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【配信】ライブ


「あぁ、さッブ」


なんて、綺麗な顔からは想像できない声が出るくらい寒い朝。ホテルを出て、優斗と一緒にホールに向かう。


今回のライブは結構な規模のライブだけどそこまで大きいライブでもない。演出も費用控えめにしてるし。


「おはようございます。strengthです。本日はよろしくお願いいたします。こちらは彼氏の中津浦優斗君です。マネージャーには報告済みですが、今後ともに出歩く事も増えるため、スキャンダルにならないようよろしくお願いいたします」

と早口にならないように挨拶する。久しぶりで少し緊張する。


「あ、えと、strengthさんとお付き合いさせていただいてる中津浦優斗です。よろしくお願いします」と優斗も挨拶をする。マネージャーの桶場アースデイさんが、「そんなに硬くならなくていいよ。strengthさんみたいな人は結構いるからね」と言っていた。


私は「それはどういう意味でしょうか?」と抗議するけど、マネージャーは「あぁ、いい人だとわかってるから心配すんなって話だ。そんなに怒るなよ」と鷹揚に手を降っていた。


「おう、魔沙斗久しぶり。今は輝奈子だっけ?相変わらずネーミングセンス独特だね」

幼馴染の奏上直正が声をかけてきた。私は「おう。久しぶり。元気?就職は?」と返す。NAOこと直正は「今の稼ぎでも十分な気もするけどなぁ」とこぼす。


「私は働くから、ライブの頻度下がりそうだね。とりま1回休止しとく?」


「まあ、後で考えよう」

「それな」

相変わらず適当な2人である。そんな様子を見ていた優斗が不安そうな顔をしていた。確かに昔の裸体を知っているのは直正のほうかもしれない。でも、優斗のほうが異性として好きである。


「ごめんね。優斗。不安にさせたよね。大丈夫。直正とは何もないから」

「えっ?確かに前聞いた気がするけど、さっき聞こえた彼氏ってマジ?」

「うん。先月?付き合い始めた」

直正は「凄いな」と言葉短く驚いていた。


それでも直正もすぐ切り替えて、基本的なリハをして、流れを再確認する。相変わらず安定感のあるキーボードだ。バンドするならギターも欲しいけど、知らない人は怖いからなぁ。あ、優斗の家にギターあったけど、どうなんだろう。してくれないかな?あとで聞こう。



さぁ、いよいよライブだ。いざ、行こう。我が人生の新章の始まりだ。でもちょっと不安で優斗に「手握ってくれない?ちょっと緊張してきた」と手を差し出す。優斗は「おう。頑張れ」と握り返してくれた。ちょっと緊張がほぐれた。


夜桜輝奈子として初めてのライブ。でも、名義そのまま。だってめんどくさいし。いつかソロシングル出すなら考えようかな。キーボードのNAOもたまに歌うし。


カメラが寄って来て、私の顔も映る。大きなモニターに映る私は小さく見えた。緊張で足が震える。今回のタイトルはこれだ。緊張を振り払い、心の雪の静寂を振り払うような大音声でタイトルコールをする。


「Sing in the Quiet Snow。間もなく開演です」

2019年の『stand up on the cloud』、2021年の『Burn in the darkness』に続く三部作の1つとして位置付けたライブのタイトルだ。スタッフにさせてもよかったけど、毎回タイトルコールは自分でしている。自分の発音が一番かっこいいから。


『タイトルめっちゃかっこよくて草』

『さすがのstrengthクオリティ』

『英語の発音めっちゃ良くて草』

『この声誰?』

『2021と声違くね?』

『それな』


「Ladies and gentleman. Thank you for coming to our concert. Enjoy our concert.」いつも恒例の英語挨拶。2年ぶりでちょっと噛みそうになったけど噛まなかった。自己演出の神として認識されたいから英語タイトルばかりだ。


