【配信】年越し
「みんなー。こん夢幻桜。あなたの年始を華やかに。夢幻桜輝奈子でーす」
朝っぱらから私は自宅で配信をしている。もちろん親には説明済みだ。流石に元旦はそこまで忙しくないだろう。知らんけど。昨日は、おせちを作らなきゃいけなかったからかなり忙しかった。
『待ってた』
『久しぶり』
『↑ 6日で久しぶりとはこれいかに』
『1週間で草』
『豚骨ラーメンさん久しぶり』
『豚骨ラーメンさんは草なんよ』
「えー、年越しそばは山かけでした。どうも夢幻桜輝奈子です」
『山かけそば好きなの?』
『山かけそばは草』
『天ぷらこそ至高』
『ざるそばもありだろうが』
『あれ、洗いもん大変だから嫌』
『飲食バイトからするとアレは洗うのめんどい』
『結構、滋養強壮系好きなの?』
「そうかも。ニンニクもウナギもヤマイモも里芋も好きだし、ニンニクの葉っぱと白味噌とみりんを合わせたヌタも好きだし」
『めちゃくちゃ滋養強壮にいいもので草。彼氏さん枯れそう』
『彼氏を枯らす女の子は草なんよ』
「枯れないと思うよ。枯れても多分復活するでしょ。私の体を何回も見てるはずなのに、いつも、「綺麗だ」って言ってくれるもん」
『彼氏自慢で草』
『主の一部分でも見てみたい』
『見れるチャンス見つけた。チケットは売り切れたけど、第一部は同時配信されるらしい』
『ソースはよ』
『ほれ、ソイソース』
『醤油じゃねぇか』
「ソイ、ハポネス。ソイ、ソース。私は日本人。私がソースだ。1月4日、つまり、3日後に東京スカイネットホールで9時開演だよ。終わるのは17時かな。セトリ今回もこだわったので見てくれると嬉しいな。配信はWETUBEでするらしいのでお楽しみに。現地勢は二部閉演後に物販もあるのでよかったら立ち寄ってね」
『冗談にスペイン語は草』
『水ヴァッサーの人だし、今更スペイン語出てきても。驚くわ』
『驚くんかい』
『どんだけ言語使えるんだよ』
「6か国ぐらいかな。阿波の国、土佐の国、日本語、英語、ドイツ語、中国語かな。ドイツ語と中国語は自己紹介くらいしかできないけどね」
『しれっと徳島と高知を日本じゃない扱いしてるの草』
「高知も徳島も昔は江戸幕府の藩だから間違ってはない。はず。今は日本と言う国だけどね」
『ドの発音が危なくて草』
『エロ幕府とかいう同人に使われそうなネタで草』
「同人あるの?見たい」
『本人が同人みたがるの新手の処刑で草』
「どんなのがあるの?18禁あるの?」
『あるよ。見ないで』
「ホントだ。あった。ああ、こういうのなんだ。ショタになるのか。あ、女体化もある。いいよね」
『同人の作者さん、本人に見られてますよ』
『strengthとかいう名前同人作りにくくて草』
『苗字を推測して書けるから可能性は無限大』
「なるほど。なら、夢幻桜を苗字でショタ巨根で作って欲しい。身長158センチ、体重53キロで、16、5、4で金的大き目のショタみたい」
『怒られろ』
「本人情報って駄目なのかな」
『16,5、4って何の数字?』
「同人作家ならわかるやつだよ。アソコのね。聖剣エクスカリヴァー」
『ものすごく力のこもったエクスカリバーで草』
どうしよう。優斗のハンドルネーム見えたんだけど。やばいって。同人の話で盛り上がってる彼女なんて
幻滅ものだよ。いやだよ。どうしよう。幻滅されたくない。あ、別に大丈夫か。昔からソウイウ話もしたもんね。
『主、表情グルグルで草』
『焦ってる輝奈子さん可愛くて草』
覚悟を決めて「ちょっと待ってね。彼氏からコラボ申請来た。せっかくだから出てもらおうかな。私も7日ぶりかな?話すのは。連絡というか、文字では話しているけどね」と言ってコラボ申請を受ける。
『主さんワクワクで草』
『豚骨ラーメンキスは知ってるけど、彼氏さん知らんかも』
『ミーハーな豚骨ラーメンキスで草』
