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バイト

目覚めると木曜日、バイトなのに彼氏の家から始まるの嬉しいけど、着替えが家にあるので取りに帰らなければならない。優斗も今日バイトらしい。


「昨日はごめんね。我慢できなくて」と謝ると、優斗は「全然。それよりバイトだろ?疲れてないか?腰とか」と心配してくれた。自分だって大変だろうにどうして、私のことを気遣えるのだろう。私って最低かしら。これを愛と言わずして何を愛というのだろう。


愛は「在る」のかもしれないが、どちらかと言うと「見つけ」、「気付く」ものなのだろう。「築く」も間違いではない。昨日やり過ぎた反動なのか、賢者タイム?みたいになっている。どちらかと言うと哲学者だと思うけど。


黙ってたら優斗が「どうした?腰とか辛かろ」と聞いてきた。私は「えっと腰は大丈夫。気遣ってくれてありがとう。優斗も疲れてるんじゃない?ホントにごめんね」と優斗を気遣ったふりをしてるように思えてしまうけど、気遣ったつもりではある。


優斗は「大丈夫。バイト頑張れ」と応援してくれた。だから、お返しに「ありがとう。優斗も、ね」と言ってほっぺにキスをする。ちょっと背伸びしないと絶妙に届かない気がする。その後2人で抱きしめ合って、帰路に着く。


帰り道で私は考えていた。私のほうが年上なのに、なぜか優斗のほうがしっかりしてるし、大人だと思う。いつまでエターナル思春期を続けるのだろう。 Give me the strength to accept my weakness.There's no eternity, but I always love you.なんて言えたら良いのに。弱さを受け入れる強さをくれ、永遠なんてないけど、君を好きなんて言えない。


未だに親と上手く話せてないのに、結婚したらできるなんてことがあるだろうか。今まで何度もチャンスがあったはずだ。元彼女に恋をした時だったり、大学に入った時だったり。変わるチャンスはいくらでもあった。なんならサーモンぐらいあった。キングサーモンかもしれない。


いくらじゃないなら、キャビアぐらいチャンスあったはずなのに、相変わらず臆病最速の努力値ASブッパは変わっていない。チャンスに怯え、戯言に怯み、自分自身という感覚を麻痺させ、恋の炎でやけどする。今は悩みで毒状態、どうすればいいか混乱みたいな感じだろうか。


上手いことを思い付いたものだと自分に感心するが、そういう問題ではない。就職したものの源泉徴収票どうするのか、事務所退所するならそれも考えなきゃいけない。今は、まだ売れたてだからCMもないし、辞めるなら今だろう。でも、何を理由に?就職するから辞めます?介護はそこまでしたい仕事だろうか。でも、たかが25の若造に何ができるの?とか思ってしまう。


いや、25でもしっかりしてる人は居るし、人次第なのはわかっている。なら、この世間知らずは何ができるのだろう。ただ、思いの丈を詰め込んだだけの乱雑な言葉に、誰が感銘を受けるのだろう。もう無理だ。どうすればいいか全く見当がつかない。暗い思考ばかりが脳を支配している中、家に着いた。


「ただいま」

そう言ってみたけど、返事はない。声が通らないのは相変わらずか。リビングの扉を開け、母親に「ただいま」と話しかける。母親は「おかえり、彼氏さんとどう?どこまで行った?何してもあなたの責任ではあるけど、ソウイウコトする時は気を付けなさいよ」と余計な御世話を焼いてくる。


心配してくれてるのはわかる。それでも、自分が評価されていないように感じるのは、受け手側の私の問題だろうか。


好きなことをして、金があって、彼氏もいるのになぜ満たされないのだろう。家族と分かりあえない不安は、これほど大きいものだっただろうか。私は何もかも全て手に入れたと確信できるのに、なぜ足りないのだろう。


彼を選んだらどこまでも行ける。彼なしではいられない。そんな事は無いと思う。恋人を選ばなくてもどこへでも行ける人もいるだろうし、恋人がいても独立していられる人もいるだろう。


メンタルが不調過ぎて、優斗に「全然わからない。なんで、こんなに自分の家族にこだわってるのか。育児の不安なのかな?まだ、子供いないけど」と送ってしまった。どう返ってくるか不安で、でも、どこか彼なら分かってくれるという期待をして、ワクワクとドキドキとなんともいえない化け物が私の中にいる。


