中津浦優斗から見た輝奈子6
木曜日、普段ならあまり連絡が来ないのに輝奈子さんからTXTが来た。今日俺は3限の授業を取っている。輝奈子さんは、「暇だから、美咲さんとランチしようと思うんだけど来てくれない?事情を説明しないといけないと思って」とTXTを送ってくる。俺は、「なんでいかなきゃいけないんだろう」とも思いながら、「確かに、そうかも。でも、行きたくないんだが?」と「なんでいこうとしてるの?人多い?」と「クリパ賛成。おいでよ。念のため女子用のやつとか持っておいたら?時期読めるかわからんだろ」とTXTを送る。
輝奈子さんは「人多いけど、襲われないために説明しておきたい。あと、元カノにも協力してもらったし、義理は果たしたい」と送ってきた。正直言って気持ちのいい話ではない。が、彼女の頼みだし聞いてやろう。どう頑張ってもきっと尻に敷かれるのだろう。あと、彼女の天然ボケも結構好きだ。
俺は「そうか、しょうがねぇな」と送り、準備をする。輝奈子さんは真っ白なシャツと黒のズボン、紺のアウターと黒のスニーカーを履いて現れた。いつものバイトの恰好だろう。
俺は「俺、今日いるの?」と不服そうに言いながら、でも輝奈子さんの顔を見たくて来てしまった。美咲さんといる時間は正直言って何話したか覚えていない。ただ、3限を受けてる間に彼女からTXTが来ていた。曰く、ムラムラしすぎて元、男友達とそういう話をしたらしい。でも、なんか怖いから、抱きしめてほしいといった内容だった。
だから、逃げろと言ったのに。3限が終わるまではまだ数十分ある。一刻も早く駆けだしたい気持ちを抑えながら、ただ終わるのを待つ。終わった瞬間俺は駆けだした。途中で、TXTを見て撫でてほしいとか書いてあった。めちゃくちゃかわいい。彼女の為ならなんだってできるという全能感にあふれていた。
彼女は息を切らし、俺のところに着くと「私を抱きしめて」と抱き着いて来る。俺は照れて「いきなりどうした?なんか怖いことあった?」と話を振る。輝奈子さんは「さっき一緒にご飯食べた子に手を握られて、ちょっとそういう話しただけで興味津々で怖かった」と話してくれた。
俺は「その子と離れた方がいいと思う」と言った。輝奈子さんは「ありがとう。守ってくれるよね?」と抱き着いて来る。彼女の髪からめちゃくちゃいい匂いがした。相変わらず香水はジャスミン茶だろうか。俺は、「ああ」と言いながら彼女を抱きしめ返す。
輝奈子さんは涙声とも思える声で「私、撫でてほしい。慰めて。本当はただ話したかっただけなの。あなたの苦手な話題だとはわかっているから。でも、女の子になっても欲が変わらなくて困っているの。助けて」と言ってきた。俺は細い彼女の髪を味わうように撫でながら「わかった。俺はそういう話題苦手だけど、これからは付き合うから。その子と話すのは止めた方がいいと思う」と言った。彼女は背伸びをしてキスしようとしてくる。
俺は「家まで待てるか?」と聞いた。輝奈子さんは「我慢する。でも「頑張れ」のキスも欲しいし、手ぐらいは繋いでくれるよね?」と手を差し出す。
俺は照れた顔をしているが、少しばかり慣れて、握り返した。やっぱり、この、儚いくらいのかわいらしい握力が、俺に安心感を与えてくれる。今彼女の彼氏であれる俺はとても幸せなのだろう。
俺は「4時半ぐらいまでうちにいるか?」と聞いた。輝奈子は「うん。そうする。しばらく抱きしめててほしいし、優斗の温度を感じていたい」と俺にキスをねだるように唇を近づける。俺は黙って唇を重ねた。彼女の体温と俺の体温が溶け合っていくようだ。
何秒キスをしていただろうか。彼女を抱き締めながらキスをしていることで心が満たされていくのを感じる。輝奈子さんは幸せを噛み締めたように「ありがとう」と微笑む。ただただ抱き着いたり、キスをしたりしている時間だけで気付くと4時半になっていた。
輝奈子さんは俺の家を出る前に「頑張れのキスが欲しい」とキスをねだる。俺は「バイト頑張れ」と言って唇を重ねた。
次の日も似たような事があった。ただ違ったのは「ムラムラしんどい。助けて」と送られてきた事だ。たしかにアニキの性欲は強いのかもしれない。でも、輝奈子さんになってからそんな話は聞いていない。昨日が初めてだった。俺は「そうか、何をすればいい?」と送る。だって、大切なアニキが困っているのだ。もちろん彼女でもあるが。
輝奈子さんは「ギュッと抱きしめてほしいの。輝奈子になってからずっと我慢してて、ムラムラする。わけわからなくて不安だし、助けて」と送ってくる。
