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第3話 はじまりの町

女と俺は男から離れるようにどこかへ向かって歩いていた。


「痛っ……」


さっき男に蹴られたりしたところが痛み、俺は足を止めた。


「大丈夫か?あともう少し我慢してくれ」


「さっきの男たちは一体……」


俺が尋ねると、女は振り向いて口を開いた。



「盗賊みたいなものさ。あんたのような初心者からエコルを奪おうとしていたんだ。最近多いんだよ。何も知らない初心者を攻撃してエコルを奪う輩がね」


「それを助けてくれたのか」


「べ、別に助けたとかではない。ただ、何も知らない人が襲われるのは気分が悪いだけで」


女は少し頬を赤らめてそっぽを向いた。


なんだか可愛らしい人だな。



「男たちはあの後どうなるんだ?」


「私の氷は5分で溶ける。今頃、凍えているんじゃないか?」


女はクスッと楽しそうに笑った。


「それが君の能力みたいな感じ?」


「まあ、そういう感じだ。氷を操る力……かな」


「それは凄いな」


人によって能力が全然違うんだな。さっきの男たちは何も無いところから剣や銃を出現させてたな。俺とちょっと似ている感じか。逆にこの子は氷を操るなんて魔法的なことが出来る。奥深いな……。


「少し遠目から様子を見ていたが、武器を出現させる能力か何かか?すまない、言いたくないならいいんだが」


「いや?言いたくないとかはないけど?俺の能力は武器化って言われたな。物体をイメージで武器に変えるみたいな」


「……そうか」


俺自身まだ自分の能力よくわかってないんだけどな。


「そういえば、まだお礼を言っていなかった。助けてくれて本当にありがとう。君の名前は?」


俺が足を止めて尋ねると、女も足を止めて振り向いた。


「……柊 六花(リッカ)。名前呼びで良いわ。あなたは?」


「俺は瀬尾 蓮。よろしく」


俺たちは互いに名前を明かし、軽く握手を交わした。


「さあ、もう少しで町に着く」


六花に言われるがままゆっくりとその足を進めた。小さな丘をゆっくりとあがるとその先に小さな町が見えた。



その町はあまり大きな町ではなかったが、噴水を中心として十字に道が伸び、その道を囲むかのように民家やお店が並んでいた。俺ら以外にも小さな町でありながら、多くの人に溢れている。


「いたいた!六花~!」


町中を少し歩くと、明るい茶髪の可愛らしい女性が手を振りながらこちらに向かってきた。


「綾、待たせたね」

「あれ、その人は誰?」


じっと見つめる彼女に俺は軽く自己紹介をした。


「蓮くんって言うのね!私は桃園 綾!綾でいいからね!よろしく!」


可愛い子だなぁ。


「綾、早速で悪いんだが、蓮が怪我をしているんだ。治してくれないか?」


「え、どこ!?どこどこ!」


じろじろ見つめる彼女に蹴られて青くなった腹部を服を少し捲って見せた。


「ほんとひどいことするんだから。待ってて」


綾は青くなった部分に手のひらを向けてゆっくりと目を閉じた。


「……よっし、治ったよ!」


そう言われ、自分の足を見てみると綺麗さっぱり青くなったアザが無くなっていた。



「痛くない」


「私の能力は他人の怪我を直せるものなの!いわゆる治癒能力みたいな?だから怪我したら私に任せてね!」


真っ直ぐな笑顔に心臓が一瞬飛び跳ねたような気がした。


「ありがとう……」


俺、今顔真っ赤だろうな……。恥ずかしい。



「蓮くんはこの後どうするの?」


「この後……特に何も決めてなくて」


「私が何も教えずにここまで連れてきたからな。無理もない」


そもそもこの夢がいつまで続くのかわかんないしな。



〖強制ログアウトまで残り1分〗


すると突然、謎のアナウンスと共に空中に赤い文字が表示された。



「なんだ……?強制ログアウト?」


「誰かに"起こされたようね"」


「どういう事だ?」


「……詳しく説明する時間がない。チュートリアルはしっかり聞いたな?何も言わず、フレンドの欄を開いてくれ」


「え、え?」


「蓮くん、早く!」


何が何だか分からない俺は綾に急かされ、すぐにポケットに入れていたスマホを取り出し、チュートリアルを思い出しながらフレンドの欄を開いた。



〖柊 六花からフレンド申請が届きました〗

〖桃園 綾からフレンド申請が届きました〗


すると画面に2つのメッセージが表示され、承認するか拒否をするか選択を迫られた。



「とりあえず承認しておいて!そしたらまたすぐにでも会えるからさ!」


綾にそう言われ、2人を承認するとフレンドになったという通知が届いた。フレンド一覧には六花と綾の名前が表示され、名前の右側にはそれぞれのレベルと"L.O.W"と言う文字、そしてオンラインと書かれていた。



「また会おう。蓮」

「またね、蓮くん」


「ちょ、またってどういう……」


尋ねようと声をあげたが、急に視界がぐらつき、ふっと眠ったように俺は意識を失った。




「蓮、蓮ってば!起きなさい!」


聞き覚えのあるうるさい声が頭に響き、俺はゆっくりと目を開けた。


「母さん……?」


「もう!何回声かけたと思ってるの!」



パッと起き上がるとそこはいつも通りのリビングで目の前には眉間に皺を寄せた母さんが立っていた。



「ちょっと聞いてるの?」


「え、あ……うん」


「休日だからってゴロゴロしないで勉強しなさい」


母さんはそれだけ言うとキッチンの方へ向かい、何かしらの作業を始めた。



なんだ……?この感覚。よく分からない男たちに殴られ、蹴られた時の痛みも覚えているし、六花と綾と話した内容もしっかり覚えている。


「そういえば、」


亮二に謎のURLが送られてきてスマホが固まったんだよな。


「あれ……?」


亮二とのメッセージを確認すると送られてきていたはずのURLなどどこにもなく、メッセージの最後は昨日話した部活の内容で終わっていた。



確かに亮二からの招待だったはず。その後急に眠気が襲われてあのEcoleとかいう夢を見て。いや、あれは本当に夢なのか?


異様な体験に背筋が凍りつくような感覚があった。


気味が悪いな。疲れているのかもしれない。今日は早めに寝た方がいいな。


「蓮ー?勉強しないなら少し手伝ってちょうだい」


「わかったー」


俺はスマホを机に置いて母さんのいるキッチンに向かっていった。



〖Ecoleの世界へようこそ〗


机の上のスマホにはそんな文字が画面に浮かび上がり、文字が消えた途端にホームの片隅にEcoleと書かれたアプリが追加された。


Ecoleが、どれほど危険でどれほど恐ろしいのか。そして今、とんでもない事に巻き込まれているなど、この時の俺は知る由もない。

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