友達に看病される
「大丈夫か?だいぶうなされてるようだったけど」
これは夢だろうか。優斗が私を背負っているのは。判別できないふわふわの頭で「疲れてるのと、そういう日が来たのかも」と返す。優斗は「そうか。とりあえず、ウチでいいだろ?もうちょっとで着くから休め」と私に言ってくれた。どうしよう。やっぱり、優斗の背中に安心してしまう。
優斗の家に着いた。手を洗い、うがいをした後、アラームをかけた。寝落ちしそう。バイトどうしよう。こんな体調で行けるのかな。頭が痛いし、おなかの調子も良くない。行けたとしても帰りに倒れる可能性もある。
考えてたことが口に出てたようで、「いや、無理せず休めよ。家帰りにくいなら俺もバイト早めに上がるし」と言ってくれた。私は「でも、それは悪いよ」と言って大丈夫なふりをしたけど、全然だめだ。物凄くグラグラする。寝たい。けど、バイトどうしよう。寝たら楽になりそうだけど、優斗のバイトまでに起きれるかな。無理だったらどうしよう。明日もバイトあるし。
そう考えて、念の為、バイト先に電話をかける。
「お疲れ様です。レジの夜桜です。本日体調が悪いためおやすみさせて頂きたいですと浅井さんにお伝え頂けますか?」
「かしこまりました」
バイト先に電話は終わった。私は「ごめんね。もし、バイトの時間遅れそうだったら放置してくれていいから、ちょっと寝させて」と優斗に頼む。
優斗は「おう。親御さんに迎えに来てもらわないのか?家のほうが寝やすかろ」と言ってきたけど、私は「ごめんね。自分の家で寝てもいいんだけど、親にバラしたくないし、サボってると言われたくないから。あ、でも、優斗に迷惑掛けちゃうかも。どうしよう。バイト先には休むって言っちゃったし」と悩む。
優斗は「俺が伝えようか。無理することもなかろうに。俺もバイトあるし」とどちらかというと帰らせようとしてくる。でも、私は「うちの母さん、バイトサボるなって言いそうだし、体調崩しすぎてるし、寝すぎって怒られそうなんだもん。せめて、ちょっと優斗であったまりたい」と優斗に抱きつく。
優斗は相変わらず「お、おう。わかった」と言って布団を敷く。私は優斗の下腹部に触れながら、「あったかい」と言って闇に誘われた。
空にはソとラの音が繰り返し流れ、豚骨ラーメンが横に回っている。それが魔法使いに変身して縦に回転を始めて、こたつの電源で魔法を解除する。何の話?これ。朝もなんかよく似たこと起きた気がする。豚骨ラーメンを横に回すなっ。何やこれ。どこに向けた話やねん。
やっぱりわかってもらえない。きっと帰ったら何か言われるのだろう。もう嫌だ。死にたい。消えたい。どこでもないところへ行きたい。私はただ愛されたかった。
親に。
誰もわかってくれない。優斗はわかってくれるけど。あと、わからない時はわからないって言ってくれるし、わかったフリをしない。彼の言葉なら信じられる。どうすれば愛されたのだろう。何をしてれば愛されたのだろう。愛されたい人に愛されない辛さ。
少なくとも私には感じ取れない。頬を何かが伝った気がした。確かめようと少し目を開ける。
「大丈夫か?明らかに様子おかしいぞ」
「大丈夫。大丈夫だから」
「大丈夫じゃないだろ?何かあるなら言えよ」
「わからない。親に愛されたかった。でも、死にたくない。この肉体は好きだし、優斗といたいから」と返す。さすがに自分でもわかっている大丈夫じゃない。でも、大丈夫と言わないと親に何を言われるか分かったもんじゃない。
目を開けたついでに携帯を見る。母親から「中津浦君から体調崩したって聞いたわよ。中津浦君の迷惑になるでしょ?迎えに行くから早く準備しなさい」と来ていた。私は「了解」と送り、準備をしようとする。
頭では分かっていた。でも、実の娘の体調の心配よりも優斗の迷惑を考えるのかと悲しい気持ちになる。
「優斗、親が迎えに来るらしいから、帰るね」
「そんな調子で帰れるのか?」
「帰らなきゃ。優斗の迷惑にはなりたくないよ」
そう言って荷物を背負って立ち上がろうとした時にふらついた。しかも、鼻から何かが出てきていた。
「おい、鼻血出てるぞ。大丈夫か。そんな調子で帰せるかよ」
「えっ、嘘。でも、優斗バイトでしょ?」
「おう。でも、まだ昼前だろ。何時間かある。シフトは何とかなるはずだ。さすがにこの状態では無理だ」
鼻を伝う違和感はそれだったのか。マスクをしておいてよかった。でも、頭痛ひど過ぎるし、これは何だ?どうしたら良いんだろう。誰か助けてよ。もう、親と生きるのはしんどい。無理だ。誰か助けてよ。公的機関を探すのが妥当な範囲なんだろう。
そんなこと考えてたら「わかった。俺、バイト休むわ」と優斗が電話をしようとする。
