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親と飲み会とストレス

相変わらず痛い。寝返りを打ち、首と肩と腰の痛みを感じる。最近のトレンドである「ぃえアッヅぁ」という声とともに目覚める。優斗は「おはよう。眠り姫、相変わらずか?」と料理の手を止めた。


私は「うん。ちょっと痛い。私もなんかできることない?」と聞く。なんか、いつも居候してるみたいで、少しだけ申し訳なくなってきた。優斗は「なら、好きに過ごしてて」と冷たい事を言う。でも、これはきっと、「気を使わなくて良いから、彼女で居てほしい」ということなのだと思う。私の勘がそう言っている。


昨日の夜、私の親が「父さんと飲みに行ってくれば?」と送ってきた。はぁ、ありがたいけど、めんどくさい話だ。何週間か前に一緒に飲みに行った時も私は父を送るため運転し、父のどうでもいい小言に耳を傾け、少しも楽しめなかった。料理は美味しかったし、親の金だから文句は言えないけど。


本当は飲みたい気持ちもあるし、ありがたいが、腹が立つ。そんな様子の私を見て優斗は「どうした?何かあった?」と聞いてくれた。私の心は少しばかり弱っていたのだろう。


「父親とお酒飲みに行くの。でも、小言うるさいし、運転に文句つけてくるし、母には「あなたが受け止めてあげてね」とか言われるし」と涙が溢れ出す。優斗はそんな私の肩を抱いて「そうか。辛いよな。大丈夫とかは言わない。どうしても行かなきゃいけないのか?」と聞いてくれた。


私は「行きたいのは行きたい。でも、父親って私の事わかってくれないんだもん」と言う。溢れ出した涙は留まることを知らず、優斗の肩を濡らす。優斗は黙って抱き締めてくれた。彼の厚い胸板が安心感をくれる。どれほど泣いていたのだろう。


優斗は「アニキ泣けるんだな。あまり弱み見せないけど、無理しなくて良いからな」と抱き締めてくれる。ちょっとだけ痛いけど、でもこうしていてほしいと思った。私は「なら、お願いしてもいいかな?肩と腰と首が痛いの。揉んでくれる?」とお願いし、寝転がる。猫だけに?いや、猫じゃねぇし、猫じゃらし振られたら、にゃーにゃー言いそうだけど。


優斗は「おう」とだけ言って、肩と腰を揉んでくれた。気持ちいい。私は「にゃー」、「ふにゅん」と蕩けている。いや、溶けている。猛暑日のアイスクリームみたいだなぁなんて思ってる。


彼の握力って強いなぁ。私のぷにぷにハンドでは実現できない強さを感じる。男の子って強いなぁ。気持ち良い。眠くなってきた。二度寝しようかな。


多分夢の中だけど、優斗が「俺の胸に飛び込んでこいよ」と言っていた。私はそのまま胸に飛び込んで「大好き。ぎゅ~。優斗は私のものだから」と主張する。


次の瞬間ゴーンと重い音がした。押し入れで頭を打ったみたいだった。優斗が飛んできて「大丈夫か?」と声をかけてくる。私は「大丈夫。優斗大好き」とふわふわ言いながら、しゃがんだ優斗の肩に手を伸ばす。


優斗は「寝ぼけてるな」と言いながら、私の体に布団をかける。こんな瞬間が嬉しくて愛おしい。父と飲みに行く不安は減ったけど、これから1週間以上優斗と会えなくて声も聞こえないと思うと寂しくて、立ち上がって優斗を抱き締め、優斗の背中とか毛の生えたお腹をさわさわする。個人的におヘソの下がお気に入りだ。ドサクサに紛れてさらに下に触れようとしたら、優斗に「それはお預けだ」と言われた。


私は少し焦れて、「やーだ。1週間も会えないんだもん。優斗を感じてたいの」と我儘を言ってみる。優斗は「そうか。なら、俺も輝奈子を触っていいのか?」と聞いてくる。私は「もちろん!」と言いながら、優斗のエクスカリバーに手を触れる。この感覚だと噛み締める。優斗は私の胸をもんでいる。


心が満たされていく。今度はエクスカリバーを回したり、振ったりしている。だんだん硬さと大きさを増していく不如意棒を掴んでくるくるする。このサイズが良いんだよなぁと噛み締めている。優斗が「それ以上は出そうなんだが?」と余裕をなくしている。今日はまだ大丈夫そうだ。いや、でも、月末だしなあ。そろそろかな。それでも、優斗の味も覚えておきたい。


