プリクラ
さて、昼ご飯を食べる間もなく駅前に向かって歩き出す。優斗は「アニキって写真好きだったっけ?」と私に問いかける。私は「好きではなかったけど、女の子になったらプリクラ撮れること思い出したから。優斗との思い出も残しておきたいし」と微笑む。
「そうか」相変わらず淡白な表情だし返事も淡白だけど、感情表現が下手なだけだと私は知っている。今日はおしゃれしてきたからとびっきり綺麗に盛ろうと思う。今日はかわいらしいピンクのロングスカートにピンクのTシャツ、白のカーディガンを着ている。いわゆる飛び切りガーリーな女の子スタイル。ちょっと寒いけどファッションは時に我慢も必要だしね。あの19世紀?あ、18世紀だね。たしか、家斉と同じ時代だし。日本では寛政の改革をしてた頃だ。で、その時代のフランスのマリーちゃんもコルセットして締め付けて痛かっただろうし、十二単も重いと思う。
そういえば、優斗に可愛いって言われてない気がする。今日の服、好みじゃなかったのかな?そんな不安が押し寄せてきたので優斗に「ねぇ、この格好どう?」と聞くと、「寒くないか?」と返ってきた。心配してくれるのはありがたい。でも、可愛いと思ってもらいたくて、頬を膨らませる。久しぶりにメイクを頑張って、こんな格好をしたのにどうしてそうなるのだろう。
いやまぁ、可愛いと思ってるけど言いにくいことがあるのは知ってるけどね。踏み込みすぎると変態と言われるから言いにくいとか、傷つけたくないから言わないとかあると思うけど、好みの異性には本音を聞かせてもらいたいと思ってしまう。これは、私が女の子だからとか、特別だからとか関係なく、ただただ優斗の好みになりたいから思うことだ。
それを全部含んで「ちょっと寒いから、くっ付いていい?」と言いながら、優斗の腕を胸に挟む。これでかわいいと言ってもらえるかな?努力って報われないものなのかな。ただ、今日私が頑張ったことを褒めてもらいたいと思って何が悪いのかな。鈍感なのは仕方ない。それはわかっている。そもそもその鈍感さに惹かれて優斗を選んだのだと思うから。だけど、やっぱり化粧の違いとか、可愛くなるために選んだ服とか褒めてほしい。
優斗が自分自身のファッションセンスに自信がないのはわかってる。でも、それでも、私のセンスを認めてほしい。優斗は「おう。寒いなら無理してそんな恰好しなくてもよかったんじゃないか?」と返してきた。
少しだけ腹が立って「違うの。わかってよ。鈍感なのはわかってる。だけど、褒めてよ。私は優斗の理想になりたいの。優斗が好きな格好をして、優斗が喜んでるのを見たいの。だから、努力を認めてほしいの。優斗の服も最近おしゃれになったよね?きっと、私がいない時にファッション誌を読んだり、ファッションの動画見たりしたでしょ?似合っているかはわからないけど、かっこいいもん。私も褒めて」と縋りつく。途中から物凄く涙声になった。やばいメイクが崩れそう。
優斗は「ごめんよ。俺は自分に自信持てないから、やっぱり言いにくい。でも、女神みたいにキレイだ。いつもありがとう。今まで、どこか頑張って諦めようとしてたんだと思う。心のどこかで、まだ、もともとは男だったしと。でも、もう無理だ。可愛すぎるし、エロすぎるし、理想のタイプなんて超えてしまって、女神さまに会った気がした。もう止まらないから、帰ってからは覚悟しろ」と返してきた。
そうか。そういうことだったのか。男女の関係になってもまだ、結婚とかの明白な答えが返って来なかったのはそういうことだったのか。やはり、諦めるための方便としても彼の自尊感情の低さは作用していたのだろう。左様か。
きっと父上が余計なことを言ったのだろう。私は「父上が何言ったか知らないけど、私はあなたと結婚したいし、するし、子供も10人でも生んで育てて見せるから、そのための収入もあるから。だから、結婚しよ?そのための記念として今日はプリクラ撮ろ」と上目づかいで涙声になりながら縋りつく。
