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第3話「黒い眼差し」


月曜日の朝、亮馬が学校に登校すると、教室の窓辺で数人の女子が話し込んでいる。


「おはよう」


亮馬が爽やかに挨拶すると、一人の女子が近づいて来て「おはよう、遠坂君。ねえねえ、うちの生徒が失踪(しっそう)したの知ってる?」と聞いてきた。


亮馬は自分の席に座り、カバンの中の持ち物を机に仕舞(しま)いながら「うん。知ってるよ。ビックリしたよね」と答えた。


女子は亮馬の机に手を置いて

「あれさ、失踪したのって、うちの生徒会長と副会長なんだって。それでね、今回の事件で変なウワサがあるの……」と小声で話してきた。


「変なウワサ?」


亮馬はカバンをいじりながら聞き返した。


「そう。実はね、二人が失踪する前に“化け物”を見たんだって……」


「バケモノ!?」


女子の“化け物”という言葉に、亮馬はカバン整理の手を止めた。


女子はそうこなくっちゃとばかりに、話を続けた。


「そう。化け物。会長と副会長が失踪する直前に、鳥みたいな化け物を見たらしいの。会長達からラインもらった人から聞いちゃったのよ。(つばさ)()やした人型の何かが、飛び立っていく動画も付いてたっていうし……」


「もしかして……そのラインを送った後に二人は……」


亮馬が結構良いリアクションをするので、女子はゴシップ魂に火が付いたのか

「あ! 川上(かわかみ)ー! アンタ生徒会でしょー! 何か知らないの?」

と、廊下(ろうか)を歩いていた男子生徒を呼び止めた。


川上は女子の大きな声にビックリしながら、教室に入って来た。


「あぁ。知ってるぞ。警察にも話聞かれたけど、信じてもらえなかった……」


川上の発言に女子は食いつき

「えっ!? 何々? 何か知ってんの!?」

と勢い良く言った。

パパラッチの様である。


川上は重い口を開いた。


「あの日(おれ)は、生徒会の仕事で放課後も学校に残ってたんだ。会長達も一緒だった。でも俺はあの時、(じゅく)があったから、早めに帰ったんだ。その後、俺が塾が終わってスマホを見てみたら、会長と副会長、二人からライン来ててさ……二人とも、学校の前で化け物見ちゃったってさ……動画も付いてたけど、俺はよく分からなかった……その後、いくら連絡しても、(つな)がらなかった。それで気が付いたら、失踪事件になってたんだ……」


川上の話を、亮馬と女子は真剣に聞き入っていた。


「警察にこの事正直に話したけど、信じてもらえなかった……まあ、化け物なんて、信じてもらえないよな。でも、あの二人はウソをつくような人じゃないんだけどな……本当に不思議だよな……」


川上はそう言うと、首をかしげ、背中を丸め「じゃあな」と教室を出て行った。


亮馬は思った。

生徒会長と副会長には自分も会った事があるが、確かに、簡単にウソをつくようなタイプではない。

ましてや、化け物なんて……

大きな鳥を見間違えたのか……?


そんなことを考えていると


「オーイ、亮馬、おっはー! ……お前……何? 真剣な顔して」


「おっ、本当だ。どうした?」


と、元気な男子の声が二つ(ひび)いた。


亮馬はハッとして、顔を上げ

「おお。おはよう。健太(けんた)大助(だいすけ)

と言った。


顔を上げた先には、クラスメイト二人が立っていた。


鏑木健太(かぶらぎけんた)百野大助(もものだいすけ)だ。


二人は亮馬のとりわけ仲の良い友達だ。


特に、健太と亮馬は小学校からの同級生で、その時からの親友だ。


大助とは高校からの付き合いだが、とても気が合い、すぐに三人仲良くなれた。

今では二人とも、亮馬の大切な親友である。



「あっ! そう言えば!」


突然、健太が何かを思い出し、大声を発した。


「明日、文化祭の準備するから。この教室に十四時集合な」


そう言って、健太は亮馬の後ろの席にカバンを置いた。


「えっ? でも、明日って休日じゃ……」


亮馬が疑問に思うと、健太は


「クラス企画の準備が終わってないの、ウチだけなんだよ……もう文化祭直前だっていうのによ。このままじゃ文化祭に間に合わねぇ……ということで、休日返上だ。先生にはもう許可取ってるから。頼むから文化祭委員である俺に、肩身の狭い思いさせないでくれよ」