私は優斗のエクスカリバーを鞘から抜いてピンク色の部分に触れようとする。まだ、完全には封印が解けていないようだった。なんかとってもきれいなピンク色をしていた。確かにいつも洗い落として上げてるけど、多分そういうことだろう。触れないでおいてあげよう。朝っぱらから何をしてるんだろう。なんて思いながら、ピンク色の部分も愛撫する。彼のものから魔法が放たれた。


私は少しだけ手に付いたものをペロっとする。優斗は慌てたように「それはバッチィだろ。やめたほうがいいと思う。体に異変起きたらどうする?」と矢継ぎ早に聞いてくる。彼の口から「バッチィ」が出たのが面白くて吹き出してしまった。


私は「大丈夫。多分今日じゃないし、いけると思う。いけなくても責任取ってくれるでしょ?」と放つ。優斗は「おい、それは。責任取るつもりでは居るけど、まだ、背負い切る覚悟はできてないから。なんかあったら病院行けよ」と言ってきた。そんなに心配してもらえるなんて愛されてるなぁと感じる。私も優斗への愛なら負けない気がする。


私は「で、今日なんかあったっけ?」と聞く。優斗は、「あの授業取ってたよな?」と言ってきた。そういえば、授業あった気がする。私は「うん。取ってる。行こ」と声を掛ける。行ってから休講だったらそん時はそん時だ。


着いてから私は「あれ?そういえば月曜に振り替えだったっけ?」と問いかける。優斗は「あ、そういえばそうだったかも」と言っている。私は「2人ともポンだね」と笑いかける。優斗は「そうだな。せっかくだし、学食でも行くか?」と言いながら私の手を引く。


私も「うん。そうしよう」と言ってついていく。そして、案の定?空いてなかった。今日全学部休講だったんだぁ。私は「空いてなかったね。もしかして全学部休講だった?」と聞く。優斗は「そうだったかも。確認不足ですまん」と言っていたけど、私は「そういう何気ないことが楽しいんだよ」と悪魔のような天使の笑顔を浮かべる。優斗は「そうか」とだけ言って手を繋いでくる。どうしよう。優斗のガッシリとした手の感触にムラムラして、イキたくなってしまった。彼の指ってどんな感触なんだろうとか、男の子の手って本当にかっこいいから男の手で触れてもらいたいとか脳が沸騰していくのを感じる。


なんてことを考えていたら「さっきから上の空みたいだけど、なんかあった?」と優斗が聞いて来た。私は「ムラムラしてきた。優斗の指でイってみたい」とカミングアウトする。今日もまたやってしまうのだろう。優斗は「えっ?マジ?」と焦っている。その反応が初々しくて、私は「うん。その反応可愛くていいな」と微笑みかける。きっとまた「悪魔の所業」なんて言われるんだろうな。


そんな会話を外でしていたことに気付いて私は頬を染める。優斗はそんな私を見て、「アニキってほんとに強いよな」と呆れたような平坦な声で呟く。私は「だから、困ってるの。もう少し抑えられると良いんだけど。ストレスでも抱えてるのかな、私」と訴える。いつも通る公園に着いて優斗は私を抱き締めてきた。優斗は「これじゃダメか?」とズルい笑顔を浮かべる。


私は「ダメじゃないんだけど。足りない。離れるには足りないの。寂しさが溢れちゃう。だから、一緒にしてほしいんだけど」と目を潤ませる。我ながら、あざといなぁ。でも、私知ってるもんね。私って超美少女だから、この目でイチコロだと。自分で言ったら痛いから言わないけど。  


優斗は「わかった。帰ったらしてあげるからコーヒーでも飲みに行かない?お腹空いてるだろ?」と私を誘う。私は「確かにお腹空いたからなんか食べて帰ろっか」と応じて、有名なカフェである、オオメダマコーヒーに向かう。


いつも思うけど、オオメダマコーヒーってめっちゃ怒られそう。ちなみに、そこの看板メニューは「くらえ、オオメダマコーヒー」である。なんでも、良くないことをしたなぁと後悔する時に飲むと心に染み渡るらしい。


そんなを思いながら、オオメダマコーヒーに着いた。優斗の手はガッシリでやっぱり痛い。ちょっとの距離だけど、手が潰れそう。


優斗は「何頼む?」とメニューを優斗の方に向けながら言う。私は「それじゃメニュー見えないよ」とツッコミを入れる。優斗は「悪い。あまり来たことないからメニュー見てた。何食べる?ピザ?」と聞いてくる。私は「そうだね。ドリンクは「くらえ、オオメダマコーヒー」かな。ピザ美味しそうだし、そうしようか」と返す。


