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弥生の巻(四)

  

  弥生二十四日だけど先週の続き 事務助手から見た、日文の先生 七、土御門(つちみかど)隆彬(たかあき)先生(後編)

 オレンジの太刀魚こと倭文野(しずの)と、おじいちゃん華族の土御門先生が、向かい合わせになりラーメンをすすっておりました。

「睦月の後始末しとったらな、奥さんが話してくれたで」

 いなくなった奥さんとお正月に再会できたのですが、日文の先生方のもとで3日間、様子をみてもらっていたのです。

「1回生の皐月、長い休日明けやったそうな。大事な鍵を、うっかり側溝に落としてもろたんやと。それを取り出したのが、倭文野やったそうやな」

 ん? すみません、僕、あまり覚えていなくて。奥さんと会うようになったのは、霜月、そうです、学祭終わってからなので。でも、奥さんは文学部だから、前に講義や移動中に見かけたことはあるかな、とは思っていました。

「ふたを外して、泥だらけになりながら鍵を見つけてくれた。水道まで行って、きれいにして自前のタオルで鍵をふいて渡したんやてな。ごっつ感謝しとる言うてたで。そちを、もっと知ってみたいと興味がわいたそうやの」

 好きになったのは、奥さんが先だったの!? 全然、好意を表に出していないから、僕なんかと一緒にいて楽しいのかな、と何度自問自答していたことか。

「ふた、開けやすくしておいたのは、わたしやで」

 マジですか。金属のクリップみたいな物で固定されていなかったもんな。え、なんで先生が?

「そちを勝手に占ったのですぞ。おなご運のツいてない王朝文学講読会会員なぞ、看板に傷がつきますからな」

 毛筆で「雅」と書かれた扇を広げて、先生は「ふぉふぉふぉふぉふぉふぉ」と笑いました。

「喜びなされ、わたしがそちの『百年に一度のチャンス』を授けたったのですぞ。あの出会いを逃したら、そちは孤独に震えてむなしくなるがオチやったのや」

 先生が、恋のキューピッド……ああ、イメージしやすいわ。扇を振って、恋の風を吹かせるハゲちゃびんのおじいちゃん天使。

「ハゲやあらへん、剃髪や。訂正せい」

 すみません。そうだ、授かるといえば。先生にはお伝えしておきたかったのですよ。僕、秋に父親になる予定です。

「…………なんと」

 土御門先生の目が点になっていました。おつゆ、はねていますよ!

「おめでとうさん」

 ありがとうございます。奥さん、さっそく情報収集しているのです。初めてで分からないことばかりだから、調べておかないと私のセオリーがうんぬん。奥さんのそこがいい所なのですが。

「食欲あるんか?」

 まだ、気持ち悪くないみたいです。逆に、食欲が爆発的に上がっているのです。ポテトチップスうす塩味が食べたくてたまらないそうでして、帰りに僕、買いだめしておこうかと。

「人それぞれらしいわな。家内は、2回ともげーげー吐いとったが」

 これから不調になるかもしれません。僕、奥さんの食べられる物を作ってあげます。酸っぱい系かしら。酢豚! パイナップル酢豚だったらいけそう!

「そちが食べたいだけやないのかえ」

 お見通しでしたか。

「ほな、せいぜいおきばりなされ」

 最初からそのつもりです! 子どもができるんだ。僕、ここで働くのがもっと好きになる予感がします。生まれたら、先生にご挨拶、伺いますね!

あとがき (めいたもの)

問:倭文野(しずの)さんの奥さん、いつぐらいにお子さんが生まれる予定ですか。

答:今年の神無月らしいです。倭文野、女の子だったらいいなと思っています。男の子も大歓迎ヨ! 元気に生まれてきてね!


 行きつけのカレー屋さんの女性店員に、しびれています。店長のお嬢さんなのだと思いますが、カレー小を頼んだ紳士に「若いんだろ、中にしいや」とはっきり言える人なのです。八十島、保険をかけて「小」を頼みました。「中にせんかい」「すみません、持ち合わせがあまり……」女性店員は「ああ、次は中やで」と許してくれました。小でもかなりのボリュームなのですよ。小が中で、中が大に相当する量だとにらんでいます。一番多いのは、特大です。特大を食べられたら、もう教わることはないでしょうね。カレーはやめられません。

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