高まる緊張感の中、私は全力で叫ぶ。まだ足は震えてるけど寒さのせいだろう。


「イェーイ。みんなー。久しぶりー!!今日寒いよねー!!!」

思いついたのがこれしか無かった。らしくていいよね。何で寒いよねにしたんだろう。昨日盛り上がらないとか考えてたのに。


「「「イェーイ」」」

あのMCで盛り上がれるのかよ。


「みんなー。今日はライブ来てくれてありがとーーーー」

「「「イェーイ」」」」

寒い衣装を着ているがライブの熱気ですぐにあったまってきてしまった。


『へんな盛り上がり方で草』

『寒いよねー!!!は草なんよ』

『てか、めっちゃ可愛くね?』

『それな』

『声違くね?』

『配信見てないのか』

『見てない。何があった?』

『女になった、彼氏できた、豚骨ラーメン』

『OKわからん』

『あの顔で豚骨ラーメンキスかぁ』

『そらそうなるわなぁ』


「今日は私のライブ来てくれてありがとうーーー!!!みんなに報告があります。女の子になって彼氏ができました」


観客席に動揺が走る。もともと喉を開くために童謡を歌うつもりだったので「みんなに動揺が走ったところで童謡のクリスマスソング。お急ぎのサンタクロース」とMCする。元はオク下で歌ってたけど、リハの時原曲キーで歌えることを確認して、原キーで歌うことにした。


『初手童謡は草』

『クリスマス終わっとるんよ』

『お正月過ぎにクリスマスソングは草』

聞き入ってくれてるのかコメントが途絶えた。曲が終わるとまた、コメントが見えた。

『あれ?俺らが聞いた曲ってなんだっけ』

『お急ぎのサンタクロースじゃなかった?』

お急ぎのサンタクロースは巷で流行っているクリスマスソングで特に若年層で知らない者はいない子供でも歌いやすい童謡である。


『あれは俺らの知ってる曲だったか?』

『同じ曲のはず』

『アレンジやばすぎで草』

『リンリンリンって言ってた?ウリンリンリンみたいな巻き舌やばかった』

『巻き舌やば杉で草』

『↑花粉飛びそう。やば杉』

『この人がボイトレ動画出したら、俺は歌手止めるかもしれん』

『なんでだよ』

『シャラランランもめっちゃ短くなかった?』

『と言うより強かった』


「てことで、お急ぎのサンタクロースでした。いやー。この時期にサンタさん来たらあわてんぼうなのか遅刻癖があるのかわからなくなるよね」


「そもそも、セトリおかしいから。初手童謡に俺、動揺」とキーボードのNAOがツッコミを入れてきた。「いやー。もともとの俺こんな感じじゃなかった?」と返すと「そうだね。相変わらずのシュラララ発音」と茶化された。


「昔の『魚』思い出すわ」

「後ほど披露します」


「そうだったわ。お次は新曲らしいです」


『魚楽しみ』

『名物きちゃー』

『新曲とな?』

『何が来るんや?』


「みんなーー。ハッピーハロウィーン。盛り上がっていこうぜ。ハッピーニュー」


「「「イェーーー」」」


『ハッピーハロウィン別にいらんくね?』

『それな』


そして私は曲をコールする。「『ハッピーニューイヤー』」と。


「年を越して 腰を痛め 今日も私は生きている~ いまも痛みと喜びを胸に抱いて~いいぇぇ

日々のすばらしさ―ささやかな喜びを噛み締めてゆこう そう、Burning bright


中略


いつもみんなありがとう 今こうして生きてるのも ファンのおかげだから~ いつまでも~あいしてほしい~ ありーがとー」


『ファンに媚びてて草』

『のっけから歌詞おかしくない?年越して、腰痛めって』


ちなみにファンも盛り上がっている。ちなみにこの曲は小説を考えていたときに3秒で浮かんだものを録音してミックスしたものである。ベースラインとかキーボードパートは基本的に丸投げした。ちなみにこの曲は意外と難しく、HiFが乱発されてしかも低いところはmid1Eという割と音域の広い曲である。やっていることがあほすぎる。更には、「抱いて~いいぇぇ」のところはHiAを出してからのHiFみたいな変化をする。


「「「イェーーイ」」」

会場があったまってきた。


「いやー、みんな久しぶりだね。2年分老けた?私は全く老けてません。性別が変わりました。えー。不名誉なバズり方をした2023年でしたね。豚骨ラーメンとか、親父ギャグとか。もっと衝撃のはずの性別が変わった事より、ラーメンがバズっていたのはわけわからなくて好き」


『豚骨ラーメン、今年残り2か月もなかったのに流行語大賞取ってたもんな』

『トレンドのラーメンとかな』

『わけわからないけど、これがstrengthなんだよな』

『界隈では当たり前』


私はここでいい感じなので身バレ覚悟でコールをする。


「豚骨らーーめん」


「「「キス」」」」


いや、会場頭おかしいな。やった本人が言うのも変だけど。何でこのコールでレスポンスできるんだよ。どんな界隈だよ。


「では、次の曲。スダチ」

『すだち?』

『ガチ徳島で草』


「泡沫の夢幻のような人の世界で 癒す緑の果実 さわやかな風と共に 夢の先へ 儚さって人の夢 寿命は幸せな運命 本当にそうなのかな 今ささやかに生きている この時が かけがえないものになる」