私は「えっ、でも。大丈夫なの?シフトとか」と返すけど「それより、今は自分の心配をしろ。きっと土日親といるんだろ。どうするんだ?」と返ってきた。
優斗は有無を言わせないように電話を掛け始めていた。どうしよう。どうしたら良いだろう。こんな時でさえ使えない奴がこの先、生きてて良いのだろうか。優斗は「親御さんには、俺が休んで娘さんを預かります。少し混乱してるみたいですっと伝えておいたから安心しろ。何がそんなに追い詰めてるんだ?」と聞いてくれた。
私はしゃくり上げながら「今日、ホルモンバランスがおかしいの。多分、その日なの。もちろん。トイレで替えたから問題ないんだけど、血が出てた。だから、ちょっと貧血気味なの。ちょっと早い気がするんだけどね」と返す。
「1ヶ月前に買った鉄分のやつあるだろ。とりあえず、それでいいから食べろ。あと、オレではわからんことあるから東畑と平松さん呼んでるけど、よかったか?」
「あ、ありがとう。えっと、咲のTXTは、っと。あった」
見つけた私は「ありがとう。ごめんね。忙しくなかった?」っと送る。
咲からは「大丈夫。大変だよね。わかってあげられないかもしれないけど、女の子特有の方は何とかなりそう」と返ってきた。
それから、数分後「お待たせ」と言って東畑と咲が来た。東畑は「どうした?何かあったのか?」と優斗に聞いていた。優斗は「親御さんのところに帰りにくいみたい。あと、だいぶ苦しんでる。さっきも鼻血が出てたし、今日その日らしい」と返していた。
咲は「私はそこまでになったことないからわからないけど、とりあえず鉄分と充分な休息かな。そのためには話聞いたほうがいいかも」と言って、私に「どうしたが?なんかあったが?」と聞いてくれた。
私は「えっと、まず昨日体調崩して、月のものがきて、不安なタイミングで就職のこと思い出して、ほんとにやりたいことを3年も我慢する必要があるのかどうかと優斗と同棲するかどうかが大きな問題かな」と返す。話すのは辛くないけど、頭は痛い。
咲は「そっか。本当にやりたいことってなに?」と真剣な面持ちで聞いてきた。私は「歌手と小説家かな。でも、親が介護推しだし、もう就職決まってるからやることは決めてるんだけど、活動休止をそんなにする必要あるのかなって」と返す。
「えっ?休止するの?この前週刊誌に記事が出て、彼氏が出来たって発表したんでしょ?なんで?」と咲は不思議そうだ。
「平松さんはもう知ってたのか。まぁ、輝奈子は結構稼いでるらしい。で、働かなくても生きていけるぐらい貯金もしてるらしい。でも、親が推すから介護の仕事をするらしい。で、副業は難しいから休止するらしい」と優斗が補足する。
「そう。それで、これからも全部親に決められるんじゃないかって。これからどんどん要求が高くなっていくんじゃないかな。そのうち優斗との結婚も反対されるかもしれないし。どうしよう。こんな事言いたくないし、そのつもりはないけど、死にたい」
その言葉に皆が沈黙した。私は「ごめんね。多分、気の迷いだとは思ってる。でも、今はつらい。起き上がれないから、優斗、鉄分のヤツお願い」と優斗の方を見た。
で、流石に自分で開けようとしたんだけど、全く力が入らない。何があったの?何も固定できないし、うまくいかない。
「大丈夫?やる?」と優斗が聞いてくれたから、「お願い」と言うと開けてくれた。私は「ごめんね。ほんとは今日バイトだったのに休んでもらっちゃって。今度、猫耳とか犬耳でもつけようかな?コスプレの女の子好きでしょ?」っと優斗の方を見る。
東畑が「おう。中津浦ってコスプレ好きなの?」と優斗に聞くと優斗は「えっと、コスプレも好きだけど、1番は輝奈子だな。声もかわいいし」と返していた。なんかそんな反応に愛を感じて幸せな気持ちになった。
我ながら少しばかり表情が和らいだと思う。でも、痛いものは痛いし、つらいものはつらい。優斗の体温感じたいけどそれは後にしよう。でも、どうしても安心したくて優斗の手を握る。
「寝るまででいいの。手、握っててほしい。皆ありがとう」
優斗と東畑は「おう」と返し、咲は「大丈夫?症状わからないけど、薬とかピルとかある?」と聞いてきた。
私は「うん。カバンに入れてる。どこかにあるはず。総出で来てもらってほんとにありがと」と返す。
「飲めそうか?」と優斗が聞いてきたので、「うん。頑張る」と答え、起き上がろうとするけど、痛すぎるし、めまいが軽くある。
「ごめん。見えない。優斗ならいつものやつ知ってるでしょ?この前飲んでたアレ」と優斗に振る。優斗は「おう。コップ持ってくるわ」とコップを取りに行った。
握られていた手が離れたことがわかって少しだけまた不安になった。こんなにやわじゃないはずなのに。やっぱり気持ちは落ち込んでしまうんだなぁ。
「お待たせ。持つのきついだろ?口開けろ。いつもの薬だ」