「そうだな。俺も覚悟決めるわ。何度も覚悟を決めていたはずだけど、いまいち自信がなかったから揺らいでた。でも、もう我慢も自重もやめるわ。もう、アニキとしてではなく輝奈子として接していいんだよな?自慢しまくってやる」
「良いよ。私も今は完全に気持ちまで女の子になっているから。帰ったらまたやる?」
「いいなら。にしても強いな。帰って掃除してバイトかー。大丈夫だろうか」
優斗が遠い目をしていた。
「ぐうぅぅううう」空気を読まない私のお腹が鳴った。まさかこんなタイミングでお腹が鳴っちゃうなんて。恥ずかしい。
「そういえば、腹減ったなぁ。ごはんどうする?」と優斗が話しかけてきた。私は「昔、行ったラーメン屋行きたい。あそこのラーメン美味しいでしょ?」と返しておく。しかもプリクラは駅にあるしちょうどいい。優斗は「そうだな。俺は徳島ラーメンの大盛で生卵にするわ」と早くもメニューを決めていた。私は店の前に着いてから「私は普通の徳島ラーメンの生卵にしようかな」と答える。優斗は「チャーハンも頼むか?食べるだろ?」とチャーハンも頼んでいた。
久しぶりに食べるラーメンは美味しくてほっぺが落ちそうだった。優斗もめちゃくちゃ美味しそうに食べてて心が満たされていく。私が「美味しいね」と微笑むと優斗も「おう、美味いな」と笑ってくれた。なんだか、こんな時間が嬉しくて何とも言えない幸福感に満たされる。
チャーハンも美味しいし、ラーメンも美味しかった。ご飯を食べ終えてお会計をした後、私は優斗に「じゃ、行こうか」と話しかける。優斗は「そうだな。どれで撮るとか決めているのか?」と少しだけ興味が出てきたようだ。私は「ううん。決めてない。その場のノリで決めようかなって」と微笑む。
「そうか。昔、写真苦手って言ってなかったか?」
「苦手だったんだけど、優斗も私も写真撮らないじゃん。でも、思い出を形に残せないのは悲しい気がするから。咲とかも写真撮るらしいし」
「そうか。確かに俺もアニキも写真撮らないもんな」
「そうだね。初めてのツーショットだね」
「そうだな」
相変わらず優斗の反応は淡白だけど、きっと喜んでくれていると信じている。一線越えてるのに、未だにこんなに初々しい反応をしてしまっているのはどうなのだろう。そこが可愛いから付き合っているところもあるんだけど。
プリクラが撮れるところに着いた。優斗が「どれで撮るんだ?」と聞いてきたので、「とりあえず、右かな」と返す。
「了解」
久しぶりに入るプリクラはキラキラで眩しくて、しかも大好きな異性と2人きりの密室なのだ。どうしよう。イケナイ妄想が捗ってしまう。前に入ったのは15年くらい前だろうか。10歳くらいの時だったと思う。もしくは初めてかもしれない。
陽キャの空間に入っていることに私も優斗もだいぶ緊張していた。久しぶり過ぎてどうやって撮っていたかも思い出せないし、緊張し過ぎて入る時に小声で「こんにちは」と言ってしまった。
優斗はイタズラっぽく笑いながら「こんにちは」と返してきた。なんで、慣れたふうに振る舞えるのだろう。私はこんなにドキドキしてるのに、余裕のある優斗に少しだけ頬を膨らませる。優斗は、また私の頬をプニッと押して可愛くない音をさせる。
優斗は「いや、俺も内心バクバク。でも、こういう時リードできたほうが良いだろ?特にアニキ、初めてのところめちゃくちゃ悩んでるだろ?」と返してきた。やはり、私のことをよくわかっているなと感じる。
私はウキウキで「何描く?Love's forever?」と聞きながら、胸元あたりに描き込んでいく。
「えっ?もう描いていくのか?あと、書くなら名前入れないか?」
「わかった。なら、私が優斗の書くから優斗は私の書いて」
「良いけど。良いのか?めちゃくちゃ照れるな」
「いいの。照れてる優斗も残しておきたいし」と悪戯すると、「なら、俺もかわいいかわいい輝奈子のプリクラ残さないとな」と悪戯返しされた。
耳まで真っ赤になって、耳が熱かった。優斗も真っ赤だし。こうしてできた2人で来た初めてのプリクラは1枚目が照れて耳まで真っ赤の2人、2枚目は2人とも笑顔が引き攣って、どこか背景だけチョケた証明写真みたいになってしまった。