と言い、やれやれという顔をした。


「フゥ~、まったく……ダメダメな文化祭委員持つと、苦労するなぁ~」

と言いながら大助は亮馬の肩に手を置いた。


「まったくだな」


亮馬は少し笑った。


「おい! お前達! 俺のせいだって言うのか!? 大助!! そもそもお前が『脱出ゲームやろう』なんて面倒くさい事を言い出したから、こんな事になってんだろーが!! だから俺は反対だったんだ!」


健太が大助に詰め寄ると、大助は


「はあ!? お前が『クラスの全員で着ぐるみ着て、校内()り歩こう』なんて爆裂(ばくれつ)ヘンテコ企画提案して、クラス凍りつかせてたから、助け船出してやったんだろ!! 大体な、脱出ゲームに決まった後だって、お前がナゾナーノ男爵(だんしゃく)とかいう変なキャラ作りたいとか言って、みんなの手止めてたろ! アレにどんだけ時間と金と労力をかけたと思ってんだ!! マントとシルクハット手作りだぞ!! お前、全力のナゾナーノ見せろよ。渾身の演技しろ!」


と、まくし立てた。


こうなると健太も、売られたケンカに買うケンカだ。


「ああ、するよ!! 見事にナゾナーノ演じきってやるよ! ハンカチ用意しろ!!」


「泣くか!! 髭面(ひげづら)の紳士風なイタいヤツに涙するか!!」


大助が鋭くツッコんだ。


しかし、健太も負けない。


「うるさい! お前も謎解き作りもっと頑張れや!! 何なんだよ『パンはパンでも食べられないパンは?』って。今ドキあんな問題出すヤツいるか!? あんなの謎解きにしてたら、お客1秒で脱出するわ!! 出題者のナゾナーノ赤っ恥だろ!! マントまで付けて出て来たのに、チョー簡単なクイズ出しただけのドンズベったイタいヤツになるだろ!! お前は俺に恥をかかせたいのか!?」


「あー? 何だとー!?」


「やんのかー!?」


「まあ、まあ、まあ……」


亮馬がなだめるが、二人の耳には届かず、ヒートアップしている。


ここまでご覧になってお分かりの通り、健太と大助はとっても仲の良い似た者同士で、よく小競り合いをしている。

原因はいつもしょーもない事だ。


亮馬にとって、二人の小競り合いを見ている時間は、おかしくもあり、少し微笑(ほほえ)ましい時間でもあった。


またやってるな……と、亮馬が小競り合いを見ているとそこに


「またケンカしてるの? もうやめなさい!」

という、二人を制止する女子の声が聞こえた。


健太と大助は言い合いをピタッと止め、二人声を合わせて


美代里(みより)!」 と言った。


亮馬も二人の後ろから顔をヒョコッと出して


「美代里。おはよう」


と挨拶した。


「亮馬君。おはよう」


二人の痴話(ちわ)ゲンカを止めた彼女の名は、加賀美代里(かがみより)


