【配信】おはよう東京 観光2
「輝奈子は、まだ寝てる」
「ぇあぁ、おはよう。いっっツー」
腰痛とともに目覚め。おは腰痛。えー。目覚めまして、なんだろう?これ。私が知らない間に別のベッドに移されていた。昨日は右側のベッドで寝ていたはずだ。
「おはよう。声聞こえた?」優斗が誰かと話している。誰だろう。回らない頭で考える。
『聞こえた』
『寝起き可愛い』
流れるコメントで判断して「え?なに?配信してるの?」と聞く。優斗は「おう」と返事する。
『寝起きドッキリ』
『ポヤポヤなの可愛い』
『ダウナー輝奈子さんありだね』
『絵師さん、ネタ提供ありました』
配信してるとわかり、「リスナーさん、おはよう。いやー、朝早くからありがとう」と挨拶する。たぶん、7時ぐらいでしょ?
『寝ぼけてる?』
『9時を朝早くは草なんよ』
「ちなみに、アニキほぼ裸なの気付いてる?」
「ウソ!?え、にゃーーー!!」
『アニキ呼び定着してるの草』
優斗に言われて初めて、自分の格好を見た。おそらく寝たあと、着せられたであろう浴衣。それもグズグズに着崩れてる。下着は付け方分からなかったのか付けてない状態。それ以外は何も身に着けてなかった。
『やっぱり、にゃーーーだった』
『絶対可愛いのに、見えないの残念』
『無自覚はズルい」
『事後か?』
『ライブ行ったよ』
優斗が「アニキ、昨日のこと覚えてる?」と聞いてきた。ぽやぽやの頭で「えっと、優斗と体を重ね合って、痛み走って、なんか気持ちよくなって。で、どうなったの?」と口走る。あ、ヤバいこと言っちゃったかな?
「覚えてるのかよ。そこからは、寝てたし、濡れてると寒いだろうと思って別のベッドに移し替えて、頑張って浴衣着せといた」
『完全に事後で草』
『事後、全裸の輝奈子さんとか可愛すぎて無理』
「そ、そういえばタオルどうなった?」気になったことは聞こうと思って優斗に聞く。優斗は相変わらず説明を短く「とりあえず、ビニール袋に移して縛った」と答えてくれた。
大やらかしだった。だから、優斗に「ごめんなさい。ほんとに出来心で。将来どこか家建てるとしたら風呂場にベッドいるかもね」と平身低頭謝る。
「本当にどんだけ出すんだよ。俺が言えた義理では、……あるな。俺も大概だけど、今後ベッドでするの禁止」
「すみませんでした」
そんな夫婦漫才が面白かったのかコメントでは『どんだけだよ』とか『エロすぎ』とか『夫婦の家建てるぐらい好きなのか』とか来た。
『平身低頭輝奈子さん、うん。はかどる』
『↑はかどるな』
『何食べるの?』
「モーニング、もしかして終わってる?」
「終わってないかもだけど、チェックアウトの時間大丈夫?11時だよな」
「にゃーーー!!」
『2度目のにゃー頂きました』
『にゃーを聞きに来てるまである』
『にゃーのためのオールタイム待機』
焦った私は「ねぇ、お化粧する時間あるかな?別にノーメイクが嫌ではないけど、お腹空いてるし、何からしたらいい?」と優斗に委ねる。
『ノーメイクとか無理無理の無理なんだけど』
『ノーメイクで出るとかどんだけツヨツヨな顔なんだ』
『むしろ顔見たらメイクさせたくなくなる』
『メイクは案件のためのものとか言えるレベル』
『地球の歴史上1の美少女』
『↑さすがに言い過ぎで草』
「とりあえず、着替えたら?それで部屋出るのは寒かろ。あと、俺が恥ずかしい」
「それな」
久しぶりに低いトーンで「それな」が出た。可愛くありたかったのに。ありのまましか出せないわ。
『【朗報】まだ着替えてなかった』
『彼氏さん鋼メンタルで草』
『ライブで見た、あのレベルの美少女が着崩れた浴衣でほぼ全裸とか自制心壊れそうで草』
『↑それな』
『急いでアーカイブ掘ってきます』
『童謡に動揺するとこまで見えた』
『豚骨ラーメンキスで性癖狂うんだよなぁ』
『衣擦れASMRとかいう需要しかない配信』
『モーニングルーティンASMRも草』
「私の下着知らない?持ってきたと思うんだけど」
「アニキ、いつも適当にもの入れてるし、適当だからわからん」
『アニキ呼び定着してて草なんよ』
『下着の場所を彼氏に聞く輝奈子さん可愛い』
優斗は「急ぐとしてもさすがに下着貸すのは抵抗ある」と言っていた。そもそも、ノーブラはちょっと嫌だ。問題はそっちじゃないけど。
「やっと着替え終わったみたい。着替えとかも大変なんだろうな。俺にはわからんけど」
「お待たせ。ごめんね。さて、次はっと」と言いながら、メイクポーチを探す。
なんか「歯磨きする時にいるよね」とか「なら、ついでにパジャマもあるといいよね」とか考えていた事は覚えてる。で、どこ入れた?