俺は「アニキはアニキで大変なんだな。今から向かうからちょっと待って」と送る。場所聞くの忘れてると思ったけど9号館に走り出した頃、「9号館1階にいる。ごめんね。ありがとう。やっぱり優斗だから抱きしめられても怖くないんだと思う」と送られてきた。言わなくても、多分そこだろうと思っていた。
俺は「そうか」とだけ送り、肩で息をしながら、「悪い。待たせた。どうすれば良い?」と聞く。輝奈子はそっと俺の体に抱き着き、「こうしてほしい」と伝えてくる。
俺は、いつもと違う輝奈子の様子に戸惑いながらも抱き締める。輝奈子は「今日バイトあるんだけど、なんか体調変でどうするか悩む」と悩みを吐露する。そんな状況をみた健翔は「よくできますね。そんなこと。誰とでもしてるんじゃないですか?」と明らかに僻みの入った声で言ってくる。そういえば、こいつ、いたなぁ。
輝奈子は「違うから」と強い口調で言いながら駆け出そうとする。俺は彼女を追いかけて、懇願する様に「昨日も言ったろ。困った時は俺を頼ってくれと」と言った。輝奈子は、涙ぐみながら「ごめん。ありがとう」と言ってくる。彼女が必要としてくれることがめちゃくちゃ嬉しかった。
俺は「そんなに辛いなら、家来るか?」と聞いた。輝奈子は「うん」と答え、俺は「バイトどうするんだ?」と聞く。
輝奈子は「少し頭痛いんだけど原因わからなくて不安で、ムラムラして眠たい」と返す。俺は「無理しなくていいと思うけど、他の人もいるんだから連絡は早めにしときなよ」と言った。
輝奈子は「でも、優斗も今日バイトだよね。少しの間でいいから、優斗の腕の中で眠りたい」と話す。俺は「そうか。手洗いうがいしてからでいいか?」と聞いた。輝奈子は「うん」としか答えなかった。
輝奈子は「あれ?いつの間に着いたのだろう」みたいな顔をしながら、手洗いうがいを終えた。俺も手洗いうがいを終え、輝奈子を抱き締める。彼女の体温が、仄かな温もりが俺の心を満たしていく。
彼女の様子が少し落ち着いてきた。少しずつ眠りに落ちていく。離れたくなかったのか、俺を抱きしめようとするが、眠たかったのか、掴みどころを間違ってしまったのだろう。俺のズボンの上の方を持ってしまった。俺は、「アニキそこ持ったら俺のエクスカリバー出そうなんだが?」と言って焦っている。
輝奈子は「それでも良いんだよ。私、優斗大好き」と半ば回っていないであろう頭で言う。俺は、彼女の悩みを知っているから、されるがままになっている。
俺は「そうか。俺も輝奈子さんのこと大好きだぞ」と言った。輝奈子は「輝奈子って呼んで」と言いながら、さらに強い力で俺の下腹部あたりに抱き着く。
「輝奈子。昼前だけど、飯大丈夫?」と俺が聞くと、輝奈子は「大丈夫。朝遅かったから。ありがとう」と返す。そこから彼女は眠ってしまったが、俺の璧の部分を満足そうに握っていた。何がいいのかよくわからんけど、俺も思考を放棄する。
俺は布団を敷き、輝奈子さんをその上に配置したあと、毛布と掛け布団をかけた。そして、彼女の寝顔を堪能する。なんでこんなに無防備になれるのだろうか。俺が襲う可能性なんて考えないのだろうか。まぁ、やったと知った時にめちゃくちゃ怒って別れられたら一生のトラウマになるのでできない。きっとヘタレとも言われるのであろうが、彼女を失うくらいならヘタレでいい。
横で眺めてたら、輝奈子さんが膝の上に乗ってきた。まるで、様子を見ていたかのように。可愛い。何度も思う可愛い。輝奈子さんはきっとネコみたいな人なのだろう。自由で囚われてなくて信頼している人の前以外で弱さを見せない。
それにしても、この寝顔は反則だ。何時間でも眺めて居られそうだ。そんなこと考えてると、何時間も経っていたので彼女の体を揺さぶる。
目覚めた瞬間、輝奈子は「きゃー」と叫ぶ。当たり前かもな。膝枕されていたんだもの。
俺は「やっと目覚めたか。眠り姫さん」と輝奈子の胸をチクリと刺す。バイトがあることを急に思い出したのか輝奈子は、ふわふわの声で「今何時」と問いかける。
「3時半」
俺は余裕を持って起こした。
「でも、なんで膝枕されていたのだろうか?」と輝奈子さんが小声で問いかけてくる。俺は「どこまで覚えてるか知らんけど、俺のズボンずらして俺の股間をサワサワして満足そうに寝てた。で、目覚めた瞬間に男の股間が見えるのも怖いだろうと思って、布団を敷いて寝かせて横で見てたら膝の上に乗ってきた」と言った。
輝奈子は恥ずかしかったのか「ぇあー」みたいな変な声が出していた。目が覚めてきたのか、輝奈子さんがゆっくり周りを見てみる。俺が敷布団を敷き、毛布と掛け布団を掛けたことに気付いたようだ。
