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皐月の巻(二)

 働いている以上、感情の浮き沈みで仕事の出来にムラがあってしまうのは、よろしくないこと……だということは、頭では理解しているのです。倭文野(しずの)くん、先週は元気なかったのです。なぜか? 健康診断の結果で落ち込んだからですよ。体重、去年よりも2キロ増えていたな。僕、妻君の愛情たっぷりお弁当を食べて、健康的に生活していたはずだったのですが。十時と十五時の間食は、カロリーゼロですよ? 身体が糖分を欲している時に食べているのですから、すぐ吸収、消化されるでしょう。それに、一枚一枚が薄いお菓子なら、ほぼ空気食べているのと同じではありませんか。そうそう、高級なお菓子は、使っている物が上質ですから、カロリーなどという俗な概念は存在していない! ……笑ってください。笑い飛ばしてください。妻君にも親にも、メタボ野郎と指差されている僕を、笑って優しくしてあげてください。冷たい炭酸水をください。願わくば2リットルのボトルを恵んでください。ああ、あなたに会えて光栄です。なお、僕は蝶といえばアゲハではなく、オオカバマダラが先に思い浮かぶ派です!


  皐月十七日 つゆだくは、なぜだか得した気分になるのはなしてだべ?

 雨がよく降るようになりましたね。雨がきっかけで、研究棟に避難してきた学生さんが、ここ共同研究室にふらりと寄られて、常連になってゆくのです。嬉しいことです。独りでも集中して作業できるのですが、ほら、倭文野(しずの)くんは大きい体のわりにはいわゆる「ぼっち」が嫌だろいう、器の小さい男なので、誰かいてくれるともっと頑張れるのです。お昼ご飯食べに来たとか、おやつ恵まれに来た、とか簡単な理由でも構いません。いつでも歓迎しています。空満(そらみつ)大学国原(くにはら)キャンパス、研究棟2階です。え、どこ? ってなっても四角い回廊をひたすら歩いていればいつかは着きます。日本文学国語学科共同研究室です。

 雨の話に戻りますね。雨って、どちらかというと苦手な人が多いですよね。外に遊びに行きづらい、傘を差すのがめんどうだ、服が濡れる、湿り気が陰鬱な気分にさせる、紙類に雨がしみこんでインクが広がって大惨事、洗濯物が乾きにくい、人によってマイナスなイメージ抱えていると思います。僕も好きになれないのですよ。傘が僕の体を充分に覆い隠してくれないから。なんだか僕、相当の汗っかきみたいに勘違いされてしまうのですよ、失礼な、デブはみんな汗をかきやすいとか単純な思考を持つんじゃないぞ。ぷんすかぷんの、ぷん!

 昔の人は、雨が降っている時は物思いにふけっていたようです。自分を見つめる時間は、今の世の中でも、生きてゆく中で大切ですよね。

  五月雨(さみだれ)が降っていて、物思いをしている時に夜更けに鳴いて、郭公(ほととぎす)

  どこへ行くのだろうか。


  五月雨(さみだれ)の空にも響くほど、何を「つらい」といって郭公(ほととぎす)は夜通し鳴いている

  のだろうか。

 『古今和(こきんわ)歌集(かしゅう)』巻第三 夏 歌(現代の卯月から水無月が、当時は夏にあたりました)に雨を詠んだ和歌があったなと思い、引いてみました。夜にほととぎすが鳴いているのが聞こえるということはですよ、()んでいる人も夜遅くまで起きているのですよ。眠れないほど

何か考えているのでしょう。好きな人のこと、でしょうか。僕も、結婚前に、枕を抱いて妻君のことであれやこれやと悲しく、時に楽しく考えていたら朝が来ていましたよ。だから、昔の人の和歌に「わかる!」と共感できるのです(昔の人の方が、もっと深く考えているはず。僕は、『古今』の方々と同じレベルなんだとは思い上がっていません)。長い年月が経っても、共感されるから、生き残っているのですよね。作った方は、この世にもういないから、数千年、数百年後にも読まれていることにいちいち恥ずかしく思ったり、自慢したくなったりはしないですけれど。もし、僕が書いたものが子孫の目に通されることになったら…………だめだ、一緒に燃やしてもらおう。



あとがき(めいたもの)

問:日本文学国語学科共同研究室の常連さんは、例えばどんな人ですか。

答:現在4回生の額田ぬかたきみえさん、教員を目指して頑張っています。2回生の本居もとおり夕陽ゆうひさん、講義の準備や書き物でよく訪ねてきています。1回生の島崎戒しまざきかいくん、講義プリントをコピーするためにやって来てから、昼休みはお友達の浦島くんと入り浸っています。

 

 改めまして、八十島そらです。雨は、好きが半分、嫌いが半分です。眠りやすい環境になって嬉しい、だけど、ぬかるみで靴が汚れてしまうのが憂鬱なのです。最近は、急に車軸を流す雨に変わってしまって「にわか」どころではすまなくなっていますよね。周りが見えにくくなって帰り道が心細くなります。私はまだまだ、お家で過ごすのが、一番! なタイプです。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう小説の書き方もある その一点を評価します
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