「くらえ、オオメダマコーヒーってなんだ?どこまでがメニュー名!?」

驚いたように大きな声で聞き返してくる優斗に吹き出しそうになりながら、「「くらえ、オオメダマコーヒー」までがメニュー名」と返す。優斗は、「なんでだよ。もっとあっただろ、名前」と返してくる。私は「私に言われても。それがメニュー名だから仕方ないじゃん」と声を震わす。カラオケの判定ならギリギリビブラートにならないだろう。


「注文しよう」と優斗が呼び鈴を鳴らす。私は指が震えてなかなか押すのに勇気いるなぁと思っていたから、押してくれた優斗にリードできてかっこいいと思ったていた。決してカッコつけさせてあげようなんて思っていない。


「このコーヒーとこっちのオオメダマコーヒーとピザお願いします」と優斗が注文する。私何もできていない。でも、「任せられるなら任せてしまおうホトトギス」という生き方の私なので、任せてしまおうホトトギス。ちなみに頼んだ時に「王道入りまーす」と叫ばれた時恥ずかしすぎて、確かに染み渡った。


メニューが揃って私達は食べ始める。優斗は「うまいな」と言ってピザを食べている。私は「そうだね」とコーヒーを飲み、カットされたピザを食べている。コーヒーは深みのある美味しいブラックコーヒーだった。確かに染み渡っていきそうな岩に水が染み込んでいくような深みだった。


美味しかったけど、コーヒーを飲むたびに眠気が増してきた気がする。カフェイン強かったのかな。自分の分払うために携帯を出してキャッシュレス決済しようとした。決済できた音はしたけど、その後どうなったんだろう。おぼろげながら浮かんできたのは「46」という数字だった。きっと「後はよろしく」なのだろう。おあとがよろしい、かもしれない。


気付くと優斗の家で寝かされていた。また、意識のないまま帰ってきたのだろうか。なんか申し訳ないなぁ。そう思って優斗に「ありがとう。そして、ごめん。私どうやって帰ってきたの?」と起き上がる。優斗は「キャッシュレス決済した後、目をこすりながら店を出て、「眠いから、運んで」って言って仕方ないから運んだ」と言っていた。私は、ものすごく申し訳なくなって「ごめんね。昔からコーヒー飲むと眠くなるの。優斗は知ってると思うけど。この体でも眠くなるみたい」と口にする。


優斗は「そうか。無理しなくていいからな」と二度寝しそうな私を支えてくれた。私が「今、何時?」と

尋ねると「まだ、2時半。寝る?」と聞いて来た。


私は「うん。1時間だけ。優斗のマッサージ好きだから、肩とか腰とか首とか揉んで。優斗ならどこ触っても怒らないよ。無茶しない事知ってるから」とマッサージを頼んだ上に予防線を張る。大丈夫。優斗は変なことしないから。だって、私の色々を見たって変なことしてこなかったもん。できるチャンスはいくらでもあったと思うけど。


私は背中側で優斗の指の感触や、男らしい握力を感じながら眠りに落ちる。この時におぼろげに浮かんできたのは「49」だった。よく眠れそうだし、さっき浮かんできた「46」と合わせて「4649」で「よろしく」と読める面白い展開だった。これは小説にしよう。


帰って車を取ってこないといけないんだけど面倒だなぁと夢の中で考えていた。そうすると、夢の中なのか、優斗が「大変だよな、お疲れ様」と抱きしめてくれた。私は「ありがとう。大好きだよ」と呟き、体の力を抜いた。で。


ゴーン


木製の軽そうなクローゼットに頭をぶつけたらしい音で目覚めた。どうせなら、王子のキスが良かった。


「おはようございます。お姫様。お加減はいかがですか?」とまるで私の心が見えているかにように悪戯っぽく笑っている優斗を見て意趣返ししてやろうと「で、殿下、見ていらしたのですか?お見苦しいものをお見せしてしまって申し訳ありません。さすが、殿下。電化が行き届いた部屋ですわね。正の電荷も帯びてるんじゃございませんの?」とふざける。


優斗は急にスンと冷めた表情で「今日も絶好調だな」と憐れむような顔をする。私は「急に冷めないでよ。私が恥ずかしいじゃない」と訴えかける。本来は私が優斗で遊ぶのであって、私が優斗に遊ばれるのは解釈不一致なのだ。某伊達政宗の陣中食の妖精が頭に浮かんだが、それを振り払い、「リバは違うのだ」と心の中で主張する。