「なんか、証明写真みたいだな」
「そうだね。お互い笑顔苦手なこと忘れてたよ。後で咲にでも送ろうかな。めっちゃ笑われそうだけど。送っていい?」
「俺も東畑に送っていいなら。照れくさいけど」
「そうだよね。でも第三者の反応も欲しくなるから送ってみない?」
「やるか。ろくな反応返ってこない気がするけど」
「やってみよう」
実際送ってみた。また、私の自宅に帰ったときにでも見てみようかな。帰ってきてもう一度見た写真は笑顔が凄く引き攣っていて、やっぱり証明写真だなーっと感じた。
「これ、やっぱり証明写真だね」
「そうだな。仕方ないだろ?俺写真苦手だし」
「それは私もそう。こんなにかわいいのに引き攣った笑顔で証明写真になっちゃうのはだいぶもったいないよね。免許はこんなにかわいく取れてるのに」
そう言って免許を見せると「確かに可愛いな。格好は今の方が可愛いし、似合ってる」と相変わらず変化の少ないトーンで褒めてくれた。
「ありがと。優斗のここもかっこいいよ」と言いながら服の上から優斗の股に触れる。優斗は「ちょっ、待てよ。まずはタオル敷いてからにしよう」と言いながらタオルを敷く。約束通り、身体を重ねるために。慣れてきたこの動きも、だいぶ変だと思う。タオル敷くほどって普段見るものでさえそんなにないと思う。
今日は1月の17日。そういえば、阪神淡路大震災の日だと思い出し、黙とうを捧げておいた。生まれる前とは言え、常日頃から防災の意識をしておこうと思う。
「うん。あ、そうだ。脱がせっこしたいかも。あ、でも、バイトだよね。今日はサクッとしようか」
「そうだな。なら、えっと、ゴムは……まだあるな。買った時、そんなにいらんだろとか思ったけど、買っておいて良かった。今度からゴム手袋でいいか?コスパ悪い」
「何でだよ。それ、完全にただのゴムじゃん。ゴム手袋を輪ゴムで縛るの?それって気持ちいいのかな?コスパは最強かもしれないけど、可愛くないし、こう、気分盛り下がらない?」
優斗は「確かにな」なんて同調する。どちらかというと、私がオムツでも履いた方がいいかもしれない。主に防水的な意味で。もはやルーティーンと化したこの行為もあと何回できるのだろうか。そんなノスタルジックいやセンチメンタルな気持ちに浸りながら、考える。
そうだ。優斗のエクスカリバーを胸で挟んでみるのはどうだろう。男の子がしてもらいたいものの1つに入ると信じてる。私はまず上半身の服から脱いでいく。外し慣れたブラも色っぽく思ってもらえるように脱ぐ。最近髪が伸びてきたから美容室行かないといけないなぁ。なんて考えながら、下半身の服も外していく。
優斗は「いつ見ても見事だな」と感嘆していた。
私はまだ上半身しか脱いでいない優斗の下腹部に抱き着き、ズボンも下着もずらし、「何回見ても格好いいな」と通常状態で剥けていない優斗のエクスカリバーを弄る。やっぱり少し暖かい。冬の冷えた日には人肌が恋しくなる。特に優斗はかっこいいからずっと抱きついていたい。優斗は「お、おう。大胆」と驚いている。私は通常状態の優斗のエクスカリバーをペロペロしてみた。今回は物凄く意識がある状態で。
「ちょっ。それヤバい」と言っている優斗を見ながらさらに左手で壁の部分をフニフニする。せっかくだからと根元まで咥え込み舌で転がす。右手で確かめるように触れると少しだけ硬くなっていた。優斗は「ちょっ、ガチでやるつもり?俺バイトがあるんだが」と焦っていた。私は優斗のエクスカリバーから口を離し、涎の吊り橋を落とした後「もちろん。この温まった心は冷えないよ。覚悟してよね」と上目遣いする。
優斗は覚悟を決めたような表情をした後、「わかった。止まれんと思うから覚悟しろ」と私を見下ろす。私はしゃがんだまま優斗のエクスカリバーを剥き、竿の中腹を持って回す。たまに手を離したりして勃たせていく。見慣れた完全体のエクスカリバーに舌をチロチロさせながら左手でピストン運動を加えていく。あまり味のしない液体が滴りだしたので、手の前後運動を加速させる。1発目のホワイトビームはやはり苦いような甘いような曖昧な味だった。