「あ、ありがとう。ごめんね。あ、お腹空いたんじゃない?」
「おう。飯食べに行こうぜ」
「なんか麺類食べたいんだけどおすすめある?」
「なら、近くのうどん屋行くか?」
「いいね」
相変わらずルンルンで手を繋いで歩く。俺も割と慣れてきてる気がする。まだ、照れくさいけど。
うどん屋についた。
「優斗、何うどんにするの?」
「俺は肉うどんにしようかな、アニキは?」
「私、鳴門わかめうどんにする」
待ってる間も俺たちはずっと話している。
「アニキ、時間大丈夫か?いや、俺もだけど」
「私は大丈夫。優斗は?」
「まぁ、間に合うと思う」
「そっか」
そんな話をしていると、うどんが来た。肉うどんは相変わらず、めちゃくちゃ美味しかった。
ご飯を食べ終わると、バイトに向かう。
「うまかったな」
「そうだね」
なんて言いながら荷物を取るため、俺の家に向かう。本格的に冬が始まったと感じられた。手を繋ぎながら俺を上目遣いで見つめ、輝奈子は、「家着いたら、キスしてくれるよね?」と詰め寄る。俺は「しょうがねぇな」と言いながら照れくさそうにしている。だって、こんなに可愛い人にキスをせがまれるほど、俺に魅力があるとは思えないから。
俺の家に着き、バイトの前にキスをする。いつキスしてもやっぱり輝奈子の唇は暖かく、やわらかい。そして、頑張って俺の背丈に届かせようと背伸びする輝奈子も可愛い。握力も、ふわふわ感も全然違う。本当に守りたくなるかわいらしさだ。なぜか2人で歩いて途中まで一緒にバイトに向かう。
俺が家に着いた頃、輝奈子さんから「お疲れ様」とTXTが来る。俺は「お疲れ様」と送り返し、風呂に入って寝る。いつも通りのはずなのに輝奈子さんがいないだけで無駄に広く感じてしまった。なぜ、あれが当たり前になったのかはわからんが、まぁ、いいだろう。
なんだかんだ合って日曜日になった。輝奈子さんから「明日、大学で集まって優斗の家行こうよ。せっかくクリスマスシーズンだし」と来たぐらいだった。俺にクリスマスが来るとは思わなかった。いや、毎年来てたけど、バイトが忙しいだけだった。というより、クリスマス自体は実家にいたし、今年もその予定ではある。
で、月曜日。息すらも白くなるぐらい寒いし、雪も降っている。彼女だったらなんて表現するのだろう。彼女は異世界物作家してるから、なんか必殺技のような表現をしそうだ。おやじギャグエターナルブリザードの吹きすさぶ氷結の世界とか言い出しそうだ。
「優斗、おはよう。今日も寒いね」と声を掛けてくる。俺は現れた輝奈子の姿に度肝を抜かれた。今日は、ピンク色の光沢のあるリップを塗っている。俺ら、男性からするとリップクリームの方がなじみがある気がする。いつもよりジャスミン茶の香りが強い気がする。何か付けてるのだろうか。
この前買っていたジャスミン茶の香りの香水は付けているのだろう。さらに、いつ買ったかわからんがライトブラウンのブーツと、膝から下には茶系のファー、ダークブラウンのアウターと鮮やかな緑色のタートルネック、そして、クリスマスらしい赤色のスカートに黒いタイツを履いている。俺は、輝奈子のこの姿を見て女神が舞い降りたと思った。
「おう。そうだな」と単純に返す俺に対して、輝奈子は「なんか気付くことない?」と詰め寄ってくる。距離が近くてやばい。こんな近距離でその姿は控えめに言っても神だろう。だから俺は気付いた事だけ言ってみる。
「普段と違う服着てるとか?」その回答に我が意を得たりとばかりに「そう。気付いてるなら言ってよね。ばか」と呟く輝奈子も可愛すぎる。こんな子がクリスマスデートみたいなものに誘ってくれたのがめちゃくちゃ嬉しかった。それ以上のことは確かにしてるかもしれないが、それとこれとは別だ。
俺は、「きれいだったから。なんか、こう。神様を見た気分になって言葉が出んかった。ごめん」としか言えなかった。
輝奈子は嬉しそうに「そっか。ありがとう。がんばってよかった。ちなみに、普段ノーメイクなんだけど、今日は化粧下地から頑張って化粧に2時間ぐらいかかった。久しぶりで、やり方に戸惑ったし、非力すぎて口紅空けれるまでも10分ぐらいかかった」と声を弾ませている。
俺は、我が女神に「口紅もなんか違うとは思ってたけど自信なくて言えんかった」と言い訳をする。そんな心を見透かして「言い訳かな?」と問いかける輝奈子に「そうかも」と返す。
そんなやり取りをしながら手を繋いで講義に向かう。教室について早々輝奈子は今日思いついたらしい親父ギャグの話を俺に振る。おい、美少女なのにおやじギャグやるのか?しかも今?
