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第四楽章




「……何の用?」


静かに口を開いた相手に、少女達は少し怯んだ。

それ程、琥珀の瞳に浮かぶ静謐な光は、犯しがたい神秘的な美しさを誇っていた。

地毛ながらにゆるく巻かれた栗色の髪は淡く輝いている。睫毛は長く、唇は桜色。肌が白磁のように白いことも、まるで高級な西洋人形を思わせた。

リブラス――親衛隊の少女達が讃える『姫』と並ばせても、系統は違うが、何ら劣らぬ美貌を『月姫』である宮城浹の親友、霧崎礼芽は持っていたのだ。

呼び出したのは朝方の中庭。顔を出した太陽に僅かに照らされた美貌はどこか危うい程に美しく、思わず、親衛隊の幹部の数人すら見入ってしまっていた。

何とか自分を保っていた数名――隊長、副隊長その他――の内、一人が口を開く。


「霧崎様に、折り入ってお話が。この所――」

「……浹のことなら、心配無い」


言葉を遮られて、少女達は一瞬ぽかんとした。


「はい……?」

「もう、手は打ってある。その内元気も戻るから――何もしなくていい」


折角の意を決した呼び出しだったが、直ぐ様その時間は終わりを告げた。

尋ねる前にもう、霧崎礼芽は答えを発したのだ。

それは納得のいくものではなかったが――。


「……浹様がお元気になられるなら、私達は身を引きましょう」


リブラスの隊長は静かに言葉を発する。

礼芽から、これ以上の情報は手に入らないということが何となくわかった。

故に、一度は引く。

しかし――


「ですが、一週間が限度です。それ以上を過ぎても浹様のご様子が良くおなりにならなければ……」


伊達に、女神の僕を名乗っているわけではない。


「どんな手段を講じてでも、原因を突き止めさせて頂きます」


礼芽は、隊員達の決意のこもった目をちらりと見て、目を細めた。


「……好きにするといい」





 †月と太陽の狂騒曲†


~The fourth movement~





ことあるごとに、脳裏に蘇る面影がある。

鴉の濡れ羽色、とはおそらくあんな色を指すのだろう。長く艶やかな黒髪と、綺麗な黒瞳を持つ美しい少女の笑顔が、頭から離れない。

ぽーっと自分の世界に旅立っている間に、何度も声を掛けられていたらしい。


「…ずは、かずは!」

「う、はい!」


びくっと反応すると、目の前には呆れたような友人の姿。


「……またどこかに意識が飛んでたな」

「――悪い…」


謝って顔を上げれば、正面でこれみよがしに溜め息を吐いてくる昴の髪が目についた。

黒い髪。

――なんだか、色合いが『彼女』と似ている気がする。

前髪を伸ばしていて、眼鏡の奥に隠れている為に、今はその瞳はよく見えないが――


「……黒…」


以前見たことのある友人の目は、髪と同じ黒だった。

……そこまで考えて、和葉は首を振る。考えすぎだ、と。

大抵の日本人は黒髪黒瞳である。まあ自分は違うが、クラスメートの八割は黒髪だった。黒といっても色々あるが、色合いが似ているからとそこからまたある少女を連想してしまうなど、どうも過剰になりすぎているようだ。

何故こんなにもあの少女が気になるのか、と内心でため息を吐くと、昴が話し掛けてきたので、漸く意識を切り替えようとした。


「で、いい加減教えてくれてもいいだろう?何があったんだ?」

「…別に。ばったり生徒と遭遇して、男だってばれるかとひやひやだったけど、何とか無事に仕事を終えてきただけだって何度も言ってるだろ」


昴の質問で嫌でも記憶が蘇ってきたので、和葉はむっとする。

同時に、真実を全て語っていないことに罪悪感を覚えた。



あの日、和葉は、男であることがばれたのだ――。






「…浹。元気になった?」


静かに確認のように問われ、宮城浹は申し訳なさそうに微笑んだ。


「ええ、心配をかけてごめんなさい…」

「…原因は、わかった?」


琥珀の双眸を見返し、そこから読み取ったことに、浹は苦笑した。


「――礼芽は私より先に、私の気持ちに気付いていたんですね?」

「………」


沈黙は、肯定の証。


「どうやら、私は恋というものをしてしまったみたいです……」


胸の奥で燻っていた想いの正体を、昨日、漸く知った。

宮城浹は、都築和葉に恋愛感情を抱いているのだ――。

どうして彼を好きになったのかと聞かれ、浹は答えた。

あの真っ直ぐな瞳に、その心の持ち様に、惹かれてやまないのだと……。

いつも無表情な友は、顔色を変えずにふうん、と一つ頷いただけだったが、その瞳に柔らかな色を浮かべてくれたから、浹の心も和らいだ。


生徒の大半に衝撃を与えること間違いなしの浹の恋する乙女的宣言は、彼女達が、人のいない屋上で話していた為に、幸いにも他の人間に聞かれることはなかった。




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