После Урока1
あっという間に授業が終わってしまった。先生もいなくなってしまった。
あとは帰るしかない。
でも、どうする?
教室には、僕。そして、美少女。
先にとっとと帰るのも、気まずい。空気も、なんか気まずい。
……どうしよう??(2回目)
困ったのでタチヤーナさんのほうを見てみると、そそくさと帰る準備をしていた。
何か一声かけようかと彼女を伺っていたが、
「…………何?」
先ににらまれてしまった。とっさに挨拶の言葉が出る。
「これから、よろしく。」
「………………………よろしく。」
「………………………」
「………………………」
その後の会話が!続かない!!!!
こんなに会話が続かないのは僕のせいなのか?
タチヤーナさんはなぜかちらちらとこちらを見ているが、こちら側は何をすればいいのかよくわからない。話しかけるべきなのか、さっさと一人で帰るべきなのか。
でも、二人だけの教室から一人で出るのは後ろめたい気持ちもあるし、なんかはずかしいし、そしてなにより、こんな美少女と一緒に帰るという、夢やギャルゲーかラブコメ小説のようなシチュエーションをみすみす逃すことはできるだけ避けたい……!
しかし、経験は無い自分。どうすればいいのかはわからない。が、時間は待ってくれない。
「とりあえず、帰ります?」
一声かけてみる。玉砕したら恥ずかしい限りだ。冷や汗が出る。
「そうね。」
タチヤーナさんはそう言うと、大きめリュックを背負い、自分の準備を待っている。
…………えっ!?!?
僕はあわててかばんを背負うと、タチヤーナさんはスタスタと先に教室の出口へと歩いていくので、バタバタと追いかけた。
教室は3階なので、階段を下りていく。
大学に入ってわずか数日、こんな美少女と歩くことができるなんて!
思わず顔がにやけてしまう。が、会話は無い。本当はお話してみたいけれど、タチヤーナさんは何も話すことなく、淡々と歩みを進めている。
外へ出ると、思いのほか寒かった。4月でも夕方はまだ冷え込むものだ。今日はここ数日で一番冷え込むらしい。
「外、夜はまだ寒いね」
「……そうね」
「………………………」
「………………………」
天気の話もだめかぁ。
やっぱり会話が続かない。
会話の相性が悪いのか。
そもそも自分がただコミュ障なだけなのか。
高校時代、ろくに女の子と言葉を交わしてこなかったからなのか。
理系だからしょうがないのか。
あれやこれやと考えていると、ふとあることが気になった。
「そういえば、なんで一緒に帰ってくれたの?」
「別に。」
タチヤーナさんは、こちらを見ることなく、淡々と歩きながら答えた。
「一人で先に帰るのもなんだか申し訳ないかなと思って。2人しかいないのに、先に帰るわけにいかないでしょ?」
「たしかに。」
「君もそういう感じだったんでしょ?」
「……そうです。」
「ふうん。」
おっしゃる通りである。ぐうの音も出ない。
ただでさえ歩くのが早いタチヤーナさんについて歩くのが大変だったが、気づけばもう大学の敷地を出ていた。空はまだ明るいが、まだ授業が終わっていない時間だけあって人はまばらだ。
門を出て階段を下ると、道が二手に分かれている。自分の部屋はここで右に行けばすぐそこだ。ところで、タチヤーナさんはどっちに曲がるのだろう。
「どっち行くの?」
「そっちかな」
タチヤーナさんは右を指す。
「あ、僕もこっち。」
歩きながらの短いやりとり。二人で右手に進む。
右に曲がると、下りの階段。ちょっとした公園みたいになっている横を、スタスタと降りる。
「逆って言っておけばよかった……」
不意に、タチヤーナさんからボソッと声がもれた。
「えっ」
えっ。タチヤーナさんの声に比べると、ちょっと大きめの声が出てしまった。なんかちょっと傷つく。
「冗談だって。」
タチヤーナさんはすっとその長い髪をなびかせながら振り向くと、ふっと笑った。
ずっと無愛想だったタチヤーナさん。初めて笑ったかもしれない。
「ところで家、近いの?」
感慨にひたりかけていると、彼女はこちらを向いたまま、そう聞かれた。
ずっとちゃんと顔を見ないまま話していたが、ここでやっと、目線が合った状態で会話になった。
「すぐそこ。2軒目のアパートだよ」
そうなのだ。ギリギリに決まったとはいえ、大学にかなり近いところが空いていたのは、朝が弱い自分にとって幸運だった。
「けっこう近いんだね。ちょっとうらやましい。」
「タチヤーナさんは、どのあたり?」
「ここをまっすぐ、ずーっと行ったとこ。」
「そうなんだ。けっこう遠い?」
「まあまあかな。」
やっと打ち解けはじめ、会話がキャッチボールの形を呈してきたが、もう自分のアパートの目の前だ。
「もう家か」
思わず笑ってしまう。せっかく解けてきたのに。来週も同じように会話できるとは思えない。そんな自信はないのだ。
「そっか。また来週ね。」
「うん、気を付けてね~」
一声かけて手を振ると、僕は階段を上る。タチヤーナさんは僕に背を向け、まっすぐ歩き出す。
階段を上った先でタチヤーナさんがモデルのごとく歩く姿が見えた。いなくなるまで目で追おうと一瞬考えたが、やめた。
…………寒い。
カギを開け、誰もいない部屋へ入る。
…………暖房が効いていない部屋も寒い。




