中津浦優斗から見た輝奈子9
ふと、今も配信してるだろうかと思ってミンナトラティブを開いた。途中からリアタイ出来た。
「あ、そうそう。で、彼氏への文句なんだけど、実家帰ってるんだよね。いいんだよ。私も今日も明日もバイトだし。でも、寂しい。ほんとは会いたくて会いたくて仕方ないんだけど、でも、ご実家との関係もあるし。悩むんだよね」
まさかの開幕で文句は驚いた。だから俺は『言ってくれたらズラしたよ。何で言わないの?』と単純な疑問のようにコメントで打つ。字面ではわからないと思うけど。本当に単純な疑問のつもりだった。彼女も多分わかると思う。最近だいぶ弟扱いされてる気もするし、彼女の余裕のある態度にドギマギする。
冷静に考えると、「あれ?でも、ズラすとすると帰れなくない?彼女バイトで忙しいし、俺から離れないし。一緒に帰ることになっていたよな?それって妹にめちゃくちゃ弄られるネタになりそうだからなぁ。よし、考えるのをやめよう」と思考を放棄した。
そんな事考えてたら輝奈子が「だって、迷惑かけたくないし、悩んでるの知ってるし。結婚できたらなぁって思ってるから私の事紹介してくれてたらいいなって」と語っていた。結婚したいとまで思ってくれてるのか。俺も結婚、かどうかは別にして、一緒に生きていたいとは思う。
やばい、両親に伝え忘れていた。でも、きっと輝奈子は俺が「忘れてた」って言うんだろうということまで見越していそうだ。輝奈子の事大好きなのを彼女は知ってるだろうか。
『痴話喧嘩配信かな?』
『お互いにノロケてそうで草』
『迷惑じゃないし、俺も実家に帰って来たけど、喫茶店で読んだ記事が気になって配信してるのかなっておもって今来た』
俺は一体何で来たんだろう。と言うよりものすごく照れくさい。
『いやいや、どないやねん』
『エスパー同士の会話かな?』
コメントを見ていると輝奈子と俺の心が通じ合っている気がして嬉しかった。お互いがお互いのペースを知りすぎているのかもしれない。
アニキの元彼女さんよりはわかっているのかもしれない。ただ、男だった頃のアニキと違うのは自信満々で、挑戦を恐れなくなったところだろう。昔の慎重派のアニキも良かったけど、今のアニキの方がキラキラしている。輝奈子の字が表すように輝いている。
輝奈子が「えっ?優斗、来てくれたの?どうやって?どうしよう。声乗せていい?同接めっちゃ多いけど。苦手でしょ?」とテンションを上げている。相当意外だったのだろう。
それにしても、さすが輝奈子よくわかっている。俺が人の多いところが苦手ということを。でも、1つだけ彼女が知らないことがある。それは、いつでもそばにいたいほど彼女のことが好きであるということだ。
だから俺は今更だと思うけど、『いや、いいんだけど。彼氏バレとか大丈夫?』とコメントする。
『彼氏さん登場で草』
「大丈夫だよ。てか、アカウント作ったんだ。もしかして私と配信しようかなって?」
『違うとも言い切れん。で、どうやってコラボするん?』とコメントしたけど、きっと彼女はやってくれるならやってほしいと言って丸投げしてくるはずなので、パソコンでコラボの仕方を調べる。ちなみに始めた理由は昔アニキと「一緒に配信してみたいね」と話して、アニキのホラゲ実況を横で見たいと思ったからだ。
叫ぶ輝奈子の可愛さをぜひ世の中に広めたい。あれは可愛いぞ。
「どうしよう。やり方知らんのよなぁ。とか言って調べてくれてるんでしょ?」
ほら、出た。やっぱり彼女はそういう人である。相変わらず丸投げだよ。
だから俺は「これで行けたか?」とコラボ申請を送った。輝奈子は「うん。大丈夫。えっと、うちの彼氏の優斗、君?です。めっちゃ可愛いの。ほんとに」と自慢している。
おい、君のところで疑問感じるなよ。俺、男だぞ。どういうことだ?そう思って俺は「おい、やめろ。可愛いは違うだろ。かっこいいではないのか?」と返す。