いよいよサビが来る。激しく盛り上がる曲と共に高い場所が来る。HiDを連発する昔は声がかすれたこのサビ。「目に染みる~ まばゆい光 今君の元へ とどけて行くよ 離れてても きっと届く だから諦めないで~いつまでも I'll be by your side」


サビがめちゃくちゃ楽になった。昔なら声が死んでいた。ちなみにソレドシラソ、ソソレドシラソ、ソソレドソラソ、ソソレドシソソ、ソファミファソソ、中略みたいな変化だ。これも男だった頃「高い曲っておもろいよな」で作った即興の歌を録音したものである。


『この曲知ってる』

『知る人ぞ知る名曲よな』

『strength特集組まれた時に1回だけ流れて、ライブでも2021で披露されただけの幻の歌』

『激熱』


昔に比べてオリジナルソングが増えた。プレミアはあるかわからないけど。


「前半最後の曲行きまーす。『魚』」

この『魚』という歌は魚の名前が歌の中で使われており、リズムがいいことも知られている。お酒替え歌もあるらしい。


『めちゃくちゃ綺麗な声で童謡歌ってるの草なんよ』

『それな。子供喜ぶから、いいんよな』

『第1部を見る人がファミリー多そうだからってことで童謡多めらしい』

『あれ?ラジオで聴いたのと違うな。本音は童謡しかレパートリーがないから童謡を歌ってるって聞いた。2021strengthのストラテジーより』


『それでも、第1部の無料同時配信とアーカイブ残しは嬉しい。子供寝かせるのに使えるから』


『癖強いけど、いいのかなぁ』

『本家のよさと別のよさあるから』

『なんだかなぁ』


アッと言う間に第一部が終わった。5曲しか歌ってないように見えるけど、実際は15曲ぐらい歌っている。のちに再編集されて、CDになるらしい。カバーした歌、童謡多いけど、いいのかなぁ。


昼ご飯は所謂普通のお弁当だった。優斗の分もあった。


「前半お疲れさまでした。後半もお願いします」とスタッフに挨拶する。さて、緊張もほぐれたところでまたもう一度やるか。前半カバーソングにしようとか思ったのに、そこまでカバーソング歌わなかったな。ちなみにラストは往年の名曲『caught in a shower』である。アレンジはそこまで加えないつもりだけど、加わったら知らん。


後半は同時配信はなく、完全にライブ限定になる。後半の1曲目はウルトラ揚げ物のカバーソング『野生の花』を歌う。きっと叩かれるけど。まぁいいや。


「久しぶりに歌ってみたよ。どうかな。うまいと言って欲しいけど、リアルも欲しい。悩むけど次行くか」


そうして、次々に演奏していく。ちなみに第2部限定即興ソングの枠もあった。レコード会社にはあらかじめ説明はしてある。というより、レコード会社から「やれるもんならやってみろや」と挑戦状叩き付けられたからやった。これもCDになるらしい。


考えながら適当に歌うやつを?という疑問もあったけど。


あっという間に最終曲の「caught in a shower」を流す時が来た。だから、MCを工夫する。


「Everyone, thank you all for coming to our concert. The next one is the last. みんな盛り上がってくれたよねー」


「「「イェーーーイ」」」


「では、みんな最後の曲盛り上がっていこうぜ―――、『caught in a shower』」


「tonight, I was caught in a shower It's like taking shower It gets stronger yeah」

しっとりとしたAメロから最初のサビが来る。


「I wanna be strong there's no wrong way to live People have various color people use average to limit deference but you're the only one so, don't be afraid oh」

この曲のサビは割と歌いやすいはずだ。ドドドドシ、ララシドシラソ、ラシドドシラソ、ラシドドソラソ、ドドドドシラソ、ラシドラソという音程変化だから。


楽しかったライブもいよいよラスサビが来る。サビを繰り返しながら最後のOhのところで「oh yeah」の音を階段のように上げる。yeahだけで3段階レソレだけど全部上げている。HiD、HiG、HiHiDという音だと思う。このバージョンCDにしてカラオケに入るとしたら男性はキーをどのくらい下げるのだろう。


