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中津浦優斗から見た輝奈子13

今日は金曜日。彼女は配信していた。でも、明らかに様子がおかしかった。だって、普段彼女は泣かないのに、「私って何のために生きてるんだろうね。こんな私に魅力なんてあるの?」と涙を流していたからだ。心配で「大丈夫?辛いなら話聞くぞ。それしかできんけど」と送る。輝奈子からは「会いたい。大学までは行くから抱き締めて」と送られてくる。明らかに彼女が弱っている。


俺は「そうか。飯も一緒に食べるだろ?」と送った。何をしてやればいいだろう。そういえば、一昨日色々したけど、もしソウイウコトが起きているなら俺は責任を取らなければとか、ただ、あの時はゴム着けていたように思うし、大丈夫だろうとか考えていた気がする。


輝奈子は大学に着くとすぐに髪を振り乱して「優斗、会いたかった。抱き締めて」と縋りつく。俺は「しょうがないな。体調大丈夫なのか?」と聞く。彼女は「大丈夫。愛の力だよ」と微笑んで力こぶを作る。相変わらずプニプニの腕だった。俺はうまく返せずに「そうか」とだけ返す。いつもは綺麗に結んでる髪も今日は落ち武者みたいになっている。昨日の体調、ひどかったのだろう。


と言うのも昨日、こんなことがあったからだ。


以下、回想。


そう言えば、昨日も輝奈子は体調を崩していた。見た瞬間に様子がおかしいことに気付いた。だから、輝奈子が握った俺の手を輝奈子の額に手を当てた。輝奈子の体はだいぶ熱かった。なんで来てしまったんだよ。辛いだろ。そんなに会いたいなら、俺が行ってやることだってできただろうに。本当に心配で「熱いな。待ってろ。飲み物でも買ってくるから。そのあとでいいから3限のテスト範囲先にもらって来たい」と言うと飛び出さんばかりに駆け出した。


とにかく昨日は気が気ではなかった。彼女は炭酸が好きだから、よく飲んでいたコークとサイダー、ミルクティーあたりを買って持っていく。だいぶ、ぐったりとしている。神様も意地悪なもんだ。彼女に試練ばかりを与えるなんて。彼女の望みの代償にしたってやりすぎている。俺は「悪い。遅くなった」と話しかける。


彼女は「優斗、大好き。ありがとう」と微笑もうとしていた。でも、熱の影響なのかうまく笑えていなかった。どれほどのストレスが彼女を襲ったのだろう。寄りにもよって、俺がバイトの日に体調を崩すなんてついてないにもほどがある。


俺は心配で「それより大丈夫か?最近体弱ってそうだけど」と返す。輝奈子は「大丈夫って言いたかった。でも体力ないし、もともと病弱なの。ほんとはこんな日に体調崩したくなかったんだよ。昨日も凄く楽しかった。バイトどうしよう」と申し訳なさそうな顔をしている。


「休めよ。どうしてそこまでして働こうとする?」

思ったことが口に出てしまった。輝奈子は「働いてないと落ち着かないとこもあるの。でも、バイトあると思うと心が辛くなって、あと、親との関係のストレスかも。それでもやっぱり頑張りたい」と言って体を預けてきた。これは早く寝かせた方がいい。


俺は「無理すんな。そんな体調で行けるわけないだろ?バイト先からしてもそんな体調で働かせたとなったらクレームになるかもしれないだろ。無理せず休め」と諭し、抱き締める。彼女はなぜか辛くなると抱き締めろと迫ってくる。だから、抱き締める。


輝奈子はバイト先に電話をかける。少し語尾がフワフワしてるけどまだ話せてはいる。輝奈子が「どうしよう」と言うので俺は「とりあえず、歩いて帰るのも辛いだろ?3限の資料貰って出てくるから10分だけ待って」と返す。本当は1秒でも離れたくない。こんな体調の彼女を放ってはおけないから。


資料をもらい、10分が過ぎたころ、彼女から「たぶん大丈夫だから、授業受けてからでいいよ」と来た。俺は「そうか。とにかくそこのジュースとかは自由に飲んでいいからできるだけ安静にしてろよ」と送る。俺は彼女の強さを信じていた。


