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霜月の巻(五)

 ()文野(ずの)が小五だった時、母が晩ごはんの時間に謎の行動をとっていました。父の湯呑みを、底を上にして食卓のど真ん中に置いたのです。まだまだまっさらな心の倭文野は「母ちゃん、父ちゃんは仕事だよ? ご飯は父ちゃんだけで真夜中に食べるんだから、湯呑み出す必要ないよ」と直球を投げました。すると母は、こう答えてくれたのです。

「それはね…………」

 この後、倭文野少年の短パンは、前の方にひどいしみができ、床には、便所に行けば処理できたはずの、生温かい水が流れ落ちていきました。空気を読める兄が、母を台所に引っこめて、お掃除を全部してくれました。兄を尊敬しなおした、倭文野でありました。

 今さら母に訊きなおすのも、お互いに気まずいと思うので、湯呑みの件は、ずっと僕の胸の中にしまっています。母が何を言ったのか……「おまじない」「父が」「母に」……やだやだ、もうやめだやめ! 切り上げて三十路の大の男が布団を濡らすのは、まずい。おまじないは、用法を守って、正しく行わないとね!


  霜月三十日 僕は、自分のことさえ、まだ理解していないのに

 日本文学国語学科の先生方は、何か隠している気がする。僕に対して、そして、学生にも対して。若造が知るようなことじゃないとか、秘密を知らない僕達を馬鹿にしているとか、事務助手の僕を信用していないとか、そういう暗い理由じゃない……と僕は思っている。学生さんと僕を、危ない目に遭わせないために、言えないでいるのだと。

 安達(あだ)太良(たら)まゆみ先生は『萬葉集』の研究をされている。高橋虫麻呂がご専門だ。小柄で細いけれど、食べることと飲むことが大好きで、山盛りのカレーライスを三杯以上は軽く召しあがられる。

 土御門(つちみかど)隆彬(たかあき)先生は『古今和歌集』の研究をされている。中古文学の韻文がご専門だ。長いあごひげと、昔はふさふさだったらしいつるぴかな頭。華族の生まれで、ご自身を「雅そのもの」と称され、「雅」の字が書かれた扇を片手に頭脳戦(?)を繰り広げられている。

 宇治(うじ)紘子(ひろこ)先生は中世文学の説話を研究されている。『徒然草』『方丈記』の随筆、『平家物語』『曽我物語』の軍記物語も広く教えられている。文学部日本文学国語学科の教員であることを示す、伝統の腕章をつけられている。お菓子作りがお得意。

 近松(ちかまつ)初徳(そめのり)先生は井原西鶴を主に研究をされている。戯曲家としても有名で、何度も賞をもらっている。三千を超える出逢いを重ね、恋の話を書かせたら本朝一、その話は世界にも認められている。士族であり、武道の腕も確か。

 (もり)エリス先生は芥川龍之介を主に研究されている。講義のレベルはとても高く、成績の付け方は厳しいが、学生には好評。独国で生まれ育ち、単身で本朝に渡り、お若くして近現代文学研究の世界に名を知らしめた。詩を作るのがお好き。

 (とき)(すすみ)(せい)先生は国語史を研究されている、「新日本語文法」の提唱者。読書家で様々な分野に詳しく、常に難しそうな本を抱えていらっしゃる。五人の息子の父、六人の男の子の祖父。家族みんな仲良し。持病の貧血で、講義時間は最長七十分、最短三分。

 ()(ぶち)丈夫(ますらお)先生は語用論を研究されながら、附属空満図書館の司書も務めている。あまりご自身のことは語られないけれど、先生方と学生ひとりひとりになぜか詳しくて、本当は人に興味があるのだと思う。胸のブローチをとても大事にされている。

 僕が見てきた先生方に、裏の姿があるんだろうか。僕達が知らないところで、何かと戦っているのだろうか。現実にできるわけがないことを、できる力を持っているのかもしれない。漫画とライトノベルの読み過ぎかしら。あくまで妄想なのだから、気楽にね。

あとがき(めいたもの)

問:倭文野さんの好きな動物は何ですか。理由も簡単に教えてください。

答:ミニブタです。理由は、そばにおいておけそうだから。


 改めまして、八十島そらです。先日、簡易版ではありますが『走れメロス』を追体験するような出来事がありました。八十島は、約束を守ります。殴り合いは……勘弁してください。

 「私のために、おみおつけを作ってくださいますか」は、もうぶん殴られる時代ですよね。求婚待ちの方々に、家事を丸投げするものではなくなったのです。「私と、これから二人でおみおつけを作りましょう」では、好感度が違いますかね。でも……誰かに作ってもらったお料理は、とても美味しいのでございまして……。保護者または隣人に甘えてみるとしますか。

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