「うーん。男らしい見た目でかっこいいんだけど、反応が可愛いから可愛いかな」
反応が可愛いって何だろう。そんなに可愛い反応した記憶はない。
『夫婦漫才おつ』
『彼氏さん頑張れ』
『尻に敷かれるタイプだな』
ああ、そうだろうな。俺は尻に敷かれてるよ。
「やっぱり可愛いなのか。それを俺の数倍、いや、数百倍可愛い輝奈子が言うのか?」
自分の言葉に頬が赤くなる。ちょっと離れたけど思ってくれてるとめちゃくちゃ嬉しい。
『輝奈子呼び慣れてて草』
『ワンチャン本名説』
『打ち合わせなしで、このクオリティならすごい』
あ、やべぇ。本名バラしてしまった。まあ、俺もばれてるしお互い様だ。打ち合わせなんてしていない。していたら今この状況は無いだろう。
「えっ?優斗のほうが性格可愛いし、反応可愛いし、初心な所も、不器用な優しさも大好きだし、可愛いんだけど」
コロコロした可愛い声で俺をかわいいとかいうな。仕返しに「いやいや、輝奈子のほうが守りたくなる可愛さあるし、その、色々と可愛いかったし」とあえて「色々」のところで意味ありげに止めた。ソウイウコトを想起させるためだ。
想起の事をアネムネーシスとか習った気がするが、輝奈子の場合は「姉御、胸ある―尊死す」だ。それなりにあって尊死しそうではある。
『彼氏さんの色々の発音が意味ありげで草』
『ヤッたんじゃね?』
「それはまだ」
コメントの邪推に2人の声がハモってしまった。これにコメントでは『息ぴったりで草』とか『夫婦漫才がホントの夫婦かもしれない』とか書かれた。不本意だ。まだ、夫婦じゃないし。
2人して、顔が赤くなっていることだろう。アバターだから分からないけど。沈黙しちゃったよ。で、数秒の沈黙の後、「だって、危ないもんね。まだ」と輝奈子がが話したので俺は「確かに学生だとな。しかも、就活ってか就職するもんな」と返した。
『年齢バレで草』
『エルフさん25歳説』
『↑エルフって何?』
『なぜエルフ』
『初回配信のアーカイブ見てこい』
マジでなんでエルフ?ああ、初回配信のあれね。江戸時代から生きている設定ね。ちなみに、あの時も少しばかり『ろ』だった。いや、まあまあ『ろ』だった。エロ時代に近い発音だったから気を付けろ、輝奈子。
「エルフは年取らないから分からない。アラウンドその辺かな。そろそろ血圧とか腰痛とか肩こりとか気になるんだよね」
「アニキ昔から肩と腰の痛みと血圧言ってなかった?」と俺がぶちかましたら、輝奈子は「ちょっとそれは違うじゃん。2人きりのときはいいけど、私、女の子なんだよ」と膨れる。
2人きりの時は許してもらえるのかと、その特別扱いに優越感を覚えてしまう俺は嫌な奴だろうか。
『アニキ?』
『エルフさん男説』
『男にしては名前のセンス良すぎ』
『闇桜の輝奈子実在した説』
『男から女になるのは小説だけだろ』
『男の娘だとして、どんだけ可愛いんだ、輝奈子さん』
「男の子じゃない。っともいい切れんのか。元々男の子で変わったもんね。うん。でも、今は女の子だから」と口から漏れてたので俺は「言ってよかったのか?アニキが美少女になったこと」と冷静な感じで言った。そして、「えっ?口に出てた?うそ、にゃーー」と輝奈子名物である救急車叫びが炸裂する。
コメントでは『にゃーー可愛い』とか『可愛いけど、うるさくて草』とか『鼓膜なくなった』とか書かれていた。わかる。めっちゃ可愛いよな。
『ここまでの話総合すると、ある日男の子だった主が、女の子になって、彼氏ができてナウって事か。で、闇桜の輝奈子が主説が出ると』
『今北産業』
今北産業の意味わかる世代って、この配信くるんだ。ちなみに、「今来たところ、3行で要約して」という意味らしい。
『男だった主、女になる、彼氏できてナウ』
『サンクス』