彼女もまた、亮馬の幼なじみであり、クラスメイトである。


美代里とは幼稚園の頃からの友達で、健太よりも古い付き合いだ。


亮馬と美代里は長い時間を共に過ごし、本当に気心知れた間柄だった。



「もー。二人とも、いつもケンカしてて、本当に()きないわねー」


美代里が(あき)れた様に二人を見た。


「別に、ケンカじゃないよ。コイツがアホな事ばっかやってるから、それをツッコんでやってるだけさ」


大助が健太を指差しながら言った。


「はあ!? お前なぁ……」


健太が大助に突っかかろうとすると、亮馬が制止し


「まあ、まあ、二人とも。とにかく、文化祭の準備を進めなきゃいけないって事だろ? 何とか間に合うようにみんなで頑張ろうよ」


と、爽やかな表情で言った。


すると、美代里も


「亮馬君の言うとおりだよ。みんなで力合わせて、ガンバろ」


と言って、明るく(ほが)らかに笑った。


美代里の温和で清らかな声は、不思議と人の心を(なご)ませる。


さっきまで、あんなに言い合ってた健太と大助も


「そうだな。明日ガンバろーぜ」


「うんうん。何とか終わらせよう」


と、文化祭の準備に前向きになった。


健太はクラスの皆に向け

「みんなー。明日、時間ある人は、ここに十四時集合なー! 頑張って、ナゾナーノ男爵のステッキ作ろうぜー!」 と呼びかけた。


「そんなもん作るか!!」


大助がツッコむと、教室には皆の楽しそうな笑い声が響いた……。


★ーーー★


そんなクラスの様子を、窓の外から見ている者がいた。


学校から少し離れた位置にある、背の高い大木の枝に、腰掛けている男が二人。


一人はとても目立つパンクファッション。もう一人は柄シャツにスーツといった(よそお)いだ。


そして、その二人の(かたわ)らに、背中に生えた大きな翼をはためかせ、空中でホバリングしている男がいる。


三人は月丘(つきおか)高校の方をジッと見ていた。

しかし、この位置からでは、肉眼では学校の様子を認識出来ない。


「どーだー? 何か見えたか?」


パンク男がスーツの男に話しかけた。


「ああ。教室の窓辺で数人の生徒が何か話し込んでいる。窓際の席に座っている青年が、例の“アイツ”だろう……」


スーツの男が静かに言った。


栗原(くりはら)。さすがだな。お前の千里眼(せんりがん)は」


翼の生えた男が、スーツの男を横目で見ながら、(つぶや)いた。


すると、翼の男に同調する様にパンク男が 

「ホント、ホント~。クリちゃんの能力便利だよねー」と言い、続けて「それで、どういうヤツ? “ボス”のお眼鏡にかなう様な、強そうなヤツ?」と栗原に(たず)ねた。


「いや、見た所普通の青年だ。他の学生と何ら変わらない」


栗原は学校を見つめたまま答えた。


「へぇ~。何でそんなヤツが欲しいのかねー、うちのボスは。まあ、ボスの命令だから喜んで従うけどさ。そんで、何か聞こえた?」


パンク男はヒマそうに自分の爪を見ている。

爪には派手なネイルが(ほどこ)されていた。


「お前は本当に人使いが荒いな」


そう言うと栗原は、耳に意識を集中させた。


学校と三人のいる場所は離れている。

もちろん、普通なら教室の中の会話なんて聞こえない。


しかし、栗原の耳には、ラジオの様に教室の会話が流れてきた。

ハッキリと聞こえる。


栗原は耳へ向けた意識をそっと戻すと、聞こえた情報を他の二人に伝えた。


「何やら文化祭の準備に関する話をしている。明日、十四時にあの教室に集まるらしい。例の彼も来るそうだ」


「なるほど……ちょうど良いじゃん。明日は休日だから、学校には人がいねぇ。ソイツも来るなら、最高のチャンスだぜ。思う存分“暴れて”やろうや」


パンク男はニヤニヤと笑った。


「なら、話は決まったな。明日、作戦を決行する。あんまり暴れ過ぎんなよ。面倒ごとは嫌いだ」


翼の男はパンク男に忠告するように言った。


「アイよ。分かってるって。任せろ。俺はボスの“お気に入り”だからな。ちゃんと仕事は(まっと)うするさ。ソイツを連れて帰りゃ良いんだろ。おい! 帰ろーぜ」


パンク男がそう言うと、翼の男は姿を変形させ、大きな鳥になった。


そして、栗原とパンク男を背中に乗せ、飛び立った。


パンク男は小さくなっていく学校を見下ろし、小さな声で


「明日、楽しませてくれよ……遠坂くん……」


と呟いた。






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