「優斗久しぶり。ずっと会いたかった。って言ってもまだ帰ってきてないんだっけ?」という私の言葉にコメント欄では『めちゃくちゃ嬉しそうで草』とか『100年ぐらい離れてたのかな』とか来た。
「帰ってきてはいる。そっちの都合にもよるけど、一緒に配信するか?」
『彼氏さん楽しそうで草』
『裏山すぎて草』
私は「一緒に配信はしてるけど、確かに同じ場所にいられるならそれが一番。家来る?今日は家族出かけてて空いてるよ」と誘ってみた。まぁ、でも帰ってきちゃうんだけど。いつ紹介しよう。あ、別にいいや。だって家族と焼肉行ったもんね。男だった頃だけど。
「家でゆっくりしたいから来てくれたほうが嬉しい。一緒に映画見ない?」
「いいね。どうしよう。配信一瞬閉じるかそれとも、話繋いでてくれる?」
「繋げる話なんでもいいのか?」
「うん。変なこと言わなかったら大丈夫」
「変なことって何?」
「ないか。だいたい大丈夫。話すの苦手なの知ってるからコメント拾いつつよろしく」
で、準備しながら配信をリアタイしてるわけだが、男だった頃の話が物凄く恥ずかしい。
「あの時の握る力覚えてないけど、握力25は変わってないらしい」
『女の子だったっけ』
『可愛らしくて草』
『よし、同人ネタいただき』
『おい、変態』
さっきの話蒸し返すなバカ野郎。同人の話はいいんだよ。やめろよ。「くっころ」が出るぞ。割と黒歴史なんだからな。いやでも、色々あったしなぁ。カラフル歴史なんだよなぁ。色がついていないモノクロに思えてもそれがかけがえない日々なんだよなぁ。
「だいぶ前に温泉に2人で行って、その時は男だったけど、暗い道通って帰ったら、めちゃくちゃくっつきながら声がだいぶ細くなってた。可愛かった」
なんて聞こえてきて恥ずかしかった。さらには「そういえば、昔手の大きさ比べたことがあってその頃も男だったけど、小さいって言われてる俺の手より小さかった。可愛い」とか聞こえてきた。おい、ふざけるな。可愛いって言葉でいいんだけどさぁ、その頃は男だったわけじゃん。かっこいいところとかを話してほしかった。
『その人の身長は?』
「身長な俺が168ぐらいで、その人の元々の身長は158センチって言ってた。今の輝奈子と同じぐらい」
おい、身バレしたらどうすんだよ。しないけど、いや、したところで元々有名人だしなぁ。
中高で伝説を作ってきた低身長普通人は校内で知らない人がいないぐらい有名になってしまったものだ。自称158センチに最も詳しい男だった。何があったっけ。高校入学最初の実力テストで英語だけが学年2位だったこととか、実力テストでは英語は1桁順位しかとってない事とか。英語の夜桜さんと言われるレベルになったことだろうか。ちなみに帰国子女もいる中でである。
コメントで『彼女さんの可愛いところをお願いします』ときていた。聞き耳を立てながらお化粧をする。ちなみにジャスミン茶の香水もつけた。さぁ、優斗は私の一番かわいいところに気付いているんだろうか。
「全部可愛いんだけど、声がめちゃくちゃ可愛くて、芯がある強い声と儚い可愛い声が聞けて、性格が女の子らしくて可愛い。手作りの麻婆豆腐美味しすぎたし、ナス入れてたけど、目をギュッと瞑って頑張って食べてたのも可愛い。どうしよう。これだけでも多分3時間ぐらい語れるけど聞く?」
いや、髪をセットしている最中に噴き出すような事言わないでよ。三つ編みツインテにしようと思ってたんだから。あと3時間語るのは止めとけ。リスナーが疲弊するぞ。ヒアラーならいけるかもしれんけど。知らんけど。
『そ、それはいいです』
『結構です』
『ノロケで草』
言葉にしてくれない不器用め。聞かれてないと思って饒舌に語りやがって。顔真っ赤だからファンデ塗りすぎちゃいそうだよ。もし、ファンデが粉雪になったら思いっきりツッコミを入れてもらおう。
服は結局クリスマスに着た格好にした。ライトブラウンのブーツと、膝から下には茶系のファー、ダークブラウンのアウターと鮮やかな緑色のタートルネック、そして、クリスマスらしい赤色のスカートに黒いタイツを履いて優斗の家に向かう。