これは欲望という化け物だ。羨望、願望、欲望、渇望。私は情がないのだろうか。いや、情はあるだろう。なら、何がないのだろう。何かに飢えた砂漠で水を探すような感情が私を突き動かしていた。


優斗からは「肉親だからだろうよ。困ったら話聞くから、俺が言えることじゃないけど、こんなんじゃないだろ?」と返ってきた。そうだ。私は「こんなにやわな女」じゃない。「やれること全部やって何もしてないふりをして、結果だけだしたように見える恐ろしい女」それが私だ。


何があっても困難に負けない、笑顔で困難に手を振って、しんどくなれば、優斗に抱きつけばいい。大丈夫。何とかなるって。ならんかったら何とかすればいい。何とかして、無理なら更に何とかしてみればいい。


「なんとかならぬなら、何とかしてみよう、なんやかんや」を座右の銘にして生きていこう。なんだろう。凄く脳みそが筋肉になった気がする。これがゴリ押しで何とかしようぜホトトギスである。何してんだろ、でも、元気出た。


源泉徴収票どうしよう。もういいんじゃない?就職。歌手として、やっていくので良い気がしてきた。小説家が年末にオオトリで歌うのも面白いじゃない。そうそう。面白く生きていくのが、私じゃないか。予定調和をぶっ壊す。パワー。いや、茨の道だなぁ。茨の道に桜の花が咲くなんてかっこいいじゃない。よし、それで行こう。そうと決まれば、レッツ親に報告。


「私、就職辞める。歌で食べていきたい」


「それは安定してないんじゃない?就職して趣味ですればいいじゃない」との母の言葉に分かってないと思う。


「私、歌うの好きだし」

「何考えてるの。あなたより上手い人何百人もいるでしょ?」


「なんか、こう。趣味だから、頑張れたというかなんというか。2019年にライブしたのは知らんね。いいや。介護する」

ほんとは税金を考慮に入れても、1000ぐらいはあると思う。バイト代も入ってるし。4年続けて思うけど、バイト辞めても良いかもしれない。でも、親には言わない。


源泉徴収票は何回かマネージャーに確認して、総収益を聞いて、給料計算してもらって出してた。税務の人にも聞いたし、大丈夫だと思っている。他の人には絶対言わない。親でさえも。


さて、バイト行くか。昼ご飯は近くのうどん屋で食べて帰った。あー1週間始まるなぁと木曜日になると思う。


で、バイト先では相変わらず名古さんがいた。今日はゾロ目バーゲンをしていて、びっくりするぐらい安くなる。それだけお客様が増えるわけでして。


値段のわからない商品が出てくるわけでして。


「お呼び出しいたします。お魚担当の方、2番レジまでお願いします」と店内放送をした。声変えずにしたけど、やばかったかしら。


「あら、お嬢さんとってもべっぴんね。この前のライブ行ったわよ」なんてバレてるし。


「あ、あはは。ありがとうございます。えっと、5480円のお買い上げでございます。3番の会計機でお願いします」

みたいなことがさっきからよく起きる。おかしいなぁ。普段こんなに人いたっけ?居たのかもしれないけど、なんか、多くない?後ろ見えないぐらい居るんだけど。なにこれ?


誰?バイト先バラしたの。何でこうなってんの?声でバレた?確かに透明感のある芯の通った声をしているとは思うし、男だった頃に小さな店舗に声が響き渡ったなんてことがあったけど。にしても、その3倍以上はある店舗で声が届くなんてことがあるのかしら。


確かに鼻腔共鳴と腹式呼吸使ってカラオケみたいな、いや、ライブみたいな発声してるけど、マイクありきじゃん、そういうのって。


で、もしかして、さっきの店内放送で近隣の人皆来たとかだったりするのかな。どんだけーーー。それはどんだけーーしか言えなくなる。心の中でどんだけーーーーと叫びながら、レジ打ちをする。


エクストリーム神速の捌きキャッシャーをしている。我ながら、どんだけやるんだろ。明日もこのぐらい混んだら、給料上げてもらおうかな。


親と話すのが辛すぎて、今の性格やめたくなってきてるし、死にたい。でも、生の牢獄に囚われた私は死ぬことすらままならない。まだ、地方のテレビには出てないし、全国ネットでも出ていない。年末番組の誘いもあったけど断っていた。ひとえに親に何も知らせないために。理解してほしいけど、分かったつもりになられたくない。私はそれ程単純ではない。


