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輝奈子がいない日の中津浦優斗

当たり前のようにいた輝奈子がいない日は、喪失感に襲われる。週の半分は一緒にいる気がする。残り半分は1人で過ごすわけだが、結局、飯を食べに行ったり、色々調べものをしたりするぐらいしかない。俺は人と話すのがあまり得意ではない。輝奈子とだって、うまく話せているか本当は不安だ。


彼女が俺を好きだとアピールしてくれるから成り立ってるけど、そうでなかったらうまくいかなかっただろう。俺は彼女にうまく感情を伝えられているだろうか。昔から感情を表出するのが少し苦手だ。アイツはどうしてあんなに明るくいられるのだろう。アイツの辛さは俺が一番知っていると思うが、決してあんなに笑顔で居られる境遇ではない。親と仲はいいらしいが、喧嘩するとお互いの性格がかみ合わずに行き違うらしい。


アイツ、結婚とか考えているのかな?せっかく離れたのに輝奈子さんの事ばかり考えている。もし、結婚とかしてくれるなら、一生守り続けたい。ああ、なんか会いたくなってしまった。ただ授業が休みだし、お互いバイトがあるから会わないだけなのに会いたくて仕方がない。


でも、彼女は俺と違って大変な日かもしれない。なんて考えているけど、休みの日に連絡するのが怖いだけである。俺は意気地なしだ。そもそも安定してるならまだだと思う。だって、告白受ける前の日に来てたはずだから。


あれから数週間経った。濁流に呑まれた感じがしたというのが正直な感想だ。あの時から俺は、男のルーティーンが増えてしまっている。初めて恋人繋ぎをしたときは彼女の自然な香りに包まれて、もともと男だったことを知っているのになぜか受け入れてしまったし、キスの時も男だと心の中で知っているのになぜか見た目の情報しか処理ができなかった。


アイツが悪いんだ。俺の心をかき乱してくるから。でも、離れたくないし、守りたいし、ずっとそばにいたい。だって、今まで見たどんな人よりも可愛いし、1番近くにいてくれた親友だし、何より初めての彼女だから。そしてきっと俺の初めてをささげることになる女の子だから。そうだよ。俺はサクランボだよ。そして、輝奈子の勢いに錯乱坊しそうだよ。ちょっと乱れすぎか。マジで、彼女は海だと思う。


普段は穏やかだけど、雨が降ると増水して、地震が起きるとすべてを飲み込む波になって。だから、彼女を怒らせたくない。彼女は少しばかり周りに期待をしすぎている部分がある。きっと彼女が能力を持っているのにそれを適切に評価できる自尊感情がないからだろう。


実際、アニキに彼女がいた時は、「察してくれなかった」と愚痴を聞かされた。何でアニキは俺に言ってきたんだろう。今思っても不思議だ。なぜ、彼女の愚痴を彼女がいない俺に言ってきたのだろう。俺は、マジで嫌味かと思ったけど、アニキは天真爛漫で複雑怪奇、奇想天外なところがある。


多分、元アニキつまり今の輝奈子さんなら「ふわふわで、めんどくさくて、ぶわーっとしたアイデアとか行動があって、ドゥワーって動く的なことでしょ?」と言ってくるのだが、想像できて理解ができてしまいそうなところに浸食されたなぁと感じる。ちなみに浸食作用はEROSION(イローション)と言ってエロスのイオンて書くんだよと輝奈子が教えてくれた。更にいうと彼女がピンクな妄想をして、「私の花園で優斗のエクスカリバーを侵食することはあるのかな」と言っていた。俺は引いた。


この単語にあの意味付けたやつ頭湧いてるわ。いや、アニキの妄想力がおかしいのか。ウチの彼女は元々は男だったが、完全に女の子としか見えなくなってきた。確かにかわいらしくあろうとするところは昔からあったし、女の子みたいな裏声も可愛かった。


最後にアニキとカラオケ行った時の声もかっこよかった。てか、アニキとカラオケ行った2週間ぐらい後に輝奈子さんになって現れた。女の子になる前の週も一緒に映画を見て、バカ話をしていた。あんときはまさか本当になるなんてお互いに思いもせずに、「俺、女になったらどうなるんだろうな」とかいうアニキの問いに「変わらんのちゃう?」と返していた。で、確かに「美少女だったらいただくかも」みたいなニュアンスの話はしたけど、どうしてこうなったんだろう。


