霜月の巻(一)
僕の「人生の参考にしている人物」は、パペット人形なのです。教育チャンネルのね、楽器を演奏したり歌ったりする団体さんの番組に、クラリネットを吹いているおじさんがいたのです。おじさんは、お人形。おじさんの肌の色は、青色。おじさんは、まりもみたいにひげとくるくるパーマでもこもこしている。そして、いやみたいに丁寧すぎる言葉遣い!
あの健全さが売りのチャンネルが、乙女なおじさんを公式で使っていたことがまずびっくりなのですけれど、指が器用に動いて、本当に演奏しているということに倭文野少年は、度肝を抜かれたわけです。
初期のいけずなキャラもね、なんだかその、アブノーマルな僕にはご褒美でした。でも、年度を重ねていくにつれて、礼儀正しくて不幸体質でもめげない口笛おじさまキャラに方向が変わっていったの。ああ、これだよ、これが僕の理想の「シズノ像」だよ! て、最終回の宇宙遊泳のシーンで悟りましたからね。ダイエットしたいくせにお米とあんこに負けるところが、まさに僕。日文現役生の時は、再放送を文字に起こして、クラリネットおじさん文法を研究していました。振り返ってみると、学生の頃はアホなことをやる時間がたっぷりあったのだな、とね。卒論に使えなかったけれど、これはこれで、大学生ぽくて、ありだったのかな。
霜月三日 ララララヂヲを聞くときは 部屋暗くして近づいて(以下、自粛)
ついに倭文野、日本文学課外研究部隊に「いたずら」をしてしまいました。そう、僕は卒業しても、王朝文学講読会に属する者、指南役の土御門隆彬先生には逆らえないのよー!!
日本文学国語学科の先生、土御門先生と安達太良まゆみ先生は、昔は担任と教え子だったのですが、なぜか現在はライバル関係でありまして。お昼ご飯を賭けて日々決闘をされているのでございやす。土御門先生が勝てば「月見うどん」、安達太良先生が勝てば「カレーライス・青垣山盛り」なのですます。そういう状態なので、土御門先生の王朝文学講読会と、安達太良先生の日本文学課外研究部隊も当然、ぶつかり合うのでして(学生どうしは争うことないのですけれどもね)、どちらも日文の公認サークルなのだから、手を取り合ってもらいたいところです。
「倭文野や、これ、見はっとりなされ」
わーい、土器だー! 歴史文化学科志望だった倭文野くんがいつか触ってみたいと思っていた、土器だー!
「くれぐれも、下手な扱いはせえへんこっちゃ。わたしはライブ放送してくるさかい、持ち主が来るまで持っとるのですぞ」
土御門先生のまねしてみたらやで、つまりやな、倭文野は、人質やなうて、「土器質」をとっとる役目を任されたっちゅうこっちゃかいな。
「日本文学課外研究部隊のもんやからな、割ってもろたら……高うつくで」
ひいいいいええええええええ!! ライブ放送、てことは、あの伝説となった謀略ラヂヲ『ゴールデン中古三昧』を流すの!? リスナーは、陥れる相手……すなわち「日本文学課外研究部隊」! ボ、ボキ、王朝文学講読会サイドなの!? やだよー、あんなかわゆい子達に「いたずら」したくないわよー!
「入会したからには、最期までわたしに仕えるのや。ふぉっふぉっふぉっ!」
拝啓、十九歳の僕へ、おめ、なんてことしてくれとんじゃ。うん、もう、いいの。いいのよ。僕がやったことには、変わらないのだもの。紛れもない、事実なのよ。その過去が、倭文野の歴史を作り、動かしたのよ。
あの土器は、隊員の大和さん家の掘り出し物であり、工芸体験で作られたということを知ったのは、ラヂヲ終了後でした。来週金曜日、土御門先生対日本文学課外研究部隊、負けたら「強制王朝文学講読会入会」と「単位あげなーい」です! 頑張って、乙女達!
あとがき(めいたもの)
問:現在、王朝文学講読会の会員は何名ですか。
答:一名……です。留学生の四回生くんです。指南役の手となり足となり、決して音をあげず、反旗を翻さない、できた会員です。
改めまして、八十島そらです。前回は重い「めいたもの」だったため、バランスをとろうかと思います。
今回から『スーパーヒロインズ!』霜月篇の連動を始めました。霜月篇の投稿より先になっておりますが、大事なところは隠しておりますゆえ、本編を楽しみにしながら読んでいただければ幸いです。
神無月企画「倭文野さんまたは日文ティーチャーズに質問」は随時受付となりました。「あとがき(めいたもの)」の「問」がございましたら、感想欄にご記入ください。