「今日思いついたんだけどさ、地球温暖化なんて言っているが、今日の地球は温暖か?否、寒冷である。細川でも斯波でもないけど。いや、それ室町幕府の管領や、なんてね」
「口が回るし、絶好調かよ」としかツッコめなかった。
「そうだね」
なんて話していたら、講義室中に聞こえてたみたいで、「親父ギャグ美少女」という渾名が出来上がってしまった。ほらな、そうなるだろうよ。
「ちょっと離れるね。咲と話そうかなって。優斗も話して来たら?私とだけいるのも疲れるでしょ?」なんて、変な気を回して来る輝奈子。俺は「そんなことはないけど。いってらっしゃい」と送り出す。ほんとは寂しい気がするけど。
「言ってくるね。講義までには戻るから」
「おう」
俺と離れ、輝奈子は「おはよう」と咲さんに声を掛ける。可愛い輝奈子を眺める仕事がなくなったニートは仕方なく、東畑に話しかけに行った。
「おう、おはよう」
「おう、初彼女おめでとう。最近どうだ?」
「神と悪魔の紙一重だな。うちの彼女めっちゃくちゃ可愛いけど、たまにその可愛さが悪魔。そっちこそどうなんだよ」
「そうか。幸せそうでよかった。うちはけんかもするからなぁ。この前も少しズレてたのかもしれん」
「それは大変やな。でも、東畑も悪くないと思うよ。なんとも言い難いけど」
「そっちはいいよな。めちゃくちゃ可愛い彼女おるやろ?」
「可愛いのは否定しないけど、恐ろしい悪女だよ」
「どういうこと?」
「うちの彼女、1回ウチで倒れて、寝顔を何時間も晒して来るし、無防備な姿晒して来るし、風呂も一緒に入ったことがある。何の生殺しだよ」
本当にものすごく生殺しされている気がする。ものすごくかわいい彼女が一緒に風呂に入ってくれるのに一線は超えさせてもらえない。しかも、たまに肌が触れてしまうのだ。彼女の肌の感覚を思い出すとすぐにでも暴発してしまいそうだ。だって絹もびっくりするほどのすべすべなのだ。
「ノロケかよ。そんなに甘えてくれる彼女いねぇだろうよ。空想かな?」
東畑の質問に急に出てきた輝奈子は「空想じゃないよ。めっちゃ優しかった。額にあったかいもの乗せてくれたこともあったし、白いものも食べたしね」と返す。「いや、空想であれよ。貴様は自分の可愛さを知っているのか」とコンコンと問い詰めたい俺がいる。
俺は驚いて、「うわ。いたのかよ」と悪魔が出たかのような言い方になってしまった。それに対しても「いたよ」と笑顔で返す輝奈子。あぁ、こいつは悪魔かな。悪魔なら、そこまで徳を積んだつもりのない俺でも得してもいいのかもしれない。なんか、輝奈子さんみたいなことを考えてしまった。彼女といると親父ギャグが浮かびやすくなるのだろうか。
なんて会話をしてると東畑が「額に乗せたあったかいものと食べた白いものって何?」と言ってきたので、「想像に任せるわ。白いものはめっちゃ自然な味だった」と返す。この輝奈子の発言に東畑は「中津浦ってとんでもないド変態だな。うわ」と反応し、俺は「誤解を招く言い方やめろよ」と返した。
「ほんとは倒れた時に優斗が額にあったかいタオルを乗せてくれて、自家製のマヨネーズ食べただけだよ。泡立ってたし、色が怪しかったけど、健全な奴だよ」
「ぅおい。また誤解招く言い方。ソレじゃないからな。勘違いすんなよ。ソレじゃないからな」
この会話を聞いていた東畑は「夫婦漫才お疲れ様。お似合いだわ。最初は高嶺の花かと思ったけど地平線の薔薇みたいだわ」と返している。マジで彼女はその対象を知ったうえで、もの凄く、至極かわいい声で誤解を誘おうとするきらいがある。そんなところも嫌いじゃないが。今日親父ギャグが絶好調なのは輝奈子さんのせいということにしてやろう。流石に校長先生絶好調なんて言わない。頭には浮かんだけど。
「どういうこと?」と輝奈子が聞くと東畑は「高さは低いけど、めちゃくちゃレアな花ってこと」と答えた。よくわからん表現だ。多分高嶺の花ではないけど、希少な花ではあるみたいな意味だろう。これは俺個人の感想だが。
「ね、帰ろ?」
そう言って上目遣いで優斗を眺めながら手を繋ぐ。やっぱり輝奈子の手はあったかいし、かわいらしい。輝奈子のせいで最近頻度が増えていたものをまたしたくなってしまった。そんな心を含んで俺は「な。魔性の女だろ?」と東畑に話を振る。
東畑は「確かに。これは魔性の女かもな。振り回されて大変だろ?」と返していた。俺は「確かに大変だけど、めちゃくちゃいい景色が見えた」と返す。輝奈子は気になっていたのか「そのめちゃくちゃいい景色について詳しく」と聞いてきた。
俺は暫く黙った後、「アニキには想像つくだろ?それ今説明させるつもりか?」と膨れた。東畑は「何それ?詳しく」と興味津々と言った様子で俺に詰め寄る。
2人の圧に押された俺は「それは輝奈子さんの寝顔とか、風呂の時のきれいな肌とか、色々」と照れ臭くて、語尾がだんだんと弱くなりながら、頬を赤く染めた。輝奈子の顔も赤い。顔の赤い輝奈子さんも可愛いな。なんて油断してると急に輝奈子が俺の頬にキスをする。少しだけ背伸びをしながら。
「ちょっ、アニキ。いきなりキスすんなよ。びっくりするだろ」と怒ったように言ってしまったけど、戸惑っただけだ。輝奈子は「だってメチャクチャ可愛かったんだもん。優斗が悪いんだからね」と言い訳をしているが、「俺よりも格段にかわいいお前が言うのか?」と問いただしたくなった。