パジャマでお出かけ用の財布も入れてたんだけど、それはパジャマとまとめてあったからわかった。なんで、下着とパジャマ分けたの?もういいや、先歯磨きしよう。
なんて思って見たら、歯磨きとメイクポーチがサブバッグから出てきた。確かにいるけども。
「なんで、ほんなとこあるん?意味わからんがやけど。なんなが?」と若干のマジギレを入れると優斗に「何にキレてんの?」と聞かれた。
私はしどろもどろに「えっと、あると思った場所に歯磨きなくて、イライラした」と答える。
『イライラのレベル低くて草』
『女の子的には何でパジャマと入れようと思ったのかが謎』
『女の命なのに適当で草』
『なまってるの可愛い』
「で、何しようとしたっけ?」と優斗の方をみると「どうした?おばあさん。化粧か歯磨きしようとか言ってなかった?」とおばあさん扱いされた。
「そうそう。で、あれよ。アレしようと思ったんよ。ほら、アレ。白粉的なサムシング」
『何も出てきてなくて草』
『チークとか口紅とかマニキュアとかリップとか色々候補ある中で白粉は草』
「どれだよ」
「アレ、あの今川義元的な。思い出した。眉毛書こうとした」
『今川義元で思い出すのは唯一無二なんよ』
『メイク動画あったら見るなぁ』
『案件来てくれんかな?』
『ジャスミンの香水一瞬やったもんなぁ』
『トレンドにジャスミン茶見えた時、腹抱えて笑いそうになった』
で、眉毛書いて、ピンクのラメ入りリッププランパーでプルプルの唇にして可愛い女の子になる。
「ドレスアップ完了。どう?」と優斗に聞く。優斗は「おう。いいと思う」と相変わらず言葉が足りない。私は「そっか、ありがとう。で、あと、どれぐらいある?」とチェックアウトの時間を気にしてる。
「今、10時15分。飯はホテル出てから食べるか。羽田まで持つ?」
「しょうがないよね。えっと、お花摘み行くから大きめの声で話すかミュートして」
そして、花を摘み、出る。お花摘みの間に携帯を見てNAOから「まだかかりそう?」とTXTが来ていたことに気付き、「もうちょっとかかる」と返信する。
「朝起きたら、輝奈子の布団吹っ飛んでて、慌てて掛け直した。腹冷えたら困るだろうし」
『彼氏さん健気で草』
『彼女さんマジ裏山』
『それな』
『うちの彼氏より可愛い』
「ピュイーーー」
ヤバい。喉が鳴った。大ウケするとだいぶ高い音で笑ってしまう。そして、私は所謂ゲラだ。
『何の音?』
『お湯沸いた?』
『お湯だとして高くね?』
『それな』
「いま、アニキが腹抱えて笑ってる。笑うとこ布団が吹っ飛んだしか無かったけど」
「布団が吹っ飛んだ、ハハハハハ、ピュイーー」
『輝奈子さんゲラだったんだ』
『オヤジギャグ大ウケするのは作者の特徴だったのか』
「準備オッケー。出れるよ」と私が言うと、優斗は「じゃあ行くか。直で羽田やったっけ?」
「そう。途中まで、NAOも同じ方向だから。一緒に行くことになってる」
「そうか」と言う優斗の顔は複雑そうだった。私は「心配かけてごめん。でも、東京詳しい人だし、私は優斗が1番だから」と微笑む。
なんだかんだで、私の話で大盛りあがりしてる優斗とNAOだった。ただ、会話内容ひどいなぁ。だってこんな感じなんだもん。
NAOが「昔の魔沙斗は『魚』を歌う時に「うっサリーぅ」とかいう魚出てきてたもんね」と話を振ると、優斗は「それ、この前もしてたぞ。なんなら某えもんもテンション高かった」と返してるし、「あー。アレね。怒涛の巻き舌だよね?」「それな」と会話が続く。
ちなみに、ホッケとアサリの音が合わさって「うっサリーぅ」になってる。ホッケの原型ほぼないけど、アサリはアメリカの英語発音のアだし、サリ残ってるからセーフかなって。カラオケのテンションだしね。
優斗が「そもそも、ウサリーウってどうしてそうなるの?」と聞いてきた。だから私は「アサリのアを曖昧母音で発音したらウサリーになって、そこから1番出しやすいのが曖昧母音のウ」と解説する。
「なるほど、わからん」
優斗面白い。そして、なんか周りがザワザワしてる。やれ、「もしかして、strength?」やら「まさかぁー」やら、「女子になったってホントだったんだぁ」やらめちゃくちゃ聞こえてくる。
