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Урок 1 ガイダンス

 大学が始まって2日目となった金曜日。

 その5限。月曜日から換算すれば、1週間で最後の授業の時間だ。

 このコマが終われば、休日に突入する。


 小城くんをはじめ、多くの人はこの時間帯の授業を取っていないという。

 金曜の授業が早く終われば終わるほど、休日が長く感じるからだ。僕も、本当は休みたい。



 しかし、そんな時間にロシア語の授業が入っている。

 憂鬱な時間帯だが、ロシア語はちょっとばかり楽しみにしていた授業なので、憂鬱度が相殺されて数直線上では±0に落ち着いている。



 4限は早く終わってしまったので、余計な荷物は部屋に戻すことにした。

 と言っても、さっきの授業の書類をすべて部屋の机にのっけただけだが。

 うん、これは全然片付けになっていない。



 ゆっくりしている暇もなく、教室の前へ到着したのは授業の15分前だ。教室に明かりが灯っている。ドアも空いていて、誰かがいる気配はしている。



 色白で、美しいブロンドヘアの女性が座っている。

 先生だろうか。



 いや、違う。確か先生は連太郎とかいう男の名前だったはずだ。この女性がロシア語の先生ではないだろう。

 となると、学生…………?


 彼女はずっとうつむいたまま、スマホの画面を眺めている。

 しかし、その横顔。どこかで見たようか顔だった気もする。


 とりあえず、2列ほど席を空けた右側に座った。

 キィーと椅子を引くと、その女性はこっちを向いた。

「あ、どうも」

 と僕はすかさず一言挨拶をした。いや、正確に言うと、つい挨拶の言葉が口から出てしまった。

「…………………………」

 彼女はだまったまま数秒ほどこちらを見つめていたが、再びスマホに目線を落とした。






 ……………美少女すぎないか???

 てか、顔が日本人離れしている。

 白い肌に、透き通るような目。そしてはっきりした目鼻立ち。一つ一つの顔のパーツが完璧で、さらにその配置もベストポジションに整っている。これほどな美少女が、こんな田舎の大学にいるのか??


 頭の中であれこれ考えるは考えるが、初対面の男女2人だけの教室はあまりにも静かである。一言話した以降は、何の会話も起こらない。自分はとりあえずスマホを取り出してみる。彼女もまたスマホを眺めている。

 混乱しそうな頭を冷やすためにTwїtterのタイムラインを眺めては、アプリを閉じる。ふと、「ロシア語の授業に来たけど、人少なすぎて草」と書き込もうとしたが、打ち込んでから「やっぱいいや」と思い、そっと画面を閉じた。これから人が増えるかもしれないし。





 数分経ったが、誰も来ることはないし、相変わらず会話もない。何も起こらない教室。時計を見ると、すでに授業開始時刻から数分経っている。するとバタバタと音を立てながら男性が教室に入ってきた。

 パーマをかけているのか、いないのか分からないほどのボサボサな髪形に、しわしわのシャツ。


 教卓にドン、と入った勢いのまま荷物を置く。僕はあわててスマホをしまう。

「えー、こんにちは。ロシア語担当教員の阿蘇あそ連太郎れんたろうです。これからよろしくお願いします。」

 ぺこりと一礼する。この見かけだから、教室にいなければ教員とは思えないだろう。意外と丁寧だ。

「君が、大枝くん。かな」

「あ、はい。大枝です。よろしくお願いします。」

「どうぞよろしく。ロシア語は勉強したことはある?」

「いや、ないです。」

「そうか。」

 軽く挨拶を交わし、僕がロシア語初心者であることを確認すると、隣の女性のほうへ体を向ける。


「で、あなたがタチヤーナさん。」

 この女の子―タチヤーナさんは無言でうなずいた。

「♭▲★※◆☆△×♯♭▲●□◎※……」

「△◎×◆●☆♯●▲□★※▲……」

 途端に、知らない言葉が2人の間で飛び交った。何を言っているのかよくわからない。なんとなくロシア語で話しているのかと推測するが、まったくわからない。



「さて、ロシア語初心者は君だけなので、君のための授業になるな、大枝くん」

「そうなんですね……」

 反応に困るが、自分が置かれた状況のほうがもっと困っている。

 なんで外国語の授業で初学者が僕だけ?大学の第二外国語って、普通そうじゃないよね??ここは外語大じゃないもんね???