この様子を見た東畑は「相変わらずのバカップルだな」と冷やかしてくる。俺は心外だと伝えようと「どちらかと言うとアニキがべたべたしているだけのはず」と東畑に返す。東畑は「どっちも変わらないと思うよ」と俺に返してくる。俺は輝奈子の手から伝わる体温や握力を噛み締めていた。彼女がアニキだった頃から変わっていないはずなのに、その手は儚くかわいらしい。今日は俺らしくない。こんなに語彙力あっただろうか。輝奈子のせいだな。それでいいや。
長い間、輝奈子が黙っていたから不安になって、俺は「顔暗いけど、どうした?」と聞いた。「どうした?」って聞いても、答えない。今日も女の子の日なのだろうか。それとも睡眠不足だろうか。
俺は心配で「大丈夫か?」と聞いた。輝奈子は「大丈夫」と何とか答えてたけど、上手く力が入らないようだ。彼女がふらついた。俺は、東畑に「彼女を持って帰るから、俺の荷物頼む」と言って彼女をおぶった。
彼女はひどい夢でも見ているのかものすごくうなされていた。そんな彼女の寝言は「男に戻るなんてヤダ。今幸せだから邪魔しないで。ウチの優斗はめちゃくちゃかわいいんだから。高血圧もヤダ。長生きしたいの。生涯優斗のそばにいるんだから」だった。しかも耳元でふわふわな声で、このセリフである。萌え殺しにかかっているのだろうか。東畑に「うちの彼女も可愛いけど、お前は幸せ者だと自覚しとけよ」とくぎを刺された。
家に着き、布団で寝かしておく。輝奈子は疲れているのか重そうに「私、どうなったの?」と聞く。なんか、彼女の股と胸を触り安心した顔をしている彼女を見て、さっきの寝言は本心なのだろうと思う。日本語がおかしくなった気もするが、まあいいよな。
「物凄くうなされてたぞ。大丈夫か?」
「うん。大丈夫。あ、そうだ。プレゼントがあるの。これ」と言って、輝奈子は綺麗にラッピングされた箱を手渡してくる。めちゃくちゃお洒落だ。
「開けていいか?」
「うん。開けてみて」
ドキドキする。初めての彼女から初めての贈り物だから。いや、それは嘘か。いやでも物は初めてだから。今まではコトだったから。モノ消費からコト消費に変わったなんて聞くけど俺は「両方得てやるぜ、欲張り消費」だ。なんて冗談はおいておいて。
綺麗なラッピングをほどいて俺は「お、マフラーか。あったかそうでいいな」と凄くシンプルな反応をする。あまり伝わらないかもしれないけど、めちゃくちゃ嬉しかった。輝奈子さんは、嬉しそうに「ありがとう。喜んでくれてうれしいよ。私にもプレゼントお願いしていいかな」と言って来た。
俺は「おう。どうした?」と聞く。彼女の為ならなんだってできる気がする。輝奈子さんは重そうに口を開く。
「私、この体になってから、男の子もよくする、夜のルーティーンしてなくて物凄くムラムラするの。でも、家だと、いつ親が入ってくるかわからなくてできないし、大人のビデオ、検索したこともあったけど、あのレベルで出てしまったらどうしようとか怖くて。本当にっ!申し訳ないし、頼みにくいんだけど。風呂場借りていい?」
彼女の発言に度肝を抜かれたが「それはつらいよな。なんかできることあるか?」と少しでも力になろうとする。輝奈子は「下手したら意識飛ぶかもしれないから、そばに待機してて欲しい。なんか、見ててって頼むの本当は恥ずかしいんだけど、どれぐらい飛ぶか、とか一瞬だけど意識が残るかどうかとかわからないから。優斗にしか頼めないの。本当にっ!ごめん」と頼み込んできた。
それほど思い詰めていたとは思わなかった、俺は「お、おう。そんなに悩むなら、やってみたらいいと思う。けど服濡れないようにした方がいいかも」と度肝を抜かれた事を隠すようにアドバイスする。
「そうだね。優斗なら見られても、そこまで恥ずかしくないし」
そう言って輝奈子は服を脱ぐ。何度見ても見飽きることのない素晴らしい肉体だった。なんかすごく変態な気もするけど、健全な男子だから勘弁してほしい。そして何気に初めて生で見た女性のいわゆる夜のルーティーン。俺だって大人のビデオの1つや2つ見たことはあるが、こんなになるものだろうか。花火みたいな動きだったので思わず「た〜まやー」と言ってしまった。
結果めっちゃ飛んだ。ペットボトルロケットみたいな動きしてた。全力で謝ってくる輝奈子さん。彼女は自分を見誤ったのかもしれない。「謝るだけに」とか彼女なら考えるのだろうな。輝奈子のせいだから、勘違いすんなよ。風呂場が凄いことになっていた。これを見てしまうと、大人のビデオがかすんでしまう。次は「カ~ギヤー」とでも叫んでやろう。彼女に聞いた有名な二人の花火師が玉屋と鍵屋だったらしい。江戸時代の話だけど。ちなみに彼女が「た」とか「だ」の行を発音するとき「ラ」行みたいな音になるときがある。汚れてしまった俺の頭には「ソウイウ」時代にしか思えなかった。彼女に聞くと割とソウイウ時代だったとも聞いた。
「ごめん。本当にっ‼ごめん。申し訳ありませんでした。服濡れないようにアドバイスありがとうございました」
何で急に敬語になったのだろうか。大賢者?なんて思って意趣返しに「俺が「たまやーー」って言ったの知ってるか?」と聞いてみる。
「知らん。ほんなこといよったん?」
なんか急に訛りだした。それも可愛い。