優斗は「目覚めてよかった。親父さんと飲みに行くんだろ?そろそろ時間ヤバくないか?」と私の肩に手をのせる。せっかくなので優斗に「肩揉んでくれない?寝起きは重いの」と頼むと優斗は「おばあちゃん?」と言いながら肩を揉んでくれた。


そんなこんなをして15分。「早くいかないと」と思って優斗に「また遊びに来るね」と言うと、優斗は「おう、飲み会楽しんで」といつもの皺枯れたような声で言いながら微笑んでいる。帰りは自転車なんだけど、優斗が「途中まで送るよ」と言ってくれた。やっぱり優斗しかいない。


自転車を押しているから手も繋げないけど。それでも一緒に歩けることが楽しくて、それだけで心が満たされていくように感じる。このままずっと一緒にいたい。そんな風に思うけど別れは来るものだ。自転車を押しているから手も繋げない。なんてことに不満を覚えていると「どうした?」と優斗が聞いて来た。


私は「何でもないよ」とぎこちなく微笑みながら、背伸びをして優斗の唇を奪う。優斗は「いきなりどうした?」と戸惑っているけど、私は「別に、特に理由はないけど。一緒にいられる時間を大切にしたくて」ともう一度背伸びをして優斗のおでこにキスをする。10センチの壁は厚い。


優斗がバイトに行ったので、家路を急ぎながら小説のネタを考える。昔、ガトーショコラとブランデーの食べ合わせを小説にしたことがあった気がする。いや、日本酒と刺身の食べ合わせの方が多かった気がする。


家についてすぐ車を準備する。私の車は軽で走り屋仕様かつネイビーのターボ車だ。吹き上りもよく伸びのある加速が魅力で大好きな仕様の中古車があってよかった。そんなことを考えていると父が「おう。魔裟斗飲みにいくぞ」と何も考えていなさそうな声で、前の名前で呼んでくる。親は親なりに愛を注いでくれていることを分かった上で腹が立つ。きっと、前と対応を変えると「今まで通りでいいのに」と私が言うとでも思っているのだろう。だから、私は笑顔で「おう。ずっと楽しみにしてた。私の運転見ててよね」と胸を張る。


父は「おう。事故るなよ」と軽口をたたいて来る。そういうところが嫌いだということを全く悟らせないように、「もちろん」と胸を張る。ああ、わかってもらえない。察してほしいのに。この前の時だってそうだった。男だった頃だって、らしくあれない自分を肯定できなかったときに察してほしかったのに、わかってもらえなかった。しかも、無神経な言葉で私を傷つけてきた。親本人たちは無自覚なままに。


親たちは単純すぎるのだ。笑っていれば喜んでいる、泣いていれば悲しんでいるなど感情の表層しか見ていない。私は親の表情の裏の裏をかいて更に奥に進めて、あえて怒られる方を選ぶことによって親に殺されようとする嫌いがある。で、母親は母親で死のうとする。父はそれに対して無関心。


で、めちゃくちゃ腹が立っているときに母が「安全運転でいきなさいよ」と言ってきた。私には母のこの言葉が「あなたの運転は安全ではないから父に任せなさい」のように聞こえた。だから、私は「行きは父さんに運転してもらうから」と言っておく。


父さんは「え?魔裟斗が運転するんだろ?」と言ってくるけど、「父さんの方が安全だから」という言葉で黙らせる。母さんはそれで安心したようだ。ああ、嫌。私のことを何も信頼していない。私は元から女の子みたいに可愛いものも好きだったし、ほかの男の人のような運動能力も身長も欲しかった。卓球が男らしくないとは言わない。でも、サッカーさせるなり野球させるなり運動させることはできたと思う。


やっぱり、今の時代でも男たるもの、こうあるべき。女らしさは大和撫子というような思想はあると思うし、私が一番それにこだわっている。で、父は父で「博文君とはどうなんだ?」と車内で聞いて来た。私は笑顔で「凄くうまくいってるよ。この前はキスもしたし、やっぱり結婚するなら博文君だよね」と本気でそう思っているように言う。これは私なりの「あんたに言う義理はない」である。


父はご満悦な様子で「今日の酒はうまそうだな」と言ってくる。やはりこの程度だった。私一回話したよね?興味がないからそうなるんだよ。口では愛だなんだと語るけどもわかってはいない。金を出してくれたことは感謝するが、愛は金で買えないのと同じように、金で愛は証明できないと思う。