授業は聞いていたが何も頭に残らなかった。大丈夫なわけがないと思って、俺は彼女の母親に「娘さんが体調崩してるから迎えに来て欲しいです。バイトには行くつもりあったみたいですが、休めと僕が言いました」と送る。


彼女の親からは「なんで、自分で送ってこないの?」と「了解。いつ行けばいい?」が送られてきた。俺は「14時45分です。お願いします」と送っておく。


授業が終わるとすぐに俺は「おう。大丈夫か?」と聞く。


「大丈夫ぅ~。お薬飲んだぁ。優斗バイトだよね?どうしよう」


明らかに語尾がふわふわしてるし、様子がおかしかった。咳はないけど熱と鼻水だろうか。だいぶ鼻声な気がする。俺は「勝手だと思ったけど親御さんに迎えに来てもらえるようにしておいた。15分ぐらいで着くらしい。病院も行けよ。何かわからんから」と心配する。


輝奈子は「ありがとう。どこか横になれるところない?熱がやばいの」と言っていた。大丈夫だろうか。いや大丈夫なはずはない。俺が「そうか。俺が負ぶっていくから、どこかわかるか?親御さんがラーメン屋のところにいるらしい」と言うと輝奈子は「コインランドリーわかる?あそこを左に曲がった先にある。本当にありがとう」とふわふわな声で言っていた。


輝奈子を負ぶって歩いていると周りから凄く見られたことを思い出した。しかも、「優斗、大好き。全部あなたのものだからね」とか「優斗、幸せ?私は幸せだよ」とかを囁くような声色で言ってくるのだ。流石に今日もそうなるとかないよな?でも、アイツもともと寂しがりなところあるしな。結局昨日はウィスパーを見た後、バイトに行った。もちろん、あの紺色の服を着て。


先輩は相変わらず察しがいい。昨日のバイトの時も「なにかあったか?彼女さんに」と話しかけてくれた。俺は「あ、はい。彼女が体調崩してまして。めちゃくちゃおでこが熱かったです」と返した。先輩は「そうなのか。もし、明日も体調崩してたら遠慮せず休め。失ってから価値に気付くのは私だけで十分さ」と気を遣ってくれた。その時の気遣いが嬉しくて、少しだけ涙がにじんだ。


回想終わり。


それにしても、親との生活に耐えられそうにないってなんだよ。何があったんだよ。しかも、幼い少女になったように髪を振り乱して、駆け寄ってきたのだ。どうしたらいいかわからなくてとりあえず抱き締める。できることなんてそれしかない。やっぱりジャスミン茶だった。


こんなにボロボロなのにどうして俺のために香水までつけてきてくれたんだろう。お風呂に入れなかったのだろうか。なんだとしても体調が回復してるなら、それでいい。


さて、それで今日は金曜日なわけだが、抱きついたまま立ち尽くしてる輝奈子に「飯行くんだろ?どこ行く?」と聞く。輝奈子は「今はゆっくり優斗の腕の中で寝たい。お腹は多少空いてるけど、おにぎりでいいかも」と返してきた。心配だ。第一に、そもそも1日で治るようなものではなさそうだったのにそれでも会いたいからと来てるのだ。


俺は「食欲ないのか?無理してない?」と心配するが、輝奈子は「大丈夫。多分お腹空いてないだけ」と返してきた。絶対そんなわけはない。でも、熱はないかも。つないだ手のぬくもりはいつも通りだったから。


でも、明らかに口数が少ない。きっと、その日が来たのだろう。俺は、それ前提で「大丈夫?いつもならもっとしゃべるだろ?」と聞く。輝奈子は「なんでだろ。今日、話題が全然思いつかないの。実は朝も配信してたんだけど、全然話せなくて、小説も全然思いつかないの。私の身体、何か起きてるのかな?」と不安そうな顔をしていた。


ご飯は結局、おかかのおにぎりと赤飯握りとジャスミン茶を買っていた。ふと輝奈子が「昔ながらの慣習を監修する観衆もいるかなって思っただけだ。あ、でも、異なる慣習を咎めることって『いかん臭』するよね。『いかん臭』ってなんやねん」と呟いていた。


