卯月の巻(四)
初めて会う人や、これからお付き合いする人が、どういう人物なのか知るためには、話してみるというのが一番なのですよね。
その人が書いたものを読むのも、その人を知ることができるのですが、書くって、良くも悪くも時間をかけるものなので、飾り立てた文章になりがちで、どうも生きた言葉といえないものでして。
ラブレターも嬉しいけれど、告白される方が、ドキリときませんか?
倭文野くんも、甘酸っぱい経験したことありますよ。年齢イコール彼女いない歴だと思ったでしょう。ははは、馬鹿め(すみません、つい悪役のような言い回しにはまってしまうのですよ。どうかしばし遊んでやってください)。僕は、初めての彼女イコール奥さんなのだよ、甘くみられては、困るよのう。ふぉふぉふぉ……あ、これ、土御門先生の笑い方だった。失礼をば。世界で一番かわいい女の子に、世界で一番あなたがもにょもにょ……とにかく、思いの直球を受けたのですよ。手、手まで握られてさ、ぼ、ボキは手汗ひどい男でありますのに、大胆に奥さんは僕の手を(以下略)。明日地球がひっくり返るよとか唐突な終末を言い渡されたとしても、今の僕ならそんなくだらない終末こそひっくり返してやれるぜ! と最強になった心地がしたのです。言葉ひとつで、人生変わるものですよ。
卯月二十三日 あなたは何しに日文へ?
日本文学国語学科では、新入生全員に専任教員からの面接を受けてもらっています。他学科もしているのかな、宗教や歴史文化は一昨年は行っていたと思います。4、5人のグループに対して、いろいろ質問をするのです。今年は、どんな質問されたのかな。
僕の現役時代の面接、思い出してみますね。最初は、自己紹介だったな。真面目に名前と出身高校のみ言った……気がする。僕の次の出席番号の、バンドTシャツ青年は、好きなロックバンドと愛用のギターのブランドまでべらべら喋っていたのは、はっきり覚えています。バンド名は、焼き肉屋に直行したくなるような、油ぎとぎとなものでしたね。ハラミ熱いぜ、握れ、時は戦国!
「あなたは、なぜ日本文学国語学科を選んだのですか?」
これ、毎年訊いているようです。皐月か水無月に、特定の一回生が共同研究室に入ってくるようになるので、その時に情報をもらえるのです。今年も、志望動機あったよって耳にするのかな。
倭文野くんはですね、とても正直な男ですから「滑り止めです!」と爆弾を落としてしまいましたよ。空満大学に入学したい! という気持ちはありました、でも第一志望は歴史文化学科だったのです。
理由は……倭文野くん、遺跡を調査してみたかったのですよ。冒険者気分が抜けないままだったのです。それと、5教科では社会が得意だったからもありますよ。推薦入試だったのに、落ちたんだよな。ベストコンディションで挑んだんだけれどもな。なんでかな。曇りだからかな(入試日は快晴でした)。
先生方、逆に笑ってました。歴史文化学科に入れなかったのを機に、日本文学の世界を楽しんでください、のような励ましを受けたと思います。あの面接をした時から、土御門隆彬先生は僕にロックオンしていたのでしょう。見かけるたびに「ふぉふぉ、なんぞええ土器でも発掘できましたかな」「酔った勢いで、土偶や埴輪と逢い引きするんではありませんぞ」と遺跡ネタでいじってこられましたからね。別に、からかわれたことに折れて、先生が顧問の「王朝文学講読会」に入会したのではありません。先生の、『古今和歌集』の講義に対して、もっと古今を知りたい欲求が高まっていたからです。紅葉が川に浮かんでいる様子を「紅深き浪」と表現する、なんと美しいことか。僕だったらどう頑張っても「赤い蛙の手形が水の上にポンポン押されているよ」が関の山ですよ。言葉の選び方
ひとつで、芸術を作り出せる。
ここでの4年間で、言葉を扱う人々の心と、言葉の持つ力に迫ってみませんか。
あとがき(めいたもの)
問:日本文学国語学科の専任教員は何人ですか。
答:7名です。日本文学専門が5名、国語学専門が2名です。
改めまして、八十島そらです。長袖を着ていると、腕まくりをしたくなる今日この頃。また気温が下がる日が来るのでしょうか。卯月は、よくひなたぼっこできるので、身体が回復しやすいですね。暖かくなった代償か、虫との出会い率も高くなりましたけれど……お部屋に招きたくはありません。お引き取り願いたいです。