居酒屋に着いた。普段ならコーラを飲むところだが今日はウーロン茶にした。女の子らしく、可愛くあるためには普段の食生活から気を付けなければならない。父もその変化には気づいたのか「博文君の為か?」と聞いて来た。私は「そう。結婚式のウエディングドレス着れなかったら困るからね」と嘘八百を本音のように並べ立てる。本当は優斗の為だし、可愛くありたいし、どんな時でも自分が愛せる自分でいたいからである。


しかし、父がご満悦で「そうか。楽しみだな。弁当のおかずの一つや二つ覚えとけよ」と言ってきたので、腹が立ちながらも「そうだね。自分で作れるといいし、博文君も喜んでくれるかもしれんもんね」と笑顔のポーカーフェイスをする。「夜勤の後、弁当作れってか?頭湧いてんのかクソボケが」と言いたくなったのを抑えた私、えらい。


帰りに父が「ハイボール飲みたい」と言うので、近くのスーパーで買って帰る。その車内でも「洗濯とかアイロンとかできんとな。女たるもの家事育児せんといかんなるしな」と古い価値観を押し付けてくる。


私はものすごい早口でかつ喉の奥から絞り出すようなエッヂボイスで「そうとも限らんけど」という。父は「え?聞き取れんかった」と言うが、聞く気がないから聞こえないだけであろう。だから私は笑顔で「そうだね。父さんはものをよく知っているね」と返しておく。


私は誰も信じない。優斗以外は。だから、対向車線はわざとに事故を起こそうとしていると考えているし、後ろの車だってそうだろうし、チャリだって無茶をするのが当たり前と言う世紀末大事故前提運転である。だから、煽ってきたら急加速して急ブレーキを踏むという運転をしてやろうと思うぐらいに人を信じられなくなっている。


たまたま、後ろが車間距離を詰めてきたので安全を確かめて急加速した後、急ブレーキをして右に曲がる。もちろん対向車線も見たし、完全に停止した。これで事故になったら100:0で向こうが悪くなるはずだ。


父がこの運転を見て「危ないやろ。普段からこんなことしよんか?」と聞いて来たので「相手が煽ってきたら100:0で向こうのせいにするために完全停止する。煽ってくるのが悪いから」と返す。本来はそんなことはしない。父が「なんか腹立つことでもあったんちゃうん?」と勘ぐってくるが絶対に口は割らない。だって、父上の信じたくないことを言わなければならないし、説明が面倒くさいから。


家に着くと私の様子を見て、母が「何か嫌なことでもあった?」と聞いて来るが、「そんなものはなかったよ。やっぱり父さんはものをよく知っているよね」と笑顔で返す。母はそれでも「いやなことあったからあんな運転したんでしょ?普段からあれなら不安になるわぁ」と言ってくる。私はものすごくイライラしながら笑顔で「ごめん。お通しにエビ入っとった」と適当な嘘を吐く。私、男の頃は甲殻類アレルギー持ちだったのだ。


母は「あらそう。それは残念だったわね」と引き下がる。この程度の嘘に騙される人に人の親が務まるのだろうかとか考えてしまったけど、こんな面倒な娘やだわぁと私本人も思う。ああ、気難しい。きっと親は両方とも困惑していることだろう。わかってほしいのか、立ち入られたくないのかわからないと感じるから。正確には「察してほしいし、慮って欲しいけど、プライベートに入ってこないで」が正解である。


「基本的に私は私の生き方で生きていきたいけど、責任を取りたくないので重要な判断は任せてやってもいいけど、それで失敗したらあんたのせい」という生き方なので、他力本願かつ自己中心で責任転嫁の鬼と言うのが私の本性なのだろう。それもこれも多感な時期に勝手にいろいろされたことによる、親への不信感と親の無理解に対する諦めの感情なのだろう。本来の意味での諦観ともいえるかもしれない。悟りの境地と言う意味では。


優斗が帰ってきたらすぐにでも抱きしめてもらおう。風呂に浸かりたかったけど、少しお腹がじんわり痛い気がして湯船に浸からないまま、諦めに浸ってシャワーだけをした。冷え切った私の心をTXTで優斗に投げると「辛いよな。暫く会えんかもだけど帰ったらまたどっか行こう」と寄り添ってくれた。少しだけ腹痛が和らいだ気がした。


朝起きると、布団は吹っ飛んでいた。


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