表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/52

皐月の巻(三)

 わろき知らせ。倭文野くんの通勤(かばん)が、油とお茶で(ひた)されてしまいました。自分のものぐさな性格と、朝、ぼんやりしてたせいなのですが。()文野(ずの)くん、ワイフちゃんの手作り弁当を巾着(ただの巾着じゃないのよ! ワイフちゃんが僕の誕生日にミシンを動かしてくれたのよ! 僕、涙のお池ができちゃったんだからー!)に入れるのをうっかり省略してしまい、マイボトルのふたをゆるくしめてしまい、お腹の肉をすっきりさせようと大学まで休みなしの走りで来たら……もう、お分かりですよね。汁漏れです。水漏れです。焼きビーフンと唐揚げをおいしくさせる、ごま油がね、もう、でろでろとこぼれていたのです。ワイフちゃん、僕の体型には厳しく言ってくるけれど、こってり味はやめないの。倭文野夫妻はよく食べることで有名なのです。こってり味は正義ですよ。昨日、大混戦すみっこキャラクターズのオンライン対戦しなければ、頭がちょっとは、しゃきっとしていたのでしょうね。使用キャラの揚げ物くんで必殺の揚げ玉投げしまくって、対戦相手のちびネッシーくんに汗のアイコンをいっぱい出させてそりゃあ気持ちのいい勝利を収めたのですが、はあ……仕事のやり方メモと、筆箱(布製だよ!)が甚大な被害を受けている。ごまの食欲かきたたせる香りが鞄から立つ、立つ。これを機に、新調しようかしら。その前に、明日から代打を用意せねば。ワイフちゃんの鞄借りようかな。ワイフちゃんのコレクションは、なかなか男前な顔ぶれなのですよ。ピンク系が無いのが残念だな。


  皐月二十五日 要は、荷物が全部入ってしまえばいい話。

 昼休みに、4回生の額田(ぬかた)きみえさんと、柿本(かきのもと)いろはさんと、安部(あべ)砂子(すなこ)さんが共同研究室へ来ていました。僕も入らせてもらって、ランチのお時間です。

 3人は、国語の高校教員の課程も受けています。4回生のこの時期は、教育実習が始まるのですよ。母校に帰って、授業を行う。ほとんどの高校は体育大会を控えているので、看板作りやダンスの練習にも顔を出すことになるのでしょうか。高校生の倭文野くんは、英語を教えに来た、ゆるふわボブの子犬系女子に……本気で恋してしまいました。心身ともに健全な青年だったので、スーツをセーラーワンピースに脳内で着せ替えさせて、ストライプにするならネイビーと白よりも、ライトブルーと白の組み合わせがあのお姉様にぴったりだなあ、とか、スリーサイズ勝手に予想してほくそ笑んでいましたよ。実習2日目にしてお姉様に彼氏がいることが判明しましたけれどもね。僕が直接聞いたわけではありませんよ? 聞けるわけないじゃないですか。こういう時に、女子は情報の引き出し方がうまいですよね。ははー、彼氏ですかー、さぞかしお痩せになっていて、高身長で、バイト先でリーダー任されていて、偏差値高い所に通われているのでしょうねー。ちきしょう!

 すみません、つい思い出を語ってしまいました。額田さん達の実習先で、何を教えることになったかという話題になったのです。柿本さんは古典の日記文学を、額田さんと安部さんは、現代文の小説を担当することになったそうです。

「私が教わった現代文の先生が、主人公は鞄になった、と断言した!」

 柿本さんが、その小説を当時習っていた時のことをズバッと言ったんです。

「え、じゃあさじゃあさ、鞄を持っていた人は主人公じゃない別の人物ってこと?」

「奇人変人とはこういうことか。まあ、人物が鞄であるという考えは、分からないでもないけど」

 額田さんと安部さんが思ったことを口にしました。僕は、何とも言えなかったです。僕、その小説勉強していたっけな。現代文は文章が長くて、記述問題が出たら泡吹いていましたので。

 主人公の「私」に、鞄を持った「青年」がやってくる。「青年」は、半年以上前に出ていた求人広告を見て訪ねたのだった。「私」と「青年」は、「青年」が持つ鞄にふれつつ会話が始まり……。3人から聞いたあらすじを、僕なりにまとめてみるとこんな感じです。

柿本さん「クラスの成績1位の子が、授業後に国語研究室まで行って先生に質問したんだって。先生の考えは理解しがたい、主人公が鞄とは、どういう意味ですかって」

額田さん「だよねだよね、私も意味分からないって思う。私のところの先生は、鞄は持っていた人の生きた跡が……経験みたいなものかな、が入っているんだって教えてくださったよ」

柿本さん「そう! 別のクラスでは違う先生が教えてて、きみえのところと一緒のこと言ってたよ。それで、質問の答えなんだけどね『私にはそうしか思えない』ときたんだって。『すべて説明することはできないが、風刺だと先生は思っている。生きていく中で人は鞄を持っているもの、でもあなたは鞄を持っている人ではなく、あなた自身が鞄ではないですか? とメッセージを作者は送っているのではないか』とか」

安部さん「その作者の別の作品、棒の話にも近いね。男が棒になったという。棒を考察する教師と生徒2人も、なにかを擬人化したのでは、とも」

柿本さん「砂ちゃん理解できすぎだよ。私としては、人が物に変わっちゃったっていう考え方は、受け入れられないんですよ。先生の言うことを覆そうとは思わないけどね、でも、信じたくないって矛盾」

額田さん「うんうん。高校生くらいになると、先生が絶対的な存在じゃなくなるもんね。でも、大人だから完全に逆らえなくて。子どもだった頃の名残がさ、言うことを聞かなければ痛い思いをするんじゃないかって自分を止めてしまうの。扱いづらい時期だよね、高校生は」

柿本さん・安部さん「それだわ」

 ……僕も、扱いづらい坊やだったんだな。ゆるふわボブのOGさん、変態な肥満野郎にも分け隔て無く優しく指導してくださって、ありがとうございました。彼氏さんとは、お幸せになっても不幸になっても、僕は恨みません。ストーカー行為は、倭文野家では御法度なので。

 もしも僕が、鞄の話を教えることになったら、鞄は「責任」として説明するかな。責任を油とお茶で汚しておいてよく言うわ、と? 汚れても、持ち続けているのでセーフにしてやってください。


あとがき(めいたもの)

問:倭文野さんへ 現役学生時代、日本文学国語学科の先生で一番好きだった先生と、一番苦手だった先生を教えてください。

答:好きだった先生は……土御門先生 (としかいえないでしょう、だって、王朝文学講読会の一員ですよ!?) です。よくお住まいの宮中の高級なお菓子を持ってきてくださいますし、みんなのお父さん (おじいちゃん) みたいなポジションでなにかと世話を焼いてくださったので。

 苦手だった先生は、真淵(まぶち先生です。エスパーじゃないかというくらい、人が考えていることを言い当てられる、何も無いところからひょこっと現れては、まばたきしている間に消えている (気配が読めない) とにかく不思議で、先生の特殊能力 (?) で僕は恥ずかしい思いをしまして……今でも、ちょっぴり怖いです。


 改めまして、八十島そらです。

 ミステリーは、書くよりも読む方が好きです。書いてみたら、冒頭の時点で犯人が分かってしまって面白くない出来になりそうで……。最初から犯人が明示されていて、警察がどうやって犯人を追い詰めるかという方式もあるようですね。黒ずくめで、自転車によく乗って……。シーズン3まであるのですか。音楽も謎めいていますよね。全編見てみたいです。あの、これは小説ではなく、ドラマのお話でしたね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