男性の時の感覚で気持ちよく声を出したらとんでもない音域の化け物ができてしまった。あっという間に閉演だ。そして、グッズ販売なんだけど。基本的にキーボードのNAOのグッズばかりだ。2ヶ月ではグッズ間に合わなかったし、忙しくて東京に来れなかったから。


で、グッズが無い悲しいボーカルは物販スタッフとして、紛れることにした。皆口々に「NAOさんのキーボードいいよね」とか「今日の女性可愛かったよね」とか呟いてる。


流石にバレんよな。今、来てるのスタッフTシャツだし。と思ったけど、女の子が駆け寄ってきて、「えっと、strengthさんですよね?写真お願いします」と言われたので、撮った。ついでに、サインもしておいた。


このあと、SNSを見た時に使ってる香水のサイトが止まったとか見て、「嘘だろ?」と驚いた。まさか、匂い嗅がれたなんて。ちなみに、原因は写真撮影した女の子だった。その子以外気づいてなかったから。


申し訳ないことに彼氏がいるためと説明し、男性ファンとの接触をサイン限定にさせてもらったけど、グッズ販売はするし、握手会もいつかしようと思っている。


で、片付けをして機材をもとの場所に戻す。腰痛持ちの私には結構きつい作業だった。特にアンプとかあのへんとかその辺とかが重かった。


だから、終わった後の反省会で私は「えー、本日はお疲れ様でした。皆さんのおかげで無事ライブが行えました。ありがとうございます。で、反省としましてはライブ大成功、腰痛いです。ライブは大盛況のまま終わりました。片付けは大変ですね。準備していただいた方には感謝してもしきれません。ありがとうございました。また、お願いします」と話した。


皆もそれぞれ反省会を述べていた。そこに優斗も立ち会っていた。


衣装は返して、自分の私服に着替えてから帰ってきた。で、布団で寝転がる。


腰に急激に痛みを感じ「ザッ」と声が出た。優斗は「どうした?」と心配してくれた。


「いったい。腰ァアー」

おばあさんだろうか。もともとの腰痛持ちからするとおばあさんでなくとも、腰が痛い日がある。

優斗は「お疲れ。休む?風呂は?」と聞いてくれた。

「入る。先入ろうかな。汗流す」

「はいよ。オレも行く」

「うん。一緒に行こ」

手をつないで歩く私と優斗。浴衣も持ってきた。なんか、言葉にすると薄っぺらくなるけど、幸せだなと感じる。


「また、あとでね。出たらロビーにいてくれる?」

「おう。ゆっくり入るだろ?」

「うん。そうだね。ゆっくり入ってくる」


そう言って私は女湯に向かう。今日も色々あったなぁ。リハして9時から18時までライブして20時まで物販して、

ドタバタだった。てか、9時から18時のライブって長いな。今度する時は時間考えよう。仕事じゃん。


湯船に浸かりながら、感傷に浸る。鍋の中のホウレンソウの気持ちになってきた。ヒタヒタで茹でられてる感じ。そんな気分で、自分の髪をみるとホウレンソウみたいだなあなんて思った。


まさか、こんなところでファンに鉢合わせすることも無いだろう。もし、鉢合わせしても、話しかけてくる人なんて居ないと思う。サウナに入り、水風呂に入り、露天風呂に行く。結構な時間入ってしまった。


出て時計をみると21時半だった。いい湯だったなぁと浸りながらロビーに戻り、「お待たせ」と優斗に声を掛ける。


優斗は「おう」と相変わらず短い返事だ。部屋に戻り、今日の話をする。


「ねぇ、優斗。今日のライブどうだった?傍から観てるだけになったと思うけど、暇じゃなかった?」


「お、おう。暇だったけど、アニキの声いいし、面白かった。知ってる人のライブに行く機会なんてそうそう得られるものでもないしな」


「暇だったのかよ。でも、良かった。最初童謡で始めた時なんか思った?」


「動揺したって言わせたいんだろうけど、アニキ結構童謡歌ってたから違和感ねぇよ。ライブでまでするのかよとは思ったけど」


「それな。いやー。caught in a showerもいい感じに声出たし、気持ち良かったなぁ」


「そうか。暇な時にコメント見てたけど、聞きたい?」


「どんなのがあったの?」

「ライブ最高だったとか上手いかは知らんけどいいよなとか、ライブで映った輝奈子の2次創作とか」

「そ、そうなんだ。照れるなぁ」と本当は照れて熱いだけだけど、ライブの話で、その熱気を思い出して、ちょっと熱くなってきた事にする。


だから、浴衣を外す。優斗に「なんで脱いだ?暑い?」と聞かれたから、「どちらかというとムラムラ」と下着のままで私が言うと、優斗が「マジかよ。体質わかってるだろ?この面積引けるほどタオル持ってないんだけど」と文句を垂れる。