たまにニュースを見ても今のところアニキしかあの例はない。アニキに勧められたTS小説なるものを読んでもアニキの作品以外こうは、なってないし、現実でこれ起きたのはアニキだけである。急にアニキに戻られても困る気はするし、かといって輝奈子さんのままだと心臓が持つ気がしない。


テクノブレイクかハートブレイクかダブルブレイクを選ぶ日が来るかもしれない。多分1番目が最有力だ。この前出かけた時も初キッスを奪われて豚骨ラーメンの味がした。でも唇も舌も柔らかくて、いい匂いがした。結構多くのラブストーリーとか韓流ドラマとか見るけど、初めてのキスがディープキスでしかも豚骨ラーメンの後と言うのは見たことがない。少なくともリアルではあるのかもしれないが、豚骨ラーメンにニンニクがんがん入れてそのあとにファーストキッスと言うのはニンニク以上にパンチが効いていると思う。どんなパンチラインだよ、豚骨ラーメンキッス。


もちろんこれは啓一郎にも話したし、東畑にも話した。東畑は「うちも彼女いるけど、豚骨ラーメンの後はしないかもなぁ」と苦笑していた。だろうよ。


そういえばこんなこともあった。アニキが初めての女の子の日に戸惑ってた時も下着でそのまま出てきたことがあった。多分ホラーを見ることで頭がいっぱいだったのだろうが、鼻血が出るかと思った。輝奈子さんにはもっとご自身の魅力を知っていただかねばなるまい。それもそうだし、下着握りしめて涙目になっているのもよく考えるとやばい。意味が広いやばいでしか表せない、まずさ、美しさ、心を奪われる魅力、背徳感。見てはいけないものを見てしまった感じ。


絶対自分から二股をかけることはないけど、輝奈子さんに振られて、別の人と一緒になることがあったとしても、この思いでは消せないし、1か月も経たずにこんな関係にはなれないと思う。ちなみにあの時着てくれた俺のパジャマは翌日洗濯する前に少しだけ匂いを嗅いでしまった。「男なんだ、許してくれ」ともしあの時のことを輝奈子さんが責めてきたら言おう。めちゃくちゃいい匂いがした。


もちろん。トイレに駆け込んだ。早めに起きてよかった。もしあの時見られていたらと思うと怖い。彼女の寝顔も可愛い。造形美と言う意味では美しいが、美しいという言葉の持つ大人の妖艶さ、艶やかさ、というニュアンスよりも可愛いという言葉のニュアンスが近い。もっと言うとひらがなでの「かわいい」が1番しっくりくる表現になるのが彼女の寝顔だ。何度か彼女の頬をぷにぷにと触ってしまったことがある。ダメだ、男の妄想力ってなめちゃいけない。思い出すだけでムラムラしてしまう。


今日バイトなのに。今週の月曜日と火曜日にはお出かけをして結局なぜかペアルックの服を買ってしまった。なぜ買ったのかは思い出せない。たまたまサイズがあったし、よく見たらメンズだった。まぁ、多分輝奈子さんも着る勇気ないだろうし、まだいいかなと思い、しまっている。


でも、喪失感に負けてバイトに行くときに着ていくことにした。かすかにジャスミンの香りがした気がする。そんなはずはないのに。調べものをしていても「彼女は何をしているのだろう」とか「もうすぐバイト行くのかな」とか「どんな話するのかな」とか考えてしまって全く手につかない。


いつも通り「お互いにバイト頑張ろう」とTXTが来た。俺は、「おう」と送る。何も変わらないし、特に何か能力が上がるわけではない。でも、彼女がこう送ってくれるだけで頑張ろうと思えるし、仕事の効率も上がっているから驚いてしまう。


どうしよう。今でも頭では男だとわかっているのに離れられないし、もう女の子としてのアニキを受け入れてしまっている。アニキは男としてはモテ無かったが、女の子になった瞬間化けた。俺は、初めて会ったあの日から輝奈子に一目惚れしていた。アニキだと知ったから離れたかった。逃がしてくれなかった。そして、いま、ヤマアラシのジレンマみたいな事になっている。


男だと知っていた。でも、彼女は可愛いし、今は女の子だし、ふわふわな握力が可愛すぎるし、また、握らせたいとか思ってしまう。


誰かたすけてくれ。このままどれほど我慢させられるのだろう。いつもギリギリまで攻めてくるのに最後まではしてくれない。しかも、いつかはしてあげるからと約束はされているのだ。


