手続きとバイト
昨日の夢を思い出していた。
添い遂げるとか尿酸値血糖値血圧を気にしている女の子と思われてしまったかもしれない。神様どうか忘れてください。健康にいたいだけだから。あの夢が本当ならば一生この体で居られるため、このまま頑張り続けよう。
昨日と似た格好、白いシャツと黒いズボン、セーターとコートを着て、保険証を作りに行く。そして免許センターにも行く。幸い今日も晴れている。寒いけどいい気分だ。
昨日、健康保険資格喪失証明書を店長から受け取ったので、保険証を作るために市役所に行く。退職に伴う保険の新規加入と同じ手続きで進めると市役所の人に言われたのでそのようにするという旨をちゃんと説明して、名前が変わることも届け出ておいた。
そんなことを思い出しながら、市役所に向かう。どうやら、即日発行も可能なようなので、念のため保険資格喪失証明書を持ちながら、手続きをする。一体どれほど手続きがいるのだろう。ここだけは本当に神様に感謝しないところである。
「こんにちは。昨日保険証の再発行をお願いした夜桜と申します。窓口はどちらでしょうか?」
「保険証の再発行でしたら、あちらでございます」
そういって案内されたのは昨日来たことのあるところだった。そこで健康保険資格喪失証明書を提示しながら、旧名夜桜魔沙斗改め夜桜輝奈子として手続きをする。たった数分でできてしまった。
そして先に免許センターに名前が変わったという事情を電話で説明したうえで、30分ぐらいかけて松茂にある免許センターに向かう。今日も空はきれいだ。通り道でバイト先の本社を見つけ、「ああ、ここで面接したけど通らなかったなぁ」と思いを馳せる。鮮魚と精肉、惣菜に力を入れたいと言っていたからそういうことだろう。レジなめんな。
そして、今は免許センターになっている、旧徳島空港での思い出にも浸る。私は昔飛行機が大好きだった。家族で何度も飛行機を見るためだけに来ていたものだ。場所が少し変わっただけだから、空港がなくなったわけではない。
やっと免許センターに着いた。免許更新と同じ窓口に通された。本人確認書類として保険証を見せ、仮学生証、前の学生証と共に示した。
「ご本人様ですね。免許証は持ってきておられますか?」
担当の方は渋いおじさんだった。前例のない作業お疲れ様です。神様の気まぐれでこうなったのでご了承ください。
「はい。持ってきております」
そういって免許証を示す。ついでにAT限定と視力検査もしてもらえないか聞いてみよう。
「すみません。視力もどうかわからないので、視力検査も可能でしょうか?」
「可能ですよ。視力検査はこちらでお願いします。免許証の更新は少し時間がかかりますのでその間に免許証用の写真を撮ってください」
こうして先に視力検査をしてから写真撮影をすることにした。今日はまだ空いている方だ。視力は上がっていた。左1.5、右1.2だった。相変わらず右の視力の方が悪かった。まあ、いいんだけど。
写真も可愛く取れた気がする。服装が残念なのは仕方がない。めんどくさいんだもの。あと時間が読めないからそのまま行けるように考えてアルバイトの服の上に寒さ対策をしているのだ。
なんだかんだ時間が経ち2時になっていた。やっと免許の更新が終わった。これで本人確認書類は全部そろった。マイネヌマーカードは何とかなるだろう。またしよう。今日は時間がないのだ。
さて、またアルバイトに向かう。絶妙な時間なので大学で暇をつぶす。動画を見ながら、お昼ご飯を食べる。今日は夜が遅くなる。また22時まで働くから。アルバイトがまた楽しくなるなぁと思うようで思わないような絶妙な気持ちである。今日は那賀山さんが来る。彼女は彼氏持ちで、とても話しやすい雰囲気を持っている。かなりプロだなと感じる。
彼女はどんな反応をするのだろうか?少し楽しみであり、不安だ。
レジに入る前に咲に「好きな人の家に泊りに行きたいし、関係性もできていると思うけど、奇妙なことが起こったから意識してもらえるか不安」とTXTを送る。返事は帰りに見よう。さて、いつもどおり82号レジに入れられる。私、前の方ばかりで仕事している気がする。そろそろ変えてくれていいんだよと思う。いつも通りの必殺技使ってもいいんだけど、ゆっくり仕事をしてみようと思う。前の私は、人呼んでゴッドハンドレジスターだった。滅茶苦茶打つのが早かったのだ。1時間当たり平均40人通しながら、ポイント券を数え、周りを見ながらカゴを片づける。あまりにもゴッドハンドだと思う。体感8割ぐらい私のレジに来ている気がする。そのおかげで切れ目がない。時間が飛んでいく。
やっと、水分補給だ。マラソンを全力疾走している気持ちになってくる。ゴットタレントに出られそうなほどレジを通した。そんなコンペティションないけど。