朝の配信見てた人いないよね?怖いんだけど。そう思って、優斗に「守って。めちゃくちゃ見られてる気がするの」と女の子ムーブする。実際か弱いから仕方ない部分もある。多少の護身はできるけど。
「ねぇ、お姉さん。彼氏さんとヤッたんでしょ?僕のも咥えてくれない?」と変態さんがきた。何、こいつ、キモ。普通に座ってただけなのに。
私は「キモ、変態さんはダメだと思うよ」と声を震わせる。キモだけガチトーンで出てしまった。続けて、「変態さんです。たすけてください」と声を出す。
ここで、普通のイケメンなら、「俺に任せろよ。おい、変態。俺の彼女に触れるな」なんていって助けるのだろうなぁ。
で、ウチの彼氏はどうかと言うと「怖かろ。とりあえず、車両移って車掌か、誰かに報告しよう」と逃げることを提案する。で、キーボードのNAOは、と言うと写真を撮っていた。
ちなみにデカかった。でも、臭かった。私は浮気しない。だって、優斗だから好きなんだもん。他の誰にも出せない魅力だもん。たまにイケメン対応欲しいけど。
さて、車両を移ろうとすると、後ろで噂話してた女の子達がこの車両に響くように変態を私から離れたところに連れて行った。その変態がどうなったかは知らんけど、よかった。
「2人ともありがと。あのままだったら大変なことになってたよ」
優斗は「大丈夫そ?トラウマになってない?」と心配してくれた。私は「うん。デカかったね。NAO写真撮ってたでしょ?後で警察に届け出よう。実は私も声録音してたんだよね。下卑た笑みを感じたから」と返す。
NAOは「うん。撮ってる。とりあえず降りようか。次の駅のすぐ近くに『新聞』っていうレンタカーがあるから2人を送るね」と提案してくれた。
私達は「ありがとう」と返し、次の駅で降りて、レンタカーで羽田のターミナルまで送ってもらった。で、選ばれたのは、とろろ蕎麦だった。さて、保安検査場に行って飛行機に乗る。やっぱりいいな。飛行機って。あ、そういえば、案件いつだっけ?
なんて考えていたけど疲れていたのか眠りに落ちる。どれくらい寝ていたんだろう。優斗に起こされた。
「大丈夫?もうすぐ着くぞ」という声で目覚めた。私は「ありがとう。どれくらい寝てた?」と微睡みながら聞く。「30分くらい」「そっか」そんなやり取りをして飛行機を降りる。
「うぉあぁ、ねっむ」と降りて早々の私は欠伸をする。優斗に「イメージ戦略忘れるなよ。アイドルではないかもしれんけど。知名度あるんだから」と注意された。あぶねぇ、鼻ほじるとこだった。で、携帯で案件の日を探す。
マネージャーの桶場さんから「1月8日、姿勢正堂案件配信。自宅での配信も可能です。彼氏さんの家でするならそれも可能です。とにかくライブでの話題性を活かし売り上げにつなげたいとのご意向です」という文章が送られていた。
私は確認して親に「明日配信するし、彼氏呼ぶから奏音と出かけといて。5時ぐらいには終わると思う」と送り、マネージャーに「承知いたしました。自宅で配信しようと思います」と返信する。母からは「了解」と来た。
「ねぇ、優斗。明日家で配信するんだけど、片付け無いといけないの。どうしよう」
「片付ければいいんじゃない?」
ちっげぇよ。気付けよ。
「ホントはあなたを呼びたいけど、予定会うかわからないし、あと汚い部屋だと幻滅しちゃうかな?でも一緒に時を過ごしたい」という乙女心に気付いてよ。あ、よく考えたら無理だわ。知ってる。優斗ってこういう人だから。
黙ってる私の様子を怪訝そうに見つめながら、「どうした?」と聞いて来た。私は「え、あ、うん。なんでもないの。でも、刻一刻と離れる運命に近付いているようで、なんか寂しいなって」と儚げな笑顔を浮かべる。
「ロマンチックかよ」
「そうだね。私たちが生きられるのって今しかないもんね。帰ろっか」
そういって車を出す。久しぶりのマイカーに「ただいま」と心の中で唱える。私の方が疲れているのに横で寝息を立てている優斗に少しだけ腹が立ったけど、信号で止まったときの寝顔が愛おしくて、優斗の家に着くまで寝かせてあげようと思った。
「優斗、着いたよ」
「ああ、悪い。疲れてるだろうに」
「大丈夫。ありがとう。色々」
「それを言うならこっちだろうよ。ありがとう」
長旅だったけど、楽しかった。この後、帰ってめちゃくちゃ昼寝した。