だから私は「ど、どうしようかな。お股の上にタオルひく?」と提案する。


「すぐ落ちるだろうよ。あと、腰痛大丈夫なのか?多分エクスカリバーを秘密の花園に入れるなら痛くなりそうだけど」

「あー。考えてなかった。どうしようかな」

「ほらな。で、とりあえず寝転がる体勢が楽だと思う。で、うつ伏せで下にタオルがいいと思うけど、どう?」

「試しみる?多分それがいいよね」


とりあえず、うつぶせは痛く無かった。ただ、足を開きすぎると股関節の痛みが来る。結局どの体勢でも痛い。だから、悪魔の提案をする。


「ねぇ、キスしたい。どの体勢でも、結局痛いから」

「了解。てか、その前に準備体操とかしなくていいの?」

「確かに、ムード欲しいよね。で、何からする?」

「それを聞くことがもう、ムードないよな」

「らしいでしょ。あ、エアコン付いてるね。脱ぐからあったかいほうがいい」

「それはそう。温度上げとくか」

「うん。お願い」

この日記を振り返った時、「早く本題に入れよ、じれったい」と思った。準備体操長いよ。てか、あれかな。マット引く段階みたいな。ラジオ体操をするためにCDにラジオ体操の音源入れてる段階みたいな感じだ。早くしろよ。


エアコンの温度を上げ、毛布に包まりながら優斗の唇を奪う。ちなみにベットに2層になるようにタオルを敷いた。なんだこれ。で、私今仰向けに寝てるけど、結構重い。男の子の体重舐めてた。


「えっ、早」と優斗は戸惑っているが、そのまま舌をいれる。互いの体温が溶け込んでいくように混ざり合う。痛い。重い。


唇を離し、「ぉもい」と声にならない声で優斗に訴えかける。優斗は「どうした?」と怪訝な顔をしている。


「重い」

優斗の顔から「さー」と潮が引くような幻想が見えた。

「ごめんよ」相変わらずの「め」が上がる「ごめんよ」だった。 


「体勢変えるか?」と提案してくれたので、「うん。ありがとう」と言って、うつぶせに変わる。タオルは敷いたまま。


優斗のエクスカリバーが私の秘密の花園を貫く。痛かった。だから、全然可愛くない「いっズぅー」とか言うくぐもった声が出た。


その声を聞いて優斗は「いける?痛かった?」と腰を止める。


「結構痛い。舐めてた」

「腰か?」

「腰もだけど、体を貫かれた感じ」

「あー。和らぐかわからんけど、試していい?」と優斗が聞いてきた。想像がついたので、「うん」と私が言うと優斗は私の秘密の花園に舌を入れる。多分美味しくないと思う。


「ちょっと和らいだかも」

「そうか。無理しなくていいからな」

「うん。ありがとう」

私の言葉で優斗は、ゆっくりと腰を動かし始める。まだ、ちょっと痛いけど、優斗が気遣ってくれた事とかライブの事とかを思い出して、流れに身を任せていく。


別にそんなに大きいわけでもない優斗のエクスカリバーだけど、貫かれると痛い事がわかった。優斗のエクスカリバーも多分平均的な範囲だと思う。


性感は高まって来ると思うけど、それまでが長い気がしたので、優斗に「そういえば、童謡ばかり歌ってた気がするけど、反応どうだったのかな?」とライブの話の続きを促す。


「子供がいる人にはウケてたな。後は一般層も結構喜んでそうだった」

「そっか。よかった」

どうしよう。凄く満足して来た。優斗に「きもちいいの?」と聞くと「おう。それなりにな」と言われた。


「ごめんね。動けなくて」

「ライブで疲れた上に腰痛持ちだろ。お疲れ様」

「ありがとう」

語尾がふわふわしてきた。時計を見てみると23時くらいだった。結局一線超えて、快感を謳歌した瞬間に寝落ちした。


なんとか服を着て、「おやすみ」と呟き、落ちた。あぁ、幸せだ。幸福感に満たされて眠る。安らかな眠りだ。死んでないけど。


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