新たな防具と新たな知り合い
私は今、絶賛迷子になっている。
いや、ね、実は忘れかけていた薬草を取りに行こうと思ったんだけとね、何せ服がぼろぼろすぎてとても魔物と戦える状況じゃなくってね…
それでどうしたものかと思ったら、ちょうど復活したルカシーノがそのドロップアイテムのこと聞いて、昨日の分換金したからちょうどお金もあるし、それで防具を新調すればいいんじゃないかって…
それで防具屋に向かっていたら…気がついたら路地裏に来てた。うん、土地勘ないから仕方ない。…仕方ない。仕方ないから人に聞こう。…諦めたわけじゃ無いよ?
今ルカシーノが頭の中で呆れた気がするけど、無視して人を探し始める。
そこで通り過ぎた女の人に声をかけた。
「っと、すみません。防具屋ってどこですか?」
「あぁ…だったら、一緒にいきましょうか。私、そこに勤めているので」
なんとラッキー。
早速その女の人、もといアンヌさんについて行った。
路地裏を抜けて、大通りを突っ切ってたどり着いたこじんまりとした店に入っていく。
「お客さん連れてきたよ〜」
「おお、いらっしゃい。今日はどんな御用だ?」
私もそれに倣ってついて行くと、店の中にはいろんな防具や盾、それからオーダーメイドの見本が並べてあった。
それをぐるっと見回していると奥からアンヌさんと同い年ぐらいの女の人が出てきた。どうやらこの人が店主さんらしい。
「あ、はい。えっと、これでオーダーメイドのを頼みたくて…」
「これは…」
言いながら出した糸の塊、もといアナタールのドロップアイテムをカウンターに置くと、2人がそれをまじまじと見つめた。
「これってもしかして…」
「アナタールのドロップアイテムで」
「「アナタール⁉︎」」
説明しようとした途端、2人の悲鳴に近い叫び声に阻まれた。
「あなた、あの水星級魔物アナタールを1人で倒したの⁉︎」
「多分そのアナタールです…」
たじろぎながら答える。
そもそもどのアナタールだか分かってないし…と思っての答えだったのだが、少し回答を誤ったらしく2人が慌て始める。
「た、たしかにアナタールの出現は聞いていたけど、倒したのがエルフで、しかも1人で、なんて…」
アンヌさんが呆然と呟く。
その横で店主さんが見定めるように糸を見ている。
アンヌさんのセリフにどう返せばいいのか分からずにあたふたしていると、突然店主さんが口を開いた。
「よし、その依頼引き受けよう。こんないい糸で作らせてもらえるんだ、気合入れなきゃね!…でもそのかわり、条件がある」
「条件…?」
隣でハッとしたアンヌさんがなるほどと言うように頷く。それを見て、私に向き直って再び口を開く。
「今後もうちの店を贔屓にする。それが条件だ」
「それだけ…ですか?」
「あぁ。確約してくれるなら、今回の料金は半額でいい。どうだ?」
少し考えるが、こちらとしてもメリットは大きい。
何より、少し店内を見ただけでもこの店の作る装備は相当なものだって、素人目の自分でもわかる。
「わかりました。その条件を呑みます」
「よし、交渉成立だ!私はオルガ。これからよろしくな」
「わ、私はサンスティーヌです。えっと、こちらこそよろしくお願いします」
オルガは名乗りながら手を出してきたので、こちらも握り返す。
「さて、話もついたみたいですし、これでどんなデザインの防具を?」
話がひと段落ついたところで、隣で見ていたアンヌさんがパンっと一回手を叩きながらいった。
「えっと…基本的に魔法で戦うつもりなので、鎧というよりかはローブみたいなのお願いします」
それを聞いて少し考えてから言った。
すると、いつの間にかオルガさんがカウンターの奥からスケッチブックと色鉛筆を取り出してきた。
アンヌさんはそれを受けとってページを開くと、さっそく色鉛筆を手に取ってサッサッと軽いデザインを何パターンか描き始めた。
「色とかの希望はありますか?」
「えっと…やっぱり緑系の色いいかな。エルフだし」
顔を上げずにアンヌさんが聞く。
考えながら答えるとすぐにアンヌさんが色鉛筆を取り、色を塗っていく。
すぐに幾つかのデザインが出来上がり、私に見せてくれた。
機能性重視のもの、少しおしゃれなもの…この短時間で様々なデザインが出来上がっていた。
その中から私は一つのデザインを選んだ。
「これですね、わかりました」
「ふむ。このデザインだと3日ほどかかるな。いいか?」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げる。
こうして私の防具に目処が立ったところで、店を出た。
私は防具ができるまでの三日間は街から少しだけ離れたところで弱い魔物を狩りまくっていた。…お陰でここら辺の魔物はほとんどいなくなったけど。まあそれはいい事として受けとっておいて、ついに私の専用防具が完成する日が来た。
「あ、いらっしゃいませサンスティーヌさん。オーダーメイドの防具出来てますよ」
軽い足取りで扉を開けると、アンヌさんが出迎えてくれた。
その声が聞こえたのか店の奥からオルガさんがローブを持って出てきた。
「出来たぞサンスティーヌ。どうだ?」
店のカウンターの上にローブを広げて見せてくれた。
白っぽい色のマント。その下は濃い緑色の少し装飾のついている、シンプルで体にフィットするデザインのワンピース。この世界の魔法は基本的に杖を使わなくても発動できるので、ワンピースの後ろ側は短剣を入れられるように鞘をつけられるスペースを作ってもらった。見た目も可愛い、機能性重視の装備だ。
今はまだ短剣は持ってないが、いつかは護身用の短剣として買うつもりなのだ。
それを含めて全て私の希望通りに作ってもらえた。
「すごいです、ありがとうございます!」
店の奥で着替えさせてもらってさっそく感想とお礼を伝えた。
するとオルガさんが腕を組みながら何か考え始めて、口を開いた。
「代金なんだが…銀貨15枚でいい」
「えっ⁉︎それって本当の金額の半分以下なんじゃ…」
驚いた声で聞き返すと、ニヤリというような効果音が合うような顔でオルガさんが言った。
「本来の約束は半額だったんだが、こんないい糸で作らせてもらえるのはこちらにとってもいい経験だった。
そのお礼だと思ってくれ」
「ありがとうございます!」
私は代金を払ってもう一度2人にお礼を述べて、服を置きにいくため宿に向かった。
「これでようやく防具も揃ったし…あとは武器だけだね」
《本来は順番逆なんでしょうが…主の場合、武器が無くても戦えますからね。そういう点ではこの順は正確だったと思いますが。…また武器の金額も貯めないといけませんからね》
「うっ…」
言外に無駄遣いするなと言われ思わず声を上げる。
気をつけようと思いながら、早く宿に着く為帰路を急ぐのだった。