだろう。私は、他の人から見ると全てを手に入れてるように見えるだろう。悩む理由がないように見えるだろう。
消えてしまいたい。何のために生きているのだろうか。このままで良いのだろうか。このまま稼ぎ続けて何になるのだろう。お金を使う宛なんて将来の子供ぐらいしかないのに。
優斗は、何も言わず黙って、さめざめと泣いている私を抱き締めてくれていた。甘えてばかりだ。こんな私では、いけないのに。こんな私ではStrengthを名乗れない。だって強くないから。かつて強さを求めて付けたStrengthという名前も今となっては昔と今を縛り付ける楔になって苦しみの元凶になっている。
名前を変えて生きようか。ファンの人なら分かってくれるだろう。
「ねぇ、優斗。私って死ねるのかな?」と疑問を口にすると、「安心しろ。いつか人は死ぬ。どれだけ生きても死ぬから。終わりは来るから。生きているなら死ぬ」と私の欲しい言葉をくれた。あと、優斗の胸って安心する。どうしてだろう。大好きな人だからだろうなぁ。
優斗はどう思っているのだろう。「輝奈子は俺が守る」かな?それとも「こんなに泣くなんて弱くなったもんだなぁ」と笑い飛ばしているのかな。
どちらにしても今抱き締められてる、この体温は嘘じゃないと思う。私、これからどうなるのだろう。辛くなったら優斗のところに転がり込みたい。そうだ。歌を作ろう。
興味を持ってから編集できるようにと自分のパソコンに編集ソフトを入れているのだ。帰ってきてからしよう。とりあえずは腹を満たそう。
「ごめんね。取り乱して。ご飯行こっか。お腹すいたよね?」
「おう。辛かったら言えよ」
「うん。一辛にして幸せになろうかな。人生も甘めのほうが幸せだね」
「どういう意味?」
「辛いに1本足すと幸せになるでしょ?漢字」
「なるほどな」
そう話しながら握り締める優斗の手は温かい。人の手に使う表現じゃないけど、温暖だ。ぬくぬくと、ほっこり温まるような心と体に染み渡るような温かさがある。
今、心に冬が来てるけど、雪を溶かすような温もりが心を満たしていく。私の手も優斗にとってカイロのようになれてたらいいな。懐に入れる温もりのある炉、懐炉。
後で、優斗に触れてもらおう。懐炉にしちゃおう。優斗の手を懐炉にして寝よう。あとで、また着替え直せばいいし。
そんな事を考えて優斗と話してる間に着いた。この前来た時と同じメニューを食べる。やっぱり、ここのコーヒーは美味しいし、コスパがいい。飲むと眠たくなるけど、これでいい気がする。
「おいしいね」と私が微笑むと優斗は「おう」と微笑み返す。なんだか、この沈黙の間が心地良くて、沈黙に身を任せる。私は、どこに行きたいのだろう。何をしたいのだろう。
あー。優斗と、またシたくなってしまった。終わった翌日に盛るのは違うだろうよって言いたくなるけど、そんなものだろう。
さて、帰ろう。優斗の体温を感じながら帰る、この道もあと何度一緒に通る事ができるだろうか。そんな物思いに耽りながら歩く。
「寒いね」
「そうだな」
「帰ってなにする?」
「寝るとか?そっちは?」
「優斗と運動して温まりたい」
「そうか。タオル用意しないとな」
「そうだね。また、いっぱい出るのかな」
「あれ、片付け大変だから手伝えよ」
「うん。わかってる」
短い会話なのにどうしてこんなにわかり会えるのだろう。幸せだ。そんな事を考えながら歩き慣れた道を行く。楽しみすぎて長く感じる道を帰り、やっと優斗の家に着いた。ああ、楽しみだ。手洗いうがいして、タオルを準備する。改めて考えるとやっぱり変だよなぁ。なんで、タオル準備してこんなことしてるのだろうと本当に思ってしまう。
「ねぇ、優斗。今からできそう?」
「いけるぞ。そっちは?」
「大丈夫。楽しみだね。たまには違う体位でする?今日は腰痛くないし」
「そうか。そうは言うがどうやって?」
