皐月の巻(一)
男といふ生き物は、なぜに「ゴールデン」なる言葉に浪漫を感じてしまうのだろうか。誰ですか、皐月の連休を「黄金の週」と名付けた人は。誰ですか、至福のひとときを「ゴールデンタイム」と呼んだ人は。誰ですか、エアーバンドを「黄金の爆発」と言った人は……あ、最後のはオチのつもりだったのです。僕は僕なりに笑いを取りたかっただけなのよ、僕のこと嫌いですか? 必要ありませんか? 愛されたいよー! いいえ、愛してくれる人は、妻だけで間に合っています!
ゴールデンウィークにですね、実家に帰ったのですよ。妻も一緒です、帰るといいましても、お向かいさんなのですが。いつでも行けるじゃないか、ほぼ毎晩ご飯食べているじゃないか。今回は、妻が行きたいと言い出しまして。「実母だけじゃないの、お義母さんにも聞いてもらいたいの! もう無理なの!」とね、ストレス溜まっているみたいなので、「ただいま」したのです。
妻、昼休みにアルバイトのおばさまと一緒になっていて、ある同期さんが結婚して名字が変わっていたことを聞いたのです。おめでたい話ではありませんか。ですが、妻はその結婚された同期さんが「私は三姉妹の真ん中だし、上も下も嫁にいったから自由の身なの。親に結婚しろと言われてないし、この仕事だけで生活やっていけるから独身でいいわー」と話していたのを覚えていたのです。
「はぁ? 独身でいいっつってたじゃんかよ。なんで宣言しといて結婚できるわけ? 結局あんたもラッシュに出遅れて焦ってたってこと? 私が結婚したこと言ったら、『えー、しなくても充分かせげるのに、自由時間なくなるよー』ってぶっこいてたよな? 私は違いますスタンスしておいて、一般女子の末路たどってんじゃん。ってか一般男性? あんた財務課のマッチョおじさんと付き合ってたんじゃなかったっけ? むきー!」
これに対して、母はですね、
「怒らない、怒らない。言ったことを最後まで守れる人はなかなかいないんだからさ。その子は本当は結婚したかったのかもしれないし。本心と反対のこと言ってただけじゃないかな。よそさんのことだから、そんなカッカしないで、まきちゃん(僕のこと)と仲良くすることだけ考えておきなあ」
妻は、曲がったことが大嫌いなところがあって、僕もよく聞いているのですが気の利いたこと言えなくて困っていたのですよ。母の返し方、勉強になるなと思いましたね。あくまで他人のことですから、自分のことのように気にしすぎては疲れてしまいますよね。母は、妻の母でもあったんだ……実の娘のように接してくれる親に、僕、尊敬しなおしました。
僕には厳しいのですけれどもね。下着のたたみ方まで口出しされるのは、ご遠慮くださいよ。「あんたにはもったいない娘さん」発言されると、僕、しゅんとしますよ。逃げられたりするもんかー! ……僕のだらしなさを戒めてくれているのですよね。親が叱ってくれるうちは、元気だってことですね。できれば、初孫みせてやりたいな。あらいやだ。
皐月十日 タンゴとワルツの違いがわからない!
どっちも三拍子じゃないのですか? え、違う? 僕音楽はちょっと。どっちも
踊りの曲じゃないのですか?
皐月五日、端午の節句は、宇治紘子先生のお誕生日でした。日本文学国語学科で中世文学(『平家物語』をはじめとする軍記物、『徒然草』、『方丈記』の随筆がこの時代の代表作品ですね)を専門に教えられています。とっても真面目な先生、の印象が強いですが、お菓子作りがお得意で、共同研究室に置いてくださるのですよ。
「倭文野さん、鯉のぼりの歌は、2種類ありますけど、どちらがお好きですか? 私は、高く泳ぐ方です!」
「僕は、面白そうに泳いでいる方ですね。家族みんなでいるところが、ほのぼのしていませんか」
「こどもの日、にぴったりで歌いやすいですよね! ですけどけど、もう一方の曲、甍の波という表現、舟をも呑まん口、百瀬の滝、勇ましくて鎧兜を身につけたくなりませんか!?」
宇治先生が、武装を……。体格が大きい方ですからね、走るのも速いですし、鎧をつけるまでもなく、敵をやっつけられそう。日本文学国語学科の先生方の中で戦闘力高そうな先生ランキングで2位は取れるはず(1位は近松先生でしょうね。士族の出で、武道の達人ですし。僕も教えてもらおうかな、ダイエット目的で!)。左腕の「文学部日本文学国語学科」の腕章を差し出して「目に入りませんか!」で敵がひれ伏すかもしれない。僕初めて知ったのですが、空満大学の教員は専用の腕章をつけるべし、だそうです。宇治先生は、伝統を重んじるお方でもあるのです。
「久々に鯉のぼり、聞いてみたいですね。あ、かしわ餅おいしいです」
「そそそそ、そうですか!? 誕生日で気分が高揚してしまったので、材料買いすぎたのですよ! おそらく来週まで続きます!」
「来週もいただけるんですか、僕、あんこと餅好きですよ。学生さんもきっと気に入ってくれます」
世間では、かしわ餅をたらふく食べるためならば、どんな悪事もはたらこうという曲者が出没しているといいますが、宇治先生のかしわ餅は、本当に美味です。悪事なんかより、善行をしたくなりますね!
あとがき(めいたもの)
問:倭文野さんは、服のこだわりありますか。
答:お腹のふくらみが目立たない、だぼっとした服装を選びがちだそうです。
橙色や蛍光ピンクの物を見ると買ってしまいそうになるとか。ラッパーみたいな格好を意識しているという噂。
改めまして、八十島そらです。
もう皐月なんですよね、来月で今年は半分、という……1年経つのが早く感じられるのは、老けたということなのでしょうか(年配の方に失礼です!)。かしわ餅、私もいただきました。豆と米の組み合わせは、小麦と卵の組み合わせとは違った味わいがあって良いですね。甘い物は、和洋(中も?)問わず大好きです。




