第1話 扉を開けた先は……
俺の部屋にアラームの音が鳴り響く。俺はスマホを手に取ってアラームを止めてベッドから降りる。キッチンに向かうと冷蔵庫を開けてコーラを手に取り、ペットボトルの蓋を開けて口の中に流し込む。喉を流れるコーラの炭酸の刺激により、俺の眠気は一気に吹っ飛んでいく。
「あぁ……美味い……」
コーラを片手にリビングのソファーに座るとテレビの電源を点ける。画面には今日の天気が映し出され、天気の後は占いが流れ始める。
(魚座は一位か……。何々? 新しい扉を開くでしょうか……。何かいいことでもあるのかな?)
俺はソファーから立ち上がってコーラを冷蔵庫に戻した後、寝室に向かい会社に行く準備をする。
(今日は月曜日だから……着替えとか多めに持ってロッカーの中に入れとくか……。この前は忘れて汗臭いTシャツで作業したから最悪だったしな……)
毎日のように持っていくリュックの中には五、六枚の着替え用のTシャツとタオル、お腹が空いた時の為の菓子パンを詰め込む。
洗濯した真っ白なTシャツを着て、紺色のジーンズを履くと俺はリュックを背負い、スマホをポケットの中に入れて玄関に向かっていく。お気に入りの靴を履くと今日も元気に会社に出かけようと玄関の扉を勢いよく開いた。
しかし、俺の目に映ったのはいつものアパートから見える景色ではなく、鳥の声が聞こえてくる森だった。
「えっ?」
振り返ると玄関の向こうは俺の部屋だ。再び後ろを向くとやはり森が広がっている。信じられない光景を目にした俺はその光景を確かめる為に一歩ずつ前に歩き始める。
「なんだよ……ここは……?」
バタン!
青々とした森に目を奪われていると後ろから扉が閉まる音が聞こえる。俺は咄嗟に扉まで戻って取っ手に触れる。
「うーん!! 開けよ!!」
扉の取っ手に力を入れてもビクともしない。俺が全力で開けようとした瞬間、手に電流が走り、触れていた手を放すと地面に倒れ込む。
「いてて……」
俺は扉に目を向けると扉が少しずつ消え始める。
「おいおい! 嘘だろ! 消えちゃ駄目だ!」
立ち上がって扉に触れて叩いたり、蹴ったりしたが扉はビクともせずに最終的には俺の目の前から消えてしまった。目の前の光景に俺は呆然と立ち尽す。本当はまだ夢の中で俺はベッドで眠っているままではないのかと……。俺は頬を抓ると痛みが走り、目の前の光景が夢ではないことを実感する。
「えっ……これは現実……じゃあ、ここは……」
口から言葉が漏れると茂みが音を立てながら揺れる。俺は辺りを見渡し、地面に落ちている木の棒を手に取ると構えて対抗しようとする。
(でも、茂みから熊や猪が出てきたらどうしよう)
そんな頭の中に不安が過る。
「うわっ!」
しかし、そこから出てきたのは熊でも猪でもなく、灰色の毛並みをした狼と黄色の毛並みをした狼の二匹だった。
「狼! 狐!」
思っていた熊などではなかったが狼や狐も肉食の動物で危険だ。俺は木の棒を構えながら後ずさりするが狐は一歩一歩前に進んでくる。狐が間近に迫ってきたので、俺は恐怖のまま持っていた木の棒を振り上げる。
「お腹……空いた……」
「えっ?」
狐が人語を話した。そのありえない光景に持っていた木の棒が俺の手から地面に落ちていく。
「コン、人間に近づいてはダメ!」
狐だけではなく、後ろにいる狼も人語を話し出す。
「でも、この人間は嫌な匂いはしないよ?」
「君たち……お腹が空いているのか……?」
「うん……森をずっと走ってて……もう何日も……食べてない……」
「そうか……。あ! ちょっと待ってて!」
リュックを降ろすと狼は狐の前に出て、赤い瞳で俺を睨みつけながら警戒するような姿勢をとる。俺は怯えさせないようにゆっくりリュックの中から菓子パンを取り出し、袋を開けて地面に座る。狐は俺が出したチョコスティックパンに興味津々のようで狼の陰から飛び出てくる。
「コン!」
「大丈夫!」
俺の前まで近づいた狐にチョコスティックパンを近づけると狐は匂いを嗅ぎ始める。
「これはチョコスティックパンだよ。甘くて美味しいよ」
「食べて……いいの?」
「ダメですよ! 毒が入っているかも!」
「毒なんて入ってるわけないだろ!」
「でも……いい匂い……」
狐は俺が差し出したチョコスティックパンの匂いに抗えずに口を開けて一口食べる。
「う~ん! 美味しい~!!」
「もっと食べるか?」
「うん!」
狐が勢いよく食べだしたので俺は狼の方を見る。狼はまだ俺を警戒しているようで毛を逆立てている。
「警戒するのはわかるけど、お腹が空いているんだろ? 大丈夫、毒なんて入っていないから狼ちゃんも食べな」
狼が警戒しながら恐る恐る近寄ってくると俺はリュックからメロンパンを出す。
「本当に……大丈夫ですか……?」
「大丈夫だよ」
俺はメロンパンを一口食べて毒が入っていないことを証明して狼に差し出した。狼は差し出されたメロンパンを恐る恐る食べるとその表情が変わり、メロンパンの美味しさに無我夢中で食べ始める。
「もっとほしい!」
「はいはい、どうぞ!」
俺はメロンパンを千切って狐にあげると嬉しそうに食べ始める。今度はチョコスティックパンを狼にあげると二匹は勢いよく食べるのであった。
持っていた菓子パンが無くなると狐と狼は満足そうな表情をして俺に向き合う。
「ありがとう! とっても美味しかったよ!」
「ありがとうございます……」
「いいよ。お腹がいっぱいになったのなら良かった」
「それで人間さんはなんでここにいるの?」
「わからない。会社に行こうと扉を開けたら、この森があったんだ……。それで戻ろうと思ったんだけど、その扉は消えてしまったんだ……」
「会社?」
動物の二匹に俺の世界の話をしても理解することは出来ないだろう。そう思った俺はパンのゴミを畳んでリュックのサイドポケットに仕舞う。
「まぁ……戻り方もわからないし……このままだと動物に襲われるかもしれないと思っている時に君たちと出会ったってわけだ」
「そうなんだ……ごめんね……ご飯をもらったのに何もしてあげられなくて……」
「いいよ。君たちがお腹が空いているって聞いて、俺に出来ることをしてあげたかったんだよ。それじゃあ、消えた家の扉を探しに行くよ」
俺は立ち上がると狼と狐に手を振り歩き始めるのであった。
三回目の投稿する作品ですが誤字、脱字などあるかもしれませんが、楽しく読んでいただけると嬉しいです。今回、大幅に編集している為、最初からの投稿を再開しようと思いますのでよろしくお願いします。
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