指輪 ―エレン―
それから交流の日々がまた始まった。
戦いの準備でもある。
何をどう進めていくか、悟られないよう静かにしっかりと綿密に計画を練らなくてはならい。少しの見逃しも、あってはならない。いくつもの事態を想定して様々な方向から検討していく。
「彼はどう? 気づかれてはいない?」
傷が増えていないか確認するあたくしにソフィーが笑う。
「ええ、大丈夫。レイモンドが力を入れている染色関連に投資をしたのあなたでしょう? だから忙しいみたい。でも、彼が望んでいるってよくわかったわね」
一度目の人生で、彼にそれとなくにおわされたのだ。出資者が欲しいと。
当然、あたくしは喜んで彼に応えた。その苦い記憶を忘れていなかっただけだ。
「本当にお金を使ってしまってよかったの?」
「全く問題ないわ」
我が家にしてみれば大した額ではないし、金銭に関しては母に相談もして納得してもらった上で動かしたのだ。
それに、いずれレイモンドの物はすべてソフィーの物にするつもりなのだから、今投資しておいても損にはならない。
「頻繁に招待していることにかんしては大丈夫かしら?」
「平気よ。むしろ、私がまたあなたに招かれるようになって機嫌がいいわ。彼はエレンに近づきたがっていたから」
「……彼はあたくしを手に入れたがっているの? 我が家の地位が欲しいの?」
「エレンが美人だから欲しいのだと思うわ」
あたくしの疑問に彼女はごく真面目に答えたようだけれど、そうとは思えない。
一度目でもレイモンドは結局ソフィーとの婚約を解消しようとはしなかった。
彼女からあたくしに乗り換えた方が手に入るものは多いのに、なぜだろう。
言葉は悪いが、財産や地位という意味ではあたくしに勝る利点がソフィーにあるとは考えられない。
「そういえば、レイモンドが管理している貴女の家の財産も探っているのだけれど、お母様が大切になさっていた指輪の行方だけが分からないの」
「ああ、あれはレイモンドが肌身離さず持っているから」
「……それほど高価なものなの?」
「さぁ、分からないわ。でもとにかく繊細な模様でね、綺麗なの」
彼女が絵を描く。
それを見て、あたくしは息を呑んだ。
あの男が管理している時点で気が付くべきだった。もっと早くに詳しく訊くべきだった。
だが、どうして考えられようか。
一介の侍女が、王家の物を持っていたなどと。