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風邪

頭が痛い。親と同居のストレスだろうか。優斗といると落ち着くのに。なんて思う、木曜日になった。目覚めの瞬間から最悪の気分だ。


ほぼ休みなのに朝から親に起こされ、「そんなんじゃ、社会で生きていけないわよ」なんて言われた。そもそも社会で生きる必要もないぐらい稼いでいる。知らないのは親だけなのに。


死にたい。消えたい。ファンに殺された人がうらやましく思えるほどに心が壊れていく。誰も信じられなくなってきた。優斗以外は。特に両親だけが信じられなくなる。利用の価値があるから生かされているだけに思えてしまう。そんないい子でいることに疲れて、何度も死ぬことを考えた。でも、社会への影響とか妹への影響とか考えると死ねなくて、不謹慎だけど、死ねる人がうらやましく思えた。


彼氏も金も手に入れた。なんなら、名声も。しかも好きなことをしただけなのに。それでも、親からの寵愛だけは感じられなかった。愛されるってなんだろう。消えたい。就職しなくちゃ。


11月の内定式は嬉しかった。しかも楽しかった。きっとこれが私の人生だと思えた事にした。物凄く楽しかったと何度も親に語った。本当は将来への絶望と入った後の辛さをまざまざと知ることになったけど、そんなことは言わない。言ったら殺されるから。


きっと親は私を殺したいはずだ。いつか毒を盛られるかもしれない。いや、逆か。健康に生きさせることで長く奴隷として使えるようにしてるのだろう。なら、死にたい。死んだら楽になれるのだろうか。そんな思考が私を魅力的な死へと誘う。誰か助けてほしい。そんなことを考えているとやっぱり頭が痛い。でも、バイトに行かないといけないと考えてしまう私って真面目かもしれない。


そんな思考をしながら大学に向かうと健翔がいた。いっそボロボロになるまで犯されようかしら。でも、触れられるのさえ嫌だから、優斗に「助けて」と送る。本当は優斗に会いたいから来てしまったというのもある。迷惑かけそうなのにどうして来てしまったのだろう。


「めちゃくちゃ疲れてそうですね。何かしますか?」

健翔の言葉に、「疲れてないわ。大丈夫。彼氏が助けてくれるから」とは言うものの、憔悴しきった私の顔には汗が混じっていた。何があったのだろう。ただバイトに行くだけなのに。昨日のアレでつわりが来たなんてことはないだろうし。普段とは周期が違うことになってしまう。昨日はそんなに体調悪くなかったのに。


「辛そうですね。肩でも揉みましょうか?」と健翔が気遣っている素振りをする。本質を知っている私はそんなことはさせない。


「大丈夫」といって離れようとする。そんなやり取りをしていると優斗が来た。私は優斗に駆け寄り「助けて。もう親との生活に耐えられそうにない」とこぼす。髪を振り乱して、駆け寄る姿は皮肉にも親を見つけた幼子のようだった。


健翔はすっとどこかに向かっていった。私、どうしてこんなに弱くなっているんだろう。いつもなら、もっと強くあれるはずなのに。優斗はただ黙って私を抱き締めてくれていた。なんだろう。この微妙に生乾きの匂いだと思うのに、それが心地よくて、私の香水の匂いも感じていて欲しいなんて妄想が捗るのは。


最近知ったけどジャスミンって1番セクシーな香りらしい。そんなことは全く気にもせずジャスミン茶が好きだからこれにしただけなんだけど。きっと偶然に満ちているのだろう。


なんか、ぽやぽやする。今日だいぶ疲れているのかな。そう思って優斗に「ねえ、優斗。3限の後バイトまで暇?3限の後でいいから優斗の腕の中で眠りたい」と提案する。


優斗は「おう。それはいいけど、熱ないか?明らかに様子がおかしい気がするけど」と返してきた。さすがによく見ている。どうしよう。体温計なんて持ってないし。あ、基礎体温計ならあるかも。でも、優斗の手で測ってほしくて、優斗の手を額に当てる。


「熱いな。待ってろ。飲み物でも買ってくるから。その後で良いから、3限のテスト範囲先にもらってきたい」と駆け出していく。


この間に健翔が来ないことだけを祈っていた。今日は咲も佳奈も居ない。東畑も多分受けてない。そもそも今日私大学に用事ないし。ただ、バイトに行きやすくて、優斗に会えるから来てるのだ。でも今日は体調が思わしくない。でも親には弱さを見せたくなくて、バイトの方に来てしまった。