 てか、ロシア語ペラペラの彼女――確かタチヤーナさん――が、この授業を学生側で受けるのって、反則すぎませんか?


 もう何も考えたくなくなってきたが、構わず先生は話を続ける。

「さて、ロシア語はすっかり不人気言語になってしまい、今年の受講生は2人だ。ゆっくりじっくり勉強していこう。まあ、大学の第二外国語レベルだから、そこまで一生懸命する必要はないぞ。基礎の基礎レベルくらいの読み書きができるのを目指して、やっていこうな。大枝くん。」

 名指しかい。といっても、初学者は自分だけなので、しょうがない。


「えー、今回はガイダンスということで、今学期の流れと自己紹介をしたら終わりだ。」

 先生はおもむろにプリントを配った。

「今学期は、主に文字の『発音』と『読み』を中心に扱うぞ。文字が読めなければ何もできないからね。7月までに読みを完璧にしちゃってから、後期ゆっくり文法を学ぶ予定だ。」

「そして、気になる単位認定基準だが…………」


 ごくり。シラバスをそこまで見ていなかった。前にTwїtterで見た投稿では、「テストが難しすぎる」みたいなことが書かれていたようだが、一体どのようなものなのか。


「期末に音読試験、それだけの予定。一応出席率とかも考慮するけれど、まあ受講者が2人なので、午前中のうちに連絡してもらえれば、措置は取ります。」

 ホッ…、筆記が無いだけで安心する。期末にテストが重なることに不安を感じていたが、

 ところで、音読試験、女の子はどうなるのだろう……


「それから、オフィスアワーは金曜日の12:00~13:00としていますが、まあ事前にメールでアポ取ってもらえればいつでもOKだな。」

 オフィスアワーって、いろんな授業で言ってるけど、いまだによくわかっていないんだよなぁ。まあそのうちわかるか。


「最後に自己紹介。僕はさっき自己紹介したので何も言うことないから、大枝とタチヤーナさんにも自己紹介してもらうぞ。」

 えっ。これ自分たちもやるの?思わずタチヤーナさんのほうを見ると、目が合った。同じことを考えていたのだろう。


「まあ1年間一緒に勉強するからな。一応君たちのことを知っておきたいと思ってさ。ついでに、君たち同士も1年間一緒だから」

「えっ、自己紹介は何を言えばいいんですか?」

 唐突なむちゃぶりに応戦すべく、とりあえず質問を返す。自己紹介と言われれば、名前のほかに特技とか星座とか言ったりするけど、指定がないとちょっと困る。

 先生は、うーんと悩んで

「名前と…………まあ、今日は名前だけでいいか。」

 え、それだけでいいんだ。急に肩の荷が下りた気がする。


「じゃあ、まずはお前、大枝。」

 若干は覚悟していたが、やっぱり僕が先か。というか、呼び捨て?

「あ、はい。大枝佑也です。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

 パチパチパチと、まばらな拍手が起こる。2人しかいないから、あたりまえか。


「続いて、タチヤーナさん。お願いします。」

 なんでタチヤーナさんのときだけ敬語なんだ?自分は呼び捨てだったと思い出す。

「えっと、タチヤーナ・コレスニコワです。これからよろしくお願いします。」

 同じくまばらな拍手。でも少しだけさっきよりも音が大きいのは気のせいだろうか?

 まったく、隣の芝生はとても青い。


「それでは、今日は終わり!来週から勉強だから、心の準備はしてくるように。あとは二人で仲良くお話しながら帰宅してください。」

 えっ、もう終わり?

 呆気に取られていると、阿蘇先生は荷物を持ってさっさと行ってしまった…………

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