俺は「今日もギャグ絶好調だな」と茶化す。輝奈子は「校長じゃないけどね。校長先生絶好調」と明らかに理性が緩んでいる。また輝奈子は「It's a piece of cake for me to make "親父ギャグ". 一欠片だけに」なんて呟いて「ふふっ」と笑っていたから俺は「どういうこと?」というツッコミを入れる。


「一欠片って英語にすると有名なアニメでしょ?で、朝飯前は英語で一欠片のケーキつまり a piece of cakeなの。わかったでしょ」


「なるほどな。いや、めっちゃ頭使う親父ギャグだな」

熱に浮かされて舵でも取っているのだろうか。今日こういう系の冗談多いけど。そのあと輝奈子は急に黙り込んで物凄く思いつめたような表情をしていた。だから、俺は「大丈夫か?思いつめたような表情してるけど。体調悪いなら無理すんな」と心配する。


輝奈子がふらついたから俺は彼女を支えながら「おい、大丈夫か?おーい。無理してないか?大丈夫か?何があった?」と聞くけど、輝奈子は「大丈夫。きっと、何とかなると思う」と聞こえるかギリギリの声で呟いていた。さらに、力が緩んでいた。貧血だろうか。


俺だけじゃわからないからと東畑に「平松さん連れて来てくれ。何が起きてるかわからんが輝奈子が大変だ」と送る。輝奈子を背負いながら、家に帰る。


「フライイング豚骨ラーメン。あれ?醤油ラーメンのはずなのに。レジ下回転するんですね?今日は横回転じゃなくていいんですか?」とうわごとのようにつぶやく輝奈子にどんな夢見てるんだ?と聞きたくなった。


「ファイアー下回転トルネードハリケーンタイフーン」

また、輝奈子の寝言だ。何それ?必殺技か?技の名前ださ。「んぁ」と輝奈子が言ったので「大丈夫か?だいぶうなされてるようだったけど」と心配する。輝奈子は「疲れてるのと、そういう日が来たのかも」と言う。なるほどな。それはそうかもな。早くないか?今月。


「そうか。とりあえず、うちでいいだろ?もうちょっとで着くから休め」


家に着いた。輝奈子はアラームをかけて「バイトどうしよう。こんな体調で行けるのかな?頭痛いし、お腹の調子もよくない。行けたとしても帰りに倒れる可能性もある」と呟いていた。


俺は「いや、無理せず休めよ。家に帰りにくいなら俺もバイト早めに上がるし」と言うが、輝奈子は「でも、それは悪いよ」と健気にも大丈夫なふりをしていた。でも、俺は知っている。絶対大丈夫じゃない。ふと、輝奈子がバイト先に電話をし始めて、休むことにしたらしい。


輝奈子は「ごめんね。もし、バイトの時間遅れそうだったら放置してくれていいから、ちょっと寝させて」と申し訳なさそうに頼んできた。 


俺は「おう。親御さんに迎えに来てもらわないのか?家のほうが寝やすかろ」と提案するが、輝奈子は「ごめんね。自分の家で寝てもいいんだけど、親にバラしたくないし、サボってるって言われたくないから。あ、でも、優斗に迷惑掛けちゃうかも。どうしよう。バイト先には休むって言っちゃったし」と悩んでいた。

 

俺は、輝奈子が親に言いにくい事情があるのかと思って「俺が伝えようか。無理することもなかろうに。俺もバイトあるし」と提案する。別に帰れと言ってるわけではなく、輝奈子をずっと見てられるかわからないし、親しか知らないこともあるかと思ったからこう言った。


それでも輝奈子は「うちの母さん、バイトサボるなって言いそうだし、体調崩しすぎてるし、寝すぎって怒られそうなんだもん。せめて、ちょっと優斗であったまりたい」と俺に抱きつく。