で、自転車に跨り優斗の家に来た。着いたから、優斗に連絡をした。1,2分待ったころ優斗が来た。わくわくしすぎて「ずっと会いたかった。寂しかったんだからね」と抱き着く。優斗は「お、おう。あの、配信」と戸惑っている。私は「そうだね。でももうちょっと優斗の胸の中にいたい。にゃ~」としなだれかかる。
優斗が「だから配信」と抱きついたままの私に言ってきた。私は「もしかして、配信に声乗ってたとか?」と我に返る。優斗は「その通り。思ったより話し続けられたから」と言ってきたのと同時に私は「にゃーーーーーー」と叫ぶ。
『鼓膜ないなった』
『にゃー可愛い』
『叫ぶときは安心と信頼と実績のある「にゃー」に決まり』
『↑どんなCMだよ』
『謎のCMで草』
「以上、ウチの彼女の一部分でした」と優斗がふざけている。私は「ちょっとどっきりなんて仕掛けてくると思わなかったよ。ひどい」と抗議する。優斗は「でもアニキ、サプライズ好きって言っていただろ?あと個人的に素のアニキの面白さを広めたい」といたずらっぽく微笑んできた。
「ずるい。怒るに怒れないじゃん。今度は優斗にも仕掛けてやろうかな」
「やってもいいけどアニキより面白い反応はできんと思う」
「それでもいいの。負けたくないもん」
『主さん可愛くて草』
『主さんみたいな彼女欲しい』
『うちも頑張るわ』
「寒くないか。そろそろ入ろうぜ」
「あ、うん。そうだね。さっっむ」
「さっむ」の声がだいぶ高かった。凍えそうな寒さだった。
『「さっむ」の声可愛くて草』
『声可愛すぎる』
『こんなかわいい声の人が豚骨ラーメン食べた後でキスしてくるの脳がバグりそう』
「ちなみに見た目もめっちゃ可愛いぞ」と優斗が自慢をかましていた。私は仕返しに「いやいや、優斗もかっこいいもん。違う。可愛いんだよ。女の子に慣れてない感じの優しさも、私を優先してくれるところも。あと、たまに淹れてくれるコーヒーが美味しいところも好き」
中に入って手を洗いうがいをする。で、座ったら優斗が「コーヒー飲むか?」とお湯を沸かし始める。私は「うん」と返事をする。
そして、ミュートを解除する。
「さっきぶり、夢幻桜輝奈子だよ。コメントめちゃくちゃ盛り上がってたね。何で盛り上がってたの?」
『ノロケ』
『彼女自慢が凄かった』
『異世界だった』
『俺の知ってる恋愛ではなかった』
「優斗、何言ったの?」
「豚骨ラーメンキスの始まりと伝説のオヤジギャグ」
思い出して顔を真っ赤にしながら「恥ずかしっ。隠して」と優斗の背中に隠れる。それに優斗が「声乗ってるぞ、配信に」と淡白に言ってきた。
「にゃーー」
『本日2度目の「にゃー」いただきました』
『にゃー可愛い』
『今北産業』
『豚骨ラーメンキス、伝説のオヤジギャグ、にゃー』
『OK、理解』
『バレンタインが楽しみ』
『それな』
「あ、コーヒー入ったぞ、ミルクいる?」
「大丈夫。ありがとう」
何口か飲んで「美味しい。ほんとに落ち着くんだよね」と優斗に感想を述べる。ちょっと安心しすぎて眠たくなってきた。
優斗は「そうか。アニキ、ブラック好きだよな」と淡白に言ってきた。私は「うん。おいしいからね。でも、カフェイン強いのかな。眠い」と話す。
コメント欄が『カフェインで眠くなるの初めて聞いた』とか『眠ってるの見たい』とかで溢れていた。優斗は「寝るなら配信切るか?」と聞いてきたけど、まだ、負けたくなかった私は「大丈夫」と返し、質問に答えようとする。
『コーヒー派ですか?それとも、紅茶?』
「紅茶ぁ」
と答えた時に、落ちた。優斗が布団をかけてくれたことだけわかった。
その頃、中津浦優斗はまだ配信を続けていた。輝奈子の寝息の音を聞きながら。その時のコメント欄はこんな感じだった。
『アバター落ちてない?』
『主落ちた?』
『コラボ相手だけ残るスタイル』
