弥生の巻(二)
小学校の遠足で、水族館に行ったことがあります。水族館の前には、海がありまして、自由時間に貝を拾っていたな。貝の穴に耳を当ててみたら、波の音がするとかいうロマンティックな詩がありますよね。僕、当時は本気で信じていたのですよ。理想は、ホネガイ! 巻き貝でもいい! 幼い倭文野、目をかっ開いてここほれワンワン(ブーブーがお似合いだゼなんて、やじを飛ばす悪ガキもいましたが)していたわけです。貝のおでんわで、海ともしもしするぞ!
その砂浜では、二枚貝の片割ればかり出てきました。小指の爪よりも小さい白い貝殻をいくつか拾い、ポケットに入れました。家に帰ったら、砕けていました。全滅。尻ポケットにするんじゃなかった、ぐすん。バス、けっこう揺れたもんな。
弥生十日 お舟は貝をのせて ぽんちゃらこ
今日は、棚無和舟先生の送別会を開きました。棚無先生は、臨時の担任・卒論指導・講義を担当されました。去年の師走から今年の如月までと短い間でしたが、お疲れ様でした。大変お世話になりました。棚無先生は、吉野女子大学(関西で唯一の国公立女子大、内嶺駅より徒歩十分)で通常は勤務されています。実は、空満大学の名誉教授なのです。三十年前からしばらく、ここで文学を教えていらっしゃいました。
棚無先生は、もう少しで傘寿とは思えない飲みっぷりと、力強さのある方です。たてつけの悪いA・B号棟の教室扉を、えいやとひと声で直してしまうのだとか。
「力でやるんじゃないんだよ。てこさ、てこ」
先生は学生さんに「ハンサムマダム」と慕われていました。先生の語録を作っていた学生さんがいまして、ちょっと見せてもらいました。
「私がヤングだった頃は、朝から豚カツ二枚は飛ばせたね」
「文学はさ、官能的な部分が無いと読みたい意欲がわかないものなんだよ」
「官能を上品に表現できたら、こっちのものだからさ」
「万葉仮名で私にラブレター書きな。採点してあげるよ」
「暑いときは脱げばどうとでもなるんだよ、寒いときは一枚、二枚だけじゃどうしようもないからさ! 風邪引いたら元も子もないんさ!」
僕も身をやつして先生の講義受けてみたかったな。お説教されてみたいわ。いかんいかん、つい本音がぽろり。
送別会の片付けをしていたら、棚無先生にプレゼントをいただきました。桜貝のイヤリング! 先生の手作りですって。妻に話したら「森の熊が、貝殻のイヤリングもらってどうすんだよ」と大笑いでした。せめて「子熊」にしてくれませんかね。
あとがき(めいたもの)
問:日文の先生(棚無先生含む)を、背が高い順・戦闘能力強い順に並べてください。
答:背が高い順→ 近松先生・宇治先生・真淵先生・森先生・棚無先生・時進先生・土御門先生・安達太良先生
宇治先生と真淵先生はほぼ同じ、時進先生と土御門先生は髪の量で時進先生の勝ち、安達太良先生はヒール靴なしで計算しています。ありなら、時進先生より高く、棚無先生より低いです。
戦闘能力強い順→ 安達太良先生・宇治先生・真淵先生・土御門先生・近松先生・棚無先生・森先生・土御門先生・時進先生
いや、これ何の戦闘能力よ。真淵先生は心理戦ならトップです。近松先生はひとりで多数を相手する場合ならトップです。土御門先生は策士としてトップ、人を使役するのがお上手です。とりあえず、年齢と体力ありそうな順に並べてみたんですけれど、先生方が戦闘することありますか?
改めまして、八十島そらです。ほうれん草カレーに挑戦してみたいのですが、心の準備がまだ整っておりません。豆カレーはすぐ匙を入れられそうなのに。グリーンカレーより緑度が上がっただけだ、野菜だ、大丈夫、いける。でも……豆かキーマを注文してしまうのですよね。