俺が茶化して「ほら、主人公挨拶しなさい」と言うと、輝奈子は「もう、帰ってきたら思いっきり抱きつくし、キスもするから覚悟してよね!」と膨れる。そのあと続けて、「えー。主人公の夜桜輝奈子役の夢幻桜輝奈子です。きっと声優も私になります。えー、アニメ化は未定です」と挨拶していた。茶化しに乗ってくれる彼女が可愛くて、また、弄りたくなってしまった。
『ガチのリアル日記だったのか?』
『いや、作者がノンフィクショナルフィクションフィクションって言ってた』
「それらしいぞ。ノンフィクショナルフィクションフィクション。意味は輝奈子に聞いてくれ」と俺がコメントを拾う。俺も聞いて意味が分からなかったけど。初見で意味わかるのだろうか。ノンフィクショナルフィクションフィクション。めちゃくちゃくしゃみしている人に思えた。
ちなみに彼女の好きな『吾輩は猫である』に出てくるのは、くしゃみ先生らしい。彼女のせいで色んな知識が身についてしまう
輝奈子は「こう、限りなくリアルだけど、リアルじゃない、フィクションみたいな感じ。だから、ノンフィクショナルフィクションフィクション。ノンフィクション的なフィクションの小説です」と説明していた。
『説明されても分からなくて草』
だよな。初見殺し。
『strength主人公説が出るわけか』
『strengthの由来聞きたくない?』
『↑それな』
「由来ねぇ。中学の時、いじめられてて。このときは男だったんだけど。性的ないじめ受けて、強さが欲しいし、あと、リアルネーム以外で、ゲームのキャラ名前つけるの困ったからstrengthにした」
「らしいぞ」
『壮絶で草』
『最初の壮絶さからのゲームの名前に困ったからとかいう適当さに草』
本当に「それな」である。
『彼氏さんとの出会いは?』
「えっとこれ言っていいのかな?優斗」と俺に確認する。輝奈子のほうが慣れてると思うけど、なんで俺に聞くの?俺は「輝奈子がいいならいいと思う」とあくまで輝奈子に任せるスタンスだ。
輝奈子は話すことに決めたらしい。
「元々男の子だった時に男子トイレで隠れてる?優斗を見つけて「1人で寂しくないの?」って聞いたのが始まりかな。その後半年ぐらい経って「あのときは。ごめん」って謝ってきて、ナウかな」
俺は思わず「後半のほうが大事だと思うぞ」とツッコミを入れた。
「ねぇ、優斗。どこまでリアル話していいと思う?」
「アニキの話せるとこまででいいんじゃない?」
「それだとガチリアルになるけどいいかな?なんかあったら守って」
「おう」と、俺はいつも通り短い返事で返して、輝奈子は口を開く。コメント欄には『wktk』とか『kwsk期待』とかが溢れていた。ちょっと世代上な気がする。そのネタわかる輝奈子はネット依存だろうか。
「strength記念日に女の子になって、そこから数日で付き合い始めたよね?」と私が急に話を振ると来ると思ってなかったのか俺は「お、おう。めちゃくちゃ可愛いかった」と返した。
『彼氏さん押されてて草』
『彼氏さん推しになりそう』
『お姉さんがイロイロ教えてあげるよ』
『↑変態湧いてて草』
「で、えっとイロイロあったね。付き合い初めたのって何でだっけ?私、これ俺に聞いた記憶ないんだけど。ちなみに私は男の頃から、ずっと男らしくて、かっこいいなって思ってた。手も私より大きいし、背も高いし、ハリウッドっぽいし」
「最後のハリウッドっぽいしって何?」と俺がツッコミを入れてきたので「顔がハリウッドっぽい。で、何でなの?」と返しておく。
「告白のときにも言ったけど、まず、輝奈子の見た目に一目惚れして。いや、アニキが女の子なったと知って、友達として支えようと思ってた時に、輝奈子さんに一目惚れして、付き合い初めたような気がする。まさかほんとに女の子になる日が来るとは思わなかった」
