第9話 力を与える者
瞼を開けると夢の青空の水面の上に立っていた。赤毛の女性に殴られ、コンとワンを守ろうとして気絶してしまったのだろう。記憶を遡りながら思い出していくと水面が波打ち始め、水の中から透明な女性の人が現れる。
「君は……一体誰なんだ?」
「……」
女性は問いかけに何も答えてはくれない。少しずつ近づいてくる女性からは何も危険な感じはせず、そのまま立ち尽くしていると女性は俺の胸に手を当てる。
(痛かったでしょう……)
頭の中に声が聞こえてくるとその声は目の前の女性だとすぐにわかる。
「君は……」
(貴方にとって力を与える者とでも言っておきましょう。しかし、貴方の身体はあの女性の攻撃で瀕死に近いです……)
「力を与える者っていうくらいだったら……守ってくれてもいいんじゃないか?」
(守ってあげたいのは山々ですが、貴方の身体はまだこの世界に適応しておりません。今の状態で私の力を使うとそれこそ貴方の身体が崩壊してしまうのです)
「それだったら仕方ないな……。それでなんで俺がこの世界に来てしまったのかわからないか?」
あの日、俺は会社に出かけようとしたのにこの世界に来てしまったことで今までに疑問に思っていたことを尋ねる。
(わかりません。私は湖の奥底で眠っておりました。その時、貴方が入ってきたことで貴方から何かを感じた私は貴方に引かれ、貴方に私の力を与えようと思ったのです)
「力?」
(はい。貴方が水の玉や水の斬撃を出すことが出来たのは、私の力を貴方に分け与えたからです)
「それってワンが言っていた魔力のことか?」
(この世界で過ごしている生物たちは魔力と言っているみたいですが、私たちにとっては自然の力なのです)
「魔力って自然から生まれるんだな……」
(そうです。生命を生み出すのも、魔力を生み出すのも全ては自然なのです)
「自然って凄いな……」
自然は生物が生きていくのに欠かせない存在だ。前の世界では自分たちの生活を便利にする為に木々を切り、ビルや家が建てられているが俺たちは自然の犠牲の上に立っていたのだ。その時、昨日きり倒してしまった木を思い出すと申し訳ない気分になる。
(貴方は優しいですね。大丈夫ですよ。自然は貴方が思っているよりも遥かに強く生命力に溢れています。貴方が感謝の気持ちを忘れない限り、自然が貴方に襲い掛かることはないでしょう)
「君は俺の思っていることがわかるのか?」
(えぇ。貴方と私は一心同体と言っても過言ではありません。貴方のその気持ちが私を目覚めさせたのかもしれませんね)
「ありがとう。君がいてくれなかったらどうなっていたかわからない。だけど……俺はこのまま死んじゃうのか?」
(それはあなた次第です。しかし、このままでは貴方は死んでしまうでしょう。だから、少しだけ多めに力を贈ります)
女性の手から温かい物が流れてくると少しずつ身体が温かくなるのを感じる。温かさに包まれ、夢の中なのに眠気に襲われると俺の身体から力が抜けていく。俺はその場に座り込み、女性を見上げると言葉を漏らす。
「う……眠たく……なって……きた……」
(貴方がこの世界でどのような生活をしていくのかはわかりませんが、私が信じた貴方に力を与え続けます……)
女性の声が子守歌のように感じ、瞼を閉じて眠りに就いてしまうのであった。
瞼を開けると青空が広がっていた。左右を確認したがそこは夢の水面の上ではなく、地面の上に横になっている。俺は顔を上げるとコンとワンが威嚇しているように尻尾を逆立てながら一方を見ている。その先を見ると先ほどの女性が立ち尽くしており、二人は俺が寝ている間、二人は赤毛の女性から守ってくれていたのだろう。そっと威嚇している二人の背中に触れると振り返った二人は涙を浮かべ、俺の身体に抱きつくのであった。
「ご主人!!」
「ご主人様!!」
「コン……ワン……」
身体を起こしたが女性から受けた打撃の痛みが少し和らいでいるような気がした。
「ご主人!! 痛くない!?」
「まだ少し痛いけど……大丈夫だよ」
「ご主人様……」
「もう大丈夫だよ。それよりも……」
目線を女性に向けるとコンとワンは威嚇をしながら睨みつける。女性と表情を見ると鋭い目線は和らいでおり、思いつめているような表情に変わっていた。俺は立ち上がしたが痛みのせいでよろけてしまうと二人が身体を支えてくれ、俺たちは女性に向かって歩き出し、近づいていくと女性は頭を下げる。
「す、すまなかった!!」
「……」
「アタイの勘違いでアンタたちに危害を咥えた!! 謝って許してはもらえるとは思ってねぇーが、気が済むまで殴るなり蹴るなりしてくれ!!」
女性の身体が少し震わせており、二人は俺に目線を向けるとどうするのか気になっているようだ。女性の肩にそっと触れ、頭を上げた女性は驚いた表情を向ける。
「君はコンとワンが奴隷にされていると思っていたんだろ? 二人を助けようと思っての行動だったら、俺は何もするつもりはないよ」
「それじゃあ、アタイの気がすまねぇーんだ!!」
「それは君の気持ちであって俺の気持ちではない。それにそう思うんだったら、まずは俺よりも二人に謝ってあげてくれないか?」
女性は気づいたように二人に目を向けると頭を下げる。
「すまなかった!! 怖い思いをさせて!!」
「うん……」
「はい……」
身体を支えながら返事を返すが怯えているようにも見える。そっと頭を撫でると痛みのせいで立っていられず、二人に支えらえて座るのであった。
「まずは話をしよう。君がなんであんなに怒っていた理由もちゃんと聞かせてもらわないとな」
「わかった……」
コンとワンが隣に座り、女性が俺たちの目の前に胡坐をかいて座って真剣な表情を向けるのであった。
三回目の投稿する作品ですが誤字、脱字などあるかもしれませんが、楽しく読んでいただけると嬉しいです。今回、大幅に編集している為、最初からの投稿を再開しようと思いますのでよろしくお願いします。
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