俺は相変わらず「お、おう。わかった」と言って布団を敷く。輝奈子は俺の下腹部に触れながら、「あったかい」と言って、落ちた。    


やっぱり疲れているのだろう。彼女が笑っていられるようにしたいと思うけど、どうしたら良いのだろう。俺は、輝奈子の父上と風呂に入った日を思い出していた。


男二人で入るには狭かったが、輝奈子の父上は二人きりで話すためにと誘ってきた。輝奈子の父上は未だに魔沙斗として扱ってしまうらしい。でも、女の子になったからには幸せになってほしいらしい。


輝奈子の父上に対して俺は「輝奈子は弱さを見せないから、察してあげてほしい」と言った気がするけど、難しいのだろう。俺だってわかるか微妙だしな。


ただ、輝奈子は俺と同じようなところがある。主に白黒思考で考えすぎて疲れてしまうところが。それでも、やはり、気付けないものもあると思う。


輝奈子が風呂に入ってる間にもご両親に「貴方で幸せにできるのか」とか「転職繰り返さないでしょうね」とか安定に関する不安をぶつけられた。


その時は「頑張ります。輝奈子さんが幸せに笑っていられるようにします」と結婚する覚悟まで決めた。


思い出した後、俺はこの重さも伝えておくべきだっただろうかと後悔した。彼女の両親は彼女が月のものでかなり苦しむことを知らない。動けなくなるレベルに重い事を伝えておけば良かった。

 

ふと輝奈子を見ると涙を流していた。何があったのだろうか。輝奈子が確かめようとしたのか目を開ける。


俺が「大丈夫か?明らかに様子おかしいぞ」と話しかけると「大丈夫。大丈夫だから」と涙を流す輝奈子。


「大丈夫じゃないだろ?何かあるなら言えよ」


「わからない。親に愛されたかった。でも、死にたくない。この肉体は好きだし、優斗といたいから」と返す。さすがに自分でもわかっているだろ?大丈夫じゃない。でも、大丈夫と言わないと親に何を言われるか分かったもんじゃないのだろうか。無理すんなよ。辛いだろ?


目を開けたついでに携帯を見る、輝奈子。母親から「中津浦君から体調崩したって聞いたわよ。中津浦君の迷惑になるでしょ?迎えに行くから早く準備しなさい」と来ていたらしい。輝奈子は「了解」と送り、準備をしようとする。


俺のことを気遣ってくれたことはわかった。でも、実の娘の体調の心配よりも俺の迷惑を考えるのかと悲しい気持ちになる。心配はしているのだろう。だか、現状がわかっでないからこうなるのだろう。


輝奈子は「優斗、親が迎えに来るらしいから、帰るね」と準備しようとしてるけど、様子を知ってる俺は「そんな調子で帰れるのか?」と返す。


「帰らなきゃ。優斗の迷惑にはなりたくないよ」


そう言って荷物を背負って立ち上がろうとした時にふらついた。しかも、鼻から鼻血が出てきていた。


「おい、鼻血出てるぞ。大丈夫か。そんな調子で帰せるかよ」


「えっ、嘘。でも、優斗バイトでしょ?」と輝奈子は焦ってる。このままで良いのだろうか?俺は男としてこれではいけないと思った。さすがに守らなければ。輝奈子は弱さを見せられない悲しい人だから。


俺は「おう。でも、まだ昼前だろ。何時間かある。シフトは何とかなるはずだ。さすがにこの状態では無理だ」とバイト先に電話を始めた。いつものバイトの先輩が出た。


「わかった。俺、バイト休むわ」と俺が電話をしようとすると輝奈子は「えっ、でも。大丈夫なの?シフトとか」と返す。


俺は「それより、今は自分の心配をしろ。きっと土日親といるんだろ。どうするんだ?」と返し、有無を言わせないように電話を掛ける。


「お疲れ様です。中津浦です。今日バイト休ませて頂けますか?」


「おう。彼女さんか?任せろ。こっちは私が回せる。伊達に長くやってるわけじゃない。かっこいい彼氏であれよ。休め」


「ありがとうございます。今度なんかおごります」

「いや、いらんよ。それより彼女さんとの楽しい話を聞かせてくれ」


相変わらず先輩は凄かった。絶対に彼女を守ろう。


俺はついでに輝奈子の親御さんに「俺が休んで、娘さんを預かります。少し混乱してるようで帰りたくないらしい」と送る。その上で平松さんと東畑が来るのを待つ。


「親御さんには、俺が休んで娘さんを預かります。少し混乱してるみたいですっと伝えておいたから安心しろ。何がそんなに追い詰めてるんだ?」と聞く。


輝奈子は涙声でしゃくり上げながら「今日、ホルモンバランスがおかしいの。多分、その日なの。もちろん。トイレで替えたから問題ないんだけど、血が出てた。だから、ちょっと貧血気味なの。ちょっと早い気がするんだけどね」と返す。


