いびつな保護者と少女の落着 ―ソフィー―
「ソフィー!! ソフィー、待ってくれ!!」
判決の後、裁判所を出たところで、レイモンドが追いかけてくる。
倒けつ転びつ、私たちの行く手をふさぐように回り込み、私に縋った。
「どうか、俺の証人になってくれないか。君に今まで行ったことは反省している。恥ずべき行為だった。君に謝るよ」
私を庇おうと前に出るエレンとグラスゴー様に首を振ってさがってもらう。
守られてばかりではもう駄目だと分かっているから。
「君は俺と一緒にくらしていたから、俺のことは一番よく知っているだろう? それに一時とはいえ対立していた君が俺に対して証言してくれれば、心象も良くなるはずだから……」
今まで私を虐げて来た者が、私の慈悲を乞うている。
これは現実なのかしら。
思いもよらない不思議な光景だった。
呆れているのだと思う。
後ろでエレンが大きくため息をついたのが分かった。グラスゴー様もわざとらしく咳をしている。
そのあからさまな合図は彼の存在を無視するようにと如実に告げていた。
レイモンドと目が合い、彼が私を見て微笑む。
甘い顔にわずかばかりの悲壮を携え、同情を誘うように。
私たちの間にあるのはちょっとした行き違い程度のものであり、いつでも修復可能だとでもいうように。
レイモンド、私もそうだったわ。
自分の弱さと向き合えず、我慢して、目を瞑って、諦めてやり過ごそうとしていた。
そうして乗り越えたつもりになっていた。目をそらしたままでは何も解決しないというのに。
結局、私たちは似た者同士だったのかもしれない。
エレンは絶対に違うと怒るだろうけれど。
「……エレンが教えてくれたわ。閣下はいつもこう仰っていたそうなの。“将を打ち取った時、勝利に酔いしれるのではなく、その手を握り敵のために祈れ”と」
間髪を入れず、背後から「何を考えているのですか!?」とグラスゴー様の驚愕の声がかかる。
この男に慈悲をたれてやる理由がどこにあるというの。
そうエレンの声が続いた。
でも、私だって踏み出さなくてはいけないから。
私が振り返って笑いかけると、2人は何か言いかけ、それから最後には呑み込んだ様子で大きく息を吐いた。
キングストンのお屋敷で過ごす間、ずっと考えていた。
もし、私とエレンの立場が違えば、私は彼女のようになれたのかしらって。
環境がすべてではないけれど、人の形成においてやはり重要な条件であることは確かだと思う。
でも、なんとなく分かる。
たとえ同じように育てられたとしても、私は彼女にはなれない。
どちらが優れているということではなく、結局、私は私でしかないのだから、自分がいる場所で変わらなければ意味がない。
怯えて王子様を待つソフィーはもうおしまい。
いつか、今日のことを後悔するときが来るのかもしれない。
でもこれが私の答えだから。
これは他の人から見たら笑っちゃうくらい小さな一歩だと思う。
「だから、あなたに言うわ」
でも、私にとっては大きな一歩。
私はレイモンドの顔から眼をそらさず、半歩だけ後ろに身を引く。
「神さま、この人にどうか祝福を授けてあげてください――私からはあげられないから」
言うと同時に、大きく足を振りかぶり、私は彼の股間をけりあげた。