「確かにな。輝奈子は本当によく眠るよ。どんだけ疲れてんだよ、アニキ」
『普段アニキ呼びなのか』
『コーヒー飲むと寝落ちするのはホントらしいな』
『寝息可愛い』
『寝顔見たい』
『コーヒーで寝落ちするのは可愛すぎる』
『お酒とか飲まさないの?』
「飲んだことはあるけど、ホラー見てて怖かったのと薬とのかみ合わせとか考えてあんまり飲んでなかった」
『薬って何か病気?』
「病気じゃないけど、月のものが重いらしい。俺にはわからん」
『頭とかお腹がめっちゃ痛くなるし、血が出るんだよなぁ』
「らしい。1か月くらい前うちに来たときに初めて血が出たらしくて焦ってたのも可愛かった」
『そうか、男の子だったもんな』
『輝奈子さんの髪の毛の色教えてください』
「黒だよ。本人に見つからないようにしろよ」
『見つかってんだよなぁ』
『リクエストあったしなぁ』
『同人誌作家にご本人様からの許可の上にリクエストは草なんよ』
「マジかよ。まぁ、アイツ自分自身のことを知りたがる性格だしな」
『ちなみに見てたものとか気になりませんか?』
『アレ見せる気か?』
「調べた。少年が女装させられてるやつ多いな」
『彼氏に同人のネタばれるのいやすぎ』
『strengthのライブ行ったけどマジで普通の人だった』
『いつのライブ?』
『5年前、初期のライブ』
『あー、拠点が東京にあった頃のやつか』
『僧侶無双リアタイ出来た俺、勝ち組』
『で、どんな顔だった?』
『別にかっこよくもなければ、肌もそこまできれいとは言えなかった。身長も低かったし』
『才能だけの人だったのか』
『身長どのくらいだったんだ?』
『俺の肩ぐらいまでしかなかった』
『ちっちぇ』
コメントはここで盛り上がっていたと後でアーカイブを見直した私は知った。いや、私の姿で盛り上がんなよ。しかも5年前ってなんも気にせず、出かけてた時期の奴じゃん。ハズイ。
『彼氏さん、ちなみに今彼女の寝姿は?』
「めちゃくちゃ小動物見たいな体勢で寝てる。たまに凄い寝方してるけど。今は丸まってる。ホント猫みたいなんだよな」
『彼氏さんもずっと同じ方向向いてる気がする。どこ見てるの?』
「もちろん。輝奈子だけど」
『彼氏さんも彼氏さんで輝奈子さん好きすぎで草』
「うにゅー?」
輝奈子が声を上げる。中津浦優斗はそれを見る。
「どうした?起きる?」と輝奈子に声を掛ける。輝奈子は「もうちょっと寝る」と再び眠った。
『寝起き声可愛い』
『寝息配信とかいう需要しかない配信』
『豚骨ラーメンさん寝落ちがトレンド入りしてる』
『呼び名豚骨ラーメンで定着は草』
「最後に告知だけして終わるわ。豚骨ラーメンさんライブするってよ。日程も聞いた。1月4日、つまり、3日後に東京スカイネットホールでライブがある。10月ぐらいからライブは決まってたらしい。チケットは売り切れたらしいけど、多くの人に届けたいからと同時配信で第一部だけは見えるらしいので、よかったら来てねっとのことです」
『絶対見る』
『豚骨ラーメンライブをトレンドに入れようぜ』
『おう』
と大盛りあがりのなかで、配信を終えたらしい。さっき起きて聞いた。いや、なんでだよ。何があったんだよ。私寝てただけだし。ちなみに本当にトレンドに入っていた。豚骨ラーメンさん名義で。私、豚骨ラーメンじゃない。さて、しあさってはライブだ。明後日には前ノリするし、明日はバイトで働いてから、準備していく。
東京の友達でキーボードのNAOとは幼馴染ではあるんだが、見た目の変更伝えったっけ?てか、彼氏に説明してないけど、行けるかしら。何もないけど。てか、螺鈿山に言った時も親が暴走しただけだし、ライブはマネージャーから親にも予定が送られてきていたので問題はない。
また、父上が騒ぎ立てることと彼氏の紹介してない事だけが問題だ。ツーショット撮った時、私男だったしなぁ。マネージャーには話を通し、何とかしといてと丸投げした。わからないことはできる人に任せよう。