1話目
私は毎日死にたいと思いながら生きている。
この世に生を受けて25年、「幸せ」を感じたことなど数えるほどしかない。
毎日悪夢に怯えて床につき、よく眠れないまま気だるい朝を迎える。
人生が少し変わった今日この一日も、いつもと変わらぬ気だるさから始まった。
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「そろそろ起きるか」
朝7時、既に目は覚めていたが設定しているアラームが鳴るまで布団の中で待っていた。
「冬場は朝にシャワー浴びるのやめようかな。寒すぎて風邪引きそうだ。」
いつもこう思っているが惰性でシャワーを浴びる。
結局、眠気覚ましと気分の切り替えにシャワーを浴びるのがちょうどいい。
そうして朝の準備を終えた俺は、早々に職場へと向かうことにした。
俺の今の仕事はとても暇だ。
まだ若く、別に出世も期待されていない俺は、関西から北海道のちょっとした都市に異動させられ、日がな一日仕事をしているふりをしていた。
「何か目新しいことでも起きてくれないものかね。いっそのことちょっとした事件でも起きて出動させてくれたほうがいくらか仕事のしがいがあるってもんだ。」
呆れたように近くの席の後輩に愚痴をこぼす。
「不謹慎ですよ、御子神さん。事前に事件を防ぐのも我々の仕事でしょう?」
俺の仕事は警察ではないが、有り体に言えば人を守るお仕事である。
「そうは言うけれどなあ、いくら色んな策を講じたところで悪いやつは上手いこと穴をついてくるもんだろ?
結局俺らが事前に何したところで見えないところに被害者はいるんだぜ?」
「全ての人を救うなんて無理に決まっているじゃありませんか。ヒーローにでもなりたかったんですか?」
「人は誰でもヒーローになりたいだろ?
それに誰もがヒーローを期待している。」
「うちの組織はあなたみたいな強い人ばかりじゃありませんから。私みたいなかよわい女の子は事件が発生しないことを祈るばかりですよ。」
このかよわい女の子を自称する後輩は山田菜摘。歳は一つ下の24歳だが、高卒で入った俺と違って大卒で入っているので、俺から見るとかなり若く感じる。
「菜摘ちゃんでかよわいならこの世のほとんどの女性は心神耗弱で危篤状態だろうよ。」
「バカにしてるんですか?
そんなに暇ならちょっと行ってきてほしいところがあるんですけど。」
「うん?俺でいいなら構わないけど。」
「オホーツク海側の山奥なんですけれど、保護を求める通報があって………。」
「そりゃ警察の仕事じゃないのか?」
「うちに直接通報です。なんでも警察にはバラさないでほしいとか。」
「罠の可能性もあるんじゃないか?ノコノコ出向いてやる必要があるのか?」
「今どきそんなことないとは思いますが。まあ、所長は念のため御子神さんに行ってほしいそうですよ。御子神さんなら万一の心配もないですし。」
「過大評価だと思うけど、まあいいか。所長の命なら従わない理由もない。」
「距離があるので即日帰着が無理そうならどこか適当なホテルに泊まってください。」
「了解。」
今はまだ「普通の世界」から足を踏み外すことになるとは想像もしていなかった。