「1ヶ月前に買った鉄分のやつあるだろ。とりあえず、それでいいから食べろ。あと、オレではわからんことあるから東畑と平松さん呼んでるけど、よかったか?」


「あ、ありがとう。えっと、咲のTXTは、っと。あった」


見つけたのか輝奈子は何か送っていた。どうか彼女の心に平穏が訪れますように。返信は帰ってきたのだろうか。俺の方には「あと数分で着く。輝奈子さんの様子はどうだ?」と東畑から届いていた。俺は「相変わらず辛そう」と返しておく。


数分後、東畑と平松さんが着いたと連絡があり、迎えに行く。ウチに着くと「お待たせ」と言って輝奈子の様子を見ていた。東畑は俺に「どうした?何かあったのか?」と聞いて来た。俺は「親御さんのところに帰りにくいみたい。あと、だいぶ苦しんでる。さっきも鼻血出てたし、今日その日らしい」と返す。平松さんは「私はそこまでなったことないからわからないけど、とりあえず鉄分と十分な休息かなそのために話聞いた方がいいかも」と全体を振り返った後、輝奈子に「何があったが?」と聞いていた。俺にはよくわからないが、辛い日があることだけは知っているつもりだ。


輝奈子は「えっと、まず昨日体調を崩して、月のものが来て、不安なタイミングで就職のこと思い出して、本当にやりたいことを3年も我慢する必要があるのかどうかと優斗と同棲するかどうかが大きな問題かな」と返していた。1人で悩まずに俺に言えばいいだろ?いや、違うのか。彼女はアドラー心理学の自分の課題としてとらえているのだろう。


平松さんは「そっか。本当にやりたいことって何?」と真剣な面持ちだ。それに対し、輝奈子も真剣に「歌手と小説家かな。でも、親が介護推しだし、もう就職決まってるからやることは決めてるんだけど、活動休止をそんなにする必要があるのかなって」と返している。


輝奈子の発言に平松さんは「えっ、休止するの?この前週刊誌に記事が出て彼氏ができたって発表したんでしょ?なんで?」と驚いていた。俺は必要かわからんかったけど「平松さんはもう知ってたのか。まぁ、輝奈子は結構稼いでいるらしい。で、働かなくても生きていけるぐらい貯金もしているらしい。でも、親が介護推しだから介護するらしい。で、副業は難しいから休止するらしい」と補足する。


「そう。それで、これからも全部親に決められるんじゃないかって。これからどんどん要求が高くなっていくんじゃないかな。そのうち優斗との結婚も反対されるかもしれないし。どうしよう。こんなこと言いたくないし、そのつもりはないけど、死にたい」


輝奈子の言葉で明らかに空気が凍った。彼女は空気を凍らせる名人だけどこういった真剣な方での凍結は今回が初めてかもしれない。輝奈子は「ごめんね。たぶん気の迷いだとは思ってる。でも、今は辛い。起き上がれないから、優斗、鉄分のやつお願い」と俺の方を見る。


その表情も少し愁いを帯びている。しかも、開けようと頑張ってるけど力が入らないのか悪戦苦闘している。そんな彼女を見ていられなくて「大丈夫?やる?」と聞く。輝奈子は力なく「お願い」と手渡してきた。開けてやると、「ごめんね。ほんとは今日バイトだったのに休んでもらっちゃって。今度、猫耳とか犬耳でもつけようかな?コスプレの女の子好きでしょ?」と上目遣いで見つめてきた。


東畑が「おう。中津浦ってコスプレとか好きなの?」と聞いて来たので「えっと、コスプレも好きだけど、1番は輝奈子だな。声も可愛いし」と返してやる。輝奈子の少し照れたような赤い顔も白い肌に映えて綺麗だ。どんな服を着せてやろうか。いや、猫耳とか犬耳いいな。今度してもらおう。


