ソフィーの選択、 ―エレン―
成人式。
開幕を飾るあたくしと王太子殿下のダンスが終わる。
殿下ももういい年なのだから、そろそろ何のしがらみもないあたくしを指名するのはやめていただきたいものである。
「今日は随分と着飾っているね」
「ええ、気合いを入れてまいりましたもの」
「お礼を言うべきかな」
「勘違いなさらないでくださいませ。殿下のためではございませんわ」
音楽が終わり、礼をして拍手の中をエスコートされて歩く。
その喝采の群衆の中に、ソフィーがいた。
1度目、あたくしに婚約者を奪われた彼女は一人ぽつんと立っていた。自分を嗤うようにしてたたずむ彼女を周囲は奇異の目で見つめていた。
そして今回、婚約者は拘束され彼女はやはり一人だった。
真実をつまびらかにし、告発を証明するためとはいえ、公衆の面前で裸同然になった女をエスコートしたがる者などいないということだろう。
あたくしの視線に気が付き、殿下が呟く。
「やれやれ、僕の出番かな」
彼女に向かって歩き出そうとするのをとめる。
「殿下がお出になるとややこしいことになりますので、おやめください」
「ではどうするのかな?」
あたくしは、殿下の手を離れ広間に歩き出す。
最初の人生、あたくしはこのあとソフィーによって殺され一生を終えた。
目覚めたときもう2度と会わないと思ったのに。おかしなものね。あたくしは今、貴女に向かって歩いているのだから。
でも、あのときと今のあたくしは違う。
貴女だってそのはずよ、ソフィー?
周囲がざわめき、その騒がしい声に彼女がうつむくのをやめ顔を上げた。そして、あたくしを見るとほっとした顔をする。
あたくしは彼女の前で立ち止まり、手を差し出す。
彼女は当然のようにあたくしの手を取り、輪から抜け出そうとする。まるで自分はここに立つ資格がないとでも言うように。
「お待ちなさい、貴女どちらへいらっしゃるおつもり?」
「で、でも、私、相手がいないから……」
あたくしは彼女の言葉吹き飛ばすように笑い、彼女を引っ張って輪に加わる。
このために飾り立てて来たのだ。
「エレン?」
「もう忘れたの? あたくし、こう見えても男性パートも踊れてよ? それとも、あたくしではご不満かしら?」
彼女は目を丸くして、
「いいえ、エレン。不満だなんて。でも……」
「では、あたくしでよろしくて?」
気づいて頂戴。
貴女は選ばれる側ではない。選ぶ側なのよ。
さぁ、あたくしを選んで!!
あたくしの想いが通じたのか、彼女が笑う。心から。そして言った。
「ええ――あなたがいいの! 私、エレンを選ぶわ!!」