「見事だった。あれは見たことないレベル」と俺は称賛しておく。本当に売り出したら爆売れするだろう。売らないし、独り占めするけど。
「めっちゃ気持ちよかった」と輝奈子はスッキリとした顔で言い切った。俺は戸惑いながらも「お、おう。それはよかった。まぁ、そのおかげと言うか、せいと言うか、なんというかで、タオルとか風呂場が大変なことになってるんだけど」とクレームを入れる。いや、何飲んだらそんな出るんだよ。あともうちょっとで頭打つところだったから気を付けろよ。
「そうだよね。ごめん。ごめんでは足りんけどごめん」
「まぁ、良いもん見れたしな。良いんだけど。確かにコレは家でやったらヤバいね。あの水圧と声量と声質とな」と俺は言う。本当に声がやばかった。めっちゃ可愛い声してた。彼女が眠くなった時の「にゃん」みたいな声だった。
なんて浸っていたら彼女は「私だけ見せるのも不公平だから、あなたもスッキリしておいたら?」と言う悪魔の所業を繰り出してきた。俺は「鬼、悪魔。悪女め。人前でさせるという鬼畜の所業。しかも、アニキとするわけではなく、1人でしてるのを見せるだけなんでしょ?」といつも通り返す。
「そうだね。まだ、ダメ。万が一があった時に影響出ちゃうから」
「そうか。俺も覚悟を決めなきゃいけないんだな。輝奈子さんの期待に応えられるように頑張るよ」と言ってみたけど何の覚悟を決めるんだろう。ああ、この悪魔の所業に耐える覚悟だな。
「初めて名前で呼んでくれたね」と彼女は嬉しそうだ。俺は「かもな」と輝奈子に返す。
心の中では普段から輝奈子と呼んでいるなんて知らないだろうな。少し前までは、アニキだと思って接していた。でも彼女の一緒にお風呂攻撃を受けて以来こうなった。
「せっかくだし、一緒にお風呂入ろうよ。あ、でも、お風呂溜まってないね。どうしよう。抱き合いたい」
出たよ、悪魔の所業。
「なら、一度着替えて、風呂ためる間に飯食べに行こうぜ。近くのラーメン屋でいいか?」
「うん。そうしよう」
輝奈子はそう返事してただアニメを見たりゲームをしながら待っている。すっぴんに戻してるし。化粧をしている彼女の姿なんてめったに見られるものじゃない。その希少価値を俺にくれたのだろう。
寒くなった外を歩き、ラーメン屋で温かいラーメンを食べながら、輝奈子は「そういえば、私どうやって優斗の家に来たの?」と聞いて来た。
「急に倒れたのは覚えてるか?」
「うん。なんか力抜けて倒れた気はする。そっからどうなったの?」
「俺が運んだ。東畑も一緒に来ていた。家ついたらすぐに用事で帰ったけど。お礼言っとけよ。アイツも心配してた」
「ごめんね。重かったでしょ?」
「輝奈子さんより重たいものは世界に何万個もあると思うぞ。俺が持った中でも軽い部類」
「えっ?色んな人を持ったことがあるの?」
「バーベルと妹と、薪だな」
「なんか複雑。妹さんをなんで持ったか気になるし、私、そんなに軽いの?」
「軽いぞ。何食ったらそんなに軽くなるんだ?」
「最近食べる量減ったの。あと、運動」
「なるほどな。確かにいつもはラーメン、大にしてたもんな」
「ホワイトニアクリスマスに豚骨ラーメン食べてるの面白いよね。クリスマスも近くて、雪も積もっているのに。ロマンチックとは違う気がする」
「豚骨ラーメン食った後にディープキスしたやつがロマンチックを語るのか?」
輝奈子は「ぇあー」みたいな声を出しながら頭を抱える。ラブストーリーとしてどうなのだろう。明らかにロマンスとラーメンは会わない気がする。
「あれ、私も顔真っ赤になる黒歴史、いや、でもうれしかったから白歴史な気もするし、光の三原色歴史みたいなところある。一歩間違えば黒くなる白みたいな」と爆速で言い訳をしている輝奈子さんを見るのも楽しい。
「受け止め方次第で、どのようにも考えられるから、黒でありつつ白である可能性も起こり得る」と彼女は、いや、アニキは言っていたが、それをロマンスと豚骨ラーメンの時に使うのはどうなのだろう。
「出た。アニキ特有の表現」
「え?通じない?」
「通じるとは思うけど、あんまりその表現聞いたことがない」
「マジで?」
「マジで」
本当に光の三原色歴史なんて聞いたことがない。そういえば、歴史ってモノクロなのだろうか。黒と白しかないなんて、1回目の東京オリンピック以前のテレビみたいだと話したこともあった気がする。
「そっか。そろそろお風呂たまるかな?」
「そうだな。そろそろ帰るか」
「うん」
こう言って店を出る輝奈子さん。外は大昔のテレビのように白黒だった。でも彼女といる日常で色付いてゆく。テレビの進化みたいだ。なんてアニキなら言うのだろう。いや、純白とナイトメアのファンタスティックビューティーとか闇と光のアンサンブルとか言いそうかもしれない。彼女、異世界物書いてたし。
輝奈子が右手を出してきたから俺は自然と左手を繋いだ。今まではそんなに自然ではなかったけど、最近はこうすることもある。まだ、照れくさいけど。彼女は痛くないだろうか。俺の握力は彼女の二倍あるのだ。それでも、俺の愛の強さが握りしめる手の強さになっていると、わかってほしい。
「ねぇ、チューしよ」
始まる輝奈子による悪魔の所業。俺は「熱中症?」とわかった上で返す。
「まぁ、優斗との恋愛は熱中症になりそうなほどアツアツとか言われたことあるけど。豚骨ラーメンキスリターンズしようよ」と意趣返しをされた。