「悪い。遅くなった」

無限にも思える沈黙の中、優斗が帰ってきた。私は高熱に浮かされた頭で「優斗、大好き。ありがとう」と返す。


こんな大事な時に、しかも優斗がバイトの日に体調を崩してしまうなんてついていない。頭痛いし、腰も肩も痛い上に物凄く眠たい。


「それより、大丈夫か?最近体弱ってそうだけど」

「大丈夫っていいたかった。でも、体力ないし、もともと病弱なの。ほんとはこんな日に体調崩したく無かったんだよ。昨日もとても愉しかった。バイトどうしよう」

「休めよ。どうして、そこまでして働こうとする?」

「働いてないと落ち着かないとこもあるの。でも、バイトがあると思うと心が辛くなって、あと、親との関係のストレスかも。それでも、やっぱり頑張りたい」

そう言って私は優斗に体を預ける。優斗は「無理すんな。そんな体調で行けるわけないだろ?バイト先からしてもそんな体調で働かせたとなったらクレームになるかもしれないだろ。無理せず休め」と私を抱き締める。優斗の言葉に覚悟を決め「ごめんね。今、電話する」と言ってバイト先に電話をかける。


「お疲れ様です。レジの夜桜輝奈子です。レジの浅井さんはいらっしゃいますか?」

「すみません。席を外しております」

「では、伝言をお願いいたします。本日熱が高く体調が思わしくないためお休みさせていただきます」

「かしこまりました。伝えておきますね」


バイト先への電話が終わった。私が「どうしよう」と言うと、「とりあえず、歩いて帰るのも辛いだろ?3限の資料貰って出てくるから、10分だけ待って」と言われた。そういえば、もうそんな時間か。私、昼の忙しい時間にこんな電話をしてしまうなんてダメだなぁ。


本当にいろんな人に迷惑をかけてしまった。私はいつも無理をしてしまう。ああ、どうしよう。そんなことが頭の中をグルグルと回る中、無限にも思える10分が過ぎた。私は、「たぶん大丈夫だから、授業受けてからでいいよ」と送る。優斗は「そうか。とにかくそこのジュースとかは自由に飲んでいいから、出来るだけ安静にしてろよ」と返してくる。


机に突っ伏して寝そうになっていた。何とか貴重品とかの意識は保っていたけどだいぶ頭が痛い。女子トイレに入り、月の頭痛が激しいときに呑む薬を飲む。そのまま、また机に戻り、Wetubeを流しながら、突っ伏す。少しだけましになってきた。


そんなことをしているうちに授業が終わり優斗は「おう。大丈夫か?」と言ってきた。私は回らない頭で「大丈夫ぅ~。お薬飲んだぁ。優斗バイトだよね?どうしよう」と返す。どうしよう。何も思いつかない。優斗は「勝手だと思ったけど、親御さんに迎えに来てもらえるようにしておいた。15分ぐらいで着くらしい。病院も行けよ。何かわからんから」と心配してくれた。


「ありがとう。どこか横になれるところない?熱がやばいの」

「そうか。俺が負ぶっていくから、どこかわかるか?親御さんがラーメン屋のところにいるらしい」

「コインランドリーわかる?あそこを左に曲がった先にある。本当にありがとう」


優斗に負ぶわれて、向かう。優斗の背中って大きいし、落ち着くなぁ。どうしよう。眠たくなってきた。まだ、3分と経ってないはずなのに。物凄く安心する。


「優斗、大好き、だよ」

そう言った瞬間意識が途切れた。次に目覚めた時には家に着いていた。私は家に入り、寝る。優斗の背中を思い出して温かい気持ちになる。起きると少しだけ体調が回復していた。ベッドの上でスマホを開き、ウィスパーを見る。流用していた#strengthを検索してみる。


豚骨ラーメン食べた#strengthのリプライには『これは告白間近か?』とか『頑張れ、応援してるぞ』とかのラブストーリーの王道となってしまったが故の弊害が起きていた。ちなみに『キスするのか?』なんてリプライもあった。何でだよ。でも、社会に生きた証が残っている気がして嬉しくて、『がんばれ』とリプライする。


