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睦月の……(二)

 川のない河原に、僕はぽつねんと立たされていた。石は、みんな同じの大きさ、みんな同じまん丸だった。縁起が良くない、年が開けて初めての夜だった。寝ていたのか、外に出ていたのか、何をしていたか覚えていなかった。

「田園にようこそ、だーちゃん」

 そういう風に呼ぶのは、ただひとり。×××だ。

「どうした? 喜ぶだろが普通」

 やっぱり、×××だよ。尊大なしゃべりをするんだ。変わっていない…………。

「なんか言いな」

 ゆるふわボブカット、着痩せする体型、のど仏ついていないけれど男前な声。変わっていない、変わっていなかった…………でも、少し違う。

 

 なんで、高い所から話しかけているの。

 なんで、空中で仁王立ちしているの。

 なんで、卵形の石? 石型の卵? を両手に持っているの。

 なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。


  田園の扉を、開けたんだよ。

 


 前、旅行のときに、だーちゃん話してくれたろ。天秤が星座になったわけを。人間の罪を、神ではもう裁ききれなくなったから、人間が人間を裁かなければいけなくなった、だったな。けど、残念だ。それすら、乱れてしまった。罪を犯した人間が、悔い改めない。あいつら、ブタ箱の暮らしに味をしめて、悪事を繰り返すんだよ。裁く人間が、驚くなよ、不正をすずしいツラしてやってんだ。では、善良なる一般市民はどうかというと、もっとタチが悪い。汚い。   

 いじめはどうして無くならないんですか、手口が巧みになって止められない。よい子ちゃんの皮をかぶって、えげつないことを裏でちみちみ「やってみた」してんだ。浮気はどうして無くならないんですか、しているやつらは、別に間違ってはいないだろ、と、されるおまえに魅力が無いんだ、と、ぶっこく。だーちゃん、トロいやつは、置き去りにしてかまわんのか。弱いやつは、とことん叩きのめしてかまわんのか。ムカつくやつは、刺したってかまわんのか。自分の思い通りにいかなかったら、修正するためになにしたってかまわんのか。

 だーちゃん、むり、限界。職場にもいるんだ、課のメンツが悪くてああだこうだ、心病んだとか理由作ってなまけるやつ、あいつ、本当に心に傷を負っている人らの気持ちも知らんで。治療のためだからって、遊ぶか? 次、パートナーと子どもいるのに、ノリで別の女に手を出してそっちにも子ども生ませて、えらそうに役職持っていばっているやつ、あいつ、欲に突っ走る下等生物だ、犬猫の方が理性がある。客も、客だ。要求したらなんでも通るんだと勇んでいる。正しく生きている人は、来る機会あんまりないんだよ、あそこは。仕事だ、プロだ、私はこれでも、柔軟に対応してきた。でも、まだ客は、足りないんだってよ。あーあ、じゃあまとめて田園に送ってやるか、てやけになって鍵を使ったわけじゃないからな。ひいおじいちゃんの約束を、果たす時が、たまたまこのタイミングだった。それだけ。

 子どもの時、ひいおじいちゃんに、鍵をもらった。小石の形をとっているが、仮のもの。ある年のある日が来れば、小石は卵の姿を取り戻す。卵は、田園を解き放つ。田園は、等しく罪を絶つ。そして、神に勝つ。ひいおじいちゃんは、神を恨んでいた。私も、同感。神は、人まかせなんだ。働きたくないんだ。自分に甘いんだよな。理想の実現を人間に押しつけて、座布団にすまし顔で座っているだけ。パワースポットの威力を弱めるいたずらを、ひいおじいちゃんはしていた。私も、手伝って、褒められた。田園の鍵は、パワースポットにうもれていたんだ。ひいおじいちゃんは悲願が叶った、と涙流していた。昔、卵から、田園の門を任されていたのに、神の使いが取りあげて、捨てられたんだと。鍵にほおずりまでして、相当喜んでいたんだろうな。

 鍵は×××ちゃんに預ける。×××ちゃんには、神を寄せつけない心があるから、今度こそだまされて奪われることはない。神を負かす日まで、わしが生きておれば、わしが責任を持って開ける。わしがいなくなっていたら、×××ちゃんが、代わりに門を……指切った。

 神と人間よりも正しく、厳しく、人間を裁いてくださる存在は、田園のあるじ、()(おさ)だ。()(おさ)は、人々を等しく死へ導く。だーちゃん、足場の石を一個一個見てみな。石の中に、人が生活しているだろ。現実から離れ、夢の中で命を費やしている事実に気づかないでいるんだ。空満に住む人から順番に、閉じこめていっている。石に閉じこめられたとは知らず、人間は理想どおりの世界を夢に、そこで過ごす。今は、田園が贈る夢に満足しているけど、命は着実に終わりを迎える。()(おさ)は、夢に浸る人間がこれまではたらいてきた悪事を洗い出し、悪事の程度に即して、死への進行を早めたり遅れさせたりする。前世・現世でなにかしらやっているんだ。みんな一緒にじわじわ逝って楽になればいい。私とだーちゃんも、例外じゃない。けど、()(おさ)はひとつだけ許可をしてくれた。二人で石に納まって良い、だ。()(おさ)にめちゃ奉仕して、OKもらったんだ、私に感謝しとけ。

 だーちゃん、さあ、いこう。田園で限りある時間を、共に大切にしよう。生まれ変わっても、旦那にしてやる。嫁の場合も然りだ。私達の願いをすべて叶える、田園に、住もう。


あとがき(めいたもの)

問:倭文野さんの奥さん、お名前なんていうのですか。


 改めまして、八十島そらです。本日、『或る人物の随想』を久々に更新しましたので、ついでに読んでくださると幸いです。別に、熟女に恋慕する趣味は持っているわけではないのです。美しければ年齢は関係ないという広い愛の持ち主でもないのです。できれば、年下……いたいけな…………ぐふぅ。

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