8時35分になった。もう仕事終わりだなと考え始める。1時間半ぐらいまだ残っているけど。さて、あと15分くらいしたら雑巾を集めよう。その後の処理私は知らない。だって教えてもらってないんだもの。
「やっと落ち着いてきたね。今日も多かったね」
「えっと、夜桜さん?女性になったんですか?」
彼女はリアクションが大きくて面白い。いい反応してくれるなぁと感じた。これが女装だったら面白いかもしれないが私は職場でふざける人ではない。
「うん。女装じゃないけんね。本当に突然変わったんよ」
「え?そんなことあるんですか?」
やはりいい反応だ。かなり驚いてくれている。
「あるんだねぇ。不思議だよ。そしてその前例第一号が私」
私、こんなに悪戯好きだったかしら。
「大変なこととかありました?」
「手続きだね。大体のことは何とかなったけど、本人確認書類作るための手続きが一番大変だった。戸籍からやり直し」
まくし立てるように話してしまった。まだ女子特有のものは来ていないから何とも言えないが、手続き以上に面倒なことはないだろう。あ、先にそれ用のもの買っておこうかな。要らないね。多分サイズ合うでしょう。
「大変ですよね。そうなると。お疲れ様です」
「ありがとう。これからもよろしくね」
「もちろんです」
流石ですわ、那賀山さん。お客様が来たのでまたレジを通す。よく来てくださるお客様だった。時計を見てみると21時15分ぐらいだった。
「いらっしゃいませ。カードお持ちでしょうか?」
「持っとーけん。ちょっと待ってよ」
そういって、お客様がご自身のカバンの中を探している。
「袋いつも通り5円の方1枚入れておきますね」
「初めて会う気がするのになんでわかるんえ」
「え、えと。夜桜です。よく私のレジ選んでいただいていたのでわかりました。お客様の顔覚えるのは得意ですので」
「別嬪さんになったなぁ。男性じゃなかったん?」
「えっと、神様が望みをかなえてくれて気づいたら女性に変わっていたんです」
「ほうなん?お箸いれといてよ」
「お箸おいくついたしましょうか?」
「5つ入れといて」
いつも通りのやり取りである。
「かしこまりました。レジ3番でお支払いお願いします。ありがとうございます。またお越しくださいませ」
「頑張りよ」
「ありがとうございます」
心が満たされていくのを感じた。いつも以上にお客さん来た気がする。私って別嬪だものね。でも、他人には言わないようにしておこう。男の頃、むらむらっとしたときに話す友達がいたが、彼とは縁を切るべきかもしれない。
気付くと蛍が鳴り、レジ締めを終わらせて帰る時間になった。TXTを確かめる。咲からは「意識してしまうような行動をすればいいと思う。好きな人って誰?」と来ていた。私は「中津浦優斗君。ずっと好きなの」と返す。続いて、私は、はやる気持ちを抑えながら中津浦君にTXTを送る。
「ねぇ。月曜日泊りに行きたいな。最近色々あったから、そんな話もしながら。映画もいいな」
送ってから自転車に乗り、わくわくしながら帰る。今日はそんなに遅くならないと思うんだ。全然、彼、スケジュール教えてくれない時あるから不安になるけど。
家について、今日の晩御飯を食べる。今日はカツオのたたきだった。お酒飲んでみたいと思ったけど、初めては優斗の前がいいな。彼なら信頼できるから。
30分ぐらい待ってやっと返事が来た。「いいけど、布団あまりきれいじゃないかも」
「そのぐらいいいよ」と私も返事する。どうしよう。楽しみすぎる。母上に先に言っておこう。
「かあさん。月曜日、中津浦んち泊りに行くわ」
「はいよー。男の子の家行くんだから気を付けなさいよ」
どうしよう。避妊具準備しておくべきだろうか。バカバカ。彼がそんなことするわけないじゃん。優しいし、優しいから。
楽しみすぎて眠れそうにない。まだまだ日数あるけどバイト頑張ろう。眠れないから優斗にTXTを送る。「せっかくだし、お泊りの時お酒飲もうよ」と。彼からの返事は「家でなら」だった。そのあと、彼からこんなTXTが来た。「せっかくだし、ホラー見ようぜ」
どうしよう。怖いし、苦手だし。でも彼と近づけるかもしれないし。お酒の力使ったら見えるかもしれない。何時間悩んだだろうか。ベッドでころころしながら、頭を抱えて声にならない声を上げる。
「何しているの。早く寝なさい」
母上に怒られた。ごめんなさい。ホラーとラブストーリーを両方しているの。助けて。言いたいことはわかるからすぐに謝る。
「ごめん」
私は、悩んだ末にこう送る。「いいよ。ホラー見ようか」と。過去の私なら考えられない選択肢である。明日、明後日は普通に終わるのだろう。明明後日が楽しみだ。