何か彼女に似た抱き心地のものはないだろうか。男のルーティン用の道具を使ってもあの手の感触にはかてない。イケナイコトさせてるような背徳感とかぎこちないような握り方とか、サワサワと撫でるようなふわふわ感。


俺には1つ彼女に謝りたいことがある。彼女の飲みかけのお酒を飲んだのは良かったが、その後何度も、彼女が飲んでたお酒をバイトが終わる日曜日に飲んでしまうことだ。


なんだろう。別に彼女がそのお酒を飲んだのは1回だけなのに、しかも俺酒弱いのに、なぜか彼女に満たされてる気がして飲んでいる。


なんで、彼女が俺を好きで居てくれるか分からないけど、俺もなんで彼女が好きなのかは説明できる気がしない。顔が可愛いってのもあるけど、なんだろう。フィーリングとか性格とか、握力とか。儚さとか?エロスとか?


彼女は一部分を除いて凄く華奢だし、軽い。尻軽ではない。足も軽くはない。武士でもない。体は軽い。が、腰は重いらしい。女の子独自のものも重そうだし。全体を見渡すとプラス・マイナスゼロだな。

 

なぜ、何度見ても彼女の寝顔に飽きないのだろう。ただ、ぐーすか寝てるだけなのに。確かにイビキはないし、顔は可愛いし、上下してる胸も可愛いし、足も、全てが可愛いからだろうな。


バイトに行くと、珍しく先輩に「おう。オシャレになったな。彼女でもできたか?」と聞かれた。俺は、照れくさかったけど「そんなところです。振り回されて大変ですよ」と答えておく。


先輩は俺の肩に手を乗せて、「頑張れよ、さぁ、シゴトだ」と言ってレジに立つ。俺は、「はい」と答え、品出しをしたり、レジに立ったりする。最近はおでんがよく売れる。


出汁の香りが殺人的にお腹を空かせてくる。それでも、まだ耐えられるが、頭の中に輝奈子が出てきて、「煮干し告白っていいよね?」と問いかけてくるのが1番嬉しくてキツイ所だ。


活力にはなる。だが、だからといって煮干し告白はやめてくれ。吹き出しそうになるから。そして、目の前に集中し、また、輝奈子が頭に出てきて俺のエクスカリバーを握ろうとする映像が流れてくる。


やばい。侵食されてる。寝食を忘れるくらい、侵食されていくかもしれない。あぁ、最近語彙力付いたなぁと思ったけど、輝奈子のオヤジギャグのせいだった。


オヤジギャグで語彙力増えるのってどうなんだろう。可愛いけど、オヤジギャグで台無しなんだよなぁ。あと、風呂に一緒に入って来るのも可愛すぎて迷惑だ。いや、でも、嬉しいし、そんなに好かれてるのは悪くないし。


最近の活力だなぁ。なんて考えながら仕事してると知らぬ間に終業時間だった。ルーティンだからできたけど、どんだけ早いんだよ。彼女って凄いな。


『寒空に君思ふ』なんて表現を彼女は使った気がするが、いや、何かの引用か?分からないけど、ぴったりきてしまう。


雪なんて降ってないのに見慣れた風景に輝奈子が溶け込んできていた。先輩が「どうした?悩みか?」と聞いてきた。俺は「最近彼女の幻影が見える気がして」と答える。先輩は「彼女さん亡くなったのか?それともストーカー」と聞いてくる。俺は「どっちでもないです。ただ、彼女が可愛すぎてひと時も忘れられないです」と答えた。


先輩は「そうか。ベタ惚れって奴だ。忘れるなんて無理だから、仕事だけちゃんとしてくれりゃいいよ。思い出いっぱい作って聞かせてくれよ。うちはおばさんと若い兄ちゃんしかいねぇからな。私以外」と冗談を言ってくる。


俺は、心の中で、あんたもおばさんでは?と考えるけど、口には出さない。だって、若く見えるから。歩いて帰って、うちに着く。


輝奈子から「お疲れ様。おやすみ」と送られてきていた。俺は「お疲れ様。おやすみ」に加えて、おやすみのスタンプを送り、眠る。夢でも輝奈子が出てきた。どんだけ出たがりなんだよ。でも、いい夢だった。おやすみなさい。











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