押し黙った輝奈子が口を開いたと思うとまた爆弾を投げてきた。


「寝るまででいいの。手、握ってて欲しい。皆ありがとう」

「どんだけ疲れてんだよ。無理すんな」と言いたい気持ちを抑えて「おう」と答えると、東畑も「おう」と返していた。平松さんはやはり気が利くようで「大丈夫?薬とかピルとかある?」と輝奈子に聞いていた。さすが同性。


輝奈子は「うん。かばんに入れてる。どこかにあるはず。総出で来てもらってほんとにありがと」と頑張ってた。俺が「飲めそうか?」と聞くと、輝奈子は「うん、がんばる」と答えて起き上がろうとするけど、ちょっとふらふらだ。だいぶ辛そうに見えた。


輝奈子はそれでも頑張って「ごめん。見えない。優斗ならいつものやつ知ってるでしょ?この前飲んでたアレ」と話しかけてくる。想像はできないけどこんなに話せるような状態じゃなさそうなのによくやってるなと思う。



俺は輝奈子の手を放し「コップ取ってくるわ」と言い、輝奈子のカバンから薬を出し、コップに水を張った。東畑は平松さんがこういう状態になったときどうしているのだろうか。あとで聞いて見よう。


俺は急いで輝奈子の元に戻り、「お待たせ。持つの辛いだろ?口開けろ。いつもの薬だ」と言いながら、輝奈子の唇に薬をあて、そのまま水も飲ませる。薬を飲み込んだ後、輝奈子は「ありがとう」とふわふわに言って眠った。もともと彼女は体力がない。それにしても、今日のは重すぎる。


いつもは鼻血を併発してないから、今日は本当に貧血になっているかもしれない。俺は輝奈子の頭に濡れタオルをのせておく。気休めでしかないし、効果があるかわからない。それでも、なにかしてやりたくて「どう?少しはましか?」と聞く。返事はなかった。


東畑と平松さんは俺に質問攻めをしてきた。最初に口火を切ったのは平松さんだった。


「毎月あんな感じなが?」

俺は意図を掴みきれず、「何が?」と聞こうとして「あぁ、だいたいあんな感じだな。でも、今日は親御さんとのストレスもあったのか鼻血も出てたから更に貧血なのかもな」と返す。 


「そんなに苦しんぢゅうのに何もしよらんが?」

「抱き締めたり、俺なりの愛を伝えたりはしてる。親御さんへの説明もしたけど、改善されんらしい」


そこに東畑が「輝奈子さんって実家だっけ?」と聞いてきた。俺は「そう。だから距離置くのも大変らしい。で、直近の課題は土日に親と過ごすらしいからストレスが大変そうなことだな」と返す。


「どうしたらええがやろ。県外に行くとか一緒に住むとかできんが?」


「彼女がそれを良しとすればだが、輝奈子は真面目すぎるから、実家から通って仕事してから貯金を、さらにしてから同棲になりそう」


「そうか。大変なんだな。うちも離ればなれになるけど、両親にはあいさつしてるからなぁ」


東畑の言葉に「それは俺もした。結婚はするつもりだ。問題は親御さんがこの症状知らんと思うんよな。先月は俺も知らんけど」と返す。先月どうしてたか分からんが、無理をしてでもバイトに行ったのでは無いかと思う。


でも、あまりにも重そうだから、何とかしてやりたいと思った。さて、質問攻めを受け、輝奈子の様子を見ている間に気づくと3時近くになっていた。寝息はいつも通りで安定してるのに彼女の抱えてる物は重すぎる。また、神とでも夢の中で会話してるのだろうか。


