卯月の巻(五)
僕の嫁ちゃんが作るお弁当は、世界一うまい。食べてみな、ジェット並みにぶっ飛ぶぞ。お米の炊き方が上手なのですよ。最終的に炊いてくれているのは、電気の力ですけれど。嫁ちゃんは、お米を僕好みの硬さに水を調整してくれていると言いたいのです。梅干しは、手作りですよ。お義母さん直伝だそうです。ほぼ1年かけて漬けるらしいですね。カビが生えないように中身を見ておかないといけないし、外に干すのですよね。雨に当たったら台無しなのですって。そんなに手間ひまかけて作ってくれているだもん、いただくでしょう!
お弁当のおかずベストは、玉子焼きですね。嫁ちゃんは、昆布だしで溶いて巻いてくれているのです。毎朝5時起きでせっせと作ってくれて、ありがとう、マイハニー。僕、100倍働けるぜ。あの、難しくないなら、ミートボールの時はあと2つ追加をお願い。肉は僕の燃料です!
最高においしいお弁当と、最高においしいおやつがあれば、無双ですよね。今日は、上代文学担当の安達太良まゆみ先生からどら焼きをいただきました。うまい、あんこは神様。小豆ってどうしてこんなに甘くなるんだ。ちなみに僕はつぶあんこしあんどちらも大好きです! 一つだけ選べるわけないだろうが、こんにゃろ。先生の、皮が分厚くて、ほんのり甘いのですよね。銘柄は、ああ、内嶺県発の老舗ですね。上代文学の代表としては、『万葉集』、『古事記』、『日本書紀』ですね。どなたか『万葉集』すべての歌、読んだ方いますか?僕は、中古文学ゼミの『伊勢物語』狂いだったので、講義で習った歌しか知りません。これが文学部の現状ですよ。開き直ってすみません。
卯月二十八日 星のオダマコ・デラックス
好きなコピー能力は、爆弾です。動けるおデブは飛び道具を華麗に使いこなしたいのよあたし。察しなさいよ。
今日、3限目に2回生の大和ふみかさんと、本居夕陽さんが訪ねていました。2人は、1回から一緒にいるお友達同士。いつも調べ物や発表資料の作成に来ています。熱心に勉強していて、成績も良い方だと聞いています。
大和さんと本居さんは、書庫で『万葉集』関連の文献をみていました。安達太良先生の講義で、巻十五・十六に収められている和歌のうち1首について解説・考察するそうなのです。巻十五・十六は、俗っぽい歌が並べられていまして、サイコロの目を詠んだだけ、とか、ひょろひょろな人にうなぎを取って食べなさいああ、取る前に川に流れるなよというからかいの歌が入っています。
本居さんに、『万葉集』の中で好きな歌はありますか? と訊かれたのですが、僕はあまり詳しくないからな……。講義でとても印象が強かった、夜空をきれいに詠んだ歌だと答えました。
雲の波が立っている空の海に月の舟が、星の林に漕ぎ隠れていくのが見える
人麻呂だったかな。空を海にたとえるとは、乙女もびっくりですよ。単に空、雲、月、星を別のものにたとえているだけでなく、頭の中にさらさらと情景を描けるから、名歌と呼ばれているんだと思います。この歌をイメージしたお菓子、あったな。舟型の生地の中にいろんな木の実が盛られている、ざくざく食感の洋菓子。あれは、自分の財力ではとても買えない代物なので、御年九十歳・九十六歳の祖父母におねだりしては、食べさせてもらっています。祖父母の家は、最高ですよ。お盆には、果物盛り合わせと箱積みの牛肉をありがたくいただけるのですから。もらってばかりではないですからね! お礼はしていますよ! 親しき仲にも、をちゃんと僕は守っています。
ところで、安達太良先生、どら焼き2箱目ってどういうことですか? 1箱6個ですよね? いくらスマートな体型でも、さすがにそれは……。
あとがき(めいたもの)
問:倭文野さんのお仕事中のおやつで、最近気に入ったものありますか。
答:某素朴で良き品を販売しているお店の、バウムクーヘンだそうです。檸檬味とヨーグルト味が好きみたいです。
改めまして、八十島そらです。近所の公園で、猫3匹と会いました。シャムくん、ハチワレさん、黒ちゃんです。性別は分かりませんが見た目でそう呼んでいます。餌に頼らず、ただじっと座って寄ってくるのを待っているんです。黒ちゃんには好かれます。嬉しい。