噂になったらどうしようか。死にたい。消えたい。そんな思考ばかり浮かんでくる。こんなに絶頂みたいなところなのに。天国は多分ここだろうとまで言えるのに、親にだけは何も言わない。仕事しよう。働かなくても食べていけるぐらい収入はあるけど。


無いことにして自分の認識と事務所での税務処理の時に、思い出すぐらいにしておこう。あー。何でわかってくれないのだろう。あー辛い。親に言えたら楽なのに。言えないのはなぜだろう。わかってる。理解したつもりになられたくないからだ。


あー。優斗ならわかってくれるのに。生きてるだけでオンリーワンなのに。多くの人と生きているとそんなことすら忘れてしまう。どこに向かうかなんてわからないし、何ができるかもわからなくなってきた。


優斗が居なくちゃ何も出来ない悲劇のヒロイン役に酔いしれて。シンデレラも白雪姫も王子様のキスで目覚めたけど、私も王子様がいないと何もできていない。


この世界には魔法使いもいないし、王子様を見つけるのは自分で行動しなきゃ無理だ。そんな事はわかっていたはずだった。王子様は見つかったのに、まだ私は外からの働きかけを待っている。自分自身で始められる事はあるのだろうか。環境が変えてくれるのを待ってる。環境を変えていけるのが人間なのに。


どうしてこうなってしまったんだろう。他人が褒めてくれるのを素直に受け取れない。自尊感情が死んでるのかな?歌手として成功するのも、小説がアニメ化したのも自分のやってきた物量を考えれば当たり前に思えてしまう。失敗したら終わりだと考えているから。


悩まなければいけないことは放置して、そのままその場のノリでどうにかすることが多い。いつまでも自分の能力とか経歴とかを当たり前だと思う認知バイアスがしんどい。心の調子が良くなくなったのは優斗と離れたからだろう。自分は英語なのだろうか。高校の時めちゃくちゃ否定していた英語なのだろうか。これほど小説も歌詞も思い付くのに、ほしいものがわからない。ただ、優斗のそばにいたい。それだけはたしかだと思う。


このまま介護の仕事について仕事をするとして、本当に続くのだろうか。でも、本当に向いてるのは介護かもしれない。人のために働くことも好きだし、サービス精神あるし、楽しいかもしれない。


やりたい仕事になんてつけるものじゃない。なんて、やりたいことしかして来なかった私が言えたことではない。ただ、優斗に求めるのは抱きしめて欲しい。帰ってきて、「消えようか、そのためには紐と椅子が必要だろうなぁ。大体300円かぁ。血が見えない状態で、妹も気付かない時間で、不自然ではない死に方で、マネージャーに迷惑かからない死に方にしよう」なんて考えていた。でも、優斗が悲しむよなぁ。そんな事を考えてもう無理だ。死ねない。高いアイス買うほうが経済的だわ。というより、死ぬのも面倒くさい。死にたいけど、面倒くさい。だから、死んでない。でも、生きてもいない。


「自分自身を生きる」事は出来ているのだろうか。どことなく、自分自身という役を一時的に演じて、何者でもないものに返っているような、つまらない自分を感じてしまう。どこに向かっているのだろう。何度もこの問いが私の頭を支配する。


味のしないまま飯を食べ、温度を感じない風呂に入る。磨いた気にならない歯磨きをして、布団で死ぬ。私は死んだ。今日の私は今日しか生きていない。明日の私は明日の私である。今日の私を殺すことを寝るというのなら、私は年がら年中1日の終りに今日の私を殺している。


優斗がそばに居ないだけでこれ程壊れて行くのなら、私は本当の意味で「生きる」ことはできないかもしれない。意思を持って、自分で決断して、自分という役でアドリブをかましまくる。それを生きると言うのなら、私は描かれた台本さえ演じる事も出来ない人なのだろう。


形無しな私なのに、肩に痛みあり。我思う故に我在りならば、考えない私は存在していないのと同じかもしれない。本当に私は存在できているのだろうか。


形だけ存在している幽霊に思えてきた。だから、自動ドアの反応も薄いのかもしれない。どこに向かおうか。



さよなら、今日の私。明日も連続性の無い私を生きていくのだろう。私は終わる。いつの日かきっと。だから、せめてその日まで優斗と生きていたい。同じ景色をみていたい。私では見えない高いところも10センチ高い優斗なら見えるだろう。


あー。彼の悩みを分かってあげることはできるのだろうか。年下なのに自分自身で考え抜いている優斗が羨ましくなった。


滅びゆく運命に祝福を。今日の私よ


サラバだ。




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