次に目についたのが、ライブのリアル輝奈子さん可愛すぎる#strength#きなこもち#きなこアートだった。凄い、この人ガチのファンだな。本人が忘れかけている最近決めたファンネームタグ使ってる。しかも、最近のライブの「Sing in the quiet snow」の衣装を着た私の絵を描いていた。物凄く特徴を捕えていた。ただ1つ気になったのがマイクの位置だ。何を歌っているかわからないが肩が後ろに伸びているし、マイクの方に振り返るようになっているし、伸ばした腕の先端にマイクがあった。


確かにやったかもしれないけど、そこは恥ずかしいから捕えなくていい特徴だと思う。どうしてそこ捕えちゃったの?と思いながら、リプ欄を見る。

『マイク、リアルでこれで草』

『さすがに誇張だろ』

『アーカイブ見たけど動きがやばすぎて草』

『お前も輝奈子推しにならないか』

『ちなみにこのレベルの美少女が豚骨ラーメンキスを流行らせました』

『頭バグってきたのでバイト休もうかな』

最後のリプに『バイトは行ってね。理由笑われるよ』と返しておく。リプ欄に現れた私に衝撃を受けたのか『ご本人登場で草』とか『いつも見てます。ありがとうございます』が溢れていた。少し気分がいい。せっかくだからR18のイラストも見てみようと思ってみていた。


リクエストした巨根の少年が描かれていた。どうしよう。ムラムラしてきた。でも、時間が時間だから優斗には話を振れない。今日は優斗がバイトだから「大丈夫か?辛くないか?」と聞いてくれることもないかもしれない。それでも本当にいい彼氏だと思う。どうして私はこんなに体調を崩してしまうのだろう。


自分の彼女が体調崩してるのにバイトする気持ちはどれほどのものだろう。優斗の優しさから推察すると気が気ではないだろう。この前は一緒に過ごしてもらえたけど、さすがに何度も休んでもらうわけにはいかない。私もバイト休みすぎかもしれない。多分、私の体は心の影響が物凄く出やすくなっているのだろう。そんなことをバイト先に説明できるだろうか。


説明できるわけないなぁ。昨日も会ってほぼ毎日会っているのにどうしてこんなに寂しいのかな。考えながら、部屋の隅に置いていた紺色のTシャツを見て物思いに耽る。これからどうなっていくのだろう。働いて、お金を手に入れて、また働いて。この前、収入の話を一瞬だけしたけど、わかってもらえないと思うし、利用される未来しか見えない。母上は納得していたけど、結局信じきれなくて、介護の方で生きていくことにした。


本当は歌手として頑張りたいけど、3年ぐらい働いてから歌手に戻るしかないと思う。副業可能なのか調べて見てから最終の決断になると思う。さて、実は2月14日のバレンタインにCDの発売が決定している。告知は2週間前から可能らしい。で、テスト科目がほとんどないため、テスト受けてその週に写真撮影と音源の再収録を行うらしい。


熱が出てから何時間経っただろう。そんなことを考えていたら母上が「ごはん、置いとくからね」と部屋の前に置いてくれたので、「ありがとう」と言って受け取り、食べる。今日はわかめうどんだった。熱を測ると37度で、いまだに少しだけ体が重い。もしかしたら、寝てるかもしれないから優斗に「バイトお疲れ様」と送っておく。今日はお風呂に入れない気がする。


そういえば、#きなこもち見てない気がするから見てみよう。


きなこ牛乳美味かった#きなこもち

『まさかの本家きなこもちだった』

『輝奈子さんではないかもしれない』

『きな粉餅うまいよな』

これは「どうしてそうなった」とツッコミを入れるべきだろうか。いや、入れなくていいな。これは私の話ではないだろうから。さて、ほかにはどんなのがあるのかな。スクロールしていくと1つのウィスパーが目に飛び込んできた。


ライブの振り返り配信してほしい。輝奈子さんのライブ最高だったから本人のリアクション欲しい#きなこもち

『それな』

『伝説のライブSing in the quiet snow』

『のっけから出てきた「寒いよねー」が忘れられない』


私は「体調が回復し次第しようと思います。体調を崩した今皆様の作品を見せていただいたり、ウィスパーに出没したりしています。今見ているのは#きなこもちです」と返信しておく。リプ欄が大盛り上がりして、『お大事に』とか『病弱なのは本当だったのか』とか『楽しみにしています。早く元気になってください』という声が溢れていた。本当に嬉しいものだ。


さて、体調を戻すためにさっさと寝よう。本日はお疲れ様、私。

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