優斗の言葉に私は「例えば、こうやってやってみるのはどう?」と立ったまま服を脱ぎ、優斗のエクスカリバーを出す。優斗は「ちょっ、おま。早い。落ち着け」と焦っていた。だから、落ち着いてもらうために、そのまま優斗に抱き着く。私は「優斗、撫でて。あと、服脱がない?」と言いながら、自分から脱ぎ始める。
「お、おう。止まれないと思うけど、いいのか?」
「いいよ。だって優斗の体温感じたいから。あ、バイトの時腰痛くならないようにだけ、気を付けないんだよね。まぁ、いけるか。行けるだろう」
「いや、止まれよ。無理すんなよ。今日バイト行くんだろ?」
「大丈夫。むしろ、応援してほしいからシよ?」
「そうか」
そう言ってからは早かった。私が服を全て脱ぎ終えた時、優斗も脱ぎ終えていた。脱ぎ終えた瞬間、飛びつくように抱き着いて、キスをする。舌も入れてディープキスをする。どうしよう。本格的にムラムラしてきた。
優斗に包まれている気がして、なんか2人の体温が溶け合っていくような感じがして、心がポカポカする。この体温が優斗に伝わっていると思うとワクワクするし、優斗から伝わってくる体温が暖かくて凄く幸せ。やっぱり毛がチクチクする。お互いの汗でどんどん萎びていく毛の感触の変化も楽しめてしまう。
「ここをこんなに勃たせちゃって、エッチなんだからぁ」とエクスカリバーを握る。あー、太い。やっぱり、ここだけは他のところとは体温違うんだなぁ。なんて、今更白々しいことを考えていると、優斗に「輝奈子は自分の魅力わかって言っているのか?」とツッコミを入れられた。
「こうやってやるのも興奮するでしょ?」
「お前、わかって聞いてるんだろ?」
そういう優斗も笑って、私の花園に手を伸ばす。どうしよう。洪水みたいになってしまってる。私は「もちろん。だって優斗にずっと好きでいて欲しいから」と微笑で、エクスカリバーを花園に迎え入れる。これどうやって動くの?駅弁スタイルのほうがいいのかな?
「これどうやって動くの?」
「考えてなかったの?」
優斗の言葉に「うん。でも、せっかく優斗が立てっているし、こうしようかな」と答えながら優斗のエクスカリバーを口に咥える。たまには璧の下から舐めるのもありかも。そう思い、璧を舌でペロペロした。何とも言えない味がした。そしてエクスカリバーの刃と璧の間に舌を入れる。顔の近くにエクスカリバーの匂いが広がる。なんかムラムラしちゃって、エクスカリバーを加えて顔を前後させる。もしかしたら私の朝露の味も待っているかもしれない。たまには優斗に寝そべってもらおうかな。
「ねぇ、優斗。寝そべって。私、上に乗る」
「おう。了解」
そう言って優斗が寝そべったので私は上に乗る。体重がかかるからなのか、いつもより深く刺さっている気がする。せっかくなので上で動いてみることにした。段々リズムがあって来ると本当に気持ちがいい。どうしよう。達してしまいそう。せっかくなのでやってみよう。
「いぐ、いっちゃう♡にゃ~ん」
どうしよう。聖水が出てしまいそう。そういえばヤりたくなるの聖水が近くなるタイミングかもしれない。というより、快感で開かれやすいのかも。それより、優斗もかなりの量が出てる気がする。
「相変わらず、凄いな。のど乾かないの?」
「凄いのはどっちの方よ」と言いたくなるのを抑えながら「乾くよ。優斗も多いね」と返す。
「そうか?コーヒー飲む?」
「もらおうかな」
優斗は服を着ないまま、コーヒーを準備してきた。私も裸でコーヒーを飲む。美少女ってなんかエロいかも。こぼさないように気を付けないと。そういえば、キスしてないな。そう思って、飲み切ったコーヒーを机に置いてから優斗の唇に唇を重ね、舌で口を侵略する。優斗は驚きながらも応じてくれた。お股がどんどん濡れていくのを感じる。繋がっている感触に高ぶってしまって、優斗のエクスカリバーを左手で握って、右手で璧を愛撫する。あ、呼吸。
