卯月の巻(三)
子どもの頃の記憶は、案外強く残っているものなのですよね。特に、当時見ていたテレビ番組については鮮明に覚えているものでして。
倭文野くん、小学生の時は宿題終わったら、晩ご飯ができるまで教育チャンネルを見ていたのです。17時から18時までぼーっとテレビの前であぐらかいているのです。教育チャンネルの中で、特に面白かったのは洋楽のパロディだったのですよ。
パペット人形と人間のコメディだったかな、まあそんな番組の一コーナーで、唯一の人間役が様々な歌手になりきって、その歌手の名曲と童謡を合体させて歌い踊っていたのですね。人間役の方は、あの時はただの太ったおっさんだと認識してましたけれど、歌や料理で有名な人だったのですね。今では僕が太ったおっさんだ、なんてね。愛しき妻に内緒で、共同研究室のお菓子四六時中いただいてまーす。これ、絶対、秘密。
その中で、ハイケル・マクションのパロディがとても印象強くて、完コピしてやろうと思ったのですよ。ハイケル・マクション? ああ、月面歩きという難易度高いダンス技をこなすスターですよ。もうあのキレキレのダンスは永遠に見られないのですけれどもね。私達の世界は、惜しい人を失いました。そのパロディ、ストリートダンス調の曲で、ミックスされた童謡は延々と白いヤギと黒いヤギが互いに宛てた手紙を送っては食べて、また送っては食べを繰り返す歌でした。マンホールから舌を出して現れるパペットのものまねをしていたら、お袋に叱られたなあ。アホの子になるよ、なんてね。
ハイケル・マクションのパロディは、僕と当時のおちゃらけ役とでクラス会で再現したのですが、ある意味大成功しました。おちゃらけくんが、バナナの皮をしかけやがって、倭文野くんをダイナミックに回転・スッテンコロリンさせやがったんだよこんにゃろ。心優しい脂肪の子、4年3組の大仏、倭文野くんはそれはもう優しく転んでさしあげましたよ。
卯月十六日 華道部のハイケル・マクション
日本文学国語学科の共同研究室には、お客様応対用のスペースがあるのです。ソファをコの字にして、ガラスのローテーブル置いた簡易的なものですけれどね。そこは、普段、先生方や学生さんが昼食やおやつ、果ては晩酌に使っているのです。日本文学国語学科のオアシス、ですね。今日は、そこで休んでいた学生さんの会話について、書いていきます。
4回生上代ゼミ額田きみえさんを中心に、3・4回生のグループで始まりました。1人、理学部の人がいたようですが、額田さんのお友達みたいでした。他学科の方も大歓迎ですよ!
1回生の必修科目で変な問題文があった、とのこと。国語学の講義かな、小テストで「華道部のハイケル・マクションがカンニングしたらしい」という問題文があった、と。比喩の問題で、傍線の部分は直喩・隠喩・換喩・提喩のどれに当てはまるか、というもの。
直喩は「あの雲はまるでシュークリームのようだ」と、「~のようだ」という言い方です。
隠喩は「空にシュークリームが浮かんでいる」、雲を雲、と出さずに、シュークリームと表現しているのです。
換喩は、「あのカツ丼を追え!」の「カツ丼」です。カツ丼を食い逃げした「人」を、食べた物で表しているのですね。歴文のメガネの「メガネ」もそうです。
提喩は、「お花見をしよう」となると「桜を見に行こう」の意味だな、になりますけれど、花は桜の他にいろいろあるけれど、花見の花といったら桜を指すんだよ、というものです。鍋を食べる、の「鍋」も、提喩ですね。あくまで例なので、全部説明するには、大学何周すればいいのやら。
目の付け所は、問題の解答は通り越して、問題文でしてね。華道部のハイケルは、なんでハイケルって呼ばれているのかから始まり、どんな花を生けるのか、カンニングの方法は、と展開されていました。理学部の人の「寂尊……?」に、途中大ウケしていましたね。女子トークは何で盛り上がるか読めないからなー。僕にはついていけませんよ。聞きながら妄想していたのは、白いハット、ジャケット、パンツ(嫁ちゃんのファッション誌から覚えました)を着た男で、花は斜めに傾いていて、ゾンビ怖いよ踊りで周囲を惑わして解答をのぞき見ている華道部員でした。花はなんだろうな……バラなのかな。初期の彼はサボテンぽいんだけれど。剣山に指さしちゃって「オウ!」と奇声上げてそうです。
あとがき(めいたもの)
問:倭文野さんは現役時代、何サークルに入っていましたか。
答:日文の文学サークル「王朝文学講読会」です。顧問は、土御門先生です。
改めまして、八十島そらです。教育チャンネルのお料理番組、見ていて飽きないです。今日といいつつ、もうお晩じゃないですか、明日のための料理じゃないですか。あ、お昼も放送されているらしいですね。本編の後にある初心者向けの時間が好きです。お弁当作って、
景色の良い所でいただきたいものですね。