優斗が帰ってきた。唇に薬の錠剤を当ててきたので口を開ける。そこに優斗が水も流し込んでくれた。私は飲み込んだ後「ありがとう」と言った事までは覚えてる。
なんか皆と手を繋いで地球を囲んでる夢を見た。服を脱がされて身体を拭かれる夢も見た。どこまでが現実かわからないけど、優斗が「どう?」と言った気がする。
でも、わからなくてもう少し休もうと目を閉じたままだった。神様が「どうだ?まだ死にたいか?それとも生き続けたいか?」と聞いてきた。私は「生きたいです。生き続けたいです。この身体のまま、年も取らないまま。ずっとこのまま」と返す。
神は「そうか。なら、そうしておこう。寿命を全うせよ、神の子よ」と満足そうに帰っていった。多分ジャパニーズ神様だろう。山の神とか夜桜の神様とかそんなものだろう。
目が覚めると、優斗が横にいた。他の皆はどうしたのだろう。寝ぼけ眼で周りを見る。何時間眠っていたのだろう。わからない。優斗はゲームしてるし。どうしたのだろう。近くに置いてあったから携帯を見てみた。
「起きたか。体調大丈夫か?」
こういう時1番に私を心配してくれるのが優斗の良いところだ。やっぱり分かってる。私は「うん。まだ、痛いけどちょっとましになった。咲も東畑君もありがとう。ごめんね、何時間も」と返す。まだ、声がふわふわだ。
時計は3時を差していた。
「それは大丈夫。けんど、毎月こうなが?」と咲に聞かれて「割とこれに近いかも。毎月。だいたい動けなくなる。朝は重くなくて来ることはできたんだけど、どんどん重くなってきて」と返す。
「そうながや。無理しちょう?」
「ほんなことはないと思う。女の子って皆こんな感じじゃないの?」
「うちはそんな重うないき。重い方やと思う。あと、忙しかったがやろ?無理せんでええがよ」
「わかっちゅう。けんど、私がやらな他にできる人おるが?って思うがよ。やき、頑張りすぎてしまうちや」
東畑と優斗は完全に混ざれない話題で空気になっていた。どうしよう。何か話題を振らないとと思うのに体調が思わしくない。明日には治るかもしれないけど、あまりにもつらい。
そんなこと考えてると咲が「そうながや。けんど、長生きせんと彼氏さんが悲しむき、無理せんほうがええよ」と返してきた。なんか皆の優しさに触れて心は落ち着いてきた。
私は思ったよりも傷付きやすいのかもしれない。それでも、強くありたいし、強くあらねばと思う。今までのものを全て超えられる強さを手に入れたい。
「すまん。3時過ぎて腹減ってるだろ?輝奈子の分はさっき自分で買ってたの知ってるけど、男連中で買い物して来るからリクエストある?」と優斗が投げかけていた。
咲は「どこ行くが?コンビニ行くやったらハムサンドこうてきちょいて」とリクエストしていた。私は「肉まん食べたい。お腹すいた」とリクエストする。
大集合で看病されている私ってダサいなぁ。昔から無理を通して道理をひっこませてる気がする。当たり前のように無理をしてる気がする。
男連中が買物に行ってる間、咲は「うち、ご飯食べたら帰ろうと思うちゅうき、お風呂とかいける?」と聞いてくれた。
私は「うん。もう、優斗には全部見られとうけん大丈夫。私って最低だね。自分の都合で彼氏にバイト休ませちゃったし、皆にも来てもらって」と落ち込む。
「そんな悩まんでええよ。心配やったき来たがやき。ウチも彼氏と久しぶりに一緒に共同作業できたき。ありがとう」
咲の言葉に私は救われた。男連中が戻ってきた。私は、「ありがとう。ゴメンね。肉まん」と話しかける。優斗は「待て」といって一呼吸置いたあと、東畑と咲に「すまんな。うちの彼女が」と礼を言う。
東畑は「いやいや。大変だろ。まだ、3回目とかか?話に聞く限りだと。オレも慣れるまでは何もできんかった」と返していた。
こんな調子で仕事できるのだろうか。そんなことを考えながら座ろうとする。幸い、座れるぐらいには回復した。そして、肉まんをかじる。
「あっツァ。ふぅ〜」と油断したところに熱さが突き刺さって口から出そうになった。
「あと、これ。アニキ、ココア好きだろ」と優斗はペットボトルのホットココアを手渡してくれた。なんか、じんわりと幸せだ。
「平松さんと東畑ってこの後予定ある?良かったらコーヒー飲む?」と聞いていた。2人とも「ありがとう」と言って飲んで帰ることにしたらしい。
おにぎりを食べ、ココアを飲み、肉まんを食べたあと、コーヒーを飲む。咲はカフェオレにしてたし、東畑はブラックで飲んでいた。私も1杯もらって飲んだ。
飲みきったころ急に眠気が来て、また眠りに落ちる。体質的にコーヒーだめかもしれない。でも、おいしいんだよなぁ。幸せに満たされながら眠る。
咲き始めた桜は、また、静かな宵闇へと沈む。
おやすみ、私。