変わってやれるものなら変わってやりたい。大丈夫かな。


そんな事を考えていると輝奈子が目覚めた。俺は「おう、起きたか。体調どうだ?」と輝奈子の横でゲームをしていた。めちゃくちゃ寝起きが可愛かった。何度見ても可愛い。



輝奈子は「うん。まだ、痛いけどちょっとましになった。咲も東畑君もありがとう。ごめんね、何時間も」と返してる。まだ、声がふわふわだ。


女性陣があの日の話をしてて気まずくて東畑と目を見合わせて「混ざりにくいよな」「それな」と繰り返す。


あまりにも気不味かったから「すまん。3時過ぎて腹減ってるだろ?輝奈子の分はさっき自分で買ってたの知ってるけど、男連中で買い物して来るからリクエストある?」と投げかけた。


平松さんは「どこ行くが?コンビニ行くやったらハムサンドこうてきちょいて」とリクエストしていた。輝奈子は「肉まん食べたい。お腹すいた」とリクエストする。


買物をしにコンビニに行きながら東畑に色々聞く。


「なぁ、彼女さんそんなに重くないって言ってたけど、アノ時どうしてる?」

「俺はできる家事を代行するぐらいかな。中津浦は大変だろ?あんなに寝たきりになるなんて」

「そうだな。でも、寝顔見ただろ?可愛すぎてずっと見てたくなるぞ」

「あー。あのレベルなら仕方ない。泣いてるの見たことあるのか?」

「ストーカーに触られた時に泣いてたな。鬼のような所業もして来るけど、可愛いからずっと笑っていられるようにしてやりたい。できるかわからんけど。そっちこそどうなん?」

「俺は泣かせてばかりかもしれん。だいたい、彼女のあの日の付近でケンカが起きるから」

「そうか」

「で、どこまで行ったんだ?キスは聞いたけど、その先は?」

コイツも気になるんだな。俺は「その、最後まで行った。輝奈子のライブの日に。その日は1回で寝たけどな」と返す。


「いやいや。ライブの後にやるとかどんだけ?ライブ何時間したんだっけ?」

「9時、から5時だな。いろいろして9時半ぐらいからした」

「よく許可したな、彼女さん。うちも超えたけど2カ月で行く範囲では無かったな。別れるとか言うなよ。俺が許さん」

「もちろんだ。でも、向こうが必要としなくなったら離れることも、……できないな。無理だ。添い遂げてやる。あんな可愛い彼女今後会えるはずもないからな」と俺は覚悟を決めている。


東畑は「だろうな。女優かと思ったぞ。初めて輝奈子さんになって登校して来たとき彼女振ってアプローチできんか考えようとしてたからな」なんて暴露をしてくる。


アイツが俺のこと好きで良かった。いや、こんなこと言ったら「好きなんて言葉で括らないで。大好きなんだから。離れないから覚悟しろ」とか言われるんだろうな。


「どうだったんだろうな。アイツの事だから、「別れるとか言わないほうがいいよ。女の子側のほうが傷深いんだからね」とか言いそう。アイツも彼女いたの知ってるだろ?それでも一線超える事なく4カ月続けてたらしいからな」

「凄いな」

「まぁ、でも俺の彼女になってからめちゃくちゃヤルようになった。もともと凄く強いらしい。毎回タオル常備してるんだが、これってあるあるか?」

「いや、うちの彼女とやる時あるけど、ないな。タオル常備はどれほどだよ。ちなみに最高何回?俺は3ぐらい」

「それは1桁のか?」

「そうに決まってるだろ?まさか2桁?」

「あー。死ぬかと思った。2人で15回ぐらいしてたと思う。次の日痛いからな。おかしいだろ」

「よく死な無かったな」

「それな。20歳超えて2年の俺と違って彼女25なのに体力鬼かよ」

「それな。まあでも10回以上してタオル何枚かなら普通かもな」

「何言ってるんだ?1回でもタオル5枚は要るぞ。めちゃくちゃエロい声出しながら凄いスプラッシュだぞ。掃除めちゃくちゃ大変。そっちは無いのか?」

「無いな。てか、だいぶ特殊だと思うぞ。神にでも愛されてるのか?」


東畑の言葉に「だろうな」と返すと「さぁ、女神様達がお待ちなんだろ。さっさと帰ろうぜ」と返ってきた。


この会話絶対アイツには聞かせられない。何言われるかわかったもんじゃない。さて、家に着くと輝奈子が「ありがとう。ゴメンね。肉まん」と飛び付いて来た。


俺は冷静に「待て」といって一呼吸置いたあと、東畑と咲に「すまんな。うちの彼女が」と礼を言う。俺の言葉に東畑は「いやいや。大変だろ。まだ、3回目とかか?話に聞く限りだと。オレも慣れるまでは何もできんかった」と返してきた。