私は終始顔真っ赤で聞いていた。確かに聞いたことを思い出した。けど、あの時はちょうど生理かぶってて、ほわほわしてた時に言ってきた言葉だからフワフワしてた。今日も多少あるけど、まさかこんなド直球に来ると思わなくて顔が深紅に染まった。
『ガチの闇桜で草』
『設定の無理がありそうなところがまさかのリアルだった』
「あっ。これ優斗への質問だよ。『彼氏さんに質問です。夢幻さんの可愛いところはどこですか?』だって。どのなの?」
輝奈子は質問を読んで俺に話を振る。俺は「自分でも分かってるだろうけど、胸が割とあるのと、1日に何千もの商品を登録してるとは思えない小さな手と恋人繋ぎした時の握力とカラオケで、はしゃいで、ぴょんぴょん跳ねてる時、あと、寝顔」と返した。とりあえず、帰ってきたら一発ビンタされる覚悟を決めよう。
予想通り輝奈子は「1番に、おっぱい出てくるのってどうなの?それに平均より、ワンサイズ大きいぐらいだし。まだ使ったことないでしょ?」と膨れる。
この時コメント欄が爆速で流れていた。
『とんでもない暴露で草』
『身長によってはロリ巨乳では?』
『寝顔知ってるなら事後では?』
『プラトニックな関係もあるのか?』
『結構色々してそうだけど』
『この前持ち帰りされたって聞いたけど、そのあと何があったのだろう』
俺は「揉ませてくれたことあっただろ?あと,個人的に最後になったけど、おっぱいよりも寝顔が可愛かった。最後に言ったほうが衝撃になるかなって」と言い訳をする。本当は一番に思いついたのが胸だった。想像できるか?あの、ふわふわ感。揉んだ時の衝撃は忘れられない。
願わくばビンタじゃなくて思い切りキスになるといいな。
「そうだね。そういえば最近揉んでもらったわ。ストーカーに胸揉まれて怖かったから。あ、あと、俺の指でイカせてもらったこともあったね。ストーカーに触られて気持ち悪かったから」
これはセーフだろうか。
『ストーカー羨ましくて草』
『ウィスパーにハッシュタグでパンツの画像あったぞ』
『↑有能で草』
悲しき男の性で調べてしまった。確かにあの時見たパンツだった。そういえば、告白の前も同じだった気がする。違っただろうか。男の性とは悲しいもので、覚えておきたい、きれいな思い出より即物的なおっぱいや肌を思い出してしまうのだ。今も少しばかり彼女の裸体が頭に浮かんでくる。
『でも、彼氏さん物凄く得してて裏山』
あの野郎、何やってんだよ。いや、あのクソ野郎、ストーカーだからふざけるなと思うし、何でウィスパーにあげるかな。しかもstrengthをハッシュタグにつけて。いや、彼女もやりそうかもしれない。彼女もやり返しに容赦がないのでストーカーを社会的に終わらせそうな気がする。幸運は祈らないけど、ドンマイ。
俺は「言ってよかったのか?ストーカーのこと」と輝奈子を心配した。輝奈子なら「思い出して少しフラッシュバックしたけど、フラッシュでピカッとして今現実にバックしたので、モウマンタイだ」とか言いそう。彼女の2割ぐらいは親父ギャグでできている。
「いいのいいの。あと、ウィスパーに乗ってるパンツ確かに私のだけど、売られても買わないほうがいいよ。ストーカーの体液付いてるかもだし。ちなみに履き心地はいいよ。案件ではないけど」
『了解』
『両方の体液付いてるとしたらお得じゃね?』
『変態がいて草』
「変態さんはダメですよ」と輝奈子が言ったので、俺は「ぷにぷにで可愛かった」とぶちかました。輝奈子は「ダーリンだめだよ。変態さん」と言って欲しいセリフをくれた。アーカイブを何度も見返す決心をした。
「おつ夢幻」
「えっ終わるの?ああ、バイトか。頑張れ」
「ありがとう。またね」
そういって彼女は配信を閉じる。そうだ、今度はこっちからやり返してやろう。彼女の可愛いところはいくら語っても語りきれないほどにある。
楽しみだ。