「ネーミングださ。しかも、またラーメン食った後にキスするのかよ。選べよ。また、ラーメンだよ。今までのキス覚えてるか?」と投げかける。
「覚えてるよ。豚骨ラーメン、うどん、アイス、で、今回の豚骨ラーメン」
「もし今豚骨ラーメンの後のキスをした場合75%のキスがしょっぱい事になるんだが、いいのか?」
何で、しょっぱいもの食べた時にキスをするのだろう。これ、次当たり唐揚げとかシシャモとか出てきそうだな。
「いいよ。そういえば、ポップコーン食べた後にもキスしたから80%だね」
「しょっぱいキスがしたいのか?」と俺は輝奈子がそういう性癖を持っているのかと思い、問いかけた。
「そういうわけではない。でも、なんかキスしたくなるのは濃い味のしょっぱいもの食べたときが多い」
「なるほどな。よくわからんけど、わかった」
そんな夫婦漫才をして、この前と同じ場所で同じようにキスをした。
俺は「相変わらず急にディープをするし、あれほどニンニク入れてたのにディープキスするし、でも、それも悪くないと思わせて来るし。よくわからん。まぁ、幸せだしいいだろう」と文句ともなんとも言えないクレームを入れる。
輝奈子は「それも悪くないと思ってくれてるんだ。ありがとう」と微笑んで返してきた。
「その笑顔ズルいんだよなぁ」
そう言って俺も笑っている。長いようで短い道を過ぎて、家に着いた。
「渡しそびれてたけど、コレ」
そう言って、俺はプレゼント用に包装された箱を手渡した。実は俺も東畑に相談して買っていたのだ。値段は見ていない。ただ、今月もやし生活になりそうな値段はした。
「開けて良い?」
「おう」
箱の中身はライトブラウンの合皮のショルダーバッグだ。
「えっ?コレって最新の流行カバンじゃん!!確か5万ぐらいするはずだよ。ありがとう。こんな高いもの買ってくれたの?」
「ああ、確かに高かった。今値段聞いてヤバいと思ったし、アニキの頃から使ってるカバンもいいけど、らしくありたいと思うアニキならカバンが一番欲しいだろうと思って」
嘘ではなかった。でも、さすがに毎回これねだられたらきついなと後で思い直した。後悔はしていない。
「そうなんだ。ありがとう。お金では返せる気はしないけど、その分良い経験をお返しできたら良いな」
そう言って輝奈子は風呂の準備をする。俺は「そうか。喜んでくれてよかったよ」と喜んだ。輝奈子は「じゃ、一緒に入ろ?お風呂貯まってるでしょ?」と風呂へと誘う。
俺は「えっ?また?てか、なんでそんなに一緒に入りたがるの?」と戸惑いを隠せない。いや、いつも思うけど、こんな可愛い子と一緒に入ることが許されるほど、俺は徳を積んでない。
「だって、優斗と同じ体験を分かち合いたいんだもん」
悪魔の所業なら許されるかもしれないと思い直した。だから「それにしたってわざわざ一緒に入らなくてもいいんじゃない?」と言ってみる。
「だって男だった時は一緒に入ってたのに今更それは寂しいよ」
そういえば、そんな事もあったなぁ。なんて思いながら「温泉での話だろ?」と返す。
輝奈子は不服そうに「だって、入れる日と入れない日あるんだよ。今日は一緒に湯船に浸かれる日だし、なかなか無いんだからね」主張してくるが、俺は「しょうがないなぁ」と折れてあげた。いや、折れさせてもらった。
これ、輝奈子が初彼女だから別れたとしたら大変だろうな。だって全部わかってくれた上で物凄く甘えてくれる彼女なんてきっといないから。と言うより彼女よりかわいい女性を俺は知らない。
あぁ、東畑と話すカップルあるあるの話が合わなくて困るのだろうなぁ。なんて考えながら、俺も服を脱ぐ。
「アニキは恥ずかしくないのか?」
「全然。だってよく知ってる優斗だもん」と輝奈子は微笑む。
「そうか。俺もアニキの前なら大丈夫だと思う」
「なんで、今この会話してるんだろうね」
「えっ?」
「だってこれで2,3回は一緒に入ってるでしょ?前も含めるなら5回以上ぐらい」
「まぁ、それはそれだ」
いや、俺もそれは感じてたけど、今クリスマスシーズンだから、こんなことになるのだろう。なんて言ってる間に脱ぎ終えて、風呂に入る。
俺は先にシャンプーをしている。輝奈子は体にボディソープをつけながら体を洗う。いつもと同じ流れだ。輝奈子さんの手が怪しげにふわふわと動いていた。何をしようとしてるのだろう。と考えていたら、「はい。シャワー」と抜群のタイミングで、俺にシャワーを渡す。その時に俺のエクスカリバーにシャワーを当てながら、皮をむこうと左手で握ってくる。「これが女の子の握力か」と感動してしまった。でも、ここで勃たせるわけにはいかないので、「アニキも同じ握力だったんだよなぁ」と思い直し、事なきを得る。
「あっ。いっ」俺は悶絶した。めちゃくちゃ痛い。そりゃ、あまり剥いたことないのにいきなり水かけられながら剥かれたらそうなるだろう。アニキも知っているはずなのに。
輝奈子さんは予想できていたのだろう。俺が「ちょっ。何すんだよ。痛い」と言うと輝奈子は少しだけ深刻そうに「ごめん。痛いのはわかる。でも、数ヶ月以内に、きっと、その時が来るから刺激に慣れてもらわないといけないから」と謝ってくる。
俺の目が少しだけ喜びに満ちたのは輝奈子にバレているだろうか。俺は彼女とソレをする未来があるんだと感じ、これから頑張ろうと思った。