私は上目遣いで口を開けて見せ付ける。前したときは思いつきだったけど、今は普段こういう時リードしている私が優斗に支配されてるみたいで下腹部あたりからワクワクが沸き上がってきてしまう。優斗は「エロい。もう一回口に入れる?」と悪戯っぽい顔をしていた。私は同じ味を味わってほしくてキスしようとする。優斗は「さすがにそれは」と言っていたけど、1回受け入れてくれたことを覚えている私は1回ある程度飲んだ後、唇の中に舌を入れて、優斗の口に流し込む。
「どう?おいしい?」と私が悪戯っぽく微笑むと「美味くはない。エロいけど」とド正論をぶつけられた。私だって美味しいとは思っていない。ムードは美味しいんだけどね。せっかく立ち上がったから、裸のまま抱き締め合う。やっぱり優斗の胸は安心する。
「そっか」
「それよりいいのか?俺ばかり気持ちよくしてもらってるから?何かしてほしいのある?」
「うーん。特にないかな。いいな。優斗って男らしくて。私のおっぱいって魅力的なのかな?」
「きれいだし、魅力的だ」
「そうなんだ。ありがとう。いつもの体勢でやろ」
そう言って私はタオルの上を指さす。優斗は意図を察してくれて寝そべってくれた。私は優斗の上に乗る。やっぱり毛が刺さって痛いけどそれがあるから更にくっ付いている実感が高まるのかもしれない。私は「ねえ。一緒にイこう」とニコリと微笑んでみる。優斗は「おう。まだか?」と聞いて来た。私は「もうすぐかも。あ、イイっくー」と絶頂する。
2人の嬌声が綺麗なハーモニーを奏でていた。その後、めちゃくちゃ楽しんでしまった。時計を見ると4時になっていたので、「あ、もう4時だね。着替えようか」と提案して服を着る。優斗も「おう。そうだな」と言いながら服を着る。名残惜しいけど仕方ない。優斗がバイトだからそのタイミングで出られるように準備して帰ろう。いつかは一緒に住みたいな。
優斗のバイト先までの道中、私が「明日大学行くんでしょ?明日も抱きしめてくれるよね?」と手を繋いだまま優斗に尋ねると「おう。そのくらいなら」と返ってきた。何度も体を重ねたからなのか、優斗と繋がっていられるのが更に幸せに感じる。明日はまた健翔がいるかもしれない。それでも、次からはもう迷わない。一発でKOしよう。
会話が最近減った気もするけど、きっとそれはお互いに通じると感じられる信頼ができたからだろう。ああ、明日も楽しみだ。
優斗のバイト先に着いて私は「行ってらっしゃい」とキスをした。優斗は「ちょっ。おま」と焦っているが、そのまま唇の中に舌を入れて溶け合う。唇を離して、私も離れる。
「行ってくる。ありがとう」
「行ってらっしゃい」
優斗の顔が赤くなってるように見えたのは夕日のせいかしら。私の耳も霜焼みたいに赤くなっている。やった後で照れることってあるよね。帰り道、これからのことを考えていた。進路は決まっているから、あとはどのぐらい続くのか、試験どうしようとか、結婚いつしようとかそういう問題だけだ。
歌手活動は暫く休止にしようと思う。取りあえずCDの発売が決まっているので、その発表配信で歌手活動を休止しよう。そのことをNAOに伝えると「そうか。就職するもんな。頑張れ」と返ってきた。桶場さんにもそれを言うと、「了解。いつでも戻っておいで。TXTは残しておきな。休止するだけだろ?」と相変わらずイケメンな返事が返ってきた。ちなみに女性である。
これで源泉徴収問題はどうにかなるだろうか。あとは、印税だけ考えれば大丈夫のはずだからそこだけ桶場さんに確かめながら就職しよう。3年後にはやめる予定でいるけど。再就職しやすくしておいて、歌手活動に専念するために。これからのことを考えると憂鬱だけど、考えるのをやめた。
いろいろして、寝る間際にトイレで優斗との行為を思い出してスプラッシュして、布団に帰って寝た。冬眠暁を覚えず。お休み、私。疲れてたのか優斗に「お疲れ」と送る間もなく寝ていたみたいだ。
闇に沈む微睡のように。今日という花びらが散っていく。
風に舞う桜のように。左様なら、今日。もう2度と会えない1日よ。