ほんとに月に1回、こんな体調になるのに仕事できるのだろうか。あまりにも重すぎる。明らかにフィクションに近いが、これがリアルなのだから仕方ない。


輝奈子に肉まんを渡すと「はむっ」という擬音が丁度いい口の開け方で食べていた。かわいい。でも、「あっツァ。ふぅ〜」という声はどうなのだろう。もしかして、油断したところに熱さが突き刺さって口から出そうになった、わけではないよな?


「あと、これ。アニキ、ココア好きだろ」と俺はペットボトルのホットココアを手渡した。こんなやりとりがなんか、じんわりと幸せだ。てか、輝奈子熱いのだめじゃん。輝奈子は猫舌なので、肉まんの二の舞が起きるかもしれないと思った。実際起きた。


輝奈子は記憶から消したかもしれないが俺は見ていたぞ。「あっザッバッ」っと言いながら慌てて口から離すのを。


俺は「平松さんと東畑ってこの後予定ある?良かったらコーヒー飲む?」と聞いていた。2人とも「ありがとう」と言って飲んで帰ることにしたらしい。よかった。少しでも礼をしておきたかったのだ。


輝奈子は、おにぎりを食べ、ココアを飲み、肉まんを食べたあと、コーヒーを飲む。平松さんはカフェオレにしてたし、東畑はブラックで飲んでいた。輝奈子もブラックで飲んでいた。あ、これ、またあのパターンじゃないか。


飲みきったころ急に船を漕ぎだし、また眠りに落ちる。体質的にコーヒーだめかもしれない。でも、おいしくて好きなんだろうな。でも、また布団の中だよなぁ。幸せに満たされながら眠る輝奈子を眺めていた。


「えっ?なんで寝るの?睡眠薬?」と平松さんが聞いてきたので「いや、コーヒー飲むと高確率でこうなる。意図してしたわけじゃないけど、コーヒーは眠くなるらしい。ブルーライトも浴びながらの方が寝やすいらしいからな」と説明した。


東畑も「そうか。不思議な体質だな。酒は飲んだのか?」と疑問を投げつけて来たので、「飲んだけど、アイツのほうが酒強い。それは変わってなかった。でも、コーヒーで寝落ちは輝奈子になってからだな」と返す。


そういえば、俺も疑問に感じる事があったことを思い出した。


「2人って喧嘩する事あるらしいけど、何で喧嘩するんだ?」


俺の言葉に最速で「タオル覚えてないし、洗い物雑だし、やってほしいこと察してくれないし」と平松さんがぶん投げて来る。東畑は「察してくれと言われても、全てが分かるわけじゃないから無理だ。言葉で伝えてほしい」と返していた。  


なるほど。察する派か言葉で伝え合うかの違いなのか。あと、俺も部屋の掃除頑張ろう。


納得しながら「なるほどなー。うちの彼女は結構ちゃんと伝えてくれるタイプかも。だからケンカする理由がさっきまでわからんかった。なるほどな」と返すと2人同時に「それは特別幸せな事だから、噛み締めろ」と返ってきた。仲は良いのだろう。あー。うちの彼女ってなんでこんなに可愛いのだろうか。


話してる中でも規則正しい寝息を立てながら平和に眠ってる。2人は、この後、予定を立てているらしい。


「介助はこのぐらいで大丈夫か?」という東畑の言葉に「おう。ありがとう」と返すと2人仲良く帰って行った。さて、かわいい唇と寝顔と寝相を眺めながら横に寝そべろう。 


何度見てもかわいい。いつものやり返しも含めて、輝奈子の手を握る。おやすみ、マイスウィートエンジェル。いや、キモいな。  


「おやすみ、良い夢見ろよ。輝奈子」

そう呟くと空は夕焼けに染まっていた。俺も寝ようか。



闇夜に輝く桜の横で。










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