俺は「そうか」とだけ言ってシャワーを受け取る。髪を流し終わった俺は「ほい。シャワー」とだけ言って輝奈子に手渡した。
「ありがとう」と輝奈子が微笑むと、それにつられて俺も「おう」とだけ言って微笑む。泡を流し終わった輝奈子の体を見て、俺は「何度見ても綺麗だな。女神だわ」と嘆息する。
「ありがとう。そんなこともない。と、謙遜すると神に申し訳ないので、ありがとう。優斗もかっこいいよ」と返してくる。
輝奈子は受け取ったシャワーをそのままに体を流し、髪を濡らす。濡れた髪って神だよな。彼女はウンディーネの化身かもしれない。いや、びしゃびしゃの勝利の女神びしゃ毘沙門天かもしれない。これは輝奈子のせいだろう。今日は本当に親父ギャグが良く浮かぶ。
「洗い終わったから、シャワー」
「ほれよ。ここにあるぞ」
なんて、やり取りをしてるけど、全く見えないのか、手をふわふわさせている。急に俺の聖剣を掴まれた。俺は「ちょっ、どこ掴んで。それはシャワーじゃないからな」と焦る。
輝奈子さんは「えっ?どれ?」と言いながら、俺の聖剣を掴んだままいろいろしていた。俺は「わかった。流してやる」と言って髪を流してやる。
流してる最中に回したり、振られたりして焦った俺は「ちょっ、おい。回すな。振るな」と言った。輝奈子さんはまだ水滴で前が見えないのか握ったまま不思議そうにしている。
「もう目を開けていけると思うぞ」という俺の声を聞いて、彼女が目を開けると、少し芯を含んだ俺の聖剣を掴んでいた。
彼女は驚いて「えっ?もしかして、ずっと握ってた?」俺のエクスカリバーを握ったまま聞いてきた。俺は「おう。おかげで、流しにくかったぞ。正面に立った状態で握られたからな。後ろ流れてないと思うぞ」と返しておく。本当に女神が悪魔の所業をしてくるのは何なのだろう。
俺の言葉を聞いて後ろ髪を触る彼女もいいな。彼女は髪を流した後、洗面器にお湯を入れる。なんの為か不思議に思っていると「ここにエクスカリバーを入れて」と俺のエクスカリバーの峰を持ちながら、言う。俺は「おい、ちょっと待て。何をする」と言いながら、女神のなすことに興味が湧いて、あまり抵抗はできていない。
輝奈子は鞘に入ったままの俺のエクスカリバーをお湯の中で少しずつ鞘から抜こうとしている。剥がすために鞘を上下に動かすのだが、俺が「いっ、あっ、ちょっ、やめ」と反応するのが面白かったのか、輝奈子は早くしたり、遅くしたりしている。しれっと俺の璧も揉んでるし。
鞘から少しずつ桃色の先端が見えてきた。何をしているかわかったけどお湯の中で、鞘ごと愛撫されたのには驚いた。本格的に快感が押し寄せ「ちょっ。いいのか。出そうなんだが」と言うと輝奈子は「いいよ。でも、よく洗ってから湯船浸かってよ。まだ、その万が一は怖いから」と言ってきた。
見慣れた白いビームが出て、その波動で剣自体が濡れ始める。ニオイまで放つ魔法。なんておしゃれに表現しても見慣れた男子のアレである。彼女の手に握られるのは天国が見えるほど気持ちよかった。でも彼女の大胆さに驚いて「おう。相変わらず大胆!!」と言うと、輝奈子は「そう?好きだから当たり前だと思ってた」と返してくる。
「そ、そうか」としか言えなかった。
輝奈子さんは急に思い出したように「そういえば、この前の酒どうしたっけ?」と聞いてきたので、俺は「この前って3週間前ぐらいのか?」と返した。
「そう。1缶は飲んでもらったじゃん。確かあのとき2本買ってた気がするの。あれどうなった?」
「すまん。俺が飲んだ」
「飲んだのかよ。別に酒好きじゃなかったじゃん」
「なんかこう。間接キスしてるような気持ちになりたくなって飲んだ。その日の夢にもアニキが出てきて、今までにないくらいムラムラしてた」
「なら、今もキスしとく?」といたずらっぽく笑う輝奈子さんに「その前にお湯に浸かろう。寒かろう」と返した。今ほどムラムラする瞬間もないけどな。
「確かに。夢中になって忘れてた」
「変な物に夢中になるな」
俺は思ったままのツッコミを入れてしまった。で、後始末しろとキレイに洗わされた後、一緒に湯船に入る。完全に尻に敷かれてらぁ。白く汚れた彼女の手で暫く行けそうだなんて思ってしまった自分を責めたい。
「あったかいね」と彼女が言うと、俺は「そうだな」と返す。何気ないこんなやりとりが幸せだ。
俺は「来週実家に帰るから会えんな」と口を開く。
「私もバイトあるからね。今月まだ来てないの。だから、来週きつく当たるかもしれない。なんでこんな時に帰るのよとか言ったらごめんね。忘れないでほしいんだけど、絶対優斗のことは大好きだから信じてね」
「わかった」
そう言って唇を重ねる。ついでに俺の肩に腕を回す。
「そろそろ出るか?」と提案すると彼女は「そうだね」と言って風呂を出る。風呂の後、映画を見たんだが、大人なシーンで彼女が脱ぎ始め、俺のエクスカリバーをなめ始めた時は驚いた。彼女を止めようとしたが、抵抗できなかった。めちゃくちゃキスもしたが、まさか豚骨ラーメンの次がお手上げのキスになるとは思わなかった。俺のエクスカリバーもしょっぱかったのだろうか。彼女のジンクス的にはそうなのだろう。いや、彼女は男だったこともあるし、ソレの味を知っていてこうなったのかもしれない。
まさか、唐揚げではなく、お手上げになるなんて思いもしなかった。やはり彼女は悪魔だった。