そう思って口を離すと「相変わらず長いし、急だわ」と返ってきた。そのままずっと愛撫を続けていると優斗が目を閉じた。その直後に白い液体が手にかかる。そのまま次は口で愛撫する。やっぱり、ちょっとしょっぱい気がする。
「ちょっ。もう出ないから。やめろ。立てなくなる」なんて焦っている優斗を見ながらも愛撫を続けているとまた凄い量が出た。私が口を開けて上目遣いで見せると「エロいからやめろ。どんだけやるんだよ」とツッコミが入った。
そのあとのことはご想像に任せよう。結構な回数した後、優斗に包まれながら、眠ったのかもしれない。だって、優斗との子供と一緒にどこかに出かけるような夢を見たんだもん。これが幸せな夢なのだろう。実際にそうなる日が来ることを祈っている。
目が覚めると3時ぐらいだった。準備しないとと思って普通に服を着ていることに驚いた。だって、優斗としたままだったはずだから、裸だったはずなのに。また、優斗に迷惑をかけてしまった。しかも、片付いているし。私は何をしているんだろう。
優斗は私が起きたのを見て、「おう、起きたか。飯、いるだろ?なかなか起きないから作ってみた」と美味しそうなご飯をくれた。やっぱり彼氏の作るご飯が一番うまい。さて、ご飯を食べて、着替えてバイトに向かう。
優斗のバイト先の前で「頑張って来るね」「おう。頑張れ」「優斗も」とディープキスをして向かう。ああ、幸せ。ちなみに早めに出て、私の自転車を大学に取りに行ってから来た。
「お疲れ様です。今日も幸せそうですね」
「お疲れ。幸せだよ。彼氏の手料理食べてきたんだもん」
「そうなんですね」
名古さんと簡単な会話をして、仕事を始める。相変わらず給料を上げてもらいたいぐらいの忙しさだった。しかも「ライブ最高でした」とか「ホラゲー実況またしてください」とか言われる割合が増えた気がする。もしかして、口コミでバレてる?いやだよ。
名古さんに「最近お客さん増えてない?」と聞くと「そうかもしれないですね。空いてるときほぼないですもんね・・・・・・」と後半聞き取る間もなくお客様が来た。
「いらっしゃいませ。カードはお持ちでしょうか」
「はい」
商品登録をしてお客様を会計機に案内する。結局、体感で400人ぐらい通してへとへとになった頃にバイトが終わり、家に着く。
「おかえり。変なことしてないでしょうね。婚前の娘が」
母親の言葉のせいで一瞬で機嫌が悪くなった。あんなに楽しい気分だったのに。もういい。知らない。都合の良い娘でないと行けないのね。
私は万全の笑顔を作った後「してないよ。お母さんが気に入らないなら、別れるけどね。今日はご飯要らない」と返して、風呂に入る。私は、もう親を許せなくなっていた。最悪の気分だ。どうやって死のうかな。
結婚式で親がスピーチ読む時に死のうかな、それとも今即別れて死のうかな。死ぬことしか考えられなくなってきた。こんな状態で生きていけるのだろうか。
虚しい笑みを浮かべて入る風呂は鉄の水に浸かっているようだった。硬く、生臭く、血に塗れたような死の香りがした。単純に気分が沈んでいるだけだけど。死の香りを芳しく感じるのは生の香りが空虚だからだろうか。
生物の終わりの季節、冬。
まだ、咲き始めにして散り行く運命なら、死の季節に相応しい。未熟な生命で綺麗な鮮血色の花を咲かすのも一興ではあるだろう。生きるも死ぬも苦の道ならば、陸奥の地へ参じ、伊達な花を咲かせるも、また一興。
藤次郎様のいらっしゃる仙台にいつか参上できるように、今は家庭の惨状に耐えるしかないのであろう。
立って耐える熊の出産なんて冗談が浮かんだけど、意味は解説しよう。
立つと耐えるは同じ英単語のstandを使う。耐えるとクマと出産するはbearという単語を使う。意味を繋げただけのジョークである。ちなみに「変なことしてないでしょうね」は母親が娘をコントロールしようとする時の常套句である。
お疲れ、私。
冬の常闇に光を添えて、眠る。おやすみ。