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夜もすがら──東亰異能譚  作者: 神流月
3/3

会合



「どうだい、応答あったかい? 」

「いやぁ、だめですね〜! 全く応答ないです。うんともすんとも言いません〜」


 ここはとある異能力者が集まる廃ビル。


 それを人が住んでも問題ない程度に修復した。そういう建物はこのビルだけでなく、ビルを含む街の全てが、人が住まなくなり廃れた荒地をとある異能力者の一人が再建したものに当たる。

 この街は元々、首都──東亰における西部地区の中でも比較的自然溢れる街として市が多く存在していたが、ある時。異能力者の暴走事件が起こったことが要因して殆どの人間──多くは異能を持たない非能力者──が西部地区を捨て去っていった。事件以後の人の退却は緩やかに続いたが、事件を機に、鬱憤の溜まっていたのか潜在していた複数の異能力者たちが暴れ回る事態も発生し、それが最後の後押しとなって西部地区はもぬけの殻となった。

 そんな中、これ幸いと西部地区と東部地区──ここでいう東部とは東都の大半を占める都心の事を指す──の境目だったところに、一際目立つ大きな防壁を一晩で作り上げ、異能力者が安心して暮らせるようにと、たった一人の異能力者がそのためだけに、一晩で街を作り直した。


 そんな経緯で作られた街の中で、一番状態が良かった廃ビルを改造して暮らしているのが、一つの街をたった一人で作り上げた人物の元に集う指折りの異能力者たちだ。多くの実力ある異能力者たちが集まるビル内で、一際大きい会議室の一室に主要な人物らが何やら会合をしていた。部屋の中心にある楕円型のテーブルや椅子にその複数と人が座っており、皆、一様に一つの事柄について話し合っている。


 議題はというと、組織の長が行方不明で連絡がつかない──という、なんとも頭が痛くなる議題だった。


 

「参ったね、反応さえ返ってくれば特定して突き詰められるんだが。返っても来ないとなると探すしかない。お前たち、捜索頼めるかい? 」


 ──にゃおーん。

 どこからともなく、猫が現れ、姿を消した。黒髪と金色の瞳を持ち、独特な話し方をする彼女──紅蓮(コゥィエ)の異能力は猫と意思疎通を取ることができる、または操ることのできる異能力者だ。操る猫たちは飼い猫である必要はなく、初めての土地に生息する猫であろうと挨拶を交わせば動いてもらうことのできる特殊なネットワークを持っている。また、猫同士のコミュニティを通じて人間社会からは得難い情報などを持つ、裏社会では有数の情報屋だ。

 実のところ、本人も猫に変身することができ、どちらかと言えばその能力が本懐ではあるのだが、本人の意向であまり使ってはいない。



「監視カメラ、いくつか侵入して映像遡ってるけど街の付近には戻ってこれなかったみたいだね。どーすんの、これ」


 かたや、会議室の一角に積み上げられた複数のモニターが連なるパソコンデスクの前に座ったまま、また違う異能力者が報告をあげる。

 精神感応の一種で、モニター含むPCを媒介にネットワークに侵入しハッキングを行える異能力者だ。十六歳なったばかりの少年だが、異能力者集まる街を防衛するためのセキュリティシステムも彼がほとんどを形成している。



「ほな、あいつの状態はどうなんや? 一番最後まで近くにおったんは水城(みずき)やろ。どの辺りで離れ離れになったんか、聞くしかあらへんよ」


 横から関西弁で左目を隠しているのが特徴的な女性が進言する。埒があかへん、とでも言いたげな風貌だ。いつまでも同じ話を繰り返している会議に匙を投げた、といったところだろう。

 ちなみにその水城というのは、フルネームで東雲水城(しののめ みずき)といい、当然のことながら彼女も異能力者である。行方不明になる前、かの尋ね人と最後まで一緒にいた唯一の人物だった。しかし、彼女は戻ってくるのも絶え絶えで大怪我を負って帰ってきたのだ。元気に話を聞けるような状態ではなかった。

 それを、組織に所属する治癒能力者によってひとまずの一命は取り留めた──らしいが、状況はまだ報告を受けていない。



「水城なら、最大でも一、二週間は目覚めないだろうよ」

「なんや、紫音(しおん)。おったんならさっさと報告せえや」

「今、手が空いたんだ。俺がここに来たのはついさっきだよ」

「どっちでもええわ。で、水城の状態はどないなん」

「いくヱ……お前な、まぁいい。報告する」



 多少の小競り合いを経て、紫音と呼ばれた中性的な人物は状況の説明を始めていった。



「──というのが、水城の状況だ。しばらくは目覚めないだろう。それに、精神感応タイプ(サイコメトラー)が見た限り、道中で早々に別れて行動したからあとの行動経緯までは読めなかったらしい。恐らく、奴が起きてもそれ以上のことは聞けないかもしれん」



 紫音の言葉に空気が重くなった。万事休す、打つ手無しとは正にこのことだ。こうなってくるとあとは地道に少しずつ行動範囲を広げ、しらみ潰しに捜索していくしかない。



「結局、(コゥ)さんのネットワークで地道に探すか連絡を待つしかないってことっすね」



 はぁ、なんだったんだこの会議。とぼやいてPCをいじり始めた少年──南雲(なぐも)のデスクトップにはGPSマップと複数のカメラ映像が流れている。なんだかんだと言いながら、少しでも情報を得るために探すのだろう。



「万事休す、だね。分かった、しばらくはアタシので感覚広げて捜索するとするよ。それから何か得られれば、ちゃんと共有する」


 ──じゃあ、一先ず解散!

 紅蓮のその一言によって、会議はお開きとなった。



 組織の長が失踪してから、三週間がたった日のことである。


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